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『サンタ募集中! 』
黒・冥月2778

0.
「人材不足ですね」
「わしゃ年だしなぁ…」
 丸太小屋の中で、白いひげを触りながらはぁっとため息をつく老人。
 そして、それに賛同するトナカイ。
 ここはサンタクロースが住むという、幻の森。
 雪吹きすさぶ窓の外を見やりながら、トナカイはスマホ片手に何やらポチポチとし始める。
「…何してるんだね?」
「アルバイト募集です。期間限定ですし、まぁ、やってくれる人はいるんじゃないですかね」
 トナカイの手は器用にスマホを操作し、最後にポチリとボタンを押した。

『サンタクロース募集中。短期集中アルバイト
 トナカイに乗って子供たちにプレゼントを配るだけの簡単なお仕事です
 初心者歓迎!』

「集まるかのぅ…?」
「集まってもらわないと困ります」


1.
 1波乱はあったけれど、楽しいクリスマスパーティーが終了した。
「月紅も楽しかったみたいね」
 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は草間武彦(くさま・たけひこ)とともにすやすやと満足そうに眠る草間の娘(仮名:月紅)を見た。
「…ここからは俺たちの時間でもいいよな?」
 草間はそういって冥月の肩を抱き寄せた。
「…もぅ。月紅が起きたらどうするの?」
「その時はその時だな」
 そして2人が口づけをかわそうとした…その時!

 ちゃらりらりらりら〜♪ ちゃらりらりらりら〜♪

「………」
「…月紅の携帯みたいね」
 すっかり毒気を抜かれた2人。しかし、持ち主の月紅は一切起きる気配がない。
 仕方なしに月紅に悪いかもと思いつつ、携帯を見る。
 どうやらメールの着信のようだ。
「なんだ?」
「えっと…『月紅様 冥月様 ご応募されましたサンタクロースアルバイトの時間が迫っております。至急集合場所へお急ぎください』…ってえぇ!?」
 寝耳に水である。なぜ冥月の名がそこにあるのか!?
「おい! 月紅! 起きろ!!」
「ふにゃ〜…パパ??」
 寝ぼけ眼の月紅に草間は問いただす。
「このサンタクロースのアルバイトってなんだ!?」
「…あー…楽しそうだよねぇ…ママと一緒にやったら…たの…し……zzz…」
 ダメだ。月紅はまた熟睡モードに入ってしまった。
「…どうしよう?」
「…電話だ! 用事があって出られなくなったって電話すりゃいいんだ!」
 メールの最後に明記してあった電話番号へとさっそくかけると…繋がった。
『もしもし』
「サンタクロースのバイトを辞退したいのだが…」
 相手が息をのむのがわかる。しかし、こちらも降ってわいたようなバイトを受けるわけにはいかないのだ。
『…残念です…世界の子供たちが悲しい思いをするのですね…いや、非常に残念です…』
 ぐっ。今度は冥月が息をのむ。
 確かに私も月紅が悲しむのは嫌だ…。
 このバイトを受けないということは…そういうことなのか…。
「ちょっと遅れるかもしれないが…行かせてもらう」
「冥月!?」
『ありがとうございます。お待ちしてます』
 電話が切れ、草間は絶望的な顔をしていた。
「だって…子供が悲しむなんて…見てられないんだもの…」

 少し悲しげに俯いた冥月に、草間はいとも簡単にノックアウトされた。


2.
「冥月ひとりにすべての責任を押し付けられない。娘の責任は親である俺もとる」
 冥月とともに草間もアルバイトに参加することになった。
 ふふっと冥月は微笑むと、2人は集合場所へと向かった。
「お待ちしておりました」
 2人を出迎えたのは…トナカイだった。二足歩行の。
「あれ? 女性2人でご応募のはずでは?」
「娘が体調不良なんで急遽俺が代理で来た。悪いのか?」
「…いえ、少しだけ不都合なことが…」
 トナカイがちらりと後ろを見た。冥月と草間もその方向を見る。
 そこにはサンタクロースのワンピースが2着。
「………」
「………」
 無言だ。だが、その意味するところははっきりと分かる。
 つまり…
「衣装があれだけしかないのですが…着ていただけますか?」
「着れるわけないだろ!? なんかないのか!? 予備とか!」
「そう言われましても…」
 トナカイと草間が言い争っている間に、冥月は着替えをしに行った。
「これ…裾短くない…?」
 少し恥ずかしげにくるっと回って鏡で確認する。足がスースーする。
「じゃあ、すぐに丈詰めをしますのでそれで我慢してください」
 トナカイが何やら裁縫道具を出して、ワンピースを目にも留まらぬ速さで改造していく。
「武彦」
「ん?」
 冥月が呼ぶと草間が振り向…いて顔を押えた。
「どう…かな?」
 赤いサンタ服に黒の髪が流れるような艶やかさで光る。
 どこかのキャンペンガールと言われればそのまま信じてしまいそうな勢いの破壊力。
 可愛い。可愛すぎる。
「け、携帯…写真を…!」
 あわあわと慌てだす草間に冥月は苦笑いした。
「武彦! もぅ。そんなに興奮しないの!」
 顔を赤くして冥月は草間を叱った。でも、悪い気はしなかった。
「さて、できましたので早く着てください」
 何たるスピードでか、トナカイは草間用にサンタワンピースを上下のサンタスーツに作り替えた。
 …ただし、ズボンは短パンである。
「寒いじゃないか!」
「生地が足りなかったので、しようがありません」
 トナカイはさあっと2人をそりへと案内した。
「行先は…そうですね。選んでいただけますが私のおすすめはこちらの『4』の地域ですかね」
「…最後に来たから選択肢はないって素直に言えよ」
「いえ、私は決してそのようなことは…」
「もう! いいわ、行きましょ。その地域へ!」

 トナカイは走り出す。
 夜空の星に手が届きそうなほど高く、そして早く…プレゼントを届けるために!


3.
 しゃんしゃんしゃんしゃん…

 トナカイの手綱に着けられた鈴が夜空に響き渡る。
「来たぞ! サンタクロースだ!!」
 待ち構えていたのは…大きなお友達だ!
「こ、子供じゃないの!?」
 悲鳴に近い声で冥月が言うと、トナカイはシレっと言う。
「彼らもいろんな意味で子供です」
 広場に着地したそりを囲む大勢のお友達。
「我らに萌えを〜!」「●×ちゃんのグッズを!」「抱き枕を!!」
 我先にと争うそのお友達たちに冥月、完全に押され気味である。
 袋から望みのものを取り出して渡すのが精いっぱい。
 笑顔も「メリークリスマス」の言葉も返せない。
 なぜこの地域が最後まで選ばれなかったのか、肌で感じた。
 プレゼントを求めに走ってきたものが一息つくと、今度はじろじろと冥月を値踏みするかのように上から下まで見始めた。
「な…え? プレゼントはもう渡しただろう?」
 怪訝な顔をする冥月に、お友達はターゲットロックオン。

「黒髪のサンタ…萌えだね」

「…は?」
 冥月の表情が固まった。
「巨乳、サンタコスプレとはまた高得点な…」
「ミニスカサンタは萌え! 萌えである!!」
「黒髪姫カットサンタは正義! そして神である!」
 口々にほめている(?)その言葉に、冥月はクラクラした。
「お前らーーー!! 俺の女を変な目で見るな! 触ろうとするな! えぇい! どけどけ!!」
 倒れそうな冥月を支えながら、草間はお友達たちから冥月をしっかり守ろうとする。
 冥月はそんな草間を見ながら、何か既視感を覚えていた。
 …この人たちの反応…どこかで…武彦もやっていたような…?
 草間が一生懸命お友達を退けているとき、お友達はひそひそと眉根を寄せる。
「いい大人が短パンかよ」
「サンタコスとかキモくね?」
「ありえねー! 似合ってるとか思ってんのかね?」
 ぷちっ。お前らに言われたないわ。
 草間君、切れました。
「おい、トナカイ! ここの配達状況は!?」
「全部終わったようですね」

「なら撤収だ! 撤 収 ! !」

 草間の号令でトナカイは夜空へと走り出す!
「あぁ!? ミニスカサンタが!!」
「萌えの巨乳サンタさん!! せめて1枚だけでも写真を…!!」
「ふざけろ!!」

 草間の怒号が夜空に響き渡った…。 


4.
「あんな世界もあるのね」
 やや魂の抜けたような冥月は、少しのぼせたような赤い顔で呆けている。
 毒気に当てられたのだろうか?
「…まぁ、気にするな。人間いろんな奴がいるのさ」
「でも…暗殺屋と対峙するよりも怖かったわ」
 夜空を飛ぶそりの上を冬の風が冷たくなでる。
 冥月は目をつぶってその風を頬に感じた。冷たくて気持ちよかった。
「疲れたか?」
 そういって草間は冥月を気遣った。
「ううん。大丈夫。武彦と一緒だから…」
「…そっか。寒くないか? 俺が温めてやるよ」
 草間は冥月を肩に手をかけ、ぎゅっと抱きしめた。
「…温かい…」
 冥月は微笑む。
 綺麗な月が2人を照らす。ムードは最高。
 草間はふと視線を感じた。トナカイが見ていた。
「…見るなよ」
「…はい…」
 トナカイがしっかり前を向いたのを確認して、草間は冥月の顔に自分の顔を近づけた。
 軽いキス。
 少しだけ冷たい冬の味。
「サンタ服着たまま、したいな」
 そう言った草間に、冥月は両手でぱちんと草間の顔を挟んだ。
「ばか…」
 そう言った冥月の頬は少しだけ赤く染まって、優しく草間の唇にもう一度触れた。

「メリークリスマス。帰ったら…ね?」
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼ありがとうございました。
 サンタクロースのアルバイト、お疲れ様でした!
 って、選択肢! その勇気に感服ですw
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年12月25日

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