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『+ 今宵、どんな夢を見る? + 』
帝神 緋色ja0640



 貴方は、幸せそうに笑うでしょうか。
 それとも悲しみに心を沈めていますか。


 さあ、目を覚まして。
 そして教えて、そこはどんな世界?
 鏡合わせの中に存在する虚像のように、またそこには別の貴方。


 貴方は聖夜の夜にどんな夢を見るか。



■■■■■



 聖夜の夜の追憶。
 其れは、運命の邂逅か否か。


「あら、貴方。つまらなそうな顔をしてどうしましたの」


 時は今より数年前。
 僕、帝神 緋色(みかがみ ひいろ)はある一人の少女とクリスマスパーティ会場にて出逢った。年の頃は七歳、向こうは十歳くらいだったと思う。パーティ会場にて彼女――桜井・L・瑞穂(さくらい・りんだ・みずほ)が僕に声を掛けてきてくれたのが全ての始まりだった。


 両親に連れられた参加したパーティはとても煌びやかな空間で、楽しげに談話する大人たちや音楽に合わせて踊る男女の姿を見ながら僕は己の身を飾っている桃色のドレスの見下げる。この頃より既に女装の習慣が付いていた僕は、パーティに行くと両親に告げられた瞬間このドレスを着たいと強請った。フリルが沢山あしらわれた愛らしい桃色ドレスに腕を通し、心持ち使用人にメイクを施してもらえば可愛い『女の子』の出来上がり。
 全身鏡の向こう側にいる自分は決して男には見えず、そこら辺の女の子に負けない自信があったと思う。
 両親と共に会場内で挨拶をして回り、その度に愛想を振りまいてドレスの裾を掴んでぺこりとお辞儀すれば誰もが僕を女性として扱ってくれる。「可愛らしいお嬢さんですね」と勘違いの言葉を掛けてくれる大人達に両親がどう反応していたのかは今はもう思い出せないけれどね。
 でもあの時の記憶を思い出す度に思うことは「つまらない」という感想。
 それは大人だらけの世界に一人ぽつんと立っているような孤独感。両親に言われるがままに笑顔を浮かべて自分を取り繕うのはやっぱりつまらなかった。


 ソファーに座って大人達を眺め見る子供。
 時折心配してか、それとも注意を払って様子を見てくれているのか、飲み物や軽い食べ物を持ってきてくれる使用人がいたけれど、顔はもう思い出せない。どちらにせよ、その使用人もまた「大人」。
 同年代の子供が自分以外には存在しない空間で僕はそろそろ飽き始めていた事だけを思い出す。やがて両親が挨拶回りを終えて僕のところに戻ってくれば、二人の都合で僕はこの後一人で先に帰らなければいけないらしい。大人の都合なんて当時の僕にはさっぱり分からなかったけれど、状況的に見て僕もそれが良いと思ったからこそ素直に頭を頷かせた。
 「聞き分けの良い子で助かる」と声を掛けてくれたのは母親か父親かは分からない。ただ、我侭を言わなかった僕は褒め言葉を貰ったことだけが素直に嬉しかった。
 だがそれで退屈が改善されたかと言えば、答えは「否」。
 ジュースを飲みながら自分が帰るまでの時間をどう過ごそうか考えていた折、『彼女』はやってきた。


 そして話は冒頭の声掛けに戻る。


「なるほど、貴方はこの後お一人で帰ると。それはつまらないお話ですわね」
「お父さんもお母さんも忙しいから、僕、する事無いの。でも此処にいても邪魔になるだけだし、二人が僕に構っていられないのも……分かるから」
「そうでしたの。貴方お名前は?」
「帝神 緋色」
「ああ、帝神家の方でしたのね。わたくしは桜井・L・瑞穂。瑞穂と呼んでよろしくてよ」
「え、……いや、年上の人にそんな風に気軽に呼んじゃいけないって言われているから……えっと、お姉ちゃんって呼ぶ」
「まあ! それも可愛らしいこと!」
「可愛い?」
「ええ、ええ。愛らしいですわ。わたくし妹か弟が欲しかったんですもの、お姉ちゃんだなんて呼ばれたら嬉しくてたまりませんわ♪」
「そ、そう?」
「そうですわ! 貴方この後お暇なのですわよね。ならば今宵はわたくしの家にいらっしゃいな。もちろん拒否は許しませんことよ」
「え」


 パンっと両手を叩き合わせ、お姉ちゃんはそれはもう良い笑顔で言い切った。
 強引な提案は彼女の中で決定事項らしく、そうと決めたらとばかりに彼女は人込みの中から僕の両親を探し出すとそのまま一直線に早足で向かっていってしまった。それには流石の僕も慌てて追いかけ、状況を理解しようと頭を必死に働かせる。
 ――結果、桜井家のご令嬢とコンタクトが取れると言う事で両親はむしろ大喜び。「一人で帰す事が心苦しかったのでどうか宜しくお願いいたします」と子供に対してもきちんとした礼を述べる両親に僕は唖然とした。
 どうやらこのお姉ちゃんは僕が思っていた以上に有名な家柄の子供だったらしい。今考えれば僕の名前を聞いてすぐに家柄状況を察してくれた聡明さも素晴らしかった事だと思う。
 そしてなんだかんだとパーティ会場を二人で後にし、従者達に連れられて僕とお姉ちゃんは桜井家の大きな家宅へと移動した。


「ほら、ここにお座りなさいな♪」
「……うん。ここ、お姉ちゃんの部屋?」
「そうですわ。何か気になるものでもありますの?」
「僕の部屋と違う……。あ、可愛い手鏡」
「それはわたくしのお気に入りのものですわ。それはそれは素晴らしい職人の手によって作られた一品で、一目惚れ致しましたのよ」


 『女の子の部屋』につれてこられた僕は自室とは違う雰囲気に興味を抱き周囲をきょろきょろと見渡す。座るようにといわれたソファーに足を揃えてちょこんっと腰を下ろせば、お姉ちゃんが言いつけていたらしい使用人が温かい飲み物を持ってきてくれた。部屋は適温に温められていたけれど、飲み物を口にしただけで僕は緊張していた身体からほうっと力が抜けるのを感じる。それを向かい側のソファーに座って同じように紅茶を飲んでいたお姉ちゃんが見て、ふふっと笑ったのを忘れない。
 だがやがて彼女は立ち上がり、対面ソファーから僕の隣へと移動してきたのでスペースを開けるため少しだけ身体をずらす。その行動が気に入ったのか、お姉ちゃんは嬉しそうに目を細め僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
 そしてそのまま彼女は僕をあっさりと膝の上へと乗せ、愛で始める。


「んふふ〜本当に可愛いですわ。もっと甘えても宜しくてよ?」
「あま、える?」
「そうですわ。今夜一晩じっくりと貴方の事を教えてもらわなきゃいけませんのよ。まずは好きな食べ物は何かしら?」
「好きな食べ物……えっとね」


 お姉ちゃんは僕の事が気になったみたいで、好きな食べ物や好きな衣装を聞いてくれる。もちろんそれだけじゃなくて嫌いな物についても真剣に訊ねてくれたから僕もまた一つ一つ丁寧に答えた。本当は嫌いな物って言わない方が良いんじゃないかって思ったんだけど、お姉ちゃんは「ぜーんぶ言っておしまいなさい。わたくしに遠慮する事なくてよ!」と言い切るものだから僕もまた素直に答えを返していった。
 一つ答える度にお姉ちゃんは嬉しそうに笑ったり、逆に意外そうに驚いたりして楽しい。そしてその都度頭を撫でてくれたり、喉元を擽ったり、何か気に入った事があった時なんかはぎゅーって抱きしめてくれた。


 年上とはいえ女の子にこんな可愛がられ方をして良いのかと一瞬だけ「男の自分」が疑問を浮かべたけれど、可愛がられること自体に悪い気はしないので、されるがままに愛でて貰う事にした。
 お姉ちゃんは僕の事をずっと可愛いって言ってくれるけれど、こんな風に一喜一憂するお姉ちゃんの方が僕は可愛いと思うんだけどなぁ。


「お嬢様方、お湯の準備が出来ましたのでご入浴の方はいかがでしょうか」
「もちろん行きますわ。服は緋色の分も用意してありますわよね」
「当然で御座います。サイズも申し付けられた通りの物を準備しておりますのでご安心下さい」
「ふふ、では行きますわよ。緋色」
「あ、うん。行く」


 僕達がのんびりとした時間を過ごしている中、メイド長っぽい年配の女性がやってきて入浴の時間を告げる。それに導かれ、僕はお姉ちゃんに手を引かれるがままこれまた長い廊下を歩き進みながらお風呂場へと移動した。
 入浴直前、「こちらを」とメイド長に差し出された寝間着を僕は両手で受け取り、落ちないよう胸元でぎゅっと抱きしめる。でも念のためにとお姉ちゃんがそれを僕の手から受け取りサイズを身体の上から合わせることも忘れない。
 小さかったらやっぱりきついもんね。用意してもらったそれはお姉ちゃん的には許容範囲だったらしく、「袖が少し長い気がしますけど、まあいいでしょう。大きい分には問題ありませんわ」とにっこりと微笑み、メイドはスカートを少しだけ持ち上げて頭を垂れて出て行った。


 二人きりになった更衣室で僕達は服を脱ぎ始める。
 僕もまた桃色ドレスを慣れた手付きで脱ぎきると肌着も肌から滑り下ろし、生まれたままの姿になった――その瞬間。


「まあ! 貴方男の子でしたの!?」
「―― 知らなかったの?」
「だって緋色ってば言わなかった……ではありませんわね。わたくしが思い込んでいただけですわ。リサーチ不足だった自分が悪いのです」
「帝神家って分かったから僕の事知ってるかと思ってた」
「帝神家の名前くらいは聞いてましたもの。ああ、外見で女性だと決め付けてしまったわたくしが情けないですわね!」
「別に可愛い格好も女の子扱いも好きだし……僕が単に聞かれなかったから言わなかっただけだからお姉ちゃんは悪くないと思う」
「あら、そうですの。じゃあわたくしは何にも悪くないと言う事で良いですわよね。ええ、異論は許しませんわ♪」
「お姉ちゃんって前向きな人、だね」
「何かおっしゃって?」
「ううん、お風呂早く入りたいな……」
「さあ、うちの自慢のお風呂に入りましょう。そうしましょう♪」


 お姉ちゃんは多少驚いたみたいだけど、自分が悪くないと知るとあっさりと態度を元に戻して僕と一緒に浴室へと移動する。もちろんお風呂場もそれは豪華な作りをしていて、自宅とは違う様々な機能が付いているそれに僕は目を瞬かせるばかり。
 更に言えばお風呂に入っている間も僕は頭を洗ってもらったり、背中を擦ってもらったり……逆に僕もお姉ちゃんの背中を洗ったりして楽しい時間を過ごしたっけ。時折じっとお姉ちゃんは僕の方を見て「やっぱり男の子には見えませんわ」と呟いていたけれど、猫可愛がりをすることは止めなかった。


 お風呂でさっぱりとした後は用意してもらった女の子用の肌着と寝間着に腕を通し、また元来た道程を歩いてお姉ちゃんの部屋に行く。
 外は寒そうな雪景色だったけれど、しっかりと暖房が入れられた廊下は暖かく湯冷めする事は無かった。
 部屋では髪の毛をドライヤーで丁寧に乾かしつつ櫛を通してくれるお姉ちゃんは結構世話好きなのだろうか。僕もお姉ちゃんの髪を乾かしたいと思ってドライヤーと櫛を借りたけれど普段使用人にやって貰っているからぎこちない動きになってしまって、逆にお姉ちゃんの髪の毛を傷めてしまいそうだったから止めた。
 少しだけしょんぼりと落胆する僕を見ながら、「そんな緋色も可愛いですわよ?」と使用人にてきぱきと髪の毛を整えられているお姉ちゃんがとても優しい言葉を掛けてくれたっけ。


「さあ、おやすみの時間ですわね。靴下の準備は出来ていますわ♪ きっと素敵な物が貰えましてよ♪」
「サンタクロース、来るかな。僕の家じゃないけど迷わないかな……」
「大丈夫ですわ! そんな方向音痴なサンタクロースなんてわたくし認めませんもの!」
「お姉ちゃんったら」


 ベッドの支柱に二人分の靴下をぶら下げながらお姉ちゃんは拳を軽く作って言い切る。
 でも確かに子供達の居場所を知らないサンタクロースって困るよね。きっと不思議な力で皆の位置を知って、運びに来てくれるに違いない。だからお姉ちゃんの家に泊まった僕のところにも素敵なプレゼントを運んでくれると信じて、僕はお姉ちゃんが手招くままにベッドの中に潜り込む。
 子供用のベッドだけど二人一緒に寝転んでも充分な広さを持つそこはふかふかの布団に包まれてとても温かい。お姉ちゃんが僕の身体をしっかりと抱きしめてくれるから僕もまたお姉ちゃんの身体に手を回し、その胸元に頭を寄せて目を伏せた。


「お姉ちゃん、あったかい……」
「緋色も温かくてよ」


 今宵はクリスマスの夜。
 これは聖夜の子供達二人だけの思い出。
 明日には自分の望んだプレゼントが届けられているだろうか。金で買えるものならばもう飽きた。欲しいものはもっと別のもの。
 だけど今日はサンタクロースからの贈り物よりももっともっと素敵な出逢いがあったから僕は嬉しい。


「おやすみなさい、緋色」
「おやすみなさい……」


 お姉ちゃんとの邂逅。
 これが今後どう未来に繋がるかなど知らないまま、僕らは夢の世界に堕ちていく――これは僕と彼女の懐かしい記憶。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【ja0027 / 桜井・L・瑞穂 / 女 / 17歳 / アストラルヴァンガード】
【ja0640 / 帝神 緋色 / 男 / 15歳 / ダアト】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ノベル発注有難う御座いました!!

 今回は瑞穂様にとっては聖夜ノベル第二段、緋色様にとっては過去の思い出というお話を有難う御座いました!
 視点は緋色様で、ということでしたので、そのように。
 女装はしているものの、男の子の部分もちょこっと雰囲気出せたらと思いつつ書かせて頂いたのですがどうでしょうか。
 どうか気に入っていただける事を祈りつつ……ではでは!
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月25日

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