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『みみとしっぽとあなたと 』
黒崎 ルイja6737

 クリスマスと言えば、ツリーに、サンタに、プレゼント。
 ……それじゃあ、魔法のかかったこんなものはいかが?
 魔法使いの作った、魔法のアドヴェントカレンダー。
 どんな魔法がかけられているのかな?
 小さな扉を開けて、その魔法を感じてみたら、どうなるかな?
 さあ、今宵限りのマジック・ナイト。
 誰と、どう過ごそう……?


 その存在に最初に気づいたのは、森田良助だった。
 その日はふたり――良助と、黒崎 ルイの所属しているクラブの活動日。一緒にいる時間はどうしてもあっという間に過ぎてしまうのだけれど、その日もやっぱりそうで。
 帰り道、良助はルイと一緒に、ふたりだけの秘密の空間――秘密の小部屋へと足を運ぶ。年齢はちゃんと高校生だが、一見小学生にも中学生にも間違えられるふたりは、いっしょに遊んでいてもどちらかと言うとじゃれ合いっこのように微笑ましく見つめられることが多くて。でもそんな関係でも、二人にとってはとても大切な時間なのは間違いなかった。
 こざっぱりしたふたりの小部屋は、もともとインテリアのたぐいもそう多くはない。ルイはそれまでの家庭環境のせいか、もしかするとそういうものに気を払うような機会が少なかったのかもしれないけれど、それでも細々したものが整えられた室内は彼女がていねいに整頓したりしているのだ。もちろん、良助だって手伝っているけれど。
 ルイも良助もこの部屋で、ときどきおしゃべりしたり、ちょっと遊んだり、そんな何気ない時間を過ごすのが大好きだった。
 そんな部屋の壁にかかっていた、クリスマスカラーでいっぱいの物体。
 見覚えのないそれに良助は首を傾げながら、ルイに問う。
「ねえ、ルイ。これって何ー?」
 特訓に明け暮れ(させられ)ていた少年には見たことがなかったのだろう、不思議そうにそれを見つめる。ルイはあれ、とちょっと小首をかしげて、それからポツポツと、いつもの口調で言葉を紡ぐ。
「あ、それ……アドヴェントカレンダー……だけど、これ……このへやに……あった、かな……?」
 ルイ自身も記憶が曖昧なのだろうか、自信なさげな感じだ。
「クリスマス、まで……このなかに……ある……おかし、たべて……まつ、そんな……かれんだー……だよ?」
 その説明を受けると、良助が楽しそうに笑顔を浮かべた。いたずらっ子の表情、そんな印象を受ける笑顔。
「なんだか面白そうだね! 僕も興味あるなー、どんなお菓子が入っているんだろ?」
 今日の日付はまだカレンダーの扉が開けられていない。むしろ、まるでおいでおいでをするかのように待ち構えているみたいで、不思議と吸引力を持っていた。
 扉の日付のそばに書かれた絵柄は、クリスマスツリーのてっぺんの星。
 ていねいに扉を開けると、その中にはかわいらしい猫の形をしたチョコレートが入っていた。
「あ、かわいい」
「ほんと……かわいい……」
 ついでに言うと、おいしそう。
 ふたりで顔を見合わせて、クスッと笑うあう。どうやら、考えていることはほぼ同じようだ。
 ふたりはそれを分けあうと、ほぼ同時に口の中に放り込んだ。
 口の中で甘く広がるカカオの香り。とろけるようなその味わい。まるで二人の関係のように、甘くて。
 ふわふわとその甘さを感じながら、微笑み合う。
 気持ちよくなって、そして一瞬だけふっと気が遠くなる。
 そうして――


「ルイ、ルイ、頭、あたまっ!」
 良助がびっくりしたように恋人の頭頂部を指差す。
「りょうすけ……どう、したの……?」
「頭っ。なんか生えちょるー!?」
 ぱちくりと瞬きしたルイには一瞬なんのことかわからなかったけれど、良助の驚きぶりはふつうじゃない。まるで頭の上に巨大隕石が落ちてきたかのように唖然としている。その様子を見たルイはわからないままながら、言われるままに自分の頭部にそっと手をやると、ビロードのような柔らかくてすべすべしたさわり心地の何かが、あった。
「……なに、これ……?」
 一瞬何かわからなかったけれど、おずおずと手元にあった鏡で確認する。そこで見たのは――ぴょこんと生えた黒い猫のような耳。よく見てみれば、しなやかな黒いしっぽまでごていねいにはえている。意識をそちらへとやってみれば、それらはちゃんとゆらゆら動いた。
「みみ……と、し、っぽ……?」
 ルイが抑揚の控えめな声でつぶやく。そして不安げに良助の顔を見て――違和感に気づいた。ルイのしっぽが、ぴんと立つ。
「りょうすけ……りょうすけのあたまにも、みみ……」
「えっ?!」
 良助も指摘され、あわてて触ったり鏡を見たりして確認すると、たしかにそこにはみみとしっぽ。ルイのものとは違って、こちらは狼を思いおこさせる、男の子っぽいちょっぴりワイルドなものだ。
「うおお、僕もなんか生えてる! 尻尾はえちょるー!!」
 良助も思わず叫んでしまう。こういう動物のみみとかしっぽとかいうかわいらしいオプションは、女の子のほうがうんと似合うと思うのだけれど、年齢よりも幼く見える良助にもそれはしっかりと似合っていて。
 そして何よりも、そのしっぽは楽しそうにふさふさと揺れていた。
 見た目は違うけれどルイとおそろいというのが、彼にとってはひどくうれしいらしい。
 もちろんそれはルイも同じで、そんなことを思ったらルイのしっぽもふわふわ揺れる。照れくさくはあるけれど、だけどみみとしっぽは口ほどに物を言い。
 とはいえ、情緒の発達が若干遅めのルイは、そんなみみやしっぽの反応の意味が理解しきれていなかった。ぼうっと良助の愛らしいみみとしっぽのついた姿を見つめていると、ぎゅうっと大切そうに抱きしめられる。
「はわわ……りょうすけ、てれくさい、よ……」
「だってルイが可愛いんだもん! みみピコピコさせて、そのまま僕のことずうっと見つめてて、可愛くない、っていうほうが嘘だよー!」
「そ、そう……かな……?」
 良助の言葉に、ルイの頬がさっと赤く染まる。
 いくら感情表現が苦手でも、恋人の前ではなんだかんだで素直になれてしまうもの。
 と、良助はルイの耳をそっと触った。いつもの耳ではなく、頭に生えた猫のようなそれの方である。
「うわー触り心地いいなーすべすべだなー!」
 ルイのねこみみはつやつやとした烏の濡れ羽色。元々の髪も綺麗な黒髪なのだけれど、それにしっくりと馴染んでいる。しかもそれが柔らかくてすべすべした、ビロードのような触り心地なのだから、うっとりしてしまっても仕方がない、のかもしれない。ルイはそんな良助の様子にわずかに頬を緩ませるけれど、恥ずかしくてしかたがないのも事実で。
「りょうすけ……そんな、もふもふして……くすぐった……い……」
 ぽおっと顔を赤らめて、顔をうつむける。みみもしょんぼりした猫と同じようにぺしゃんとふせ気味だ。
「あわ、悪気があったわけじゃないんだ、ゴメンなルイ!」
 そう言うと、良助はちょっと調子に乗りすぎたのを後悔してこちらもしっぽがしょんぼりしてしまう。そのしっぽの動きようがいかにも彼らしいな、と思ったのは欲目のせいだろうか。
「ん……だい、じょうぶ……それより、りょうすけも……かわ、いい?」
 可愛いというべきかかっこいいというべきか悩むところだが、まるで子犬のような(実際は狼っぽい気がするけれど)みみとしっぽまでついてしまっては、かわいい、に気持ちが揺らいでしまう。もともと良助は決して恵まれた体格ではない。下手をすればルイよりも年下に見られるくらい小柄だ。そこに動物をほうふつとさせる耳と尻尾があれば、どこのコスプレかというくらいに出来過ぎた設定である。
 ハロウィンパーティなどで狼男のコスプレをしている、そんなイメージとでも言えばいいのだろうか。
「かわいい、なんだ?」
 良助が問うと、
「でも……りょうすけは、りょうすけ……だから……」
 少しおっとりと微笑むルイ。考えてみれば彼女の笑顔をこれだけ見られるのは、恋人である良助の特権でもある。
 そんなルイは、そっと良助のしっぽに手を伸ばした。ふわふわした触り心地が、なんだか妙にくすぐったい。
「ルイ、なんか楽しそう……って、しっぽくすぐったいっ」
 良助はびっくりしている。けれどしっぽは正直というか、喜ぶかのようにぴょこぴょこと元気よく揺れた。
「りょうすけも、たのしそう……だよ……?」
 そのしっぽが揺れるさまを見て、ルイは言う。ルイのしっぽも楽しそうにゆらゆら揺れていて、見るものが見ればひと目で相思相愛なのがわかっただろう。
「ルイは黒猫だよねそれ、よく似合ってるよ!」
 良助が改めて言えば、ルイはルイで
「りょうすけも……おおかみ、にあってる……」
 そう言って見つめ合う。そして同時に少し笑いあって、この小さな驚きと幸せを噛み締める。
 ――アドヴェントカレンダーに、感謝するべきなのかもしれない。
 元から親しかったふたりの距離がいっそう近づいた気がして、ふたりは嬉しいし、楽しい、そう思い合えるのだ。
 それはお互いがお互いを想いあうからこその感情で。
 この空間でふたりなのが、いまは更に愛おしい時間となって。
 離れがたいと、切に思った。


 とはいえ、やっぱりお腹はすくもので。
 良助がお腹を鳴らすと、ルイはちょっぴり楽しそうに言った。
「ごはん……つくろう、か……?」
 ひと通りの生活用品はいちおう揃っている。室内にあったパスタとレトルトのパスタソースで軽く夕飯を作り、それを二人で仲良くわけあって食べた。本当にシンプルな食事だけど、おいしく感じるのはやはり大好きな人と一緒に食べるからだろう。
 食後、ソファに座って寄り添い合いながらのんびりしていると、ルイが小さくあくびをした。どうやら、いろいろあったこともあって、眠たくなっているのだろう。
「……ここで、今日は寝ちゃう?」
 ルイのかわいらしいしっぽやみみに触れたりしながら、良助が問う。
 彼女も似たようなことは考えていたようで、一瞬だけためらったけれど、小さく頷いた。眠たげな声で、言葉を紡ぐ。
「りょうすけと……いっしょが、いいな……」
 ルイのみみやしっぽを触っては、その触り心地の良さについつい笑顔がこぼれる良助。
 良助のみみやしっぽを触っては、ほんのりと笑顔を浮かべて、この愛おしい時間を幸せと感じられることそのものを幸せと思えるルイ。
 こうやって無邪気にじゃれあって、そうしているだけで幸せで。ちょっとだけ照れるけれど、ほっぺたに軽くくちびるを当てたりして、そしてお返しのように相手のくちびるがほっぺたに当たったりして。
 そうしているうちに良助の方もうとうとと眠くなって、ふたりでまるで子犬か何かのように、寄り添い合って丸くなって眠リに落ちていった。そうするのが、まるで当たり前であるかのように。
 ――とても、幸せそうに。

 翌日にはきっとこの、ささやかな魔法もとけていることだろう。
 でもこの経験は、きっと二人の胸のなかで、ずっと大切に息づいていくに違いない。
 お互いの、優しくてあたたかなぬくもりとともに。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6737 / 黒崎 ルイ / 女 / 高等部3年 / ダアト】
【ja9460 / 森田良助 / 男 / 高等部3年 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回はご用命、ありがとうございました。
ふわふわのしっぽとみみのカップルが、可愛らしくてたまりません。
どうかこれからも幸せでありますように、お祈りしております。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月25日

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