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『聖なる夜の抱き付き子猫☆ 』
猫宮・千佳(ib0045)


 街にはいろんなうわさが流れています。
 どこぞの水路で夜に魚を釣って帰ろうとすると「置いていけ」お化けが出るとかいう怖いものから、流れ星に三回願い事を唱えればかなうという素敵なものまで。
 そんな中、冬ならではのものもあります。
「神楽の都のどこかに、聖夜にだけ姿を現す扉と長い階段があって、その先には素敵な光景が待っている」
 あくまで風の噂です。
 風に耳を済ませると、目には見えない妖精たちが囁いているのだとか。
 それはやがて、人から人へ。さらに人から人へと旅をして――。
「ふぅん。面白そうな話にゃ」
 猫宮・千佳(ib0045)の耳に入りました。
「早速コクリちゃんを誘って新たな冒険にゃ〜っ!」
 噂話をしてくれて人を置き去りに、ぴょんにゃん、したたたたとどこかに……いえ、大好きなコクリ・コクル(iz0150)の元へ急ぐのでした。
 そしてコクリの部屋で。
――すぱ〜ん!
「ひっ!」
 突然背後の襖が開いて飛び上がるコクリ。
「コクリちゃん、面白い話しを聞いたのにゃ♪ 一緒に秘密の入口探しに行こうにゃ〜っ♪」
「ちょっと待って、千佳さん。ボクまだ着替えてないよ〜っ!」
 どこかでチョコレート販売を手伝わされていたのでしょう。エプロンドレスを着たままのコクリの手を取ると、千佳はそのままレッツゴー。
 こうして白いフリルたっぷりなオレンジ色のエプロンドレスの千佳と、緑色のエプロンドレスのコクリが手を繋いで神楽の都をうろつくことになるのでした。


 時は夕刻。
 千佳とコクリは歩きます。
 蒸し器の蒸気の漏れる練り物屋並びの細い路地や、長い白壁の造り酒屋の裏の道などを。表からは見えませんが、そこで働いている人たちが行き交い裏口から出入りして何かを運んだり声を掛け合ったりしています。
「ふうん。普段は通らない場所だけど、活気があるんだね〜」
「そうにゃよ。猫はそんな場所を行き来して人を見てるにゃ」
 感心するコクリに、自らオレンジ色の猫頭巾付き外套を羽織っていたり付け尻尾をしていたりと猫的な千佳がむふん、と鼻息を荒く胸を張ります。
 その時、二人の前を黒猫が通り過ぎようとしてこちらに気付き、びくっと歩みを止めました。
「わ、ビックリした。……そういえば黒猫が前を過るのって、不吉なんだっけ?」
「そんなの迷信にゃよ。……お前、このあたりで普段見ない扉を見なかったにゃか?」
 黒猫に釣られてびくっとするコクリ。千佳の方はしゃがんでおいでおいでしつつそんなことを聞いてますね。
 でも、黒猫はぷいっと顔背けると行ってしまいました。
「うに。このあたりにはないようにゃね」
「千佳さん、分かるの?」
「大体分かるような気がするにゃ。……さっきの迷信も同じことで、信じるか信じないかにゃ」
「そうだねっ。千佳さんの聞いてきた『素敵な光景の待っている扉』はきっとあるよ。ボクはそう信じてるし、信じる!」
「おい、うるさいぞ!」
 ここで、造り酒屋の裏口が開いて働いている男性が怒鳴りました。
「わっ。……あの、ごめんなさい」
「ごめんにゃ」
 謝るコクリと千佳を見て、気難しそうな顔をしていた職人気質の男は表情を緩めます。
「ああ、なんだ。どこの野盗がこそこそしてんのかと思いきや、可愛いお嬢ちゃんたちじゃねぇか。……ちょうどいい。甘酒が出来上がったばかりなんだ。やるからこれを持って行きな。体が温まるぜ」
「ありがとにゃ」
 もちろん素直に受け取ります。
 そして、竹筒の水筒に入れた甘酒ももらいました。
「明日にでも竹筒を返しに来てくれりゃいい。また可愛い姿を見せてくれよな」
 職人気質の男はそんな言葉を添えます。可愛いと何かと得ですよね。
 探索は続きます。


「にゅぅ、なかなかないにゃねー」
「……はい、千佳さん。鶏肉の串焼きを買ってきたよ」
 しょぼん、と港の雁木に腰掛けていると、買い出しから戻ってきたコクリが声を掛けてきました。心配そうに隣に座ります。
 あれから、結構あちこちうろつきました。
 最初のうちは元気良く手を繋いで探索していましたが、なかなか成果は挙がりません。今はもう空に一番星が輝き始めています。
「ありがとにゃ、コクリちゃん」
「どういたしまして。甘酒もあるし、一緒に食べよ☆」
 というわけで、小休止の腹ごしらえです。
「それにしても、手掛かりすらないよね〜」
 食べつつコクリは言います。やや諦め気味のようですね。それでいてがっかりしてないのは、千佳と一緒だからでしょうか。
「ガセだったのかにゃ? ……いや、そんなはずないにゃ! きっとっ」
「うんっ。これを食べたら、また探索だねっ」
 二人ともタレのたっぷり付いた鶏肉をほお張り、甘酒を飲んで元気を取り戻すのです。
 ところが、この小休止がとんでもない事態を引き起こします。
「うに……。体がふらふらするにゃ」
「頭もぼうっとしてきたね」
 再び探索に出ると、どうもふらふらします。コクリも足元がおぼつかないようです。
 仕方ありませんよね。造り酒屋の、酒粕から作った甘酒をあれだけ飲んだのですから。
 いつの間にか空で星は賑やかに。
 寒くもなりました。
「にゃ……。ここは」
 それでも頑張ってうろついていると、どうも見覚えのある場所に行き着きましたよ。
 看板は、「猫のお宿」。
「あたしの拠点にゃ。……戻って来ちゃったにゃね」
「あっ! 千佳さん、あれ」
 呆然とする隣でコクリが指を差して騒いでいたり。
 見ると、いつもは奥に通じている狭い路地の途中を見慣れない扉が遮っているではありませんか。
「きっとこれが噂の扉だよっ!」
 駆け寄るコクリが取っ手を掴んで開くと、その向こうは上り階段がありました。ずうっと上に続く階段。ずうっと……。
「まさか此処にあるとは思わなかったにゃ」
「とにかく行ってみようよ!」
 汗たら〜な感じの千佳に、振り返って言うともう上り始めているコクリ。
「うに。登るにゃ♪ きっと凄い景色が見えるにゃよ〜♪」
 千佳、ととと、と猫のように素早く駆け出します。あっという間にコクリを追い抜き、ぱしっと手を取ると振り返ってにぱっ☆。今度はコクリと歩調を合わせます。といっても走っているのですが。
「うんっ、一緒に行こう。きっと、凄い景色がボクたちを待ってそうだよねっ☆」
 それと分かってコクリも千佳に合わせるように走ります。
 階段が右に曲がっていれば右に。左にくねっていれば左に。
 繋いだ手と手は真ん中で、足取り軽く羽ばたくように。
 そして――。


「わあっ!」
 上りきった先は高台で、二人は息を飲みました。
 夜空に満天の星。
 そして大地に町の、人々の営みの明かり。
 その中間に、千佳とコクリの二人きり。
 降り注ぐ星の瞬きは飛空船の甲板で見るのと遜色ありません。一方で、大地の光のなんと近いことでしょう。
「うわぁ、綺麗にゃ〜♪ 飛空船から見る景色とはまた全然違うにゃね〜…」
「手を伸ばせば上も下も届きそう。……きっと街では、練り物屋や造り酒屋の職人さんたちも、今は食卓の明かりを前にしてるんだろうね〜」
 空に輝き、地に温もり。
 そんな思いを共有し、溜息。
 ここでコクリが向き直りました。
「その、千佳さん。今日はこんな素敵なひとときを、どうもありがとう」
「にゅ?」
 千佳、振り向いてはっとしました。
 コクリの瞳が星の瞬きと大地の輝きを宿していたのです。
 同時に、コクリもはっとしたようです。もしかしたら同じような光景を見たのかもしれません。
「コクリちゃんと一緒だったおかげにゃ。これからも一緒にゃよ?」
「うん、一緒」
「一緒にゃ」
 二人で囁き合いながら、三回繰り返し。二人の背後の夜空にちょうど、流れ星が行ったことに気付いたでしょうか。いえ、気付く必要はないのかもしれません。見詰め合って、胸元に掲げた両手を組み合わせて、そしてほほ笑み合っているのですから。
 やがて、吸い寄せられるようにコクリに抱き付きます。
 瞳と瞳で感じ合っていたコクリは優しく抱き止め背中に手を回し。
 一方、千佳はにゅふふといたずらそうに瞳キラ〜ン。さっと何かをするのです。
「あっ……」
 コクリ、頭に手をやると、櫛のようなものが触れました。
「にゅふふ、あたしからのクリスマスプレゼントにゃ♪ そしてこれも♪」
「ん……」
 不意打ちの連発。
 うに、と首を伸ばしてコクリの頬にキスをしたのです。
 しばらくちゅっと唇をつけたまま。コクリが動かないのを感じ、じっくりと。
 やがてコクリを開放。
 真っ赤なコクリを見て、千佳はすっかりご満悦です。
「それじゃ、戻るにゃよ〜っ!」
「あっ。待って、待ってよ千佳さん」
 すっかり良い気分になった千佳は、コクリの手を取って階段を下ります。
 コクリの言葉を無視するのは、自分の拠点でコクリと一緒にお休みタイムするため。
「待たないにゃ〜♪」
 ちょっと意地悪千佳さんです。


「……うに」
 差し込む日差しに気付き起きると、そこは見慣れた自分の拠点でした。
 いつもの朝ですが、着替えもせずに寝たようでオレンジのエプロンドレスが乱れてます。
「千佳さん、おはよ。ボクも目覚めたばかりなんだよ」
 気配を感じたか、背を向け正座して髪を整えていたコクリが振り返ります。千佳と同じように昨夜のエプロンドレスのままで、やや乱れています。
「今日は奇麗にして、可愛らしくして竹筒を返しに行かないとね。……これ、ありがとう。そしてこれは……」
 昨晩もらったキラキラした櫛を見せるコクリ。そしてすりすりと畳の上を擦り寄ると……。
「ボクからのプレゼント☆」
 抱き付いて、キス。昨晩千佳がしたキスと同じ向きのほっぺに。
「さあ、千佳さんを可愛くするよっ」
「にゅ……。早起きに負けて好き放題にされてるにゃ」
 にこにこと千佳の髪を整えるコクリです。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib0045/猫宮・千佳/女/15/魔術師
iz0150/コクリ・コクル/女/11/志士

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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猫宮・千佳 様

 いつもお世話様になっております。
 路地探索の楽しみと、メルヘンチックな一夜を貴女に。そして、コクリにクリスマスプレゼントをありがとうございます。コクリちゃん、今回はプレゼントを用意してなかったようでああいうお返しとなりました。
 もちろん、私からは二人に素敵な夜景をプレゼント。町の温もりを感じられるような、千佳さんの特徴が際立つような構成で。

 この度は特別なひとときのご発注、ありがとうございました♪
N.Y.E煌きのドリームノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年12月25日

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