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『●サンタクロース・パニック/鍔崎 美薙 』
鍔崎 美薙ja0028
 青空に鉛を溶かしたような、少し灰色をした空から、白いものが零れ落ちる。
 雪、それは、冬に贈る、空からの贈り物。
「こんなに寒いと、サンタさんもお仕事、大変だね」
「あら、じゃあ温かいものでも用意してあげたら……?」
 子供を連れた女性が、子供に話しかけながら歩いている。
 若い婦人だ、その瞳はとっても優しげに細められ、口元には笑みが浮かんでいる。
「トナカイさんの分も、用意しないとね」
 まだ、子供の方は5歳にも満たないように見えた――あどけない表情が、くるくると変わる。
 たまたま、依頼でサーバントを退治し、学園へと帰還しようとした鍔崎 美薙(ja0028)は、クリスマスシーズンの街並みを歩いていた。
 突き刺さる寒気から身を守るように、誰もが前かがみで急いでいる。
 だが、何処かしら浮かれたような空気も存在していた。
 ――気になるのは、何処も彼処も騒がせている『サンタさん』と『トナカイ』の話。
「この寒い時分に深夜歩きとは……心配であるのぅ」
 ほぅ、と息を付けば白く、濁って消える。
 何せ、天魔もうろつくこのご時世、それが仕事とは言え、放っておけない。
 亡き祖母の事を思いだせば、きっと祖母も心配するだろう――。
 降り続ける白い雪に、亡き祖母の優しい笑みを見て、美薙は少しだけ目を細める。

「姉上。三田さんの深夜歩きが、心配なのじゃよ」
 悩みに悩んだ美薙、姉のように慕う友人、七種 戒(ja1267)の元へと来ていた。
 いきなりの訪問にも関わらず、快く迎えてくれた彼女、戒は、白ヤモリの守屋さんを撫でる手を留め、美薙の言葉に頷く。
「ふむ、ソレは確かに心配だな……」
「天魔もうろつくご時世、じゃしのぅ――どうしたら、いいかの?」
 二人、首を傾げながら時間が過ぎる。
「深夜歩きを止めるのは、どうだ?」
 ぽつり、と案を出した戒に、美薙は少し考えた後で首を振った。
 三田さんは、どうやらそれが仕事らしい……。
「何でも、仕事らしいのじゃよ――話を聞く限りのぅ」
 あ、と次に声を上げたのは美薙、戒の差し出すほうじ茶を飲みつつ、口を開いた。
「ふむ、では代わりに仕事をするのは……駄目かのぅ」
「うーん。例えば、撃退士のようなプロにしかできない仕事――だったらどうする」
「確かに、職人のこだわり、と言うのもあるかもしれんのぅ」

 やがて案も出し終わったところで――沈黙が降りた。
 静かなまま、コチコチと時計が時を刻んでいる。
 打つ手なしか……そう思った美薙だが、天は二人を見放してはいなかった。
 ぽん、と手を打って戒はドヤ顔で言い切った、心なしか、後光が見えるのは気のせいか……気のせいだな。

「探しだして、護衛をしよう……そうすれば、三田さんに危険が及んでも護る事が出来る」

 仕事を邪魔する事もないしな! と言い切った彼女に、キラキラとした視線を向ける美薙。
 美薙には、確かに後光が見えた――気のせいではなかったのか。

「成程! さすが姉上じゃ」

 世間一般で『サンタさん』と呼ばれる『サンタクロース』だとは微塵も思わない二人、勘違いした『三田さん』をひたすらに心配する。
 全国の三田さん、コタツに入ってミカンを食べている場合じゃないぞ。
「他に何か、情報はないのか?」
「うむ、なんでも、三田さんは仲居さんをお供にするらしいのじゃ」
 抜け落ちた『ト』は何処へやら――二人の中では赤い服に髭、大きな袋を担いだ三田さん、そして着物を来た仲居さんのコンビが浮かんでいた。
 何時もは暴走する美薙を止める……事もある戒だが、想像は二人共暴走したまま、明後日の方向へと向かって行く。

「我らも仲居の姿で往くべきじゃな。和服は任せるが良いぞ」
 まず始めに、準備が必要だ……とばかりに、美薙が寮へと向かう。
「わ、私が和服、か?」
 戒の脳裏に浮かぶのは、清純派美女に相応しい清楚な美しさと品性を持った自分……やや憂うような俯き加減の睫毛が震えて――。
 ……あれ、結構自分って、いけるんじゃね?
 ――と言うところで、美薙の部屋へと着いた。
「誰得なんだ!」
 思わず妄想に浸ってしまったが、斜め上のツッコミを自分で入れてみる。
「姉上には、青が似合うと思うのじゃ。目の色と併せて、のぅ――」
 無地の青と、鹿の子絞りの桃色の帯を選びながら、美薙がいい笑顔で迫ってくる。
(「そんなにいい笑顔にされちゃ、断れないじゃないか!」)
 元々断る気持ちなんて、100%中の0.1%も持ち合わせていないが、何となく心の中で叫んでみる。
 戒の葛藤など知らず、美薙は戒に着物を差し出すと、自分も菫色の着物を手に取るのだった。

「姉上、流石(サイズも)ピッタリじゃ!」
「うむ。美薙も可愛こちゃんじゃないか!」

 キラキラとした二人の世界で、ガールズトークをした後――場所は、屋内へと変わる。



 ――冬の短い日は地平線の彼方に沈み、今は寒気と月が支配する夜へと時は移ろっていた。
 吐く息が白く、指先は赤く染まっている。
 指先に息を吐きかけ、温めながら美薙は戒へと視線を移した。
「うむ、良く似合うのじゃ。清純系残念女子の面目躍如じゃが、暗がりじゃと良く見えぬな」
「残念女子じゃない、清純派乙女なんだ!」
 残念ながら、拳をプルプルさせて力説されても、男前にしかみえ――おっと、誰か来たようだ。
「ところで、三田さんの出没地点とか――無いのか?」
 寒空の下、ただ、待ちぼうけ、と言うには流石に寒過ぎた。
 鼻が冷たく、赤くなっている。
「確か、子供の家をまわると聞いておいたから、幼稚園の近くなどが良かろう……」
 からんころん、と下駄の音を鳴らしながら、美薙が歩きだす。
 寒い寒い、と手を擦り合わせながら、戒も其れに続いた。
 二人の仲居が、進軍する。

 ――キャーっ!

 暗い夜を引き裂く、一つの悲鳴。
 天魔だろうか――顔を見合わせた美薙と戒、光纏を纏いながら、慌ててそちらへと駆ける。
 着物故に、リーチが限られてしまうが、一般人とは違い、高い身体能力を持った二人は直ぐに現場と思われし場所へと着いた。
「……血痕? こっちだ!」
 じっくりと現場を見て、戒が促した――二人が、走る、走る。
「な、さ、三田さんじゃ、と!?」
 返り血の付着した赤い服、そして白い変装用の髭。
 暗い光を湛えた瞳と、白い大きな袋――そこには、子供達の夢が詰まっているとは思えなかった。
 じゃらり、と大きな袋から音を立てて零れ落ちたのは大粒の真珠が輝くネックレス。
 慌てて首を振り振り、三田さん(仮)は逃げ道を探す。
「三田さんは善人ではなかったのか……!? 世を謀るとは不届きな、神妙にお縄に付くのじゃ!」
 戸惑いながらも、美薙が声を上げた――横で、怒りに震える戒が袖を捲る。
「おのれ三田さんめ、私の可愛い美薙を騙すとは……! 世が許しても私が許さんッ!!」
 溢れる程の殺気染みた怒りの気配、それを感じて三田さん(仮)の額に汗がにじむ。
 此れは違うんだ、とばかりに首を振ってみるが、大量の戦利品を手にした状態では効果などある筈もない。

「「怒りの鉄拳を喰らえ!」」


 ――暫くお待ち下さい。


 三田さん(仮)は抗うものの、光纏した撃退士二人に適う訳もなく。
 命に別状のない程度に手加減され、近くの交番へ……。
 歳甲斐も無く、じんわりとその瞳には涙がにじんでいた――グルグル巻きにされた状態のまま、引き摺られる。
(「畜生!」)
 ぼんやりと灯りの灯った交番には、聖夜にも関わらず勤務に励む警察官がいた。
 欠伸を噛み殺しながら、ガムを噛んでいた彼は二人の姿を見、首を傾げる。
「……な、仲居?」
 どう見ても、○○温泉とかにいそうな、仲居である。
 その二人が、サンタクロースに変装した人間を引っ張っていた。
 まさか、此れがいい子にしていた自分へのプレゼント……っ!?
「(絶対いらねぇ……)ど、どうなさいました?」
「不届きな三田さんがいたので、引き渡すことにした……ふ、名乗る程のことはしていない」
 お名前を――そう言って追いすがる警察官だったが、二人の仲居は闇夜に溶けるようにして去っていく。
 震えているのは、寒さだけではないだろう――三田さん(仮)は呟いた。

「二人の、二人の仲居が……追ってくる!」

 もう、帰りましたけど――。



「まぁほら、そんな落ち込むでないんだぜ……?」
 大きなローストチキンを切り分けながら、戒は美薙のしょんぼりした顔を覗きこんだ。
 寮の一室には、オーナメントが飾られ、小さいもののクリスマスツリーが飾られている。
「ま、まあ、のぅ……じゃが、哀しいのぅ」
 美薙は思い出す、あの母子は大変楽しそうに話していた――それが、強盗だとは!
 夢であって欲しい、と思うが、確かな現実だ。
 ローストチキンを口に入れながら、美薙の胸はちくり、と痛んでいた。
「なら、来年は、私達が三田さんになればいい……善良のご老人もいいが、善良の美少女二人も、ありだろう!」
 な、と慰められて、こくり、と美薙は頷いた。
「それにしても、姉上はかっこよかったぞ。ちょっと、怖かったがの」
 可憐な乙女には、少し遠いのぅ、と無自覚の皮肉を混ぜながら美薙は笑う。
「こ、怖かった……」
 ガーン、と擬音が付きそうなほど落ち込む戒、清純派、護りたくなる乙女! の称号(自称)が飛び去っていく。
 だが、そんな戒の心情など知らぬ美薙、首を傾げてコーンスープを飲んだあと、呟いた。
「姉上とのクリスマス、というのも……悪くないのぅ」

 ……一方、久遠ヶ原学園。

「号外、号外!」
 サンタクロースの衣装で、一枚の新聞を配っている少女。
『久遠ヶ原学園非公認新聞 無無』のトップを飾るのは二人の仲居、美薙と戒だ。
 そこには叩きのめされた三田さん(仮)も映っており、横には大きな見出しで『仲居、悪の三田を討伐!』と書かれている。
「へぇ、あの二人、こんなことしてたんだ……」
 新聞を受け取った、二人の友人がぽつり、と呟く。
「らしいと言えば、らしい――か?」
 だが、美薙と戒がその新聞を手に取るのは、十分に街にもその情報が伝わった頃。
 つまり、クリスマスパーティを楽しんで明くる日になってから、であった。



 そして、学園から広がったニュースが、街へと広がり。
「サンタさん、今年も来たー!」
「良かったわねぇ……それにしても、仲居さん、どうしたのかしら?」
 新品のおもちゃに夢中の子供と、その子供の頭を撫でる母親と思われし女性。
(「サンタさん……とは、複数なのかの?」)
 美薙は首を傾げるが――彼女の意識を奪う、言葉が聞こえた。
「そんな事、今年から言ってると鬼が嗤うぞ!」

 まだまだ、二人の戦いは終わらない――!



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0028 / 鍔崎 美薙 / 女性 / 16歳 / アストラルヴァンガード】
【ja1267 / 七種・戒 / 女性 / 18歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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鍔崎 美薙様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

好きに遊んで良い、との事でしたのでエピローグも追加してみました。
この後どうなるのか――自由に想像して、楽しんで頂けたら幸いです。
また、もう一方とは細部が違っていますので、比べて頂けると更に楽しんで頂けると思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月25日

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