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『+ 今宵、どんな夢を見る?・2 + 』
セルフィナ・モルゲンjb3111



 人々が吠える。
 否――人で有った者が吠えていた。


 オフェリアは自分の力によって凶暴化し、ディアボロと化した現地人達をその緑の瞳で見下ろす。宙に浮いた彼女の身体は出現した時よりも嵩が減っている。だがそれは魔力の放出によるもの。結果として現地人をディアボロに変え、這い蹲るそれらは獣型や人型など様々な姿をしておりそんな彼らを自らの魅力で従えた。


「ンフフ、さぁ。残っている者の魂を頂きに行くわよぉ〜!」


 飛行しやすいよう、より一層翼を広げて彼女は飛ぶ。
 オフェリアが命令を下せば、支配下に置かれたディアボロ達が奇妙な声を上げながら周囲を彷徨い始めた。その知力は獣以下。オフェリアに言われるがままにまだディアボロ化していない人間を見つけ出すと強制的に引き摺りだし、主の下へと差し出した。そしてオフェリアもまたそうして出てきた人間達の魂を遠慮なく吸い上げ、己の糧としていく。


「はぁ……まだ、まだ足りないわぁ」


 しぼんでいた胸が再び膨らみ始め、ずんっと存在感を増していく。
 再び力を蓄積し始めた愛しい肉体を愛でながら彼女はただひたすらに人々の魂を狩り取って行った。道には獣達のパレード、空にはそれを従える女傑の姿。未だ生き残っている人々は早くこの悪夢が終われば良いと両手を組んで祈り続ける。
 それは神に対するものか。
 それとも悪魔と戦える力を有した撃退士への願いか。
 ……だがその願いも虚しく、見つけ出された人々は老若男女問わず建物から引き摺りだされ『仲間』となる。


「この悪魔め! 私達が来たからにはもう勝手は許さん!」
「さっさと撤退しなさい!」
「人々を解放しなさいよっ! この肉塊!」


 ふと、都市外から乗り込んできた撃退士達がオフェリアを指差し声を浴びせる。
 その中に彼女の逆鱗に触れる言葉が含まれていた事もあり、ぴきっと青筋が浮かぶような怒りが浮いた。


「いやぁん、か弱い女性に対して虐めっ子が来ちゃったわぁん――誰が肉塊よ。そこのペチャパイ」
「ペチャ!?」
「やぁねえ、自分に魅力がないからって他人をけなすのは良くないことよぉ〜。んふふ」
「――ムカツクー!!」
「落ち着け、今はあの悪魔を止めるのが先だ! 皆、攻撃準備を!」
「「 了解! 」」
「ンフフ……、せいぜい愉しませてちょうだいねぇん? さあ、お前達。行きなさぁい!」


 オフェリアが指をパチン、と鳴らせば今まで現地人を引っ張り出す事に専念していたディアボロ達が一気に向きを変え始める。
 目的変更の声に従い、ゾンビ状態と化しているディアボロ達はやってきた撃退士達へと容赦なく襲い掛かる。当然相手側もそれに応戦し、既に悪魔の手に堕ちてしまった人々へと苦痛の表情を浮かべながら攻撃を食らわせていく。
 一体、二体、三体。
 時には範囲攻撃でまとめてディアボロを撃退させていくその様はまさに勇姿。生き残った人々の光となる力が其処には在った。怯え震えていた人々は建物の影からそっと彼らの姿を見つけては勇気を貰い、今の内だというかのように逃走を図る。
 だがそれをオフェリアは許さない。


「ごめんなさぁい〜。そんなんじゃだめだめだめぇー!!」
「――!?」


 多くのディアボロ達に戸惑い、足止めされていた撃退士達はその声に惹かれて空を見上げる。そしてその目を大きく見開いた。
 空を覆う強大な闇の力の塊。平たくも巨大なそれは一目見ただけでどれだけの力を持っているのか撃退士達に知らせ、恐怖を湧かせた。


「皆、下がれ!!」
「遅いわぁん!」


 統括者らしき男が素早く指示を出し、撃退士達を退かせようとする――が、それよりも早くオフェリアが手を振り下ろした。


―― ドォォォォォォンン!!


 轟音が鳴り響き、戦場に大きな穴が空く。
 オフェリアは「んふ」と一つ楽しげに笑みを浮かべるとゆっくりとその身体を降下させ、衝撃に飛ばされた撃退士達の一人へと近付いた。年若き男へと顔を寄せれば彼は苦痛に呻き、全身に負った傷が齎す痛みに顔を歪めている。


「さあ、楽になりなさぁい」


 それはオフェリアなりの優しさとも言えた。
 声を掛けられた男は容赦なく魂を吸収され、彼女の僕(しもべ)と化す。獣型のディアボロとなった仲間を見て、他の撃退士達は怯えた目をオフェリアへと向けた。だが彼らにも撃退士としての意地やプライドもある。痛む身体を押さえながら立ち上がり再び攻撃を繰り出そうとするが――残念ながらそれは叶わず。


「アハハハハ!! その程度じゃ、だめよぉ。んふっ!!」


 「いやぁあ!!」と悲鳴を上げながら撃退士の少女が肌を変色させ、ディアボロへと強制変化させられる。意識を失った者ならばより簡単に彼女の支配下へと下った。撃退士の魂は一般人のそれよりも美味であることを知っているオフェリアは、ぺろりと舌なめずりして愉悦に浸る。


「ハアアァァ!!」


 悩ましい吐息を吐きながら、やってきた撃退士の魂を纏めて吸収すればまたしても胸が重く膨らむのを感じた。
 とろけそうなほどに美味しい力が身体を撫でれば、オフェリアは満足げに微笑む。胸だけではなく、臀部もまた影響を受けて肥大化していく。それでもまだ都市部を覆うために放出した力には及ばない。もっと吸収し、取り戻さなければ――。


「ああん、誰よりも美味しい魂ちゃんはどこかにいないかしらぁ」


 豊穣な身体を揺らしながらオフェリアは自分のゲート内で生き残っている現地人がいないか探しに行く。その間もディアボロ化した者達は暴力によって建物を壊して回り、「この都市にはもう希望はない」と生き残った人々は身を縮ませただただ震えていた。





―― to be continue.
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月26日

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