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『●皮肉な聖夜 』
デリク・オーロフ0029
 聖夜、雪の積もる都市部。
 そこに、静かに佇む魔術教団……そこに現れた異端審問官の言葉は滑稽に聞こえた。
 出された葡萄酒を口に運び、目を細める。
「聖夜に蔓延る闇を、葬りにいかないか?」
 ――異端審問官の所属する『教会』の言葉は『誘い』ではなく『命令』である。
 どんなに『魔術教団』に選りすぐりの魔術師がいたとしても、数の暴力を持つ『教会』に勝つ事は難しいだろう。

 デリク・オーロフ(0029)は静かに目を閉じて、その言葉を受けた。
(「私が想ウのは一人、ホロビさんダケです」)
 ホロビ――それは、負の象徴、虚無の実体、虚像の女神。
(「例エ忘却とイウ時の波が押し寄せヨウとも、けして手離さない強い想イを抱くコト。それコソが悦ビですヨ」)
 故に、蔓延る闇などには興味はない。
 だが、断る事は出来ない――自分の立場を、危うくする必要など無い。
「『猟犬』は、飼い主に従うべきだろう?」
 敢えてデリクの『二つ名』を告げた、異端審問官は口元に皮肉気な笑みを浮かべた。
「エエ、それは私の名前でス。飼イ主に、忠実ニ」
 異端審問官が飼い主、と言う訳ではないが、事を荒立てる必要性も感じなかった。
 異端審問官は『駒』でしかない、一人くらい減っても構わない――が、その一人を口実に『教会』は襲いかかるだろう。
 嘘ばかりの服従に頷いた異端審問官は、一枚の地図を取りだした。
「カルト教団が、怪しい動きを見せている――聖夜の負の力を使って、世界を我が者にしようと、な」
「情報提供、でスね……東京でモ、都心部ニ、ありますヨ」
 常に微笑を浮かべたデリクを、異端審問官がどう思ったのかは分からない。
「きみは、きみなりに戦えばいい。此方の戦力は貸そう――」
「デハ、諜報として数人、ト、実働に十数人」
「その程度の戦力で、大丈夫か?」
「大丈夫デスヨ」

 罠ならば、無力化すればいいのだから――。

 まず先に、デリクが行った事は、諜報をカルト教団の支部に放った事。
 そして、情報網を寸断し、それぞれを孤立させる事だった。
「情報ハ、戦の基本デス」
「……だが、直ぐに復旧するぞ?」
「テは、打ってマス」
 諜報部隊は、闇に対する光で罠を解呪し、魔法による連絡手段は精神妨害を行う事で寸断する。
 孤立した部隊を、実働部隊が襲いかかる――だが、カルト教団は数人の教員を囮に、都内をひた走る。
 外に出れば、敵がいる、だが、それが分かっているからこそ彼等の選んだ道は――下水道。
 走る、走る……が。

「な、なんだ……此処は?」
「一体、何が――」

 狼狽するカルト教団員の様子をモニターで見ながら、デリクは異端審問官に視線を移す。
 剣よりも凶悪な刺付きメイスを手にした、異端審問官は冷えていながら、熱を孕んだかのような視線を寄こした。
「出番でスヨ」
「……分かっている。総員、迎え撃て!」
 指揮は、全て『教会』が行っている――そう言う事で自尊心を保とうと言うのだろうか?
 だが実際のところ、全ての作戦はデリクが握っているにしか過ぎない。
 ――とは言え、デリク自身には『教会』と『カルト教団』のつまらない滅ぼし合いなど取るに足りない些末事。
 脳髄が痺れる様な、悦びを齎す『ホロビ』と言う存在に捧げる、犠牲の一ページ……ですらない。
 想う相手に、特別なものを捧げたいと思うのは自分だけではないだろう――その点、デリク自身が特殊な訳ではない。
 ただ、その存在に捧げたいものが『滅び』であるという時点で、矛盾している事甚だしいが、矛盾すら受け入れる。
 それが、人間の持つ特殊性である。

 一つの教会に異空間を捻じ曲げられ、放り込まれたカルト教団員達。
 そこには、一方的な殺戮の場と化していた――その状況を詳しく語る事は、異端審問官にも、デリクにも益を齎さない。
 ただ、屍が積み上がる――機械的に。



「数匹は逃げたようだな……市街を走っているとの連絡が」
「囮デス」
 囮、と口にしたデリクは、入ってきた一報に頷いた。
「逃げ道を求めマス、人ハ。それが、一瞬ノ逃ゲ道だトしてモ」
 逃げても仕方が無いと分かっていても、逃げなければいけない。
 机上の空論だろう、と馬鹿にする事は異端審問官には出来なかった――何故か、それが真実だからである。
 目の前の金髪の、細身の男が大きな巨人の様な、全てを覆い尽くす悪魔のようにすら見える。
 本当に滅さねばいけない敵は何なのか、脳髄に火を付けられたかのように燃えている、奇妙な感覚。
「滅びニ、全てヲ委ねレバ、いいのデス」
 そうすれば、迷いも嘆きも全てが取り攫われる――全ては拭いさられ、真の時代が訪れる。
 奇妙な静けさを持つ、その青い瞳に覗きこまれると、まるでその言葉に委ねたくなる。
 異端審問官はゆるり、と首を振った。
「作戦を急げ……。聖夜が終わる前に、終わらせる」
 それは、静かな通告。
「――分かリまシタ」
 淡々と告げるデリクから、異端審問官は少しだけ離れる――猟犬、と呼ばれるこの男の恐ろしさが良く、分かった。
 人間を俯瞰し、狙いを定めて引き金を引く……正しく、猟犬に相応しい人種だ。
 飼われる猟犬じゃない、己で狩りをする猟犬だ。
 無理矢理に笑みの形に歪められた唇、異端審問官は苦く嗤う。
「猟犬、と仕事が出来て――光栄だよ」
「勿体無い、おコトバでス」
 囮が命からがらで、カルト教団の支部へと駆けこんだ――それを傍受したセキュリティシステムで見ながら、デリクは呟く。
「殺到するでしょウ。滅びに、彼女ニ」
 それは唇から洩れた賛歌……意図しない、ただの歌であり、賛美であり、そして、言葉の羅列。
 込められた意思が理解出来ない者にとっては、言葉などただの空気の振動でしか無いのだ。
 ――そう、だからこそ、異端審問官は眉を顰めた、理解出来ないと。

「理解出来ないな」
「ならバ、理解ナド、いらないノデス」

 支部の地下から大量の兵器を手にし、実働部隊を迎え撃つカルト教団員。
 思想だの、虚無だのと言っても、実際は武器を使って身を守るしかない……だが、それを憐れむ人など何処にもいなかった。
 聖夜とは言え、神子が産まれたのは何千年も前の事――日付境界線で区切られた世界、現在から未来にかけての道筋。
 過去の事を振りかえるだけの時間など、彼らには存在しないのである。
 弾丸を異端審問官側に当てぬよう、デリクは異空間を生み出しながら、痣のある掌を組み合わせる。
 徐々に塗りつぶされる、恐怖に……。
 だが、逃げる事など出来ない――だから、神に助けを求めた、その背を、容赦無く異端審問側の人間は穿つ。
 空を仰ぎ、血を噴いて斃れる……呆気なく。

「異端は、異なる、と言ウだけデ。排除サレるのデスネ……」
「我々の行動に、要らぬ妨害をしてくるからだ。私は最後の懺悔くらい、聞いてくるよ」
 手に持ったメイスの半分を折りたたみ、本来の形であるランチャーにしながら、異端審問官は言った。
 どうする、と言外に話しかけられたデリクは首を横に振った。
 死を看取るのは、契約の範囲外である――自分の仕事ではないし、魔術教団の人間がやったところで意味があるとも思えない。
「やめテおきマス」
「……きみは、人生の半分を損している、そう思うよ」
「ご自由ニ」

 いけすかない、と一言をぶつけられたような気がするが、デリクは気にせずモニターの画面を見つめたままだ。
 万が一、異端審問官がしくじるような事があれば――デリクとてモニターを見つめたまま、指示を出すだけ、とはいかないだろう。
 ランチャーを構えた異端審問官が、異端者を排除する。
 ……が、その破壊的な火力に向かって、手榴弾が投げ込まれた。
 爆発する――。
 誰もが、そう思った、が……。

「引き際ガ、醜イ相手ハ、嫌われマス」

 金髪に碧眼の男――デリクの登場に驚いたのは、何もカルト教団の人間だけではない。
 爆死を覚悟し、思わずして生き延びてしまった異端審問官は、目を皿のように見開いている。
 皮肉気な笑みを浮かべ、デリクは口を開いた。

「お返し、しまス――」

 その手には、手榴弾……ピンを抜いたもの。

「――!」

 罵るような声が、聞こえたような気がした。
 だが、その時には手榴弾も共に、異空間へと飲み込まれてしまった――故に、死者がいるのかどうかも分からない。



「終わりまシたネ」
「……確実に死んでいると確認すれば、後で報酬を渡そう」
 確かめずとも、そんな事は理解している――それに、教会が魔術教団に報酬を支払う理由など無い。
「何故デス?」
 だから、デリクも問うた、何故、だと。
 だから、異端審問官は答えた――。
「今日が、聖夜だからだよ」

 ……皮肉な聖夜、戦う貴方に幸あれ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【0029 / デリク・オーロフ / 男性 / 35 / 魔術師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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デリク・オーロフ様。
この度は発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

指揮オンリーの戦闘物は、久々の執筆で心が踊りました。
異端審問や魔術教団、そしてカルト教団の皮肉な結末。
それを楽しんで頂ければ、幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
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東京怪談 The Another Edge
2012年12月27日

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