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『クリスマス・デートみたいな日 〜だってアイドル未満だからねっ〜 』
三善 千種jb0872


 花壇や街路樹のあるお洒落な遊歩道はどこかの公園で、息を弾ませ急ぐ少女がいた。
 足元は軽快な、紫のラインが入ったスニーカー。ぴっちりと細いジーンズに、明るいキャメルカラーのダウンコートを羽織っている。
 デイバッグを右肩だけで背負いリズムに乗ってスキップするように走っていたが、突然止まる。
「あっ……と。女の子はこういう時、先に行っちゃいけないんだったかな?」
 そんなことを呟き、さっぱりしているショートの髪を撫でる。
「でも、人を待たせるのは好きじゃないし、楽しいこと後回しってのも性に合わないしねぇ」
 三善 千種(jb0872)は、むーと困った顔をしてスニーカーの爪先をとんとんと遊歩道に立てたりもする。
「んー……、我慢。今日は『デート』、なんだしね」
 くるっと反対の足でターンすると、自分に言い聞かせる。
 と、ここで通行人と目が合ってしまった。デート、という言葉を聞かれたかもしれない。そんな様子に感じられ恥かしそうにする千種。
 もっとも、それは一瞬のこと。
「ま、いいか……」
 ひょい、とベンチと一体になっている花壇の上に飛び乗る。
(私は、私。楽しければそれでいいんだ。……だから、楽しまなくちゃ。今日のデートを)
 バランスを取りながらレンガ積みの花壇の上を歩き、気紛れに飛び降りる千種だった。
 そしてもうちょっと彼女の気紛れ散歩は続く。
 紫ノ宮莉音(ja6473)との待ち合わせ時間が過ぎるまで。


 公園にある災害備蓄倉庫のひさしの下に、少年が一人佇んでいた。
 やや切れ長の目に、細い顎。赤紫色をしたフード付きハーフコートを着て、襟を立てている。
 何を思っているのか、紫の瞳に輝きはない。微妙に動いている唇は、何かを呟いているのか歌っているのか。
 ふと、腕時計を見る。
「約束の時間だけど……」
 こんどははっきり呟く。
 そして気付いた。
 ぱたぱたという足音に。
「ごめーん、莉音君。待っ た?」
 走り寄っていたのは千種である。
「ううん、僕も今来たところー」
 軽やかに莉音は返す。肩をすくめてハーフコートを調えたのは、今到着したばかりと思わせるため。
「はーっ……、よし。莉音君、今日はよろしくねっ☆。引っ張って行ってね!」
 千種が一瞬息を整えたのは、まるで本当に急いで走ってきたようだった。本当のところは弾む心を静めていただけである。証拠に、莉音の手を取るとすぐに歩き出した。莉音の顔をろくすっぽ見もせずに。
「もちろん。……ふふー、どこに行きましょーねー?」
 莉音の方は、手を取り連れ去られながらいつもの調子。
 形としては、完全に千種に引っ張られている。
「莉音君は、どこがいい?」
 ようやく千種は半身に振り返って莉音のことを見た。まっすぐな視線で。
「そうだねー。せっかくだから、クリスマスの街を満喫しなくちゃー♪」
 駅前広場のイルミネーションは夕方からだしそれまでにケーキは食べたいよねーなどと夢を膨らませる莉音の様子は、うきうきわくわく大好きな女の子そのものである。
「じゃ、繁華街だよねっ☆」
 くるっと急に左に向きを改める千種。行動力がある。そして莉音は振り回されるでもなくしっかりと左について行っている。どうも流され上手のようで。
「ま、そうだねー。それより千種さん、その服可愛いいよ〜」
 ウインクして莉音はそういうが、千種の服装は可愛らしさより行動力重視だ。その褒め言葉はふさわしいのだろうか?
「ありがとっ。莉音君の服も、ビミョーにクリスマスっぽくて可愛いよっ☆」
 千種もウインクして返す。莉音はやや背も低くて線も細いが、男に対してその褒め言葉はふさわしいのだろうか?
「ふふふっ。今日は二人で楽しもうねー」
 気を悪くした風もない莉音。褒め言葉はあれで良かったらしい。
 千種も、もちろん。それが千種の望むものだった。
「もちろんっ☆」
 歩きながら頷く二人。
 先に立っているのは千種だが、よそ見しがちの彼女の前をしっかり莉音が注意しながら。


「あれ?」
 ふと気付けば、莉音はソファに座って首を傾げていた。
「はいは〜い、フリードリンク取ってきたよ〜。もちろん、莉音君のもばっちりだからねっ☆」
 バタンと扉が開いて千種が入ってきた。
「莉音君、曲入れた? え、まだ? んもー。仕方ないなー」
 千種は自分と莉音の前にジュースを置くと早速カラオケ端末を操作し始めた。
 なぜか、当初莉音の話していた予定をすっとばされてカラオケボックスに入っていたのである。
「よし、私が二曲入れておいたからその間に莉音君も曲を入れてね」
 早い。そしてもうマイクを握っている。
「手強いな……。エクストリームな感じ……」
 莉音は強引な千種に呆れるしかない。
 そうこうしているうちにイントロが響き渡る。アイドル全開のクリスマスソングだ。
「じゃあ、『クリスマス・ハピネス』聴いてねっ☆」


リンシャン・リンシャン 心の鐘が
リンシャン・リンシャン 準備はOK?
リンシャン・リンシャン クリスマス yeah!
リンシャン・リンシャン ハピネスに ゴー!

ミニのサンタ服、リボンをつけて 今日だけアナタの言うこと聞くわ
だけどわがままは言っちゃイヤイヤ できないお願いいろいろあるの


 小刻みなリズムに乗って腰を揺らし右手を横にしたり前にしたりと、アイドル歌手グループの振り付けそのままに歌いだす。
「……画面の歌詞、見てないよね」
 あまりに堂々としてる様子を見て莉音はもう苦笑するしかない。明らかに歌い慣れているし踊りなれている。これは降参とばかりに踊るのに邪魔なテーブルを隅に避けてやる。千種はウインクで感謝して、ぐんと広くなった場所で生き生きのびのびレッツダンス。
「二曲目は『召しませコーヒー』。メイド服じゃないのが残念だけどねっ」
 さらに歌って踊る千種。
 もう誰にも止められない勢いだ。
「こりゃマイク離しそうにないねー。ま、いーけどー」
 手拍子していた莉音、すでに諦めモードである。
「莉音君も一緒に歌って踊ればいいじゃない?」
 イントロのダンスの途中にそんなことを言う千種。気持ちが良い。気分が良い。それが歌声に出る。ダンスに出る。腹の底から声を出し、体の底から躍動する。
「それもいっかー」
 マイクを取った莉音に満足そうにウインクする千種。思いが伝わった喜び、そしてリズムを共有する心地よさに気分が良くなる。
「さ、次の曲いってみよっ☆」
 目指せ、アイドル☆。
 二人のオンステージはまだこれからだ。


「はーっ。スッキリした」
 満足そうな千種がどさっと身を投げ出したソファは、カラオケボックスではない。
「やっぱり踊りは楽しいよねー」
 莉音は本当にスッキリしたようすに微笑しつつ、店員に注文した。これを見て千種はぐん、と乗り出す。
「ね。今何注文したの?」
「期間限定の可愛いデコケーキ。カップル用に小さいホールで、自由に切って食べられるんだよー。しかもケーキの上の飾りはちまちましててとっても可愛いんだよねー」
「え! その……自由に切って食べられるの?」
 千種、ぎくりと身を引く。「ん?」と怪訝そうな莉音。
 やがて、ケーキと紅茶が来た。
「その……えへへ……」
 千種、もじもじしている。
「まったく。千種さんは可愛いよねー」
 何となく全てを理解する莉音だったが、口にはしない。何事もなく当然のようにナイフを手にして、すっすっと切り目を入れた。これを見て千種のほうはホッとしたようで、再び身を乗り出してきた。
「ホントだ。かわいい〜。トナカイ、こんなにちっちゃ〜い」
「だよねー。そのくせ、サンタはちょっと太めで大きいよね。こっちのスノーマンと同じくらいでさー」
「見て見て莉音君。このスノーマン、三段重ねだよ?」
「わざわざ海外に合わせてあるんだねー」
 クリスマスケーキを囲んできゃいきゃいきゃいきゃい。
「一人三切れずつあるよねっ。サンタとスノーマンは一緒に選んじゃ駄目だよっ」
「分かってるー。サンタさんとスノーマンどっちにしよー?」
「それにしても、周りはみんなカップルだよねっ」
「デコケーキ、かわいいからー」
 周りとこのテーブルの唯一違うところは、ここだけ二人とも女の子のようにきゃいきゃいしてることだが、当然二人は気付いていない。
 食べてる間も会話が弾む。


 喫茶店を出た頃には、すっかり暗くなっていた。
「まだ5時半だよー。本当に暗くなるのが早くなったねー」
「ホントだねっ。さすがに上着を着なくちゃ」
 腕時計を確認した莉音が言う。
 千種は頷き、改めて上着を着込む。ほっそりとしたシルエットのチュニックパーカー姿だったの方が好きなのだが、寒さには勝てない。
「一休みしたし、帰りましょうか」
「うんっ。一つ遠い駅の駅前広場に寄り道して、だよねっ」
 楽しかった一日。自然と手を繋ぐ。
 握り返す莉音の自然な仕草が、同じ思いだと伝わって嬉しい。
「外は寒いなあ。千種さん、マフラー 貸したげる」
「ありがとっ☆。二人分の長さじゃないのは仕方ないよねっ」
 元気良く言って、自分の襟元に巻きつけて勢い良くマフラーの端っこを背中に投げたところで気付いた。
(雰囲気、壊しちゃったかな……)
 こっそり、俯きがちに莉音の様子を伺ってみた。彼と視線が合ってしまったのですぐに反らしたが。
 千種は、自分の動きを見た莉音の反応を知らない。
「……やなー。背も僕の方が高いもんね」
 莉音の呟きが聞こえて顔を上げた。
 何を言ったか聞き返そうとした。
 が、そんなことはどうでも良くなった。反らした視線の先に素敵なものが見えたのだ。
「莉音君、あれ」
「うん」
 顔を向ける道路の向こうに、溢れんばかりの輝きが明滅していた。
 駅前広場のイルミネーション。
 木々に飾られ、サンタやトナカイの形にされ、星や十字架も散りばめられて――。
 赤と緑と黄色の、光の乱舞。道行き眺める人がぼんやり照らされているのがまた幻想的で。
「い……、ううん。莉音君、楽しみだね」
「そーだねー」
 千種が言い直したのは、雰囲気を壊さないため。ここで駆け出しては望んでいたものが台無しになると思った。
 大人しく歩行者信号が変わるまで待って、二人でしっとりと歩く。
 幻想的な広場まで。


 そして、最後の帰り道。
「今日は楽しかったよねー」
 すっかり莉音は堪能した気分で顔を覗き込んでくる。
「ふふふー。見てみて!」
 楽しみはまだあるとばかりに千種は空を指差す。
「街中の明るい場所じゃあまり奇麗じゃないけど、ここならね。莉音君あれがオリオン座だよ、綺麗だよね」
「ああ……。そうだね。綺麗だよねー」
 まだ楽しみがあったことに驚く莉音。
「えいっ!」
 と、ここで莉音に襲い掛かった。デイバッグから出したものを彼に被せたのだ。
「何、千種さん……あっ!」
 莉音が慌てて剥ぎ取ると、毛糸の帽子だった。
「デートごっこに付き合ってくれたお礼だよ☆ そして、メリークリスマスっ」
 へへへ、と笑顔の千種。
「やれやれ……。一応、ありがとねー」
「ん?」
 やられたな、という感じの莉音。満足した千種は再び莉音と手を繋ぐが、その感触に驚いた。
「あっ!」
 見ると、プレゼントを握らされていたのだ。
「ふふふー、プレゼント」
「もうっ。……開けてもいい?」
「もちろん」
「わあっ。何これ〜?」
 中を見て、何かしらお洒落なものが入っていると理解してはしゃぐ。が、何か分からない。
「バスボムだよー。見た目も可愛いでしょ♪。溶けるとこの花弁がお風呂に浮くんだよー」
 ウインクして得意げな莉音。
「楽しみは続いたほうがいいでしょー?」
「あっ! それなら私だって。手作りの毛糸の帽子は、もっと仲良くなったらね☆」
 対抗してウインクする千種。
 見えない未来。
 でも、こうなったらいいなと思う来年。
 もしかしたら、今日のデートごっこで一番の表情だったかもしれない。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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jb0872/三善 千種/女/15(外見)/陰陽師
ja6473/紫ノ宮莉音/男/13(外見)/アストラルヴァンガード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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三善 千種 様

 こちらでは初めまして。OMCライターの瀬川潮です。
 デートごっこ。微妙な関係。
 服装に悩みましたが、お洒落しているというより自分らしくある、という線でまとめました。「今」をめいっぱい楽しむ姿をお楽しみください。
 タイトルの副題は、つけてみたかったんです、ということで。
 字数の関係で通信欄が少なくてごめんなさい。

 では、この度はご発注、ありがとうございました♪
N.Y.E煌きのドリームノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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