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『クリスマス・デートみたいな日 〜まさかそーくるとはねー〜 』
紫ノ宮莉音ja6473


「んー……。待ち合わせごっこかー」
 花壇や街路樹のあるお洒落な遊歩道はどこかの公園で、桃色の短髪を寒風の荒ぶに任せている少年の姿があった。
「きっと、早く来るんだろーなー」
 のんびり言いつつ歩いているのは、紫ノ宮莉音(ja6473)。やや切れ長の目に、細い顎。赤紫色をしたフード付きハーフコートを着て、襟を立てている。マフラーは両肩に掛けているだけだ。
 やがて、公園の災害備蓄品倉庫まで来て歩みを止めた。
「おかしいな。千種さん、来てない……。でもまーいっか」
 待ち合わせごっこの相手は、年上の三善 千種(jb0872)だった。明るく元気で、楽しいことが好きなので急いで来ていると思っていたのだが……。
「待ち合わせごっこの時間にはまだ早いしね」
 腕時計を見て、にこり。
 特に「待ち合わせごっこ」の語感が気持ち良い。
 デートほど重みがなく、ただ遊びに行くよりワクワクする感覚。
 そして、街はクリスマスのざわめき。
「ん……。こっちは大丈夫。後は待つだけかー」
 莉音、コートの上からぽんと腰の辺りを叩く。ウエストポーチのふくらみがちゃんと感じられる。
 そして、胸元を掴んで弄る。
 幼少時に貰ったロザリオのネックレスを今日もしている。
 あるいは、寒さにも関わらずコートの前を開けて、マフラーもしないのは服の上からでも愛用のロザリオを手慰みにしたかったからかもしれない。
 紫色の瞳は翳る。
 いつかの記憶を思い返しているように――。


「ん……。待ち合わせの時間だけど……」
 しばらくして莉音が腕時計をもう一度見たとき、ぱたぱたという元気のいい足音が聞こえた。
「ごめーん、莉音君。待っ た?」
 声の主は千種だった。
「ううん、僕も今来たところー」
 肩をすくめてハーフコートを調えたのは、今到着したばかりと思わせるため。
「それより……」
 言葉を継いだ。
 さっぱりとしたショートの髪が止まったことで揺れ、見上げた紫色の瞳が生き生きとして眩しい。裏地の見えるまで翻った明るいキャメルカラーのダウンコートの下にはチュニックパーカーが見える。ほっそりとした腰つきが目に焼きついた。
「千種さんか……」
「はーっ……、よし。莉音君、今日はよろしくねっ☆。引っ張って行ってね!」
 莉音の言葉は、勢いのある千種の言葉にかき消された。
 それどころではない。
 ああいったくせに、千種は莉音の手を取って踵を返したではないか。
 まるで、自分の表情を見られないように。
(ま、いっか)
「ふふー、どこに行きましょーねー?」
「莉音君は、どこがいい?」
 この言葉に千種は釣られた。半身に振り返って、ようやく莉音の顔を見た。まっすぐな視線で。
「そうだねー。せっかくだから、クリスマスの街を満喫しなくちゃー♪」
「えっと、それじゃ……」
「駅前広場のイルミネーションは夕方からだしそれまでにケーキは食べたいよねー」
 小首を傾げる千種に指折り数えるように言う。
「じゃ、繁華街だよねっ☆」
 くるっと急に左に向きを改める千種。莉音は急な方向転換にもたたらを踏むことはない。柳腰である。
「ま、そうだねー。それより千種さん、その服可愛いいよ〜」
 ようやく、今日の姿を見たときの褒め言葉を言えた。
「ありがとっ。莉音君の服も、ビミョーにクリスマスっぽくて可愛いよっ☆」
 千種はウインクで返してきた。
「ふふふっ。今日は二人で楽しもうねー」
 可愛い、と言われることには慣れている。千種の、どちらかといえば可愛いと言うよりスポーティーな姿を可愛いと言ってしまったのも、口癖に近い。
「もちろんっ☆」
 頷く千種。別に気にせず素直に褒め言葉として受け止めているようだ。
 楽しい気分で先を急ぐのだった。


「あれ?」
 ふと気付けば、莉音はソファに座って首を傾げていた。
「はいは〜い、フリードリンク取ってきたよ〜。もちろん、莉音君のもばっちりだからねっ☆」
 バタンと扉が開いて千種が入ってきた。
「莉音君、曲入れた? え、まだ? んもー。仕方ないなー」
 千種は自分と莉音の前にジュースを置くと早速カラオケ端末を操作し始めた。
 なぜか、当初莉音の話していた予定をすっとばされてカラオケボックスに入っていたのである。
「よし、私が二曲入れておいたからその間に莉音君も曲を入れてね」
 早い。そしてもうマイクを握っている。
「手強いな……。エクストリームな感じ……」
 莉音は強引な千種に呆れるしかない。
 そうこうしているうちにイントロが響き渡る。アイドル全開のクリスマスソングだ。
「じゃあ、『クリスマス・ハピネス』聴いてねっ☆」
 千種、たちまち小刻みなリズムに乗って腰を揺らし右手を横にしたり前にしたりと、アイドル歌手グループの振り付けそのままに歌いだす。
「……画面の歌詞、見てないよね」
 あまりに堂々としてる様子を見て莉音はもう苦笑するしかない。明らかに歌い慣れているし踊りなれている。これは降参とばかりに踊るのに邪魔なテーブルを隅に避けてやる。千種はウインクで感謝して、ぐんと広くなった場所で生き生きのびのびレッツダンス。
「二曲目は『召しませコーヒー』。メイド服じゃないのが残念だけどねっ」


苦いと思えばミルクかき混ぜて
くるくる渦巻く夢と現実(うつつ)

の・み・ほ・す・く・ち・び・る あなただけのもの〜

召しませ召しませ、コーヒー召しませ 乙女が夢から目覚めるように
召しませ召しませ、コーヒー召しませ あの娘も微笑む魔法の一杯


 本当ならメイド服のスカートの裾をふりふりさせて歌うのだが、千種の今日の服ではそれができない。が、そんなの関係なしに踊る・踊る。
 もう誰にも止められない勢いだ。
「こりゃマイク離しそうにないねー。ま、いーけどー」
 手拍子していた莉音、すでに諦めモードである。
「莉音君も一緒に歌って踊ればいいじゃない?」
 イントロのダンスの途中にそんなことを言う千種。気持ちが良い。気分が良い。それが歌声に出る。ダンスに出る。腹の底から声を出し、体の底から躍動する。
「それもいっかー」
「さ、次の曲いってみよっ☆」
 目指せ、アイドル☆。
 二人のオンステージはまだこれからだ。


「あ、店員さん。限定ケーキセット、二つお願いねー」
 場所は変わって喫茶店。
 千種と一緒にテーブルを挟んで座り、店員に注文する。
「はーっ。スッキリした。やっぱり踊りは楽しいよねー」
 千種はといえば、ソファーに身を投げ出し満足そうにしている。
 が、莉音の注文に興味を引かれすぐに身を乗り出してきた。
「ね。今何注文したの?」
「期間限定の可愛いデコケーキ。カップル用に小さいホールで、自由に切って食べられるんだよー。しかもケーキの上の飾りはちまちましててとっても可愛いんだよねー」
「え! その……自由に切って食べられるの?」
 ぎくりとして身を引く千種。
「ん?」
 莉音は怪訝に思うが、まあいっかと気にしないようにする。
 そして、理由が分かった。
「その……えへへ……」
 やがてケーキと紅茶が来ると、とたんに千種がもじもじし始めたのだ。
「まったく。千種さんは可愛いよねー」
 何となく全てを理解する莉音だったが、口にはしない。何事もなく当然のようにナイフを手にして、すっすっと切り目を入れた。これを見て千種のほうはホッとしたようで、再び身を乗り出してきた。
「ホントだ。かわいい〜。トナカイ、こんなにちっちゃ〜い」
「だよねー。そのくせ、サンタはちょっと太めで大きいよね。こっちのスノーマンと同じくらいでさー」
「見て見て莉音君。このスノーマン、三段重ねだよ?」
「わざわざ海外に合わせてあるんだねー」
 クリスマスケーキを囲んできゃいきゃいきゃいきゃい。
「一人三切れずつあるよねっ。サンタとスノーマンは一緒に選んじゃ駄目だよっ」
「分かってるー。サンタさんとスノーマンどっちにしよー?」
「それにしても、周りはみんなカップルだよねっ」
「デコケーキ、かわいいからー」
 周りとこのテーブルの唯一違うところは、ここだけ二人とも女の子のようにきゃいきゃいしてることだが、当然二人は気付いていない。
 食べてる間も会話が弾む。


 喫茶店を出た頃には、すっかり暗くなっていた。
「まだ5時半だよー。本当に暗くなるのが早くなったねー」
「ホントだねっ。さすがに上着を着なくちゃ」
 時計を確認して言うと、千種は改めて上着を着込んだ。
「一休みしたし、帰りましょうか」
「うんっ。一つ遠い駅の駅前広場に寄り道して、だよねっ」
 千種が手を繋いでくる。自然な感じなのが心地良い。
 そんな思いは千種にも伝わったようで、ほほ笑み返してくる。
「外は寒いなあ。千種さん、マフラー 貸したげる」
「ありがとっ☆。二人分の長さじゃないのは仕方ないよねっ」
 息が合うと次の言葉が自然と出てくる。
 巻くわけではないマフラーを千種に差し出す。彼女は何のためらいもなく手にして勢い良く自分の襟元に巻きつけぽいっと背中に端を投げた。
 これを見て莉音は思わずくすっと笑ってしまった。
「千種さん、何だかお姉さんなのに妹みたいやなー。背も僕の方が高いもんね」
 素直で飾らず自然で、本当に可愛らしい。
 思わず呟いてしまったとき、俯きがちに自分のほうを見て視線が合い、慌てて顔をそらしてしまった様子も含めて。
「あ。莉音君、あれ」
 千種の様子を楽しんでいると、そう声を掛けられた。
 彼女の向いているほうを見る。
「うん」
 道路の向こうに溢れんばかりの輝きが明滅していた。
 駅前広場のイルミネーション。
 木々に飾られ、サンタやトナカイの形にされ、星や十字架も散りばめられて――。
 赤と緑と黄色の、光の乱舞。道行き眺める人がぼんやり照らされているのがまた幻想的で。
「い……、ううん。莉音君、楽しみだね」
「そーだねー」
 千種は言い直した。駆け出そうとしたんだろうな、と莉音は思う。
 でも、走らなかった。
 大人しく歩行者信号が変わるまで、ぎゅっと繋いだ手を握ってあげるのだった。
「いい雰囲気だよね」
 つぶやくと、千種がホッとしたように頷いていた。


 そして、最後の帰り道。
「今日は楽しかったよねー」
 思わず口にする莉音。
 千種はどう思ったかな、と表情を覗いてみる。
 すると。
「ふふふー。見てみて!」
 千種、楽しみはまだあるとばかりに空を指差す。
「莉音君あれがオリオン座だよ、綺麗だよね」
「ああ……。そうだね。綺麗だよねー」
 思いも付かなかった楽しみ。千種を見直し空を見上げる。そこには三連星が澄み切った輝きで瞬いていた。
「えいっ!」
 と、ここで目の前が暗くなった。何か被せられたのだ。
「何、千種さん……あっ!」
 慌てて剥ぎ取ると、毛糸の帽子だった。
「デートごっこに付き合ってくれたお礼だよ☆ そして、メリークリスマスっ」
 へへへ、と笑顔の千種。
「やれやれ……。一応、ありがとねー」
「ん?」
 やられたな、と溜息をつくがプレゼントはプレゼント。満足した千種は再び莉音と手を繋ごうとする。
 その、瞬間だった!
「あっ!」
 驚く千種。
「ふふふー、プレゼント」
 ここで自分も手渡そうと思っていたのだ。すでにプレゼントはウエストポーチから出していた。後は、手を繋ごうとするタイミングを待つだけだった。そして、上手くいった。
「もうっ。……開けてもいい?」
「もちろん」
「わあっ。何これ〜?」
 中を見る千種。
「バスボムだよー。見た目も可愛いでしょ♪。溶けるとこの花弁がお風呂に浮くんだよー」
 指差し、両手を花の様に合わせて開き説明する。そして、ちゃんと肝の部分も強調する。
「楽しみは続いたほうがいいでしょー?」
「あっ! それなら私だって。手作りの毛糸の帽子は、もっと仲良くなったらね☆」
 対抗してウインクする千種。
「あはっ。待ち合わせごっこだもんねー」
「ううん。デートごっこだよ〜」
 それぞれ口にする言葉に、宝物の名前を口にするような響きを含めている。
 莉音はついくせで胸元のロザリオに手をやった。
 今日の楽しさを確かめながら。
 これからどうなるのか楽しみにしつつ。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ja6473/紫ノ宮莉音/男/13(外見)/アストラルヴァンガード
jb0872/三善 千種/女/15(外見)/陰陽師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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紫ノ宮莉音 様

 初めまして。OMCライターの瀬川潮です。
 ちゃんとデートのエスコート……あれっ?
 という感じのお話、私も楽しませていただきました。微妙な関係ですが、もしかしたら「今」だけかもしれない雰囲気。そんな手応えをお楽しみください。
 字数の関係で通信欄が少なくてごめんなさい。

 では、この度はご発注、ありがとうございました♪
N.Y.E煌きのドリームノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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