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『+ 貴方はどんな年末年始を過ごす? + 』
小野友真ja6901



 さあ、年末年始はどう過ごそうか。


 友人達と年末パーティ?
 年が明けたら恋人としっとり初詣?
 どれでも良いけれどやっぱり皆違って皆良い。


 ―― だから此処に紡がれるのは『自分達だけの物語』 ――



■■■■■



 < おっとぉー!! ここで期待の新人、カイ&ユーマはあっさりと予選落ちー! >


 M−1予選会場に響く司会者の声に舞台に上がっていた二人はがっくりと肩を落とす。
 人々の残念そうな声と哀れみの視線を受けたまま二人は――七種 戒(さいぐさ かい)と小野 友真(おの ゆうま)はしぶしぶと言ったように会場から姿を消した。「お疲れ様でした」と声を掛けられつつも合同控え室へとスタッフに案内される彼らは……いや、戒は酷く納得出来ない顔を浮かべていた。


「あーあ予選敗退かー。……まぁわかっとったっけどな、芸人ちゃうし。そもそも何で出たんこれ」
「くっ、……このままでは終われない……止めるなゆうまん!」
「ん? 何を止め――ってどこいくん!?」
「そこのプロデューサー様ぁあああ! お願いがありますぅぅ!!」


 突然走り出した戒にびくっと身体を跳ねさせた友真は何気なく伸ばした手を空中で遊ばせる。
 その先に見えるのはスライディングの勢いで土下座をしに行った戒の姿があった。他のスタッフに指示を与えていたプロデューサーもこれには驚愕の表情を浮かべ、いきなり自分の足元で土下座をする少女の姿を見下ろす。周囲の視線を一気に集めた戒はそれはもう本選に出場するためならば……!! と華麗なる土下座という名の直訴を続けた。


「ちょ、いや待てって無いって!?」
「止めるな! 今私のプライドは無いに等しい!」
「お願いや、戒。人間並みのプライドくらいは残してて!」
「良いんだっ! 本選に行けたらそんなもの幾らでも復活する――多分!」
「――って、多分なん!?」


 プロデューサーに深々と頭を下げ続けながらも戒は相方の友真に凛とした声を投げかける。
 例え地面に頭を擦り付けているような格好であってもある意味揺るがない。そんな彼女を見ていると、友真も最初こそはドン引きしていたものの――彼にとって『甘い土下座』を見ていたらその昔、某氏に「土下座とはこうするもの!」と叩き込まれた恐怖の記憶が蘇り、カチッと己の中の土下座スイッチが入る音を聞いた。


「戒、そんな甘い土下座で人の心を動かせると思てんの? アホちゃうか」
「え、何、甘い?」
「ふ……本当の土下座というもの、俺が見せたるわ……!!」


 言うや否や友真は戒の隣へとそっと膝を付き、きちんと背筋を伸ばして姿勢を整え彼はまずプロデューサーを視線を射抜く。当然見られた方は思ってもいない二人の行動に今すぐにでもこの場から逃げ出したい気持ちになっているわけだが、状況がそれを許さない。
 やがて音も無く――そして声すら押さえたまま友真の美麗な土下座が始まった。
 その姿はまさにプライドを有したまま、けれど自分という存在をどこまでも相手に任せきったもの。強制的な強請りはなく、ただまっすぐな思いだけを相手にぶつけて頭を下げ続ける姿に後光が差し始めて――。


「――さすが土下座で進級した男……!」


 戒は後光差すその土下座っぷりに戦慄を覚えながら、己の土下座がいかに甘いものであったか思い知る。この相手にはきっと一生敵わない。……ある意味勝ちたくない。
 当の友真と言えばスパルタで土下座を叩き込まれた記憶を脳裏に浮かばせながら「美しく出来へんかった時超こわかったなー……」などと心の涙をだばだば流していた。たかが土下座と侮る無かれ。どこまでも自分を格下に見せるこの格好は人の心を大きく揺さぶり動揺させるのに最適なのだ。
 そして今も――。


「あー、君達さっき予選落ちしたカイ&ユーマだよね。そこまで言うのなら敗者復活戦の許可をあげるから一応名目上そこで勝ち上がってきたら本選に出ても良いよ。君たちの今の漫才中々面白かったしね」
「!?」
「ほんまでっか!?」
「有難う御座いますっ!! やった、友真のお陰だな!」
「戒、次こそは上に登るで!」


 見事心動かされたプロデューサーはさらさらと何かを紙に書き止めるとそれをスタッフに渡しすぐに手配の準備に取り掛かる。土下座によって見事まだ完全に敗退という形を免れた二人は身体を起こし、礼の姿勢で場から立ち去るプロデューサーを見送った。
 そんな彼を友真は一瞬だけ……本当に一瞬だけ生温かい目を向けて「あのプロデューサー大丈夫か……」と思ったという。


 だがここから先の戦場にはもう土下座は通用しない。
 自分達の力で勝ち残るしか他にない。


「でもまぁ折角のチャンスやし振り切ってこか!」
「おお!」


 友真はネタ帳を片手に戒とネタの再調整と突っ込みとボケのタイミングについて真剣に語り合う。
 かくして予選落ちという運命から逃れた二人は、敗者復活戦から本選への道を歩み始めたのであった。



■■■■■



 < なんと敗者復活戦から勝ち上がってきたカイ&ユーマにまたまた高得点ー! これは強い!! >


 トーナメント形式で勝ち残っていく二人に対して予選落ちの時とは違う歓喜の声が浴びせられる。
 審査員達から与えられる得点がモニターに映し出される度にそれまでの参加者の記録を塗り替え続け、驚きの声が止まらない。一歩、また一歩と階段を登っていく二人はまさに驚きの快進撃を続けていた。


「いける、今ならいけそうな気がするー!」
「次! 次でグランプリやで!!」
「本気で行く! ここまで来たら頂点に立ってやるっ!」
「おおおお!」


 テンションもハイになり、打ち合わせしていたネタにアドリブを加え更に面白みを増した漫才を披露していく二人。
 戒は基本的にボケ時々ノリツッコミ、友真は完全にツッコミ担当でそれはもうキレのあるネタっぷりに会場に笑いの声で湧きあがる。既に素の自分達が出ているが気にしない。それで上に登れるというのならばそれもまた利用するが勝ち。
 そしてとうとう彼らは決勝戦へと登りつめ、その結果は――!!


 < 優勝はカイ&ユーマー!! >


「「「「うぉおおおおおお!!」」」」


 栄光のグランプリ獲得に湧きあがる歓声、乱れ舞う紙吹雪。
 スタンディングオベーションによって二人に多大なる拍手が送られた。


「優勝ー! 友真、優勝した!」
「吹っ切れた二人の快進撃、ここから伝説が始まる……っておいマジで優勝とかどういう事なん。ま、まぁいいか、優勝やでー!」


 戒と友真もまた感極まって互いに互いを抱きしめあいながら優勝の喜びに浸る。
 元気いっぱいの二人に対して司会者は「まさか優勝するとは」という顔を浮かべているが、それでも彼らを舞台の真ん中へと招きそしてトロフィーを差し出す。これを受け取ったのは戒。友真はぐっと拳を握り締めて自分の突っ込みのキレに非常に満足げに頷いた。


 < さて、今から優勝したお二人に勝者インタビューを行いたいと思います。お二人とも今の気持ちはいかがなものでしょう? >


 感涙に咽ぶ戒へと向けられるマイク。
 彼女はトロフィーを大事に大事に抱きかかえながらその問いに答えようと唇を開く――が。


「え?」
「んん?」


 急にぐらりと薄れる視界。
 白む世界の向こうでは司会者がにこにこととても良い笑顔を浮かべていた。



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 ガクッ! もしくはびくっ! という反応で二人は同時に目を覚ます。
 まだはっきりとしない意識のままボケた表情を互いに浮かべつつ周囲を見渡した。身体はとても温かいこたつの中、そしてそこは歓声湧き起こる会場ではなくただの一般人の部屋だった。
 これには気が抜けてしまい、ふぅっとどちらからともなく息を吐き出す。だがその同時の行動にはっと互いに顔を見合わせれば二人とも似たような表情を浮かべていた。
 それはとても生温かくけれど複雑そうなもので、言葉なんて要らないほどに通じ合ってしまうものだった。


「もしかして、お前もか……?」
「え、お前もまさか……」


 何が、とは言わない。
 友真はとても生ぬるい微笑を顔に貼り付けながら額に手を当てた。以心伝心、目と目で通じ合ってしまうこの哀しみ、そしてやるせなさ。
 戒の目元にじわりと浮かぶのは何か。そっと手の甲で目尻を押さえ、暫し顔を伏せた。


「泣いてなんかないんや……」
「あー……こたつの魔力マジ怖い。……つかなんつー夢見てんねん……」


 ピーッと高く湯の湧けたやかんの音を聞くと嫌々ながらも戒はこたつから出て、準備していたそれ――カップラーメンへと湯を注ぐ。
 そして準備が終わると彼女はまたこたつの中に戻り、三分間待ってから二人むなしく両手を合わせた。
 ずずず、とラーメンをすする音が響く。


「……あーまじ深夜のカップ麺ちょう美味いなー……」
「今日は大安か――それならもっと良い夢が見たかった」


 カップラーメンをすすりながらの忘年会。
 時はもうすぐ切り替わる時刻。そうすればもうすぐ新しい時がやってくる。
 そんな二人が見た夢は――多分、正夢にはならない。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 17歳 / インフィルトレイター】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ノベル発注有難う御座いました!!

 夢オチではあるものの漫才で登りつめていくお二人が楽しそうとこちらも嬉々として書かせて頂きました^^
 友真様は土下座ネタの説明も有難う御座います。しかし素晴らしい経緯の土下座っぷりに涙しつつ……(ほろり)
 戒様も予選落ちが許せないというところがツボでした。

 また機会が御座いましたら宜しくお願いいたします。ではでは!
N.Y.E新春のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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