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『聖なる夜の、清らかさが重い 』
エルレーン・バルハザードja0889


 12月25日。
 人々はそれを聖夜と呼び、恋人同士でキャッキャウフフと過ごす。
 おかしい、そもそれはそんな日ではなかったはず。
 前日の24日に至ってはどうだ、さもそちらが本番とばかりに盛ってばかりいる。
 おのれリア充、我はそんなイベントに屈したりはしないぞ。
 おのれリア充。何故、この俺が肩身の狭い思いをしなければならないのだ。
 12月25日。
 それはラグナ・ラクス・エル・グラウシードの誕生日である。




 闇に紛れ、エルレーン・バルハザードは行動する。
 吐き出す息は白く、それだけが唯一、彼女の存在を証明していた。
(喜んでくれるかな…… くれるよね、ラグナ)
 兄弟子の誕生日をサプライズで祝おう。
 そんなエルレーンの手には、心を込めた手料理、プレゼント、荒縄などが抱えられている。
 足音を立てないようアパートの階段を上る。
 こっそり秘密で作った合い鍵を取りだし、音を立てないよう細心の注意を払い、開けて。
 嗚呼、予想通り。
 周囲の幸せな空気全てへ背を向けるように、兄弟子は布団の中に居た。
 すやすやと、平和な寝息をたてて。まったくの無防備で。侵入者に気づきもせず。

 ――ラグナを守ってやってくれ

 それが、師匠の最後の言葉。最後の教え。エルレーンの支え。
 擦れ違いから、どんなにラグナ本人に憎まれようと、エルレーンは折れるわけにはいかない。
 ここを覆してしまったら、ラグナと自分が敬愛する師に背くことになってしまうから。
(守る、からね……)
 慈愛に満ちた表情で、エルレーンは荒縄をピンッと両手で張った。




 微妙な圧迫感で、ラグナは目を覚ました。
 見慣れた天井、いつもの匂い。変わらぬ自室……が、体が動かな
「い!?」
 そのまま、一気に意識は覚醒する。
 布団ごと、縄で縛られ簀巻きにされているではないか!!
「誰がこんな、いや、ひとりしか思いつかない」

「うふ…… 誕生日おめでとなの、ラグナ!」

 無邪気な笑顔のエルレーン。
 サプライズだいせいこう〜、と万歳している。ちがうそうじゃない。何をしている。
「お前、一体どうやってこの部屋へ……」
 質問は、簀巻きにまたがるエルレーンから頬へのキスで封じられる。
「な、ななななななな」
 逃げるにしても頬をこするにしても手が動かない! なぜなら簀巻きなう!!
「お祝いに、きたんだよー ほら、お料理も作ったの。あーん」
「馬鹿にするなっ 何が祝いだ、何がりょ ぐふっ」
 何が料理だそんな不味そうなもの、
 言い終える前に抗議で開いた口へ容赦なく料理が突っ込まれる。
 外観通りの味であり、細かな描写を避けたい具合である。
「おいしい? おいしい?」
 影縛り(物理)を発動し、ガンガン料理を『あーん』させるエルレーン。
 鶏のから揚げ(焦げ目たっぷり)でしょー、
 春巻き(具材爆裂)でしょー、
 サンドイッチ(激辛)でしょー、
 マカロニサラダ(混ぜるなカオス)にー、
 甘い物は、ぷりんも頑張ったんだよー(牛乳と甘酒の取り違え)
「わあっ、全部たべてくれて、嬉しいな。そんなにおいしかった?」
※ラグナ、気絶判定中
 口の端についた米粒をとってあげながら、ラグナの白目にエルレーンは気づかない。
「じゃ、記念撮影だね。笑ってね」
 次ははここぞとばかりに、スマホを取りだしツーショット写メを撮りまくる。
 ラグナが縛られているという現実がフレームに入らないアングルばかりなのは完全な無意識。
「こうやって誕生日をお祝いできて嬉しいの」
 ギュッとハグされ、ラグナはバッドステータス・混乱から復活した。

「い、いい加減にしろーーーーッッ」

 ラグナの剣幕に、流石のエルレーンも飛びのいた。
 



 自分の怒りが通じたのだと、ラグナは思った。しかしそれは錯覚だった。
 ラグナが怒るのは、怒鳴るのは、既に日常と化している。
 動じるエルレーンではない。
 憎まれようとも守ると誓った、その『芯』は強いものだ。

「えへへ…… あのねぇ、すてきなプレゼント、もってきたんだ」

 ほらみろ、更なる追撃弾の充填にしか過ぎなかった。
 部屋の隅に置いてあった紙袋から可愛くラッピングされた包みを取り出し、エルレーンは胸の前で得意げに見せる。
「きっと喜ぶと思う!」
 エルレーン、実にイイ笑顔。
 どうせ動けない身のラグナは、ギリリと睨みつけるのが精いっぱい。
 鼻歌を交え、エルレーンが包装を解く――あらわになったのは

「誕生日プレゼントに、え、え、『えっちな本』をもらって喜ぶ奴が何処にいるんだ!!!」

 しかも選りどり各種詰め合わせ。
 ラグナの絶叫が室内を揺らした。
「こういうのだいすきでしょ?」
 しかしエルレーン強い。動じない。
 次々と『えっちな本』をめくり、清らかなラグナの視界を汚す。
「ラグナ、こーゆうおっぱいのおっきいボインちゃんだいすきだもんねぇ」
 相手の好きな物をいっしょうけんめい選んできた、その心意気やよし。
 しかし、しかしだな。年頃の若い娘さんがチョイスするにはどうなのか。
「くっ…… 屈服するものかっ」
 かくいうラグナであるが、どれもこれもが好みのタイプ・ボインちゃん的確狙い撃ちであるがゆえ、目を閉じたくても閉じれない、この腹立たしさを表現しろと言われたら、今なら原稿用紙10枚くらいはいける気がするそれは言いすぎた。
 男の純情を弄ぶ所業、まさに鬼畜の如し!!
 嗚呼。付き合いの長さが恨めしい。
 なぜ年下の女にこのテのタイプを看破された上に詰め合わせをプレゼントされるのだ!!
「……お、お前のそのデリカシーのなさが! 私は大嫌いだッ!」
 純情な感情による怒りを叫ぼうとするも、三分の一も伝わらぬ罵声だけが口を付く。

「そんな破廉恥な写真集を買うなど、羞恥心が無いのか、この貧乳娘!!」

 それは的確な地雷であった。
 簀巻き状態でありながら、全身全霊でラグナは踏み抜いた。

「わ……私は、ラグナのためにやったげたのにッ!!」
 うぐっ、大粒の涙がエルレーンの視界を歪める。
「ええい、黙れ馬鹿、のーたりん! そんなもので釣れると思うな!!!」
 ささやかな動揺を隠すように浴びせ続ける罵詈讒謗、遂に耐えきれなくなったエルレーンは立ち上がる。

「ばかぁ、ばかッ!」

 こみ上げる嗚咽のまま泣きじゃくり、両手で顔を覆い、エルレーンが叫ぶ。
(喜んでもらえるって ゆうきだしたのに!!)
 なぜ、それが伝わらないのだろう。
 なぜ??
 めいっぱいの力を込めて、渾身の水着ショット見開きページをラグナの顔に叩きつけ。

「ラグナのばかァーーーー! 一生非モテで年越しすればいいの……ッ」
「うぐっ、お前、いいかげんに」

 反撃を待たずして、エルレーンは手荷物を取ると部屋を飛び出した。
 足音が、猛スピードで遠ざかる。

「……なん、だったんだ……一体」
 訪れた静寂に、ラグナは天上に向けてため息一つ。
 とりあえず、と。
 額にかかる前髪を払おうとして、気づく。

 ――簀巻きなう。


「……。あ?」

 遠く、教会の鐘の音が響いていた。




【聖なる夜の、清らかさが重い 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3538 / ラグナ・グラウシード   / 男 / 20歳 / ディバインナイト】
【ja0889 / エルレーン・バルハザード / 女 / 17歳 / 鬼道忍軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
哀しい()すれ違いの聖夜、書かせていただきました。
きっと……誰も、悪くないと……思います。

N.Y.E煌きのドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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