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『+ 貴方はどんな年末年始を過ごす? + 』
ラグナ・グラウシードja3538



 さあ、年末年始はどう過ごそうか。


 友人達と年末パーティ?
 年が明けたら恋人としっとり初詣?
 どれでも良いけれどやっぱり皆違って皆良い。


 ―― だから此処に紡がれるのは『自分だけの物語』 ――



■■■■■



 それはとても不安な夢だった事だけ覚えている。
 師匠を失った時に味わった虚無感と絶望。そこから先は兄弟子であるラグナ・グラウシードから憎しみと憎悪を向けられる日々であったが、私自身は彼の剣となり盾となり護っていきたいと思っているしその為の努力は怠っていないつもり。
 だから目が覚めた時にはそんな夢を吹き飛ばして元気になろうと――そう前向きに捉えていたのに。


―― あら、視界が低い気がするわ……。なぜかしら。


 違和感がそれを遮る。
 ベッドの中で身体を動かしてもいつもと何かが違う。手を動かして顔にあてようとする……が、その手が何故か人のものではない!?


「ホ、ホモォ!?(な、なによこれー!?)」


 驚きのあまり叫べば口から出てくるのは人の言葉ではない。
 何度か試してみるも口から飛び出てくるものは全て「ホモォ」。慌ててかさかさっとベッドから抜け出して部屋に設置してある鏡へと近寄れば、そこに映っていたのは――!


「ホモ、ホモォ!!(これはかの有名な『ホモォ』じゃないの!)」


 鏡に映った四足獣?のホモォ。
 それは「腐女子」を概念化して生まれたキャラクターで、男同士の絡み……つまりBLを求めて彷徨う獣の姿であった。かろうじて髪だけは生えており、なんとか私、エルレーン・バルハザードだと分かるけれどそれ以外の特徴は無いに等しい。


―― はうっ……こ、これはいったい?!


 天魔が襲い掛かってきたという記憶はない。
 原因が分からない恐怖に顔を蒼褪めさせるが、鏡の中の私は「ホモォー!」と叫ぶだけでなんだか気が抜ける。こんな姿じゃ女としても人としても駄目。むしろBL界の腐女子としてはホモォネタは喜んで食いつきたいところだけれど、自分が変化してしまっては困るだけ。
 どうしたらいつもの私に戻れるのか思考を巡らせる。鏡の前でいつまでもおろおろしていても仕方が無い。こうなれば私が取る行動は一つ。


「ホモォー!!(ラグナ、助けてー!!)」


 手もとい前足でドアノブを回す事すら出来ない不器用な私は後のことを考えぬまま、バリーン!! と勢い良く窓ガラスを割りながら飛び出して見事地面に四本足で着地すると、兄弟子であるラグナの元へと一目散に駆けていく事にした。



■■■■■



「ほもぉ! ほもほもほも、ほもぉ」
「うぎゃあああ!! なんだこの生き物はー!!」


 場所はラグナ・グラウシードのアパートの部屋。
 突然来襲したホモォもとい私に面食らったラグナはその正体不明な生き物を化け物認定し己の持つ大剣を持ち出し斬りかかろうとする。しかし斬られる訳にはいかないと大型獣らしくない素早さで避けると、ラグナは目を丸めた。
 その隙に私はラグナの足元へと駆け寄り、なんとか自分だと気付いてもらおうと頭を擦り付けてアピールを始める。


「ホモォ!!(ラグナ、気付いて!)」
「その髪形……それにその懐きっぷり……はっ、まさか貴様は貧乳エルレーン!?」
「ホモォホモホモホモォ!!(貧乳はいらないー!!)」
「その非常に慌てた反応、まさに宿敵エルレーン!」
「ほもぉ……(そんな認定方法じゃ流石にいやよ……)」
「……くっ、今の貴様を殺すのは簡単だが、それでは意味がない!」
「……ほもぉ! ホモホモォ!(剣を引っ込めてくれた!)」


 鞘の中に剣を収めたラグナはとりあえず相手が侵入してきた場所――見事にガラスが砕け散ったアパートの窓を遠い目で見やる。
 「誰が修理代を出すのだ。私か、私なのか」と呟いていたけれど、私はぴゅーっと口笛を吹きながらそ知らぬ顔をする事に決めた。だってこの身体じゃ扉を叩く事は出来ても開ける事は出来ないし、もし正面から逢いに来たって中に入れてくれないに決まっているもの。そう、これは正当な理由のある行為。きっと師匠も許してくれるわ。
 寒い風が吹き込むアパートの中でラグナがぶるりと身体を震わせる。その様子に少しだけ萌えた私は「ホモォ……♪(あら、こういう寒さシチュも有り?)」と本能的にうっとりしたのは言うまでもない。ここで相手の男性がいればもっと美味しいシチュエーションになるのに……ラグナ相手には誰がイイかしら。腐女子脳で脳内シュミレーション開始よ!


「とりあえずエルレーン! 正々堂々とした勝負の中で、貴様を殺してこそ! 本当の私の勝利なのだから!」
「ホモォ。ホモホモォ……(そこは変わらないのね……)」
「今の貴様の姿はこう、情けなすぎる!」
「ほもぉほもぉ!(私だって同じよ!) ほもほもぉ……ホモォ?(でもどうやって元に戻ったらいいのかしら、あら?)」
「普段の貴様ならば私に対してこう――……ん?」
「……ほもぉ……(あら、なんだか段々と力が抜けて……)」
「おい、エルレーン!? いきなりぐったりしてどうしたと言うのだ!」


 四肢を折り、全身の力を抜いて床に伏せ始めたホモォならぬ私を見て今度はラグナの方が何故か慌て始める。
 そうだった、ホモォにはBL的萌を常に追い求めるという致命的な欠陥があるのよ。脳内シュミレーションじゃ補え切れないほどの萌え! どうか萌えを頂戴!!


「な、なんなのだ、その弱り方は!? とにかく飼い方でも検索してみるか」
「ほもぉ……(萌えさせてくれればいいのよ)」
「『ほもぉ』とひたすら鳴く生き物で引っ掛かるのだろうか……ん? 『ホモォ』? 腐女子をイメージしたもの……?」
「ほもほもほもぉー!!(それよー!!)」
「このエルレーンの反応、まさにビンゴというヤツか! なになに、飼い方は――『BLを与えましょう』、だと? びーえるってなんだ」
「ホモォホモォ!(はっ、BLを知らないですって!? 無知系男子萌え!)」
「――なんだ、この寒気が走るようなエルレーンの訴えと視線は! と、とにかく色々検索して……」
「ホモォ!!(頑張って、ラグナ!)」


 ラグナが必死に携帯で検索してくれているのを見て身体こそぐったりとはしているものの、声だけは元気に応援してみる。「ホモォ」しか言えないけれどきっと伝わると信じて。
 でもホモォはBL的萌えを補給しないと死んでしまうのよ! 早く、早く私に燃え滾るような萌を! 男同士のファンタジーを与えて頂戴!!
 ――と、私が応援しているのに対して検索を続けていくラグナは次第に表情がよろしくない方向に歪み始める。「男性同士の恋愛……だと!?」とついに彼がBLの意味を知った時は思わず「ホモォォォォー!!!」と雄たけびを上げてしまったほどよ。
 さあ、さあ、私にエネルギーを与えて! ラグナ!


「き、貴様……一体何を考えているのだ?!」
「ほもぉ……?(萌え成分補給のみよ?)」
「どうやってBLとやらを与えればいいんだ。……検索」
「ホモォ……(実践でも……いやいやそこは押さえて私!)」
「……ほ、ほう。とりあえず絵とか見せてみればいいか? いや、こっちには音読してやるのが適切と書いてある――音読?」
「ホモォォォォォォ!!(音読キタコレェェェェ!)」
「い、異常なまでの反応!? こ、これが正解なのか」
「ホモホモォ!!(♪ 床だんだんだん!)」
「ぐっ――な、何か音読出来そうなものを探し……もう止めたい」


 床を前足で叩いて音読への期待をついつい募らせる私にラグナは親切にも小説を探し始めた。
 ネット小説バッチコイ。むしろ音読はよこい。男性の音読早く早く。床ダンダンダン!
 そうこうしている内に適当な小説をピックアップしたらしいラグナがこくりと唾を飲み込む。私はもう期待に胸を膨らませてキラキラと視線を向けた。


「そ、『その手は俺の身体に回って抱き寄せてきた。そのせいかより一層近付いた身体は密着し、俺の鼓動が相手に聞こえてしまわないか心底心配になる』」
「ホモォ……♪(あら、まだライト系BLなのね♪)」
「『「寒くないか?」と言う彼に俺はどう答えようか迷ったけれど、「寒い」と伝える事にした。その手が与えてくれる熱を期待して』――く、なんだこの微妙な恥ずかしさはっ!」
「ほもぉほもぉ♪(ラグナの羞恥プレイktkr!!)」
「し、しかし少しずつ元気になってきているような……あ、えっと、『彼の手が次第に服の下へと潜り、それから肌を撫でて――』」
「ほもぉ……♪ ホモホモォ!(ああ、男性ボイスでの音読って幸せ……♪)」


 ラグナが検索したのはネット上のオリジナルJUNE小説。
 まだ軽めと評価されていたものをあえて選び出し、これならばと必死に音読に掛かる。携帯のモニターに視線を降ろしたまま必死に読み上げる声は次第に物語が艶のある方向へと傾倒していく。最初はただくっついて手を繋ぐだけの登場人物達(もちろん男二人)が次第に情事の方へと事を進め――。
 それを私はそれはもう涎を垂らす勢いで幸せ気分で聞いていた。ラグナはふるふると小刻みに震えていたけれど、私が生きるためには耐えてちょうだい!!


「そ、『その熱い熱は、俺の中をか』……『かき』……――ええいッ! 何故私がこんな恥ずかしいことを……」
「ホモォ!?(携帯を投げた!?)」


 ぶちっとキレる音が聞こえるかのような豹変っぷり。
 むしろ今まで良く耐えてきたと褒めてあげたい気持ちになりながらも私は飛んでいった携帯へと反射的に視線を向ける。だがラグナはラグナで色々と限界だったらしく、仕舞っていた大剣を再び持ち出してきた!


「気が変わった! やはり貴様は今殺す!」
「ほ、ほもおーっ?!」


 振り上げられる剣。
 その大振りの構えにまだ萌え足りない体はここに来襲した時よりも重く、避ける事など出来ない。ラグナの鬼のような形相を視界の中に入れながら私はその切っ先が己の身体に食い込んでくるのを受け止め、やがて――。



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 がばっ!!
 勢い良く上半身を起こしながら私は目覚めた。その身体は汗ばんでおり、気持ち悪い。ぜぇぜぇと無意識に荒い息を吐きだし、心臓がばくばくと音を立てているのが分かる。胸元に手を押し当てて、なんとか正常な状態に戻そうと数回深呼吸を繰り返す。


「ゆ、夢……!」


 時は正月。
 それは年が変わってからの初夢。なんて夢を見てしまったのかと一人で自己嫌悪に陥りつつ、私は就寝前に枕の下に潜ませておいたある物を取り出す。
 それは七福神イラスト。ただし自作のBL風味のものだ。


「私はただ甘いBLな夢を見たかっただけなのよぉー!」


 まさかホモォになってラグナにオリジュネを音読させる夢を見る羽目になるとは。いや、でもあれは見方を変えれば音読羞恥プレイ美味しいです、うまうまと言えなくも無い……けれど。


「七福神は流石にバチが当たったのかしら……」


 そっと自作イラストの表面を撫でながら、ほんのちょっぴりだけ反省の意を示しつつ私はふぅっと息を吐き出した。
 次はもうちょっとライト系BLにしよう、そう心に決めながら――。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【ja3538 / ラグナ・グラウシード / 男 / 20歳 / ディバインナイト】
【ja0889 / エルレーン・バルハザード / 女 / 17歳 / 鬼道忍軍】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました!


 まさかのホモォ!
 友人らが使っているので知ってはいましたが詳しくなかったため、ラグナ様同様ネット検索!検索!で、出てきた結果に大笑いさせて頂きました。
(尚、例のアスキーアートは著作権が存在するため、文章内では未使用となっております)

 ラグナ様の音読……声優ではない彼にとってはなんて羞恥とによーっとしつつ、どうか楽しんでいただけますように!
N.Y.E新春のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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