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『真っ赤なプレゼントを、今宵 』
クライシュ・アラフマンja0515


 ――やぁ、やぁ、白面のミスタ。愉快な話があるのだけれどね
 チェシャ猫のような笑みを浮かべ、素性の知れぬ馴染みの女が声を掛けてきた。
 ――えぇ、えぇ、それは素敵な夜のお誘いさ。
 魔法使いのステッキのように、形の良い人指しゆびで、くるり宙に円を描いて。

 良い子にはプレゼントを、悪い子にはお仕置きを。
 もしもミスタがお暇なら、私と一緒にサンタクロースの真似事でもどうかしら?




 凍てつく寒さの夜だった。
 クリスマス・イヴだかなんだか知らんが、こんな日に浮かれる人間の気が知れない――
 繁華街の雑踏を歩きながら、クライシュ・アラフマンは肩をすくめる。
 久遠ヶ原島を出て、ごくごく一般人達が生活する某都市。
 詳細を聞かされぬまま、隣を歩くジェーン・ドゥが持ちかけてきた『愉快な話』に乗り、ここに至る。
 クライシュ自身、深く突っ込んだ質問をすることもなかった。
 互いに己を深く語る人種ではなく、それゆえにどことなく似た空気を感じる。
 奇妙で奇怪な二人の関係は、それはそれで悪くないものだった。
 着けばわかる――ジェーン・ドゥがそういうのだから、そうなのだろう。

 クリスマス・イヴ。

 浮かれた街並み。
 白面の男と銀髪の魔女が並んで歩いていても、一般人達の街中でさえ素通りされる不思議な夜。


 ジェーン・ドゥに導かれるまま扉を開けたのは、一軒のバー。
 そこそこに人も入っており、やはり二人を咎める者はいない。
 まるで馴染み客のように笑みを浮かべ、ジェーン・ドゥは案内されるままテーブルに着く。
「ミスタは?」
「は? ――あぁ」
 適当にメニューを捲り、結局は飲み慣れた物を適当にオーダー。
 ウェイターがカウンターへと去ってゆくのを見計らい、「さて」とジェーン・ドゥは切りだした。

「この地下で今夜、人身売買が行なわれるのさ」

 サラダか何かをオーダーするように、ジェーン・ドゥが告げた。
 クライシュの呼吸が僅か、止まる。
「情報源は?」
「さて、何せ僕は魔女だからね」
 然もありなん。
 聞いたところで煙に巻かれるのは明らかで、しかし虚を言う相手ではないことは知っている。
 伊達や酔狂で、こんな街まで来ることもない。
「多くを語るより、見た方が早いだろう? サプライズもあった方が良い」
 ――なんたって、クリスマスなんだから。
 何か引っかかる物言いで、ジェーン・ドゥが立ち上がる。
 『STAFF ONLY』と書かれたドアを指した。

「お待たせ致しました―― ……あれ?」
 ウェイターがオーダーのドリンク二つを持ってくる頃、その席には最初から誰も居なかったかのように、沈黙だけが座していた。




 深く深く地下へと続く階段を下りてゆき。
 扉を開き、そこからさらに迷路のように真っ白な廊下を辿ってゆく。
 右に一度、十字路を一つ越え左、
 クライシュは道順を記憶に刻みながらジェーン・ドゥの後を追う。

 ――正気ですか
 ――狂気にでもならにゃ、生き残れない商売なのは知ってるだろう

 年輩の男たちの会話が、薄い扉向こうに聞こえる。
「取引相手は、まだのようだね」
 様子を伺い、ジェーン・ドゥは愉快気に鼻を鳴らした。
 『取引相手』すなわち『買い手』である。
「良い子にはプレゼントを、悪い子にはお仕置きを。人の子には、最低限の慈悲を」
 彼女の言葉から、クライシュは読み取れる限りの意図を読み取る。
 当初の誘い文句も同じだったが、ただの『誘い』ではないと、流石に気づいている。
 人身売買、売り手と買い手。『悪い子』『人の子』――
「相手は、天魔だとでも?」
「頼りにしてるよ、ミスタ。その前に慈悲の振る舞いといこうかしら」
 にこり。底の見えない笑顔で、ジェーン・ドゥは扉を開けた。


 ザッとみて筋モノが20人。その奥に――番兵付きで大型トラックが4台、エンジンをふかしている。
 想像したくないが、あの中にはギッシリと『売買』される一般人が詰まっているのだろう。
 よくもまぁ、あんな小さな店の地下にこんな大仰な。
「なんだ貴様ァ!!?」
 品の無い男たちは、クライシュに吠えかかる。――遁甲の術と無音歩行の併用で、ジェーン・ドゥは彼奴らの背後へと回りこんでいる。
「クリスマス、だからな」
 答えにならない答えを口に、クライシュはダガーの投擲で牽制を放つ。
(せめて天魔か撃退士であれば、多少の手ごたえもあろうが)
 間を取った後、エネルギーブレードへ活性化を切り替え、接近戦へ。
 ――刃の一振りで、ぱたぱたと倒れてゆく。
 なんだこれではつまらない、もっと楽しませてみろ!

「撃退士が! 一般市民を手に掛けていいと思ってるのか!!」

「お前らは一般市民たる行動を、していると思っているのか?」
 最低限の慈悲を。魔女はそうのたもうたが、慈悲を与えるに値すまい。人でありながら人ならざるものへ人を売り渡すなど。
「ふ、はは、強い力をお持ちの撃退士様には、無力な市民の悲哀など解るまい。こうでもしなけりゃ生きていけないのよ」
 クライシュを鈍色の銃口が取り囲む。
「そうか、ならば真面目に働くべきだったな」
 返答は短く。
 エネルギーブレードが一閃、【報復遂げし英雄王】を放つ!!
 竜の姿を模した光の波が、ヒトデナシたちを飲み込み、吹き飛ばす。
 その向こうで悲鳴が上がる。
 鮮血が上がる。
 次々と、次々と。
 さあ注目を集めよう。
 聞き手が居なくちゃ始まらない。
 そして幻の想いを語りましょう。
 己の言葉が溢るるままに。
 ──クリック? クラック! さあ物語りを始めよう!

「メリークリスマス! 見知らぬ方々。楽しそうだね、愉快そうだね。ええ、ええ、僕も混ぜておくれよ」

 クライシュと挟みこむように登場したジェーン・ドゥ。更なる動揺が広がる。
 手にしたる双剣を鋏のごとく扱い、対象を『刈り取る』。
 滑るように走り、その姿は残像ばかり。
「僕達が何者か? サンタクロースさ! さぁ、さぁ、白面のミスタ。哀れな子羊にプレゼントを」
 歌うように踊るように、ジェーン・ドゥが片手を上げ、トラックのキーをクライシュへ。
 見ればトラックの番兵は既に、ジェーン・ドゥの手で刈られていた。
 だったらそのまま、自分で動けばいいのに――。ジェーン・ドゥもこの『パーティ』へ参加したかったのだろう。
 当たり前だ、誘い主なのだから。
「『枷』は早く外すに限るか」
 ぼやいても仕方ない。
 クライシュはトラックの後方を開け、囚われている一般人の拘束を解く。
 運転できそうな者を一人一人、運転席へと回し、そのままキーを。
 キーには、折り畳まれた小さな紙切れが貼り付けられている。ジェーン・ドゥの筆跡で、簡潔に抜け道が書かれていた。
「これ以上は責任を取らん。生還は自分たちで掴み取れ。メリークリスマス」
 白面のサンタクロースはそう告げて、4台のトラックを見送った。




「悪人を倒してめでたし、となる所だろうに」
 足元に広がるトマトソースを眺め、そして再び顔を上げ。
 ソース塗れの鋏を構え、ジェーン・ドゥは『来訪者』へ向き直る。
「ふん、なるほどな。良い子の俺たちへのプレゼント、ってわけか、ジェーン・ドゥ?」
 状況を把握し、クライシュの声色に喜びが混じる。
 現れたのは――シュトラッサー。
 自分を頼りにしているというから、天界の恩恵を受ける敵種だとは読んでいたが、これは意外な上玉ではなかろうか。

 生気の薄い表情の男は、ビジネスマンのような服装で、神経質に銀縁の眼鏡の位置を直す。
「……気取られたか 所詮、その程度の能力だったか」
 『シュトラッサー』と『人』の人身売買。
 果たしてそれがどんな意味を持つのか、二人の撃退士は知らないし興味もない。
 ただ『愉快そうだから潰した上で、戦いを堪能する』うってつけの食材だったにすぎない。

「さて、さて、二人がかりでも手に余りそうだ」
 ペロリを赤い唇を舐め、嬉しそうにジェーン・ドゥ。
「……獲物を先に獲られてたまるか」
 お前の相手はこの俺であると、すかさずクライシュがタウントを発動する。
(初太刀で、見極める……)
 これで自分が吹き飛ばされてしまうなら、それほどの敵。
 耐えきれるなら――機は在る。
 シュトラッサーは、手にしていたアタッシュケースを黒い大鎌へと変形させる。
 続いてシバルリーの発動で防御力を上げたクライシュは、真正面から斬撃を受け止めた。
「――くッ」
「おや、おや、寂しいね。こちらにも振り向いてくれないと、嫉妬してしまう。――絡まるぞ 搦めるわ 微睡み妨ぐ不届き者め!」
 【絡まり搦める茨の揺り籠】からの【装飾卵は地面へ墜ちて】!
「偏屈卵は塀の上 ある日気紛れ飛び降りて 哀れその身は粉々に」
 跳躍、そして砕ける卵のように。絡め取られ身動きの取れないシュトラッサーへ、ジェーン・ドゥの鋏が噛みつく。
「ふん、使徒といえどもこの程度とはな。京都や長野の連中の方がまだ骨があったぞ」
 人間だけだと油断していた?
 『人間相手に取引』という交渉を持ち込むほどに、能力が低い?
 言い訳は冥府で聞こう。
 防御一辺倒だったクライシュが攻勢へ転じると、相手にも動揺が走った。
 それが大きな隙となる。
「刎ねて尚も刎ね、ヴォーパルの兎が刻み刈り獲らん!」
 ジェーン・ドゥが【三月生まれの首狩り兎】で自在な移動で撹乱し、鋏から双剣へを形を戻した得物で首と内臓を狙い、振り下ろす。
 敢え無く受け止められる攻撃、跳ねのけられ、吹き飛ばされ、ジェーン・ドゥに黒き鎌が襲いかかる――

「効くもんか 死にやしない 何せジェリクル猫だもの♪」

 ――鎌が裂きたるは【匣の中のジェリクル猫】。
 嘲笑のみが、残影としてそこに。

「──残念、チェックだ。『その首を刎ねておしまい!』ってね」
「よく踊ったな。これでラストだ」

 ジェーン・ドゥが首を。
 聖火を乗せたブレードで、クライシュが心臓を。
 同時に刈り取り、シュトラッサーは絶えた。




「――ジェーン・ドゥ」
「あら、やっぱりだめかしら?」
「だめだな」
 隙をついて仮面を剥ぎ取ろうとしたジェーン・ドゥの手を、クライシュがペシリと叩いた。
 ミスタの面は、なかなかにして鉄壁だ。
「ふ。さあさあ、次に行こうか白面のミスタ」
「……次?」
「夜はまだまだ長く、サンタクロースは大忙し休んでる暇はないさ!」
「自給自足のプレゼント、か」
 クライシュは、顎にそっと親指を差し入れ、面を浮かせて嘆息した。

 まぁ、『自分達らしい』といえば、そうなのだろう。
 白面の男と銀髪の魔女は、バーの件を警察に任せ、肩を並べて次の場所へ。


 今宵、より多きの者に、幸あれ。




【真っ赤なプレゼントを、今宵 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0515 / クライシュ・アラフマン / 男 / 21歳 / ディバインナイト】
【ja1442 / ジェーン・ドゥ     / 女 / 19歳 / 鬼道忍軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
真っ赤なサンタさんのお届けです。
痛快なアクション、リズミカルな会話に、ついついアドリブ多めで盛り込みましたが、お気に召していただけると幸いです……

N.Y.E煌きのドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月04日

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