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『+ 貴方はどんな年末年始を過ごす? + 』
鬼田・朱里8596



 さあ、年末年始はどう過ごそうか。


 友人達と年末パーティ?
 年が明けたら恋人としっとり初詣?
 どれでも良いけれどやっぱり皆違って皆良い。


 ―― だから此処に紡がれるのは『自分達だけの物語』 ――



■■■■■



 それはなんでもないお正月。
 二人だった住居人が五人に増えた年明けの朝の事。


「平和だな……。それに賑やかになった」


 そうぽつりと呟きながらお雑煮の汁を作っているのは正月らしく和装に割烹着という姿をした人形屋 英里(ひとかたや えいり)。
 和装に似合うように普段は三つ編みである髪も丁寧に結い上げで簪など付けて着飾っている。そんな彼女の傍にはもちろん年末作り上げたお節料理の入った重箱があり、今日の朝食はこれにしようと決めている。


「英里様、こちらの味を見てもらっていいでしょうか」
「ん、師匠。朝から酒を飲んでいて大丈夫か?」
「問題ありませんね。これくらい軽いものです」
「せやでー。うちらからしたら朝から飲むのは水をいっぱい飲んで乾いた喉を潤すようなもんやもん」
「それはちょっと違う気がしますけどね」
「――ふむ、そんなものなのか」


 英里の隣に立って、他の料理の味付けを手伝っていたのは意外にも酒豪で知られている桐生 出流(きりゅう いずる)。
 普段は他人任せな部分が多い彼だが正月だけは違った。早い時間から起きだして料理を手伝うという家事スキルの高さを見せている。ただし、酒を飲みながら、だ。酒には強い彼なので飲んでいるものが例え一般的には「強い」と評価される日本酒でもけろりとしたもの。心身ともに酔った気配など一切漂わせずてきぱきを料理を進めていく。
 だがそんな彼の手が空いたのを見計らってファッションジャージ姿の青年、久能 瑞希 (くの みずき)がべったりと背後から圧し掛かった。


「なーなー、出流ー。料理はもう一段落したんやろー。うちに構えー!」
「うぐっ、重いですよ。瑞希」
「ええやーん、構って構ってー!」
「まあ、英里様一人でここは大丈夫そうですし……酒でも飲みに移動しますか」
「やった!」
「師匠達はいってらっしゃい。用意が出来たらすぐに朝食にしよう」
「英里の飯期待してんでー!」


 瑞希は出流の背を押し、急かすように台所から出て行く。
 尻尾が生えていればきっとぱたぱたと大喜びで振っていたに違いないと、それくらいの笑顔を浮かべながら。さて、その要因として出流の指にそっと嵌められたリングの存在がある。クリスマスの時に瑞希が出流へとこっそり贈った指輪――決して捨てることなく彼が嵌めてくれている事によって瑞希の機嫌は非常に良い。
 そんな二人を見た後、英里はまたしても雑煮をぐつぐつを煮始める。すると今度は残りの二人の同居人である鬼田 朱里(きだ しゅり)と最年少である九乃宮 十和(くのみや とわ)が中に入ってきた。十和の手には何かが大量に持ち運ばれており、英里はきょとんっと目を丸めるばかり。だがそんな少年の瞳はきらきらと輝いており、そして何かを訴えかけている。目は口ほどに物を言う、という言葉が有るが、この時点で既に英里は十和が何かおねだりに来たことを察した。
 朱里は「ほら」と十和の背中を押す。彼は既に『おねだり』された後のようで、少しだけ困ったように笑っていた。


「あのね、あのね。英里姉! 後でこれで遊ぼうよ!」
「羽根突き道具なんて一体どこから持ってきたんだ?」
「えへ、大掃除の時に例の小部屋から発掘しちゃった♪ 羽根突きだけじゃなくってカルタや百人一首もあるよ〜! もう朱里兄には話は付けてあるし、他の二人も巻き込んで遊ぼうよ。ね、ね!」
「さっきからこんな風に興奮した様子でじゃれてくるんですよ。とりあえず話だけでも英里にしたら、という訳で来たんですけどどうでしょうか」
「そうかそうか。遊ぶのは良いことだな。……だが、取りあえずはこれ食べないか?」


 キラキラした目を浮かべた子供相手に断れるはずが無い。
 英里は苦笑を浮かべつつ、手元にある雑煮の入った鍋とお節を指差す。それには深く同意するように朱里もまた何度か頷いた。流石に料理班が作ってくれたものを食べずに遊ぶわけにはいかない。


「じゃあ食後にこれらを使って遊ぶと言う事で良いと。十和もそれで構わないですよね?」
「はーい!」
「しかしあの発掘された部屋からはまだまだ玩具が出てきたらしいですけど……一体何に使われていたんでしょうね」
「さぁ? 僕しらなーい☆」
「二人とも椀に雑煮を入れていくので運んでいってくれ」
「じゃあお盆を出してっと」
「僕、お節運んどくねー!」


 今すぐ遊びに掛かりたい気持ちはあるが、腹ごしらえは重要。
 机が並べられた広間へと二人が与えられた指示通り朝食を運んでいけば、そこには既に酒を幾つか開けている年長組二人が「そろそろですか」「待ってたでー!」と嬉しそうにはしゃぐ。
 やがて割烹着を外し、英里もまた広間に向かう。その頃には机の上にはお節、雑煮、餅は当然のことながら他にも飲み物もきちんと準備されており、小さな宴会場のような賑わいを見せていた。


 改めて全員が全員、互いの顔を見合わせる。
 和服着用なのは英里と朱里だけ。十和は元々和装を持っていないという事で普段着、出流はマイペースにいつも通り。瑞希に至っては外に出ない気満々でジャージのままである。だがどんな姿であれ格好であれ、正月は等しくやってくるもの。
 各自に手渡した箸と注がれた酒やジュースなどが入ったグラスを手にし、そして――。


「「「「「 あけましておめでとう(ございます)!! 」」」」」


 その声を合図にお節争奪戦が行われたのは言うまでもない。



■■■■■



 シュ、シュシュ。
 潔い布ずれの音が聞こえ、それと共に垂れていた裾が持ち上げられる。帯を使っての襷上げを完了させた英里は自分の動きやすさを確認してから「よし」と両手を拳にし、満足げに頷いた。
 目の前に並べられているのは少々古びたカルタが並べられており、出流以外の皆は正座状態で札の前に座っている。その目は既に絵柄を探すハンターの目。まだ読み上げてはいないが絵柄を覚えておこうと言う作戦だ。周囲には英里が召喚した狐が待機しており、不思議そうに主人である英里を見る。


「とりあえず皆さん頑張って下さいね。わたくしはのんびりとお酒を頂きながら観戦させて頂きますので」
「師匠が札を読んでくれても良いんだぞ?」
「いえいえ、今はこのお酒を味わうのに手いっぱいです」
「ええか、十和。あれが駄目な大人の見本やで」
「一緒に遊んでくれないの〜?」
「ふふふ……酒豪仲間の瑞希に言われては流石の出流も情けないですね」
「何か申しましたか、朱里」
「カルタ勝負にも参加しない駄目な大人の見本に同意しただけです」
「ほう?」
「――で、一番最初は誰が読む? 私はもうやる気満々なんだが」


 バチバチと朱里と出流の間で火花が弾ける。
 そんな二人の様子も既に日常化しているため他の面々は今更深くは突っ込まない。危険な方向に進んだ時にのみ主に出流が止めに入っている。今日も二人の様子をやれやれと言う様に肩を竦めながら瑞希は眺めた後、朱里の身体を軽くカルタの方へと向かせた。


「ほんなら、最初はうちが読んだるわ。皆行くでー」
「わーい、英里姉と朱里兄と勝負ー!」
「ふむ、カルタの方はまだ慣れていないのだ」
「ちょっと真剣になってしまいそうですね」
「んじゃ、読むでー。『あめんぼあかいな』――」
「はい!!」


 ダンッ!! と畳が一際大きく鳴り僅かに振動する。
 素早く叩き払ったのは英里。周囲に置かれていた絵札もまたその影響で一緒に場外に飛んで行ってしまい、慌てて狐がそれを取りに行くという始末。これには読み上げていた出流も目が点になりつつ、慌てて次の札を読み出す。
 次は朱里が、その次は十和が……、とそれなりに皆手元の札を増やしながら進んでいく勝負を悠々とした気持ちで出流が眺めていた。
 しかし圧倒的に英里が札を取るため、彼女は一勝した後暫し考え込む。勝負事はあくまである程度拮抗した状態が楽しいもの。ゆえに慣れていない十和に札が行かないのはよろしくないし、遊びを提案した彼がつまらないと感じるのも不本意である。
 そこで次の勝負は彼女が読み人となり、十和、朱里、出流の三人で勝負開始。


「では行くぞ。『むかしむかしあるところ』」
「はーい!」
「せやっ!」
「よし、取ったのは十和だ」
「わーい♪」
「あちゃー、一足遅かったわ」


 狐達が飛んでいった札を十和の手元に運び、散った札を丁寧に並べなおす。
 この三人なら意外といい勝負かもしれないと自分の考えが間違っていなかった事を感じながら英里は読み進めた。
 やがて第二勝負が終わり、結果としては朱里と十和が同枚数で同着。あまりカルタ慣れしていない瑞希が最下位となっていた。


「ね、ね! 次は百人一首の方やろうよ! 僕学校で習ったから読むよー!」
「おお、じゃあ今度は私も交ざろう」
「英里と真剣勝負ですか、負けませんよ」
「あれ、まさかうちの存在は朱里の目に入ってへんとか?」
「――ふっ」
「……ええねん、ええねん。うちはちょっと勝負に味付けする程度の存在やねん。隠し味やねん」
「瑞希、さり気なくそのポジション美味しいように聞こえますよ」
「せやね! うちも言った後に思ったわ! 突っ込みおおきに!」
「いっくよー! 『花の色は』――」
「えい!」
「わっ!?」


 用意された瞬間十和が遠慮なく一番上の札を読み上げる。上の句を全て読み上げる前に英里が札を払ったまではいい。問題はその札が見学していた瑞希の方へと飛んで行き、そのぶ厚めの札が彼の頬を掠り、血が……。


「英里、速すぎるわー」
「む? 大人相手に手加減はせんぞ」
「手加減されても面白ないけどな。うちもがんばろ――って瑞希、頬!?」
「あ、ああ……掠った」
「バンソーコバンソーコ! ちょっと朱里と英里で遊んでて!」
「あれ、試合放棄ですか?」
「この番だけなー!」
「じゃあ、次の札読むねー! えーっと……」


 慌てて立ち上がる瑞希を朱里は見上げ、困ったように笑顔を返す相手に肩を竦める。
 さてうっかり? 軽く? 怪我をしてしまった出流は僅かとはいえ頬に付いた傷を指先で撫でながらそこにうっすらと付着した血を見て思わず身を固めてしまう。


―― 英里様、どんだけですか?


 そして本気モードの英里に彼はついつい心中ツッコミを入れてしまった。


「ほら、出流こっち向きー。消毒してバンソーコ貼るでー」
「う、消毒だけで良い。絆創膏なんて顔に付けたら色々支障が出る」
「まあ、アイドルは顔が命言うけど――っと、ちょっと染みんで」
「いっ」


 何はともかく、出流は救急箱を持ってきた瑞希の治療を受けながらも英里の存在を『有る意味危険』と認知し、ほんの少しだけ身体を遠ざける事にした。
 その間も英里はバンバンと畳を叩きまくり、札を取りまくりとある意味独占状態。朱里も追いかけるが英里以上の反応速度はない。しかしちゃっかり自分の陣の札だけは取っている辺りが素晴らしいところだ。


「英里姉も朱里兄もすごーい!」
「やっぱり英里は速いですね……」
「昔誰かとこうやって札を取り合った記憶がおぼろげに残っていてな。多分、その頃記憶したものが身に染みているんだろう。誰と遊んだまでは覚えておらんが、少々懐かしい気はする」
「――そう、ですか」


 朱里はその誰かとは『私』だと言いたくなり、唇を僅かに噛む。
 時折記憶を浮かばせ、その度にどこか切なげな表情を浮かべる英里を見ては朱里は言葉を引っ込める癖が付いていた。今はこのままで。まだこのままで……。思い出して欲しい気持ちと思い出して欲しくない気持ちとがせめぎ合ってたまに自己嫌悪に陥る。そしてそれは今も同じで。


「はいっ!!」
「っ!?」
「おー★ 英里姉速いはやーい! 後で僕に取り方教えて♪」
「うむ、読み手を変わった時に『こつ』を教えよう」
「やったー!」


 一瞬だけ思い馳せていた間に札が数枚英里の物へと加算されていた事に気付き、朱里ははっと意識を場に戻す。既に札は三分の二以上場から消えており、その殆どが英里の手元だ。勝負自体は負けだと確定していても、投げ出すわけにはいかない。
 目を輝かせて英里を尊敬のまなざしで見る十和と、まるで本当の姉のように楽しそうに微笑む英里。視軸を変えれば苦笑を浮かべた瑞希と治療を終えた出流が自分を心持ち応援してくれている姿が見える。


「朱里がんばりー!」
「あ、酒が無くなった」
「――って、出流ー! うちの分は!? なんで残しておいてくれへんの!?」
「一瓶しかなかったんだ。仕方ないだろう」
「普通は『一瓶しか』やのうて『一瓶も』飲んだって言うんよ!!」
「やかましい」
「うちの分〜……出流、酷いわー」
「げ、泣き真似うざい」
「しくしくしく、出流のけちんぼー……」


 二人で飲むはずだった酒をまさかの一人で飲み干されてしまえば瑞希は泣くしかない。たとえ本当に涙が零れなくても、泣き真似くらいしたくなるし、愚痴だって吐き出したくなるというもの。
 そんな瑞希をうざいうざいと口にしつつもとりあえずは頭を撫でて落ち着かせている間に、英里は十和に札の取り方を教えに掛かる。
 そんな彼女と少年を見て朱里は目元を細めて微笑み、仲のよい姉弟のようだと心を和ませた。



■■■■■



 さて、程ほどにカルタと百人一首で遊んだ後、一行は羽根つき大会を行うために移動を開始。
 とは言っても寒い外には出たくないのが大半の意見。――ならば、と移動した先は手合わせ場である。掃除もしたし、場所も広いしと身体を動かして遊ぶ分には問題はないはずだと全員一致の意見であった。
 ところが先程まで快調だった英里だが、残念ながら羽根つきに纏わる記憶はなく、試しにと軽く打ってみても明らかに素人の動きしか出来ない。むしろ最初の一手からスカッと大振りをする始末。


「むぅ……なかなか上手くいかないものだ」
「じゃあ、英里は最初は見学しとく? 誰かがやってんの見たら覚えるかもしれへんしな」
「そうさせて貰おうかな」
「僕も羽根つきは初めてだから見学するー!」
「十和も見学、っと。……そうなると対戦相手は……」
「出流、そろそろその重い腰を上げて遊びに加わってはどうでしょう。なんなら私が相手になりますよ」
「ええ、良いでしょう。朱里相手ならばわたくしも遠慮せずに済みますからね」
「――……わかっててん。こうなる事くらいわかっててん。せめてうちを無視すんの止めて欲しかったくらいでな」
「えっと、泣かないでくれ」
「瑞希、どんまーい!」
「ええーい! とりあえず二人は羽子板持って対面せい! 審判くらいはしたるわ!」


 英里と十和に慰められれば余計虚しくなるというもの。
 瑞希はぶんぶんっと頭を左右に振ってから対戦が決まった相手、朱里と出流に指示を出し羽子板を握らせる。好敵手と書いて友と呼ぶ間柄の二人の対決はある意味見もの。瑞希はこれが変な方向に発展しない事だけを祈りながら、二人の間に立った。


「んじゃ勝負方法は追羽根(おいばね)ってことで、先に十点取った方が勝ちな。最初は出流から朱里の方に打ちや」
「『おいばね』というのが何かは知りませんが――羽子板というのは……取りあえず球を打ち返せばいいのでしょう。何を使ってでも」
「え?」
「蝙蝠軍団おいでなさい!」
「ほう、ならばこっちは子鬼達を!」
「お前ら何やっとんねんー!!」


 出流は小さな羽子板を足で持った蝙蝠軍団を、朱里は水干を着た子鬼達を召喚して勝負開始。もはや瑞希の突っ込みも無視のまま勝手に勝負が始まってしまった。カンカンカンッ! とそれなりに打ち合う二人? に審判である瑞希はついつい頭を抱えてしまう始末。


「あちらが召喚しているのですからこっちもありでしょう?」
「違う、違うねん。それは羽根突きやないで……」
「大体蝙蝠召喚しないと勝てないと思うなら最初から断ればいいでしょうに」
「おや、わたくしがそんな理由でこの子達を召喚したとでも?」
「素直に私に勝てないと感じたと認めればいいのに」
「冗談が上手になりましたね。朱里」
「――と、言ってる二人の手はかなり猛スピードで打ち合ってるっていう……ある意味きもいわ!」


 『とりあえず落とさなければいい』という考えで打つのが出流ならば、それに対抗して能力全快なのが朱里。
 人外の二人が本気で打ち合えばどちらかと言うと心配なのは本人達ではなく、道具である羽子板の方。いつヒビが入って割れたりしないものか瑞希は内心ハラハラしつつ、落とした羽根の数をカウントし続けた。


「何だ? この遊びは能力ありありなのか?」
「英里、それはちゃうからな」
「二人があんなふうに遊ぶなら僕も黒ちゃん召喚ー!♪」
「ちょ……ちょいまちいや。あんたら、ルール知っとるん?」
「「「「 知らない(知りません) 」」」」
「――涙出てきた」


 声を揃えての返答に瑞希は目元をそっと押さえながら固まる。
 勘違いし始めた英里と十和をどうやって止めるべきか、口頭でしっかりと説明するべきか迷っている間にも勝負は進む。そして更に言えば召喚された十和の使い魔「黒ちゃん」は今にも動き回る蝙蝠や子鬼達へと飛び掛りたくてウズウズしている様子が見られた。
 まさか自分以外羽根突きルールを知らないとは思っていなかった瑞希はどうやって止めるべきか考えるが――なんせ相手は四人。もう止められない気がひしひしとした。


「とりあえず十和! その黒ちゃんは引っ込めてください!」
「隙あり!」
「ッ!? ――……出流、せこいですね」
「隙を見せたら負けですから」
「だからそれ羽根突きちゃうっちゅーの。……とりあえず、出流の勝ちー」
「ふん、勝負有りです。蝙蝠軍団お疲れ様」
「……一応今回は負けを認めますけどね。蝙蝠を使うのはどうやらルール違反らしいですよ」
「今更正気に戻られてももう遅いで!?」
「ああ、十和! その黒ちゃんが何やら大きな口を開いてるの止めさせてください! 食べていいものと悪いものがありますよ」
「え? 能力使いまくっていいんだよね?」
「――……もう突っ込むの諦めてええかな。うち、ゴールしてもええ?」
「ふむ、私は人形をつれてきていいんだな」
「あかん、もうこの人たちフリーダム過ぎんねん。突っ込み疲れたわ」


 あはははは、とどこか遠い目を浮かべる瑞希。
 対して暢気に「次は僕ー!」と球体悪魔猫になった黒ちゃんと共に羽子板を受け取りながら、十和はぶんぶんと打ち返す練習に入る。英里は人形を取りに行く為一旦場を後にし、そうなると必然的にまだ遊んでいない瑞希に十和の対戦相手の白羽の矢が立つわけで。


「もううち知らん! ええい、ハウスルール適応や。うちかてやったるでー!!」
「あはは、瑞希。いざ勝負ー♪」
「二人とも頑張って下さいねー。……暴れすぎて部屋を壊さないように」
「はー、勝利の酒は美味だな」
「うちも終わったら酒飲むー!!」


 十和&黒ちゃんに対して通常の人間形態じゃ不利と判断した瑞希は身体能力アップのため、人狼化を選択する。
 もう常識人すら突っ込みを放棄した空間では何でもあり。羽子板を振り回す度に尋常ではない物音が鳴り響き、時として瑞希のパワーによって飛んでいった羽根がドンガラガッシャーン! と置いている物へと突っ込み何かが破壊されていく。黒ちゃんですら羽根を食べようと口を大きく広げて待ち構えている始末。
 何が正しくて何が間違っているのか既に誰も分からない状態とはまさにこの事であろう。


「まあ、本来の羽根突きって落とした相手は顔に墨で悪戯されたり、ただ羽根を打ち合うだけで能力全快はしないんですけどね。どうせ私達人外ですから」


 それは本当にぽそりと呟いた朱里の言葉。
 その言葉を聞き取れる聴力を持っている瑞希は勝負に集中していて気付けず、当然彼が聞こえないならば他の面々も聞こえるはずがなく……。


「なあ、とりあえず以前師匠に指摘されて改善した人形を連れて来てみたんだが、これで勝てるだろうか」
「おかえりなさい、英里。ええ、攻撃型と防御型が揃えば勝てるんじゃないでしょうかね」


 戻ってきた英里の後ろには二体の人型。
 その光景を見て、ただただ朱里は英里が楽しければそれでいいと微笑むだけだった。



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「いいのか? こっそり抜け出してきて」
「良いんですよ。三人とも初詣とか興味なさそうでしたし、十和は年長組に任せておけば問題ありませんよ」
「そういうものか」
「出流もああ見えて世話焼き体質ですからね。きっと今頃色々教えているに決まってます」
「ふぅん?」


 フリーダム羽根突き大会の最中、朱里は英里をこっそりお参りに誘い二人は白熱した戦いを見せる場からそっと抜け出した。
 向かう先は朱里が誘った神社で、和装である二人は同じように初詣に向かう人々と共に歩いていた。


「何はともあれ今年もよろしくな、朱里」
「こちらこそ宜しくお願いしますね、英里。あ、はぐれないように……」
「ん?」


 一度空を見上げるように視線を持ち上げ、やがて決心したかのように朱里は英里の手をそっと握る。あくまではぐれないため、迷子にならないために、だ。
 ちょっと冷えた手の温度はやがて交じり合い、互いに温め合う。


「皆の分もお守りとか買おうか」
「おみくじとか引くのも良いですね」


 二人静かに歩く道程。
 例えそこに他人が居たとしても意識しあっているのが互いだけだというのならば、これ以上の幸せは中々ない。また新しい一年を共に歩める幸福を感じながら二人はほんのちょっぴりだけ照れくさそうに笑った。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男 / 12歳 / 中学生・アイドル】
【8626 / 桐生・出流 (きりゅう・いずる) / 男 / 23歳 / アイドル・俳優】
【8627 / 久能・瑞希 (くの・みずき) / 男 / 24歳 / アイドル・アクション俳優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、N.Y.E新春のドリームノベル発注有難う御座いました!
 五人で過ごす初めての正月……しかし中身は相変わらずのフリーダム具合のようで(笑)

 今回は二種EDを用意させて頂いております。
 英里様・朱里様サイドと十和様・出流様・瑞希様サイドとなっておりますので、合わせて楽しんで頂けますよう祈ります!
 ではでは!
N.Y.E新春のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年01月05日

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