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『+ 貴方はどんな年末年始を過ごす?・【 ∞ / Infinity or Mebius ring・1】 + 』
工藤・勇太1122



 さあ、年末年始はどう過ごそうか。


 友人達と年末パーティ?
 年が明けたら恋人としっとり初詣?
 どれでも良いけれどやっぱり皆違って皆良い。


 ―― だから此処に紡がれるのは『自分だけの物語』 ――



■■■■■



 俺、工藤 勇太(くどう ゆうた)。十七歳の高校生!
 実は先日超能力を持つ俺を研究対象として捕縛しようと企んできた悪い奴らと戦って何とか勝ったものの、現在その代償に大怪我を負って病院に入院中だったりする。え、説明が簡単すぎる? でも戦闘自体はかなりのもんだったって覚えているんだけどなぁ。
 実際腕を動かすのも……。


「いててっ! あー、くそぅ。お正月なのに病院のベッドだもんな〜」


 包帯が多分に巻かれた腕を持ち上げて不貞腐れた表情を浮かべる。
 一人きりの正月がこんなにも寂しいとは思っても見なかった。そりゃあ病院にいれば看護師さんや医師がそれなりに声を掛けてはくれるけれど、友人達とは違うから疎外感は多少ある。入院も共同部屋だけど年末年始だけは帰省届けを貰って、実家に帰っている人が殆ど。普段は同室で喋る相手も今はいなくて、やっぱりちょっと寂しい。


「勇太ー、見舞いに来たぞー!」
「お」
「お前年末に事故に巻き込まれたんだって? なんか幸先が不安なヤツだよな」
「うっせぇ」
「工藤君、お見舞いに来ちゃった。これ皆で買ったケーキだから食べてね」
「うわ、有難う」


 ベッドの中でごろんごろんして拗ねていた俺に天の声ならぬ友人達の声。
 そしてクリスマスの時に告白してきてくれた女の子もそこに交ざっており、有名な洋菓子店の箱を俺の方へとそっと差し出してくれる。これには上半身を起こし両手を伸ばして素直にお見舞い品を受け取った。中を開くとシンプルなショートケーキから煌びやかに飾られたフルーツタルトまで五個くらい入っている。俺は現金なもので、たったそれだけで先程まで曇らせていた気分をぱぁぁっと晴れやかなものへと変えてしまった。
 いそいそと冷蔵庫へと入れようとするけれど、全身包帯だらけの俺はその瞬間痛みに顔を歪めてしまう。それに気付いた彼女が慌てて近寄り、俺の代わりに冷蔵庫の中にケーキを入れてくれる。
 「お前、取り出す時にも一苦労しそうだな」なんて友人らは笑っていた。


「あ、俺ちょっとトイレ」
「俺もー」
「ん? トイレはでて左歩いて右曲がったところな」
「了解了解」
「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」


 友人らが連れだって部屋を出て行けばふと気付く。俺と彼女の二人きりのシチュエーションだという事に。
 あれ、これちょっと気まずくね? とたらっと心の中で汗を垂らしてみるけれど、女の子の方は特に気にしていないのか見舞い客用のパイプ椅子へと腰をおろし、足を揃えて座っていた。
 先日彼女いない歴○年の俺に告白してきてくれた貴重な女の子。だけど「何かが違う」と思って俺は素直にその告白を断った。告白の断り方はある意味定番の「俺、他に好きな子がいる」だったけれど――今思えばその断り方はないだろうと自己嫌悪に陥ってしまいそう。
 でも確かに彼女と付き合う気はなくて、むしろその時なんでそんな事を言ったのかも思い出せなくて……咄嗟の嘘だったんだろうと今になって思う。


「あのね、工藤君」
「ん?」
「クリスマスじゃあんな事言っちゃったけど、これからも友達でいてね」
「それはこっちだって!」
「良かったぁー……工藤君に嫌われたらどうしようかと思っていたの。クラスメイトだし、雰囲気悪くなるのも嫌だったから」
「俺も気まずいのはやだなぁ」


 そうか、二人きりにされたのは友人らの企みかと、その時やっと察する。
 彼女と俺が二人きりで喋る機会を設けてくれたらしい男性陣にそう思いを馳せながら彼女と俺はその後は普段のクラスメイトとしての他愛のない話題で盛り上がる。冬休みはこんな事をした、とか、休みが明けたら実力テストが待っている、とか。
 テストの話が出た時には正直頭が痛くなったものだけれど、それはそれ。折を見て友人達が戻ってくればわいわいとまた別の話が飛び出してくる。
 一人きりで寂しい正月だなんて思っていたさっきまでの自分はどこに行ったのか、今は結構心が満たされつつある。


「じゃあ、勇太。また見舞いに来るわ」
「学校の方に出れる様になったらノートとか回してやんよ」
「工藤君、また学校で。その為には今はしっかり休養して元気になってよね」
「おう、頑張って治すからまた学校で逢おうな」


 やがて面会時間が終わる手前、彼らは挨拶をして部屋を退室していく。
 一気に賑やかだった部屋が静まり返るけれど、心は満たされて――いるはずなのに、何かが物足りない。こんなにもわがままな神経だっただろうかと俺はがくりと頭を押さえて肩を垂れさせた。
 折角だし、と冷蔵庫から見舞いに貰ったばかりのケーキを一つ取り出して夕食前にはぐはぐと食べて先程までの会話を反芻してみるけれど、やっぱり『何かが欠けている』――そんな気持ちが拭えなかった。


「あ、工藤君。ちょっと今良いかしら?」
「ふぁい?」
「あら、口端にケーキのクリームが付いてるわよ」
「お、おっと、すみません。今拭きます」
「ふふ、お友達さんと楽しそうに喋っていたから良かったわ。あ、そうそう。貴方に渡すものがあるのよ」
「なんですか?」
「処置をしている時に外して保管しておいたものなんだけど、指輪が無い事にもしかして気付いてなかった?」
「――え、これ俺のですか」


 看護師さんが俺の手の中にころんっと落とすように渡してくれたのはシンプルな銀色の輪。
 俺の持ち物だと彼女は言うけれど、俺にはそれがなんだったのか記憶に無い。必死に記憶を思い出そうとするけれど、『誰』から貰ったのかさっぱりで、まるでその部分だけ抜け落ちたかのように霞みがかっている。


―― これはなんだろう?


 何か気持ちが押しつぶされそうな不安。
 思い出せない事に恐怖を抱き、表情をつい歪めてしまった。それを見取った看護師さんが「もしかして工藤君のじゃなかった?」と声を掛けてきてくれたけれど、俺はその問いには素早く首を左右に振った。しかしその行動すら俺の意図したものではなく、否定した行動自体に正直驚きが隠せない。看護師さんはやや心配げに「何か記憶に引っ掛かるようなことがあったらすぐに先生や私達に相談してね」と言って去っていった。
 俺はゆっくりと手渡されたばかりの指輪を眺め見る。
 本当に俺の物だったのだろうか。
 それとも誰かから預かったものなのだろうか。
 ――そこに在るのは抜け落ちている空白。


「これは一体誰の物だ?」


 唇から零れ落ちる疑問に答えてくれる人は誰も無く、ただ声は部屋に虚しく四散するだけだった。



■■■■■



 夢を見ている。
 自分は最初からこれが夢だという事に気付いていた。病院で用意してくれた病人服を身に纏った俺は周囲を見渡し、そこが『闇』であることを再認識する。だがそれは光が無い状態ではなく、俺自身の身体は見ることが出来た。ただ自分の周りが何者の存在も許さない単純なる暗黒で埋め尽くされており、そこから俺はこれが夢なのだと知った。
 だけどこの夢を見るのは決して初めてではない――どこか懐かしい感覚に襲われて堪らない。


「なんだろう、なんか……今だったら猫にでも変身出来る気がする! えいっ!!」


 頭の中によぎった何か。
 それに従うがままに俺は猫になれ、猫になれと強く念じた――その瞬間ぽふん! と可愛らしい物音が立ち上がり、そのままなんと俺はチビ猫獣人へと姿が変わったじゃないか! 元々暗闇で比較対象物は無いけれど明らかに身長は幼児程度まで縮み、手は猫の手、頭にはぴこんっと猫の耳、そして尻尾までゆらゆら揺れながら生えている。
 服はあれ、時代劇の子供が着てる服。庶民じゃなくてちょっと身分が高い人が着る――えっと水干? あれっぽいのを着ていた。


「おおー! 俺様ってばにゃんかすごくね?」


 口調もにゃんにゃん。
 これはまさに漫画かアニメのような光景。ついつい感動し、夢だしとこの暗い空間をきゃっきゃっと走り回って遊んでみる。行けども行けども何も見えない不思議な闇。だけど不思議と此処は怖くは無く、逆に安心感があった。
 夜眠る時に電気を消して心を落ち着かせる時のあの感覚とでも言うのだろうか。決して不快ではないし、恐怖もない。
 ――……だけど何かが足りない。
 現実世界でも同じことを思い、考えていた俺は遊ぶのを止め、むぅっと眉間に皺を寄せる。一体何が物足りないのだと言うのだろう。
 ふとカラン、っと何かが転がり落ちる音がして俺はそちらへと視線を向けた。床だか地面だから分からないけれどとにかく立てるらしい場所に落ちているそれは看護師に渡されたばかりの指輪だった。


「これにゃんでここにあるにゃ……?」


 猫の手でそっと持ち上げてぎゅっと握りこむ。
 夢は記憶の整理だと言う。だからこの指輪も無意識がつれて来たものに違いない。そう思うも何故か手にした瞬間から寂しさが止まらなくなった。じわりと視界が滲む様な、鼻先がつんと引き攣るような感覚に苛まれて俺は目元を手で押さえる。
 子供の姿だから涙に弱いのかもしれない。普段だったらこんなにも感情に任せるままに泣かない。そんな記憶無いのに――。
 でもそれすらも否定する自分がどこかにいる。誰かによって揺り動かされ、わんわん泣いた自分もいたんじゃないかと第三者のような自分が心の中で訴えかけてくる。
 分からない。
 何もかも分からない。
 ……思い出せない、寂しさが胸を襲う。


「? にゃんか、ほってあるにゃ……」


 ふと指輪の内側を見ればアルファベットの並びを見つけて俺はぐしぐしと涙をふき取る。
 綴られている文字は――。


「K、……KAGAMI?」


 瞬間、巻き戻る記憶。
 初めて出逢った時は小生意気な少年だと思っていた相手。黒と蒼のヘテロクロミアを有した「案内人」。年齢を上げられて青年となり、俺の事を沢山翻弄してきた存在。一緒に様々な場所に行った。一緒に夜を過ごした事もあった。クリスマスに告白してきてくれた女の子を断った理由にも関わっていた「好きな人」で、女の子の姿になってまでからかいに来てくれた稀有な人。失った母親の記憶探しにも付き合ってくれ、一人だった俺の手を引いて前を歩いて導いてくれた――たったそれだけの「案内人」。
 何故忘れていたのだろう。
 どうして忘れてしまったのだろう。


「カガミ……カガミッ――!!」


 あんなにも「傍に居て欲しい」と望んだ相手を、俺はどうして失ったのだろう。



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「呼ばれているね」
「呼んでいるな」
「君は行くの?」
「俺は行かない」


 それはとある案内人達の会話。
 鏡合わせのような外見を持つ少年二人が背中を寄せ合いながらの『自問自答』。
 君は僕で、僕はお前で、お前は俺で、俺は君だから。


「僕達に課せられたルールを覆す方法を彼は望むのだろうか」
「<迷い子(まよいご)>ではない勇太は既に俺達との関係を絶っている」
「先を繋ぐルールは人それぞれだけど、彼は君を望んでいるね」
「だが『案内人』としての役割を終えた俺は己の意思を持って『選ぶ』ことが可能となった」
「だって僕も君も『個』だもの。ただただ従う人形じゃないもの」
「だからこそ俺にもまた新たなルールが課せられる」
「<迷い子>の傍に居る事とはまた違う意味を得る事が『君』は出来るかな」
「思い出のまま終わるならそれもまた選択の一つ。けれども、それを望まずアイツが俺を望むのなら――アイツは俺に至る道を探さなければいけない」
「選択肢は無数にあるから楽しいとも言うね」
「だからこそ『誰もが自由』だ」


 指輪を通して聞こえてくる感情。
 求められる音。
 案内人達は何も無い空間の中、互いの存在だけを認知し、戯れに心を撫でていく生き物達の魂を愛でた。<迷い子>が求められるなら応じよう。しかしそうでない者が求めるならば「至る道」を歩む必要がある。


 これは彼が諦めへと覆る運命か。
 それとも運命が彼によって覆される話か。


 Reverse≠Rebirthの言葉遊びの遊技場に駒が置かれるのかは分からない。
 だがしかし、既に複数の駒とキーワードが用意されている事を案内人達は知っていた。――それを人は『チャンス』という言葉だと捉えるという事も。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました!
 連作と言う事で次を楽しみに待ちつつ……再び稼動した新しい物語がどう動くのか今からどきどきです……!!
N.Y.E新春のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年01月06日

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