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『ハロウィンタウンの銃撃戦 〜おにーさん行くで!編 』
小野友真ja6901


 街はハロウィン真っ盛り。
 大きな複合型商業ビルはオレンジと黒に飾り付け、客の呼び込みに余念がない。
 表のカフェは、勿論パンプキンにモンスタースイーツにと目にも楽しく。
 楽しいばかり、鮮やかなばかりの今日は31日。
 街を歩くと、ところどころにどこかのキャンペーンか魔女に扮した女性がキャンディ
を配る。
 その一方で、街の物陰。
 ぞわり、と何かが湧き出しうごめき始めていることに、まだ誰も気付かない――。



「おおー。見事に街はオレンジ色一色なんやな〜」
 ショッピングモールで前のめりになりながらぐうるり、と周りを見回す少年がいた。
 いや、少年といっても高校生くらいである。
 好奇心に輝く瞳が、そういう印象を強めているのだろう。
「な、清世おにーさん。上映中の映画もやっぱハロウィン関係ちゃうんかなぁ?」
 久遠が原学園高等部2年の小野友真(ja6901)は、今度は瞳に期待の色を込めて振り返った。ちょいと眺めのセンター分け前髪がさらりと二重目蓋をなでる。軽やかで、優しそうな面差しの男である。
「……」
 その視線の先には、同じく大学部3年の百々 清世 (ja3082)が無言で立っていた。
 そう。無言。
 背が高いので友真を見下ろす形で。
「あっちにシネコンあるからちょい確かめてくるな」
 どっこい、友真は清世の反応なんざ気にも留めずシネコンの方に駆け出そうとする。
 しかし。
「ぐえっ!」
「……おのちん。あんまふらふらすんじゃねーよ」
 清世が友真のパーカーのフード部分に指を引っ掛けて止めた。危険なので真似はしないように。
「俺たちゃ英雄部のハロウィンパーティの飾り付けとか色々買い出しにきたはずじゃねぇ?」
 ひどいことをしてもさらりと言ってのけるのは、友真が大きく踏み出した右足を残しつつも上体を反らしつつ身を捻り転倒することもなかったから。友真も当然のような身のこなしで、もしかしたら日常茶飯事の光景なのかもしれない。
「買出しって何買ったらいいんー?」
「そりゃお前……」
 不満そうに眉を寄せる友真に、年長者らしく胸を張る清世。
 が、しかし。
「おい。おのちん、あれ……。魔女じゃねーか? しかもなかなか美人……」
「マジでか? って、ホンマや」
 突然、清世が真顔になったのは、奇麗な髪のお姉さんが三角帽子の魔女装束で愛嬌を振り撒いていたから。腕に引っ掛けたバスケットからキャンディーを取り出してはチビッ子に配っている。
 次の瞬間、二人はチビッ子に交ざってキャンディーをもらっていた。
「あら。ハロウィンパーティーの飾り付けを買いに来たの? だったら、あっちに行けばいい店そろってるわよ?」
 魔女からキャンディーと情報とにっこりウインクをもらってご満悦の二人。いや、最後のは主に清世が喜んでいたが。
 早速教えられたほうに行く友真だったが……。
「おにーさんこっちこっち、……って何それ面白そうやな」
 またも清世が余計なものを発見してそちらに行っていた。このあたり、年長者としていかがなものか。
「おお。おのちん、見てみろって。特製カボチャプリンだってよ。Cカップから選べるらしいぜ?」
「Aカップは?」
「商品として問題があるのでCカップかららしいです〜」
 ケーキ屋のショーケースにかじりつく清世の背後から、素朴な疑問を口にする友真。これにスタイルの良さそうな女性店員がショーケース越しに答える。
「へえ〜、メガカップサイズもあるんか〜。ところで店員ちゃんは何カップ?」
「ちょい、おにーさん!」
「ギガカップサイズ! ……も、あります」
 一瞬、おお、と色めき立つ清世だったが、どうやら商品の話らしい。やや失礼な話をしてしまった手前、カボチャクッキーを購入して辞す。
「ま、ああいうのは美人に対する礼儀的な、半分お約束な話題だがね〜」
「あ、甘いもの美味しそうなんであれ食べるー」
 カボチャクッキーをさくっ、とやりながら年長者として青少年に伝えておきたいことを話す清世だったが、今度は友真がてててーっと余所に行った。まったく人の話を聞いちゃいない。
 しばらく後。
「うん。おのちんの買ってきた甘栗もうまいな。……それはそれとして、腹減ったしなんか食べよー」
「おやつとご飯は別やしな〜」
 百貨店棟に入ったところにあるベンチに座って、熱心に甘栗に爪を立てて割りながら、出てきた身を口に放りながらそんなことを話し合っていたり。ていうかあんたら今まで食べ物しか買ってないじゃんハロウィンの飾り付け買いに来たんじゃないんかい! とかいう突っ込みを入れる人物は不幸にもここにはいない。
 そしてここでとんでもない事態となるッ!



「きゃーっ!」
 百貨店奥から響く女性の悲鳴。がた、と立ち上がる友真。ぼろりと甘栗が転がり落ちるがそれどころではない。
「おにーさん、行くでー!」
 何が起こっているのかも確かめず、騒ぎの中心に張り切ってダッシュする。
 ただの騒ぎでないことは、ショーケースの割れる音などで分かる。
 もしも、自分が駆けつけるような事件でないとしても、それはそれでいい。
 いや、むしろその方がいい。
――誰かを助けるための、誰かの憧れになれるような自分になりたい。
 友真、そんな思いがある。
 思いだけではない。
 そうありたいから、思う前に体が動いてしまうのだ。
 夢がある。勢いがある。そして、理想と現実で揺れ動きながらも、体の奥底から湧き上がる衝動に素直な自分がいる――。
 と、ここで友真は足を止めた。
 振り返る。
 尊敬し、おにーさんと呼び慕う清世は、まだベンチに座ったままだった。明らかにめんどくさそうな顔をしている。ヤダ、ってな顔をしている。
「……行くで?」
 微笑する友真。それ以上は言わない。
 笑顔と渋面の距離は……。
 時は、一瞬。
「てーか……こんなでかいビルなら撃退士の警備員くらい、雇っとけよ……」
 清世、大きくため息をひとつ吐くとクーゲルシュライバーを取り出し指の間でキリリと回した。言葉の前に何か言ったようだが、友真には聞こえない。聞こえないが、それでいいと思う。清世が武器にもなるボールペンを手にして腰を上げたのだから。
 たちまち詰まる二人の距離。
 しかし、決意を持って友真が再び距離を空ける。
 魔法陣のようなものが描かれた銀色の拳銃「シルバーマグWE」を手にして。
「あそこやね。……おにーさん、これ使ぅてや〜」
 ダブルアクションの黒い自動式拳銃「ヒポグリフォK46」を投げて渡す。
 本格的に走る前に清世に拳銃を渡したのは、自分の決意。
(おにーさん、戦闘苦手らしーから極力俺が前行っとく!)
 再び自ら距離を空けた理由である。空いた距離は心の遠さではない。信頼の強さである。
 もう、背中は気にしない。前に集中。
 戦闘態勢になるまでに僅かな瞬間とはいえ、状況は悪化している。
 見れば、ハロウィンのジャック・オ・ランタンの頭部をした骸骨が棍棒を持って暴れていた。穴の開いている双眸から、口から、鼻から、内部の明かりがこうこうと輝いているのが見える。が、婦人服のマネキンの向こうに消えた。
「えーと、とにかく一般人には絶対傷つけさせへんよーに!」
 とにかく現場に近付くのにはそういう意味もある。
 意外と視界が通らず、逃げてくる一般客と重なる。逃げてくる方に向かって進んでいるので当然だ。
「ここや!」
 クイックショットで威嚇射撃して、横に逃げる。
 客にばかり気を取られていた敵は、危うく当たるところだった弾丸で友真を目の敵にした。横に追って来る。
 にやり、と会心の笑みを浮かべる友真だった。



「百貨店ってのは、導線があるから動きは読みやすいわな〜」
 ここぞとばかりに両手構えでストライクショット。手堅く放ったのは敵の体が骸骨だから。弾丸がすり抜けたら笑い話にもならない。
――ガボッ!
 弾丸は頭部に命中し、カボチャ頭が炸裂した。一撃討伐である。
「次はどついや〜」
 上手くいって顔を輝かせ周りを見る。
 が、すでに乱戦の渦中にあった。
 次のカボチャ男にクイックショット。寄せてくるのを何とか止めてから、再びストライクショットで頭部粉砕。
「ふぃ〜っ。今のは間一髪やったな……あっ!」
 さらに気付いた。
 自分が化粧品売り場にいたことを。
 ただし、これは幸運極まりないことだった。
 売り場ショーケースの上に置かれた鏡に、背後から飛び掛ってきていたカボチャ男が映っていたのである!
(間に合わんか?)
 クイックショットの動きで振り向くが、体感的に間に合わないことを感じ取っていた。やや体を投げ捨てながらの挙動はすでに敗北を悟っていたからでもある。
 が。
――ガボッ!
 ぴたりと倒れこみつつも友真が銃口を定めた瞬間、武器を振り下ろしていたカボチャ男の頭部が吹っ飛んだ。
「ちょっとー! お前怪我したら怒られんの俺なんだから!」
 背後から清世の声がする。ショーケースの谷間で見えないが、助けてくれたのだろう。続いてさらに銃声が響く。まだ敵が多いのだ。
「おにーさんにありがとー!」
「いーから前見ろって! サボってるなって!」
 ひょいと顔を上げて笑顔を見せると、後方でキリッとしていた清世が慌てていつもの表情に戻していた。
「ほな、ガンガン倒すでー」
 嬉しくなってさらに働くべく動き出す。
 前へ、前へ。
 悲鳴の上がっている場所へ、助けを必要としている場所へ。
 後はおにーさんが固めてくれるから――。



「やれやれ、終わったな〜」
 一息ついたのは、戦闘直後ではない。
 あらかた敵を片付けて、駆けつけてきた援軍に撃退士であることと事情を説明して、現場調査につきあってそれがすべて終わってからのことだった。
「疲れたー」
 改めて清世もぺたりと座り込む。
「いや、おにーさんここで座ってたら通行人の迷惑ちゃうん?」
「頑張ったんだからなんか奢れよ、アイスがいい」
 突っ込む友真に銃を返すと、何と煙草を取り出すではないか。つーか、すでに強請りに近い。
「えっ、俺が奢るん? ていうか、ここ禁煙や。……しゃーなしなー」
 あまりにぐだぐだな展開に、慌てて周囲に視線をやる。
 ちょうど喫茶店があった。被害はなく通常営業している。
 肘を抱えて立たせ指差して、ようやく清世も聞き分けた。
「よーやく一服できるわけか。……んで、アイスは、と」
 喫茶店に入りメニューを手にする清世。しかし、それは遅かった。
「何がいいかな、店員のお姉さーん、おすすめのんお願いしまっす」
 勢いに乗ったらもう手遅れ。友真が店員に一任してしまっていた。
「特製カボチャアイスが期間限定でおススメです。Cカップサイズから大きさが選べますよ?」
「またそのネタかい〜!」
「へえ〜、メガカップサイズもあるんか〜。ところで店員ちゃんは何カップ?」
 なんか聞いたことあるような展開が繰り返されたり。
 結局、注文はギガカップサイズの注文には至らずメガカップで落ち着いた。
「ふぅ〜っ」
「ん? どないしたん、おにーさん?」
 注文後の一瞬の静寂。
 友真は清世の様子に気付いた。
「いや。結局、飯がアイスになったな〜、と」
 くしゃっ、と細いピアニッシモ・ヴィヴを灰皿に押し付けながら清世が笑った。
「そっかー。それじゃ、あとでご飯やな〜」
 などと笑う友真だが、気付いているのだろうか。
 ハロウィンパーティーの飾りをまったく買ってないことを。
 ともかく、二人はそんなことは露とも気付かずやがて運ばれてくる特製カボチャアイスメガカップサイズ一人前ずつを笑顔で堪能するのだった。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ja6901/小野友真/男/17/インフィルトレイター
ja3082/百々 清世/男/21/インフィルトレイター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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小野友真 様

 初めまして。OMCライターの瀬川潮です。
 どっちが年上なんだかな〜(笑)、なお二人の関係、楽しませていただきました。楽しい日常が目に浮かんでくるようです。
 ガンアクションの現場は、ごちゃごちゃしつつも広い百貨店の一階にしました。ついでに、スイーツのお遊びはこちらのアレンジです。他の人から白い目で見られた場合はライターが全て悪いと言ってください(笑)。

 この度はご発注、ありがとうございました♪
ハロウィントリッキーノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月07日

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