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『きみが生まれた記念日に 〜非モテ騎士の受難〜 』
ラグナ・グラウシード(ib8459)

●果たし状
 師も走るという年の瀬に、まな板女から手紙が届いた。
「むう‥‥」
 ご丁寧に『脅迫状』と書かれた書面を開き、ラグナ・グラウシード(ib8459)は渋い顔をした。

『 非モテ騎士のお馬鹿さんへ

   うさみたんを返して欲しくば、街一番のつりーの前に来い。
   ただし、お洒落して来なければ、うさみたんの命はないものと思え。

                       美少女剣士 エルレーン☆ 』

 これは正に誘拐犯の脅迫状だ!
 もしくはこの騎士ラグナ・グラウシードへの果たし状だ!!

「ふざけた真似を‥‥ッ!!」
 ラグナは激昂した。
 デート中にエルレーン(ib7455)に攫われてしまった愛しい恋人、囚われの姫。
「待っていてくれうさみたん! すぐに俺が、あの女の手から救い出してやる‥‥!」
 うさみたんとはラグナ最愛の――うさぎのぬいぐるみである。ピンク色した可愛らしいふわもこさんなのは間違いないが、そもそも命あるものでは、ない。
 しかしこの男に対して常識は通用しなかった。何せ、うさみたんと真夏の海をデートするような奴である。
 だからして、彼にとってはお気に入りの奪取ではなく恋人の救出なのだった――実に痛々しい話である。

 しかし『お洒落して街一番のつりーの前に』とはどういう意味だろう。
 目印にし易い街一番のツリーを取引場所に指定したというのは妥当な所だろうが、それにしても『お洒落して』というくだりが解せない。
「お洒落‥‥」
 このラグナ・グラウシードは、ごてごて飾り立てる必要がない程スタイリッシュな美青年だ。何を着ても似合うし誰もが振り返る孤高の美だが――それを更に磨けとは、一体どうすれば良いのだろう。
 うさみたんの為にお洒落しなくてはならなかった。しかしラグナには思いつかなかった。
「正装すれば良いのか?」
 騎士の正装と言えば鎧にマントだ。それはラグナの普段着に過ぎない。ならば脅迫状の条件には当てはまらないだろう。
 他に手持ちの服と言えば、ラブリーなパジャマや部屋着くらいしかない。堅物のラグナに言わせれば、お洒落以前の問題だった。
「騎士でない男の正装は、どのようなものなのだ?」
 ラグナは考えた。
 天儀の男性であれば紋付袴だろうか。しかし紋付は初詣まで取っておきたいもの。ジルベリアでは――夜会服? それはそれで昼間の対決には場違いな気がする。それに紋付も夜会服も戦うには動きにくそうだ。
「うぅむ‥‥」
 戦う男の正装と言えば――そうだ!

 ラグナは手早く身支度を済ませると、決戦に臨む戦士の顔付きで貸衣装店へと出かけて行った――

●(゚Д゚)
 処変わって、クリスマスツリー前。
 ジルベリアから伝わったという巨大モミの木と装飾は、神楽でも指折りの期間限定デートスポットだ。
 ぽつねんと、ラグナは誘拐犯を待っていた。
 指定通りの正装である。濃紺のダークスーツ、白シャツに紺地のストライプ柄のネクタイ――と、少々地味かもしれないが確かに企業戦士の正装には違いない。
 うさみたん奪取の怒りと緊張に固まって立っているラグナの姿は、さながら面接待ちの求職者か七五三詣りの男の子かという四角張り振りで、甘い雰囲気が漂うツリー周辺では明らかに浮いて見えた。
 尤も、当のラグナは場違いな事には気付いていない。ただ、さっきからやたらと苛々していた。
 うさみたんを質に取られているのだ、これが苛々せずにおれるものか。ラグナは敢えて周囲に目を向けずに己へ言い聞かす。そうだ、これはあの女からうさみたんを取り戻す前の武者奮いに違いない。
 だが、身体は正直だった。非モテ騎士にデートスポットで立ちんぼさせるとは、何と言う拷問。
「くッ‥‥!」
 突然胸を抑えて苦しみ始めたラグナを周りのカップル共が一斉に見たが、すぐに目を逸らして遠巻きにしている。周囲にはラグナの無意識から漏れ出る『打倒りあじゅう』の黒いオーラが有々と見えていたのだ。
 デートスポットに一人で現れ怨嗟の気を纏って突然苦しみ出した修羅の男――可哀想なひと。この人危ない。
「くッ‥‥私の中で奴が疼く‥‥あの女への積年の恨み、だがしかし‥‥う‥‥う‥‥うさみたーん!!」
 皆一様に係わり合いを避けて、そそくさとその場を去ってゆく。周囲のカップルが何回か入れ替わって後――漸くエルレーンが現れた。

「‥‥何という格好をしているのだ貴様は」
 開口一番、可愛げのない事を言われて、エルレーンはむっとした。
 本日の彼女は、アイボリーのワンピースに同色のポンチョ、可愛らしいパーティーバッグを携帯した完全デート仕様だ。普段は黒を基調とした戦闘服姿なだけに、淡い色使いの服装は彼女の清楚さをこれでもかとアピールしていた――のだが、ラグナと来たら全くもって気付いていない。
「貴様、うさみたんは何処へやった」
 とても収まっていそうにはない小さなバッグを一睨みしたラグナを、エルレーンは軽くいなして言った。

「まあまあ、取引はこれからなのぉ」
「ぐっ‥‥手短に話せ」
「ふふん、今日は一日暇だからつきあえ、なのぉ」
「(゚Д゚)ハァ?」

 奇妙な顔で静止したラグナの前で手を振って、ああこれは思考が途絶えたなと思う。抵抗の素振りがないのは従順なのだと思う事にして、エルレーンはラグナの二の腕を握り締めて一言。
「うさみたん‥‥どうなってもいいんだぁ」
「ぐッ‥‥卑怯な!」
 ご機嫌でまずは万商店ねと先を行くエルレーンと見えない鎖に繋がれた犬、もといラグナは怒りを押し殺しながら従順に歩き始めた――

●(≧∇≦)
 そんな訳で、二人は万商店に来ているのだった。
 普段は支給品を受け取ったり武具防具の調達に訪れる万商店だが、今日ばかりは別だ。だって今日は――
「ラグナぁ、こっちこっち〜」
 はしゃいだ様子でエルレーンがラグナを呼んだ。
 清楚な美少女と堅物の青年、他人目には初々しいカップルに見えなくもない。だが実情は兄妹弟子であり、恨み恨まれる間柄だったりする。
(平常心平常心‥‥)
 仇敵の、あの女が呼んでいる。気のせいか甘えたような声音なのが、何を考えているのか判りかねて不気味だ。
 ひたすらに、うさみたんの姿を思い描き平静を保とうとするラグナの腕を引っ張って、エルレーンは甘え声を出した。
「ねぇラグナぁ〜 これ買ってぇ☆」
「はァ? 何故この私が!」
 思わず声を荒らげた――というのも、彼女が指差したのは高価な宝石のイヤリングなのだ!
 が、悲しいかな、こういう時白い目で見られるのは、大抵の場合男の方だ。しかも今の装いでは、甘える彼女につれない彼氏の構図にしか見えない訳で。
 エルレーンはラグナに耳打ちした。
「へえ‥‥うさみたん、どうなっても‥‥いいんだ?」
 あらあら、彼女が怒らないでと懇願しているわ。あんな可愛らしい彼女に怒鳴りつけるなんて酷い男ね――等々、大きな誤解が囁かれる中、不本意ながらラグナは要求を呑むしかない。
「‥‥こ、これを」
「毎度ありがとう! 良かったね、彼女さん!!」
 売り子の獣人少年がエルレーンに声を掛ける。
 何を言う、被害者は私の方だと言いたいのをぐっと堪え、ラグナは分割で支払えないか交渉しようか本気で悩んでいた――

 しかし、彼の受難はこんなものでは済まされない。
「ラグナ、お腹空いたぁ」
「こ、こら触らせるな!」
 ほら、おなかがぺったんこぉ――などと己の胃の辺りへ手を当てさせるエルレーン。慌ててラグナは腕を振りほどいた。
 言っておくがエルレーンが手を引いて触れさせたのだ、断じてラグナが触ろうとしたのではない。
 真っ赤になって狼狽するラグナの様子は傍目には微笑ましいカップルのじゃれ合いに見える。可愛い彼女は彼氏を見上げて言った。
「ねぇ、ふるこーす食べたい」
「はァ!?」
 白い目、再び。そしてやっぱり脅迫されてジルベリア風レストランへ連行されるラグナ・グラウシード。
「ぐぬぬ‥‥う、うさみたんのためだ、耐えろ私!」
 愛しのうさみたんを必ずや取り戻してみせると心に誓い、ラグナはエルレーンの要求を呑み続けた。

 ところで我侭放題に甘えまくるエルレーンはと言うと――実は少々おかんむり。
 どんな無理難題を吹っかけても、ラグナはうさみたんの名を出すだけで要求を呑んでしまう。
 そう、要求を呑んでいるのだった。
 傍目にはデートのように見えるのに、二人の関係は冷ややかなものでしか、ない。
(せっかくお洒落したのにな‥‥)
 差し向かいに座った膝の上で拳を握る。行儀良く揃えた足には華奢なブーツを履いていた。
 普段は戦いやすい格好に徹しているエルレーンにとってデザイン重視のブーツは少々窮屈で、いつもと違うヒールの高さは重心を保つのが結構大変だったけれど、それでも今日は普通の女の子みたいに装いたかったから。
 清楚で可愛らしい衣装に、ほんの少しの我慢。ほんのりお化粧も頑張った、のに。
(ラグナ‥‥そんなに、うさみたんしか見えていないの?)
 お世辞ですら、ただの一言も「綺麗だ」とも「可愛いな」とも言わないラグナの反応を不満に思わずにはいられない。
「うふ、おいしいねラグナ!」
 哀しい気持ちを押し隠し、敢えて明るく振舞うエルレーンの反応に返って来るのは、苦虫を噛み殺したようなラグナの表情だけなのだ――
 こうなったら一番高いワインを注文してやる。勿論、ラグナの支払いで。

 したたか呑んで御馳走をたらふく食べて。
 どこか満たされぬ気持ちのまま、エルレーンはラグナにエスコートされて家路に就いていた。
(‥‥‥‥)
 この期に及んで、ラグナは一言も褒めやしない。ただ唯々諾々と彼女に従うのみだ。
 遂にエルレーンは尋ねずにはいられなくなった。

「ねえ、ラグナ‥‥今日の私‥‥きれい?」

「はぁぁぁぁぁあ!?」
 ラグナは狼狽した。いきなり何を言い出すのだこの女は!
 とにかく女心の解らない堅物であった。
 恋人ができない事を相当気に病んでいる癖に、何故できないのか己を振り返る事のできない唐変木の男であった。
「ねぇ‥‥っ‥‥!」
「‥‥き」
「き‥‥?」
 エルレーンは息を呑んだ。
 振り絞るように発したラグナの次の言葉は――

「貴様は、何と答えれば、うさみたんを返してくれるのだ?」

「もう‥‥もういいっ! ラグナの馬鹿っ!!」
 可愛い女を演じるのは止めた。
 力量格下の兄弟子を力づくで押さえ付け、エルレーンはラグナの角に手を掛ける。
「ばかばかばかっ、おばかさんのラグナなんてこうしてやるッ!」
「おいやめ、やめろこr‥‥‥‥ぁんッ」
 己の最も弱い箇所を掌握されて、ラグナは修羅の騎士にあるまじき嬌声を上げた――

 翌朝。
 散々弄ばれ、道端に襤褸雑巾のように転がっているラグナの傍には、約束通りうさみたんが寄り添っていた。
 エルレーンと同じ、アイボリーのワンピースに同色のポンチョを身に付けて。
 唯一エルレーンと異なっていたのは、うさみたんが持っていたルビーの嵌まった銀の腕輪と――届かないメッセージ。

『‥‥おたんじょうびおめでとう、ラグナ』

 怒りに任せ、うさみたんを投げつけて立ち去ったエルレーンの真意は、ラグナへ伝わる事なく冬空に解けていったのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / (゚Д゚) 】
【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / (≧∇≦) 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 いつもありがとうございます。周利でございます。

 ラグナさんのお洒落とは、これはまた難儀なお題を‥‥!
 元は良いのに何処か外したセンスの残念美形‥‥というイメージで、デートらしからぬスーツ姿(でも一応サマにはなる格好)を選ばせていただきました。ちょっと堅苦しいですが、青年の紺ブレは良いものだと個人的には思ってます。鼠色にしなかったのはせめてもの良心(笑)

 しかしラグナさんたら罪作りですねぇ‥‥そんなだから非モテ騎士なんだぞ!
 互いの立場的に相容れる日は来ないのかもしれませんが‥‥仲直り、できる日が来ると良いですね。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年01月09日

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