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『ハッピーは現地調達で 』
龍騎jb0719


 メリークリスマス。
 メリークリスマス!
 ところで、クリスマスってなんだっけ?




「リュウー! クリスマスをやるぞー!」
 その日も彪姫 千代は元気全開だった。
「これから準備に行くぞー!!」
 廊下の向こうから呼び掛けられ、足を止めた龍騎はそのまま一拍、思考も止まる。
「準備……? 準備できてから誘えよな……」
 ややあって理解、きっと千代は『クリスマス』自体を把握していない。
 額を抑え呆れた声を返すが、誘ってくれたことは純粋に嬉しい。


 年上だけど天然児な千代、年下だけど上から目線スタイルを崩さない龍騎。
 互いが、久遠ヶ原で出会った初めての『友達』。
 互いに、久遠ヶ原で過ごす初めての『クリスマス』。
 面倒な『世間一般常識』に縛られない、自分たちが楽しいと思う時間を過ごせれば、それがきっと『クリスマス』なんだろう。


 龍騎は肩をすくめ、
「しょーがナイな、ってか服着ろバカ」
 飾りばかりの上着を肩に引っ掛けている千代に、ぐいぐいと着せようとするがジャレ合いと受け取られたのか力比べになる。
 これだからバカは! こっちは心配してるのに!!
 常に上半身に服を纏うことをしない千代にとって、温暖な久遠ヶ原の冬は大した障害でもないらしい。
 いや、見ていて寒いから着てほしい。

「よーっし! それじゃ、港に行くんだぞ!」

 再び、龍騎の思考が止まる。
「は? 港?」
「クリスマスといったら鰹なんだぞ! 俺、今から泳いで捕ってくるぞ!」
「泳ぐ!? さっむ!! バカじゃないの!?」
「寒くないぞ!? 水の中の方があったかいぞ!!?」
「リュウは行かないよ、アタリマエじゃん イミわかんない!」
 キャンキャンと言いあいをしていると、千代がシュンと項垂れる。
(〜〜〜これだからッ)
 叱られた子犬のような友人の、頭を撫でるでなく龍騎は一言。
「良いよ。行くよ。ただし、リュウは海になんか入らないからね!?」
 ぴんっ、千代の尻尾が元気を取り戻した。




 友人の、突飛な言動にはそれなりに耐性が付いてきたと龍騎は思う。
 思うけれど。

「よし! マグロを捕るんだぞー!」
「バカじゃない? この辺にマグロなんて居ないよ!!」
「あっ 鷹政父さん!」
「だから居ないって ……ナニ、お父さん!?」
 漁港へ着くなり、千代と激しいボケツッコミの応酬をしていた龍騎は、意外な単語が混じってきて虚を突かれる。
 その間に、千代は真っ直ぐに港の先へと駆けてゆく。
(そういえば、学園でそんなこと呟いてたっけ?)
 果たしてそれも、『実の父』なのか『ただのオッサン』なのか疑わしい。
 何しろ、あの千代なのだ。
 騙されているとも、強引に押し切ったとも判断しにくい。
 ワンテンポ遅れて、龍騎は千代に着いてゆく。
「おー!! 父さん! これから一緒にクリスマスやるんだぞー!」
 千代の大声に、頬に走り傷のある赤毛の男――筧 鷹政がビクリと飛び上がるように振り返る。
「うわ、千代!? なんでこんなところに」
 そんなことを言っているが、あんたこそこんなところで何をしてるんだ。釣竿を持っているわけでもないようだ。
「鷹政父さん、クリスマスパーティだからマグロを捕るんだぞ!! 海へDIVEなんだぞ!」
「!? おちつけ千代、話せばわかる、父さんもわからん!!」
「ちょっと止めてよ死んじゃうよ!」
(チヨ、さっきは『鰹』っていってなかった?)
「ウシシシ!! 俺知ってるぞ、こういうのを『渡りに船』っていうんだよな!」
「「違うわーー!!!」」
 龍騎と鷹政の声がユニゾンする、千代が両腕を広げる、鷹政が巻き込まれる、

 \DO BO N/

「もーヤダ、リュウ知らない!」
 冷たい冬の海の飛沫を受けながら、龍騎は半泣きでスマホで救援要請をした。
 
 


 ――ややあって。
「漁にも免許? 俺難しい事わかんねーぞー」
「クリスマスってこーゆーのじゃナイよね!? 屋内イベントじゃん!」
 海上保安庁のお世話になっているところへ、龍騎が訴える。
 心配した! あー、心配した!!
 得体の知れないオッサンはともかく、半裸の千代が心配だった!
 『怒られちゃったぞー』って笑ってる場合か!!
「はー。怒られちゃったぞー」
「親子なの!?」
 ひとしきり保護者責任を追及された鷹政が開放されて一言。思わず龍騎がツッコミを入れる。
「おー、鷹政父さんは、学園で見つけた俺の父さんなんだぞー」
「父です。えーと、君は千代のお友達?」
「父さんはリュウに会うの初めてか? リュウは、俺の一番の友達だぞ!!」
「ばっ、なに恥ずかしい……」
 龍騎は頬を染めつつ、ずぶぬれの大人を見上げる。
(たぶん、巻き込まれてるんだろうけど)
「龍騎だよ。……鷹政おじさん」
 半ば睨むように。
 睨…… 相手は何故か泣いていた。


「父さんの家でパーティーだぞー!!」
「家でパーティー……って、そーだよ最初からそーしろよ!」
「俺の意見や予定は関係ないのか!」
 ともあれ、びしょ濡れのまま追い返すわけにも行くまい。
 転移装置を使ってまでこんなところへ来たのは計画的か無計画か判断しかねるが、久遠ヶ原へ帰るよりは鷹政の自宅の方が近いことも事実であった。
「自宅っていうか、事務所なんだけどね なんとかなるか……」
「事務所…… なんかヤバイ職業なの?」
 千代を庇うように前に出て警戒を見せる龍騎へ、鷹政がヘチャリと笑う。
「フリーランス撃退士の、個人事務所でーす 大丈夫、危険なことは何もありません」
 フリーランス…… その響きに龍騎はピンと来ないが、撃退士ということは、撃退士なんだろう。




 連れてこられたのは、とあるマンションの一室。
 10畳のリビングルームを棚などで仕切り、入ってすぐに簡単な応接セット、奥にパソコンの乗ったデスクが見える。

「ウシシシ! クリスマスだぞー!」
「まったくもー、さっさと風呂でも入って来いよ、リュウ準備しとくから」
「準備?」
「デリバリーすればイイよね、ケーキとオードブル。テキトーに検索してよさげなトコで」
 カード使える? 続ける龍騎に、鷹政が目を丸くする。
「それくらいは俺が持つよ、乗りかかった船だ」
 ユニットバスに湯を張りながら、領収書を切るよう鷹政が声を上げた。
「イイの? それならそれでリュウはいいけど」
(チヨの食べる量……知らないのかな、おじさん)
 もちろん、鷹政は知らなかった。

 頭から熱い湯をかけられ、キャッキャと千代がはしゃぐ。
 体格の大きい男二人が入るには確実に狭いバスルームであるが背に腹は代えられない。
 撃退士といえど寒いものは寒い。
「俺も長らく撃退士やってるけど、この季節に海は初めてだよ……」
「おー!! 父さんにも初めてがあったかー!」
「千代に会ってからは、初めて尽くしかもな」
「お、おお…… 俺も、父さん初めてだぞ……」
 言われ、自覚し、千代も若干、戸惑う。
 大きな手でガシガシと頭を洗われ、固く目を瞑る。
 くすぐったいような、気持ちいいような。
 急に押し黙った千代の背に、思わず鷹政は笑いをこぼした。
「いつもの元気はどうした? ほら、あったまったらさっさと出るぞ。リュウ君が、色々と用意してくれてるんだろ」
「お、おーー! 俺ケーキ楽しみなんだぞ!!」




「ちょっともー、だから服着ろって!」
 ホカホカ湯上り姿の千代へ、龍騎が開口一番怒鳴り散らす。
 へへー、と緩んだ笑顔の千代は相変わらず動じない。
「それ以前に体を拭け、こら、千代!!」
「鷹政おじさんも服着ろってば!!」
 ジーンズをはいただけの状態でタオル片手に千代を追う鷹政へ、龍騎が呆れる。やはり、親子なのかもしれない。
 千代を捕獲したところで、鷹政が応接セットのテーブルに並べられた料理に喉を鳴らした。
「……すごい量、頼んだね。リュウ君……」
「え、だってパーティーならこれくらい普通でしょ?」
「最近の子の『普通』がわからない……!」
 所狭しと敷き詰められたオードブル各種にメインディッシュのチキン、ケーキ、ドリンクに鷹政が眩暈を覚える。
 ああ、しかしこれだけの量を小学生に支払わせるわけにもいくまい。
 仕方ない、仕方ない
 大人の面子との戦いをよそに、子供たちはキャッキャとはしゃいでいる。
「クリスマスの歌? ヤダ、勝手に歌えよ。指は鳴らしてやるから」
「えーーっ 一緒に歌うの楽しみにしてたんだぞ!」
「そうそ、歌わないとケーキは食べられないよ」
「何この親子…… だってリュウ知らないもん。パーティーには連れて行かれたケド」
「納得のオーダーでした。だったら尚更、今日は楽しまないとな!」
「楽しむ……?」
「おー! まずは歌うんだぞ!!」
「だから、リュウは歌わない!」




 はしゃぎ疲れて、ケーキを食べ終えたところでガクンと千代が眠ってしまった。
 電池が切れるまでフルに動き回る子供そのものだ。
「はーー 嵐みたいだったな。リュウ君は? 眠くない?」
「眠くっても…… 寝る場所なんてないんでしょ?」
「痛いところを突くね」
 現在、鷹政が住居と兼用で使っている事務所だ。
 ひとつだけの、仮眠用ソファベッドは千代が使っている。
「俺はここの椅子で平気だし。ソファベッド広いから、千代と雑魚寝で良ければ」
「はァ!?」
「やだ?」
 ニヤニヤと試すような笑いを浮かべる赤毛へ、龍騎はYESともNOとも答えず顔を背ける。
 それから、肩から力を抜いて。
「クリスマスなんて、大人に愛想振る下らないイベントだと思ってた」
 龍騎は、住処が封都に巻き込まれた影響で若干の記憶障害がある。
 とはいえ、残る記憶を辿っても、良い思い出なんて見当たらなかった。

『リュウー! クリスマスをやるぞー!』

 けれど、千代から呼び掛けられて。
 楽しそうだな、と心が傾いたのは、本当。
「今日は楽しい……かもね! かもだよ、楽しいとは言ってナイ!」
「それ、千代が起きたら言ってあげなよ。喜ぶよ」
「ヤダ!!」


 久遠ヶ原学園に入り、初めて迎えるクリスマス。
 ドタバタのまま、思いもよらぬ方向へDIVEもあったけれど、そろそろサンタクロースの鈴の音が聞こえてくる時間。
 あどけない二人の寝顔を並べて、ふかふか毛布をかけて。
「メリークリスマス、良い夢を」
 完全に巻き込まれたサンタクロースのプレゼントは、夢の中に届くだろうか。




【ハッピーは現地調達で 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0742 / 彪姫 千代 / 男 / 16歳 / ナイトウォーカー】
【jb0719 / 龍騎    / 男 / 11歳 / ナイトウォーカー】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
激しく現地調達なクリスマス、お届け致します。
筧の家、狭くてすみません!! お誘いありがとうございました。
お二人にとって、クリスマスの良い思い出となりますように。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月11日

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