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『クリスマスには贈り物を買いに行こう 』
百々 清世ja3082

 クリスマスと言えば、大切な人へ贈り物を渡す日でもある。
 駅前にはデパートやビル、雑貨店が立ち並ぶ為に、クリスマスプレゼントを買いに来た大勢の人で賑わっていた。
「う〜、寒い寒い。一人だと、余計に寒く感じるなぁ」
 そんな中、駅前に期間限定で置かれた巨大なクリスマスツリーの下に、百々清世は小走りでやって来る。そして携帯電話で時間を確認して、ほっと安堵のため息を吐いた。
「流石に初対面の女の子との約束で、遅刻はマズイと思って少し早めに出て来て良かった」
 安心すると、今度はツリーを見上げて眼を丸くする。
「ウワサには聞いてたけど、スゴイなぁ。木は大きいし、装飾も派手、夜になったらライトアップするみたいだし。まあこれだけ目立つなら、あのコも見つけやすいだろう」
 白い息を吐きながら、しばらくの間は行き交う人々を見ていた。
 しかし待ち合わせ時間になる前に、特徴のある女の子がこちらに向かって来ることに気付く。
「…もしかして」
 清世は和の古風な雰囲気を持つ女の子の前に行き、にっこり微笑みかける。
「こーんにちわ。鍔崎美薙ちゃん、で合ってる? 俺は百々清世でーす。『清にぃ』って言った方が分かるかな?」
「おお、そなたが姉上の友人かえ? いかにも、あたしが鍔崎美薙じゃ。待ち合わせに遅れぬよう早めに来たつもりじゃったが、そなたの方が早かったのう」
 美薙は無事に会えたことに安堵しながら自己紹介をするが、清世の笑みが少々崩れた。
「…彼女、キミにも『姉』と呼ばせているんだ。まあ俺にとっては可愛い後輩だけど、『妹』と言うには…」
「ん? 何をブツブツ言っておるのじゃ?」
「いや、何でもないよ」
 清世はすぐに笑みを作り直す。
「それにしても聞いていた通り可愛いコだから、人ごみの中にいてもすぐに分かったよ」
「……そう、か」
 しかし美薙の反応は悪い。それどころか清世を見る眼に、『この軟派男は何じゃ?』と言いたげな色が浮かんでいた。
 美薙は清世から顔を背けると、ブツブツ呟き出す。
「いやいや、姉上の大事な友人じゃ。『可愛い』と言うのは、きっと姉上があたしのことをそんなふうに言っていたからじゃろう。姉上はいつもこんなふうに、あたしを過剰に評価するのじゃしな」
 自分の中で納得すると、今度は柔らかな笑みを清世に向ける。
「せっかく共通の友人がいるのじゃ。堅苦しいのは無しにして、そなたのことを『清にぃ殿』と呼んでも良いじゃろうか?」
「じゃあ俺も鍔崎ちゃん、で良いかな?」
「うむ。では今日はよろしゅう」


「さて、今日は彼女に贈るクリスマスプレゼントを、選んで買いたいってことで良いんだよね?」
「ああ。姉上にはさぷらいずプレゼントとして贈りたいのじゃが、良い物が思いつかなくてのぉ。困り果てているところへ同級生から、姉上と交流がある清にぃ殿を頼ってみてはどうかと言われたのじゃ。突然の手紙で、驚いたじゃろう?」
 美薙は共通の友人へのクリスマスプレゼントを一緒に選んでほしいとの願いを手紙に書いて、知り合いを通じて渡してもらったのだ。手紙には美薙の携帯電話の番号と、メールアドレスも書いていた。
 そして手紙を読んだ清世は、すぐにOKの返事を電話から伝えたのだ。
「まあ今時手紙をくれるコは少ないから、そこには驚いたけど…。でも彼女から鍔崎ちゃんの話をよく聞いていたし、はじめて会ったという気はしないな」
「それはあたしも同じじゃ」
 二人はクスクス笑いながら、アーケードの中に入る。
「でも何を買うか決めないままお店を巡るのは疲れるから、喫茶店で温かい物でも食べながら相談しない?」
 清世はクリスマス風に装飾された喫茶店を指差す。
 美薙は顎に手を当て、店を上から下まで見た後、頷いた。
「そうじゃな。ここまで来るのに体が冷えたしのぅ」
「んじゃ、入ろうか」
 喫茶店に入った二人は、相談がしやすいように奥の席に座る。
 清世はホットコーヒーとショートケーキを、美薙は温かい紅茶とクリスマス特製のカップケーキを頼んだ。温かい飲み物と甘い食べ物で、二人はほっと一息つく。
「彼女へのプレゼントは…喜ばれるのは大根、あんまん、ミカン、ケチャップあたりをあげたら喜ぶんじゃないかな?」
 真面目な顔付きで腕を組みながら言った清世の言葉に、美薙は思わず吹き出す。
「ぷっ…。清にぃ殿、確かに姉上は食い意地が張っておるが、流石にクリスマスプレゼントには形が残る物をあげたいのじゃ」
「まっ、そうだよね」
 清世はケロッとして、表情を崩した。
 どうやら美薙の緊張をほぐす為に、わざと真剣にふざけてみたようだ。
「やっぱり女の子ならアクセサリーが良いんじゃない? クリスマスが近い今なら、可愛いのとか綺麗な物がたくさん売っているし」
 清世の意見を聞いて、美薙は少しばかり表情を曇らせる。
「ふむ…、あくせさりぃは良いと思うがのぉ。…しかし実は女子として情けないことなのじゃが、あくせさりぃがどこに売っているとか、どんな種類が良いのかとか皆目見当もつかないのじゃ。同級生はこういうところで清にぃ殿を頼るのが一番と言っておったが、どうじゃ?」
 期待を込めた眼差しを向けられるものの、清世の口元が一瞬引きつった。
「…その同級生と一度話をしてみたい気がしてきたけど…、…まあ任せてよ。確かにそういう店とかアクセの種類とか俺は詳しい方だから」
「それは頼もしい! ではよろしく頼む」


「清にぃ殿、やはり先程の支払いは…」
「いいからいいから。こういう場合、年上の男に女の子は甘えるべきなんだよ」
 喫茶店を出る前、伝票を清世が会計まで持って行ってしまい、全額払ってくれたことに美薙は悪い気がしていた。店を出た後、いくら自分の分を払おうとしても、清世は受け取ってくれない。
 当の清世はあっけらかんとしているし、ここで言い合いをするのもおかしいと思った美薙は苦笑を浮かべる。
「では今回は甘えようかのぅ」
「ついでに人ごみの中ではぐれないように手をつないでくれると、おにーさん、嬉しいんだけどな」
「まったく…。仕方のない人じゃ」
 こうして二人は手をつないで、駅前のデパートの中に入った。
「このデパートには若い女の子向けのアクセサリーショップがたくさん入っているんだ。オマケに安いし、良いデザインのも多い。評判が良い所だし、ここならきっと彼女に似合う物が見つかるよ」
「それはありがたい。ではいろいろと見て回ろう!」
 二人は様々なアクセサリーショップを見て歩く。
 美薙は普段あまりこういう所へ来ないせいか、眼を輝かせながら楽しそうに店を眺めている。
 はしゃぐ美薙をあたたかい笑顔と眼差しで見ていた清世だが、流石に二時間経過した頃には疲れた笑みになっていた。
「…あの、鍔崎ちゃん? もうそろそろ何を買うか、決めたかな?」
「はっ!? いっいかんいかん!」
 カエルの置物を見ていた美薙は、ハッと我に返る。
 そして今まで見てきた中でパワーストーンやアンティーク品を扱う店が気になったので、そこへもう一度向かう。
 二人でいろいろなアクセサリーを見た結果、美薙は四葉のクローバーのブレスレットを買うことにした。
「四葉のクローバーは幸運を与えてくれると言われておるからのぉ。いつも身に付けられる物であれば、姉上には多くの幸運が与えられるじゃろう」
「そうだね、良いと思うよ。俺はこの青い石が付いたブレスレットにしようかな? 彼女に似合いそうだ」
 清世が手に持ったブレスレットを見た美薙は、付いている青い石を見てふと気付いた。
「ああ、その菫色の石はアオライトじゃ。石言葉は『初めての愛』・『徳望』・『誠実』・『心の安定』・『癒し』・『不安の解消』じゃったな」
「おお、流石は女の子だね。…でもその石言葉、あんまり彼女に合っているのがないような…」
「そっそんなことは…ないと、思う…が……」
 二人は微妙な表情になるものの、同時に咳を一つして気持ちを切り替える。
「まっまあ贈り物で大事なのは、心だからね」
「そっそうじゃな。では会計に行こうかのぉ」
「先に鍔崎ちゃん、行ってきなよ。クリスマスプレゼント用にラッピングしてもらうと良いよ」
 清世が指さす方向を見ると、会計の隣でクリスマス用に無料でラッピングしてくれるサービスカウンターがあった。
「おお、そうじゃな。せっかくだし、やってもらおうかのぉ」
「そうしなよ。俺はもうちょっと見て回ってくるから」


 そして再び駅前に来た二人だが、クリスマスツリーがライトアップされているのを見て、思わず立ち止まって見入ってしまう。
「うわぁ…、結構キレイだね」
「美しい…。姉上にも見せたいものじゃのぉ」
 呟いた美薙はつないでいた手を離すと清世と向かい合い、深々と頭を下げる。
「清にぃ殿、今日は本当にありがとう。相談に乗ってくれたこと、感謝しているのじゃ。それに今日一日共に過ごせて、とても楽しかったのじゃ。礼がしたいのじゃが、何が良いかのぅ?」
「俺としては鍔崎ちゃんと買い物デートを楽しめたからいいんだけど…。それじゃあコレを受け取ってくれるかな?」
 そう言って清世は小さな箱を、美薙の前に差し出した。
 美薙は箱を受け取り、開けて見る。
「コレは…」
「ピアスだよ。今日、出会った記念と買い物デートに行った記念に、ね。さっきの店で、鍔崎ちゃんがお会計に行っている時に見つけたんだ。その石の色、鍔崎ちゃんの瞳と同じ紫色だったからさ。気に入って、買っちゃったんだ」
「この紫の石は、アメジストじゃのぅ」
 箱の中には、揺れるタイプの小さな雫型のアメジストのピアスが二つ入っていた。美薙が身に付ければ瞳の色と相まって、美しい装身具となっただろう。よく着る和服とも合いそうなデザインで、美薙は嬉しそうに笑みを浮かべて見せた。
「清にぃ殿はなかなか良いセンスをしているのじゃ」
「気に入ってくれた? なら俺も同じ物を買って、おそろいにしてみてもいーい?」
「ふふっ、面白そうではあるがのぉ。問題はあたしが耳に、ピアスの穴をあけていないことじゃな」
 美薙は耳を覆う髪を手で押さえて、ピアスの穴がない両耳を清世に見せる。
「あっ、ホントだ。何てこった…。この俺が、そんなことにも気付かないなんて…」
 清世が顔をしかめながら頭を抱え、本気で落ち込む姿を見て、美薙は慌てて声をかけた。
「『贈り物で大事なのは心』じゃろう? ピアスはありがたく貰っておこう。せっかくの記念品じゃしな」
 しかし顔を上げた清世は、情けない表情で箱を指差す。
「…できれば別の物に交換したいんだけど…」
「ダメじゃ、あたしはコレが気に入ったのじゃ。ピアスの穴はあけられぬが、大事にするからのぉ」
 満面の笑顔で言われると、清世は引きつった笑みを浮かべるしかない。
「はあ…、仕方ないね。それじゃあ鍔崎ちゃんへの贈り物に失敗したことを、誰にも言わないことが『お礼』ということで…」
「別に失敗ではない気がするけどのぉ。まあここは清にぃ殿の顔を立てよう」
「悪いね…。それじゃあそろそろ帰ろうか。もちろん、送っていくよ」
「それこそ悪いが…」
「ここでもおにーさんを頼るべきだよ」
 得意げに笑いながら清世は再び美薙の手を握り、歩き出す。
 少し強引だが、不思議と美薙は嫌な気持ちにならない。
「ヤレヤレ…。忙しない人じゃな」
「一緒にいて飽きないでしょ?」
「…まあ、そうじゃな」
 微笑み合う二人の上から、白い雪が静かに降り始めた。


<終わり>


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082/百々 清世/男/大学部3年/インフィルトレイター】
【ja0028/鍔崎 美薙/女/高等部2年/アストラルヴァンガード】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびはご依頼をくださり、ありがとうございました。
 ほのぼのがメイン、それに少しのコメディで書き上げました。
 楽しく読んでいただければ、幸いでございます。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
hosimure クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月16日

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