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『+ 貴方はどんな年末年始を過ごす?・【 ∞ / Infinity or Mebius ring・3】 + 』
工藤・勇太1122



 可能性の数だけ存在する未来。
 これから俺が選ぶべきその先に存在する――沢山の俺。
 「これは何か」と本能が叫ぶ。
 事態を重く見た俺はチビ猫獣人から本来の高校生の姿へと戻り、彼らを一瞥した。


「……イド!」


 それは俺が下した判断の名前。
 過去という時間軸に葬り去られた『無意識の集合体』が以前具現化し、俺から「俺」の居場所を奪おうとした事を思い出す。彼らはもしかして今の俺の精神が不安定すぎて完全に同化出来なかったのではないかと背筋がぞっと凍るような寒気を覚えてしまう。
 不快を避け、快を求める快楽原則。
 その名を呼んだ俺に対して目の前に存在する多種多様の『俺』は静かに首を振った。


『俺達はイドではない』
「え」
『確かにアレらに似てはいるけれど、俺達の存在はあくまで可能性の一つ。選択肢の先の未来。いわゆる妄想に似て異なる者』
「俺は此処にいる皆は表に生まれたがっているのだと思っている」
『選択した先に誰が居ようと俺達は抗わない。抗う意思すらない。選られた未来が生き、他は消えていく――それは確かにイドのように』
「お前達はイドじゃないのか」
『此処は可能性の世界だ』


 一般人のように現実世界だけを生きる俺。
 夢の人を追いかける選択をした俺。
 現実と妄想の境界に堕ちて壊れてしまった俺。
 母親との未来を選び、友人と共に生き、超能力もまた有効活用していく俺。
 沢山の俺が俺を見ている。
 けれどそれは無意識の集合体ではなく、あくまでも『可能性』なのだと彼らは答えた。


 俺は警戒しつつも彼らの話を聞く。
 一人一人が言葉を繋ぎ、文章を作り出すそれは聞き逃してはいけない事ばかり。俺は混乱しつつも、懸命に頭の中で整理をしようと思考を巡らせる。彼らはイドではなく先の未来の可能性達。確かに彼らは以前俺が切り捨てて行った過去の存在ではない。イドは無意識の集合体ではあるが、それは未来にまでは及ばないのかと俺は必死に結論付けてみる。
 やがて一人の『俺』が俺の前へと歩みを進め、片手を広げた。
 その表情はどこか悲しみに満ちていて――。


『……あのまま戻ってたらお前は確実に案内人の事を忘れていただろうな』
「え?」
『思い出せよ、あいつらの言葉を』
「こと、ば?」
『案内人達もまた認識されて存在するもの。認識しない状態だと道端に転がっている石のようなものだ。在るのに無い状態とでも言うべきか。お前が認識しないのであれば案内人達の姿は決してお前の目には映らない』
「――それはっ」


 『俺』の言葉に以前カガミ達に言われていた事を思い出す。
 彼らとて認識されて初めて存在しえる者達。もちろん彼らが存在するのに俺は必要ないだろう。「導き」を無意識に求める<迷い子>達は多いだろうし、その数だけ彼らは存在しうる。
 だけど俺が認識し、今まで一緒に過ごしてきたカガミ達は俺だけの唯一の存在だ。だからこそ俺が彼らを忘れてしまえば当然彼らの存在は無いに等しくなってしまう。


 目の前の『俺』の言葉に俺は歯軋りをし、多種多様の自分達を見つめた。
 これが未来。
 俺に用意されている先。
 でも此処には――。


『さあ、選べ』
「……選べない。ここにはカガミに再び会う俺がいないじゃないか」
『それは案内人と別ったお前の未来だからだ』
「俺は再びカガミと会う! カガミ、スガタ……、ミラーにフィギュア……皆、皆、俺の中で認識してんだ! 俺はもう迷い子じゃない! でもあいつらは確実に生きてるんだ!」


 拳を作って己の胸を強く叩く。
 願い事は彼らとの再会。自分が覚えている限り彼らは決して俺の中から消滅する事はない。だからこそ俺は此処にいる『俺』を選ぶ事など出来ないんだ。
 だけど時は一刻を争うかのように残酷で。


―― 先生、工藤さんの心拍数が!
―― 昨日まで安定していたのに、どうして!
―― まるで目覚める事を嫌がっているみたい……。
―― 私達に出来ることは彼を生かすことだ。処置を続けるぞ!
―― はいっ!


 聞こえてくる現実世界の声。
 このまま夢の世界に居ればもう一度彼らに逢える? それとも別の未来がまた生まれるのだろうか。今選択すべきは生か死か。現実か夢か。


「俺は、ただ、逢いたいだけなのに……――!」


 その願いすら叶えて貰えないのは、俺が既に<迷い子>の枠を外れたからだと知っているからこそ感情と共に表情は歪み、俺は酸素を求める魚のようにぱくぱくと口を動かして苦しさに喘ぐのみ。



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「こんにちは、フィギュアにミラー」
「いらっしゃい。スガタ」
「ようこそ、お茶はいかが?」


 それはアンティーク風の一軒屋に訪問した一人の案内人の少年。
 彼らを迎え入れたのは同じく<迷い子>を導く『案内人』であり、夢の情報屋でもある少年少女。三人で円形テーブルを囲み、用意したクッキーや紅茶などで楽しむティータイム。


「スガタ。カガミは未だあの場所で?」
「僕は動けるけど、彼は動けないから」
「至る道の先の目的地。彼は今、『何者でもない存在』になって選択の時を待っているんだね」
「工藤さんがカガミを求めるならカガミはずっとあの場所にいるんじゃないかな」
「<元・迷い子>の為の彼は今、言ってしまえばご褒美のようなものだからね。あ、フィギュアはこっちのカップの紅茶をどうぞ」
「頂くわ。――どうして人は夢を見るのかしら。夢の中の人物なんて忘れてしまえば現実世界で生きることが出来るのに」
「さあ、それは当人にしか分からないね」
「僕らは僕ら以外にしかなれないけれど、外部からの願いによって変化はあるからこそ――僕達もまた『生きている』」
「ねえ、ミラー。あたしも幸せになりたいわ」
「君の幸せは僕が作るよ」
「でもカガミの幸せは誰が作ってくれるのかしら?」
「―― それは誰にも分からない『未来』の掟さ」
「人の強さが運命に勝った時、僕らは生まれ変われるのに」


 三人の案内人達は語り合う。
 此処にはいないもう一人の案内人――カガミと彼を求める工藤 勇太の存在をテーマにして。
 ここは夢と呼ばれる世界。
 生まれては消え、消えては別の存在が生まれる多層世界。その中で膝を抱えて漂う存在を思い、三人は各々夢の中で夢のような事を喋りあうだけ。


「カガミは幸せかしら」
「カガミは多くを望まないし、もし工藤さんが選ばなくてもカガミはそれで良しとするよ」
「流れゆく時の定めの中、あたし達はどうやって生きてきたのかしら――あたしには分からないけれど」
「君はずっと僕の傍で幸せに暮らしていた。それは間違いないね」
「まあ」
「うん、二人はそれで良いんだろうけどね」


 スガタは呆れたように目の前で微笑み会う二人を見つつ、カップに唇を付ける。それからふぅっと息を吐き出して目を伏せた。


「カガミの悪いところは多くを望まず、ただ<迷い子>の為に動くところにあるよね」


 最善の答えは誰にも分からず、けれど感想だけは各々言い合うのみ。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、三作目となりました!
 今回以前使ったイドの話が出てきたので色々調べたところ、心理学における「id(イド)」とプレイング内容と相違が御座いましたので、出てきた工藤様に関しては「未来の可能性」という形でマスタリングさせて頂いております。どうかご理解頂きますよう宜しくお願いいたします。
 ではまたお待ちしております。(礼)
N.Y.E新春のドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年01月16日

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