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『未確認生物捜索隊〜サンタ捕獲大作戦! 』
最上 憐 (gb0002)

 サンタさんって知っていますか?
 え? Santa Clausの略称だろうって?
 ええ、確かにそうなのですが――『サンタさんって捕獲できますか?』

●サンタさん。
 カンパネラ学園の図書館で、高城 ソニア(gz0347)は目を丸くして言った。
「師匠‥‥サンタクロースを捕獲する、ですか‥‥!?」
 ソニアが師匠とと仰ぐ最上 憐(gb0002)は外見年齢10歳の幼子だが、中身は立派な傭兵だ。見た目相応の幼い理由でサンタクロースを捕獲しようと言うのではないだろう。弟子としては、真顔で訴える師の言葉に真摯に耳を傾けない訳にはいかなかった。
「あの‥‥何故、って‥‥お聞きしても、いいですか?」
「‥‥ん。サンタを突き出せば。学食の食券。一年分。貰えるよ」
 意外と現実的な理由だった。というか、サンタを連行するだとか、何だか物騒な話になりかかっている。
 サンタを捕獲すべく捕獲されたソニアは、憐に事情を最初から聞いてみる事にした。

 憐いわく。
 学園の地下階どこかに潜伏している『カンパネラ学園未確認生物捜索隊』なる秘密結社――要するに学園に数ある部のひとつが、この時期に出没するというUMA『サンタクロース』を探しているらしい。
 当該UMA『サンタクロース』を捕獲し部へ連行した者には、食券一年分が報酬として支払われる、との事。
「師匠、それって‥‥」
 この時期ならではの冗談なのでは?
 思わずそう言おうとしたソニアだったが、何となく言葉を継げなくなってしまった。
「‥‥ん。バグアが。居るのだから。サンタが。居ても。おかしくない」
 かなり超現実的な理屈ではあったけれど。
 真に受けているのだ。
 憐はサンタクロースを信じていた。幼子がクリスマスを楽しみに眠りに就くのとは違うかもしれない、だが彼女がサンタクロースの存在を信じている事には変わりなかったから。
 ソニアは付き合う事にしたのだ。憐が「居る」と言うのなら、サンタクロースは、きっと、いる。
「そうですね‥‥! 探しましょう、師匠!」
 傭兵として大切な事を教えてくれた少女に、ソニアは微笑んだ。‥‥ん。と、年長の弟子へと小首を傾げた憐は、問うた。
「‥‥ん。ソニア。サンタに。付いて。知っている。事を。教えて」
 サンタクロースの棲息地域や習性、その他諸々を。

 書物――主に図書館内文芸書架の童話類の情報に拠ると、サンタクロースはフィンランドのコルヴァトゥントゥリに棲んでいる。世界中から寄せられる子供達からの手紙に目を通したり、プレゼントの手配やソリを引く八頭のトナカイの世話などを妖精トントゥに手伝わせて過ごしているらしい。そうしてクリスマスの時期になると、トナカイ達をソリに繋ぎ、世界中の空を駆け巡るのだ。
「‥‥という事らしいです」
 はふ、と夢見がちな溜息を吐くソニア。彼女の脳裏には、サンタクロースとお揃いの赤い帽子を被った小人の姿が可愛らしく動き回っている。嗚呼何というファンタジー。
「‥‥ん。トナカイと。妖精の。護衛が。いるんだね」
 そうだった、これはサンタクロース捕獲拉致の話だった。
 煙突経由で下りてくる白髭のお爺さんを護るSPの小人とトナカイ――油断は禁物ですねと気を引き締めて作戦を詰め始める。
「この辺りで煙突がありそうな家は‥‥」
 思い当たる場所は、なかった。昨今の住宅事情では銭湯すら絶滅種だ。しかし現代でもサンタクロースは活動している訳で、別に煙突がなくとも侵入可能なのであろう――という訳で、罠を張る場所は特に不問とする。
「‥‥ん。ソニアの。部屋で。おっけー」
「私の部屋ですか!?」
 思わぬ展開になって、ソニアはつい辺りをきょろきょろ見回した。彼女はカンパネラの寮生だから、手続きなしに他者を宿泊させるのは条件反射で不審者になってしまうのだ。
 しかしこれは、ほかならぬ師匠の頼み。それに何だかわくわくしてきて、ソニアは「いいですよ」小声で快諾した。

 かくして二人は女子寮でサンタクロースを捕獲する作戦を練り始めたのだが――密かに注がれる怪しげな視線に、彼女達はまだ気付いていなかったのだ。

●作戦、開始!
 数時間後――
 ソックス下げて、壁際には捕鼠器とGハウスの飾りが付いたオーナメントを飾って。
 猫の子一匹、ちまの子一匹、アリンコだって逃がさないだろう徹底したトラップルームと化した学生寮内ソニアの部屋の真ん中で、憐とソニアは寸胴鍋を囲んでいた――クリスマスに。

「足りますかねぇ‥‥」
 カセットコンロにセットした寸胴鍋へレトルトカレーを次々投下しながらソニアが呟いた。お湯で温めているのではない、封を切って中身を投入しているのは、カレーを材料から仕込むと時間が掛かるので出来合いを温めた上から材料を注ぎ足してゆく作戦だからだ。尤もこれは憐のおやつ用の仕込みなのだが。
「‥‥ん。侵入。成功」
 部屋の真ん中にちょこなんと座り、憐は荷解きに余念がない。
 一杯に広げられた罠、罠、罠――縄やタモ、トリモチにトラバサミ、捕鼠器からGハウスまである。尤も荷の大半は泊りがけで張り込みを行う憐の食料だったりするが。
「サンタさんの餌って何が良いんでしょうね?」
 カレーを温める合間に野菜をカットしながらソニアが尋ねた。ご飯が炊けるまでの間の小腹満たしにカレーパンを頬張りながら、憐は可愛らしい紙袋からクリスマスソックスを引き出して言う。
「‥‥ん。サンタは。空の。靴下に。寄って来るよ」
 ラッピング用の薄くて大きなソックスだ。大抵はここに嵩の高い玩具などが入る事になる。
 そう、サンタクロースはこの巨人が履くようなソックスに贈り物を入れてくれる優しい存在なのだ――というのに。
「鼠捕りに仕掛けるには大き過ぎますね‥‥」
「‥‥ん。オーナメントの靴下が。ちょうどいいかも」
「そうですね! ではGハウスにもオーナメントのを‥‥」
 少女達は淡々と捕獲の準備を進めた――サンタさん、ちょっと可哀想かもしれない。

 ともあれ。カレーは煮え、ソックスはぶら下がり、ツリーが立って、ローストチキンとホールケーキが置かれた。
「めりー、くりすますー」
「‥‥ん。メリークリスマス。だね」
 寸胴鍋の周りで暖を取りつつ二人だけのクリスマスパーティーという名のサンタ捕獲作戦、開始。
 あとは対象が掛かるのを待つだけだ。憐の食べっぷりを気持ちよく眺めていたソニアは鶏脚片手に夢見がち。
「ねぇ師匠、トントゥってどんな小人さんなんでしょうね?」
「‥‥ん。強くないと。いいね。倒すけど」
 憐なら敵無しに違いない。師匠を頼もしく見つめたソニアは同時にサンタクロースの助手へ同情した――その時。

「HO−HO−‥‥」

 窓の外に赤い影。特徴的な鳴き声といい、もしやサンタか!?
「サンタさん!?」
「‥‥ん。違う。みたいだね」
 ソニアが窓を開けた途端に逃げ出したのは、赤い帽子を被ったハトだった――しかし何故ハトが?
 ハトさんもクリスマス仕様なのでしょうかと暢気な事をのたまうソニアを他所に、憐はサンタに近付いた確かな手応えを感じている。
「‥‥ん。サンタの。偵察。かもしれない。ソニア。寝た振りしよう」
 敵を捕捉するには、こちらが隙を見せてやる必要もあるだろう。
 寮の独り部屋なだけに当然ベッドはひとつきりだ。さてどちらがベッドを使うかという段になって、ソニアは絵的に微笑ましいからという理由で憐にベッドを譲った。
「サンタさんは、眠っている良い子の所に来てくれるんですよ」
 そんな事を言って、カセットコンロの火と部屋の照明を消す。エアコンの稼動音が静かに聞こえる中、ソニアは憐におやすみなさいと言って自身は部屋の隅っこで毛布を被り――潜伏しているつもりで程なく寝息を立て始めた。

 一方、窓の外ではハトを捕らえて悔しがっている者がいた。
「くそっ、惜しかった‥‥!」
 男性だ。ちなみにソニアがいるのは女子寮なので普通は見かけないはずの人種である。もしやサンタか?
 白髭とは無縁そうな黒々とした髪を掻き払って、彼はハトの脚に装着した何かを外した。
「ハトに頼った俺が馬鹿だった‥‥やはりここは」
 夜空へハトを放り出し、男は草叢で着替えを始めた――

●捕らえよ、サンタ!
 そんな事とは露知らず、少女達はサンタクロースの来訪を待ちかねていた。
 ソニアの寝息を聞きながら、憐は気配を手繰っていた――窓の外に確かに誰か、いる。
「‥‥ん。ソニア。ソニア。起きて」
 小声で言うも、当のソニアは夢の中。そうこうしている内に、外の気配は段々はっきりと知覚できるようになっていた。
ソニアを起こすのを諦めて、憐は寝た振りを続けつつ密かに超機械を握り締めた。軽量型の小振りなものだけに威力は弱いが、何も相手を殺傷する必要はないから気にしない。怯ませ捕獲できれば良いのだ。
 サンタが近付いている。勝負は一瞬、枕元のソックスに近付いた瞬間を狙って襲おうと、憐はその時を待った。

 サンタクロースと思われる気配は音もなく窓を開けると、桟に足を掛けた。よっこらせという掛け声は男性に間違いない。
(‥‥ん。鍵を。掛けて。いなかったね)
 ハトを発見した後、窓の鍵を掛け忘れていたのに今気付く。まあサンタが侵入する隙を与えたと思えば良いか。
 窓を越えた男は、真っ直ぐに憐のいるベッドへ近付いた。
 やはりプレゼントを携えたサンタクロースなのだろうか――否、それにしては俗っぽい気がすると憐は思った。というのも、近付く気配には、平常とは異なる呼吸が――老人性の気管支異常とは別種と思われる過呼吸の傾向が伺える。
 ――ハァ、ハァハァ‥‥
 そこはかとなく感じる嫌悪を耐えてギリギリまで近付かせ――憐は電磁波を放った!

『ひぎゃぁぁあぁああああ!!!!!』
 パステルカラーのファンタジーには似つかわしくない悲鳴に、さすがのソニアも目が覚めた!

「師匠!? 何! 何が起こったんです!?」
「‥‥ん。サンタ。捕まえる」
「サンタさん!?」

 慌てて毛布を剥ぎ取ったソニアは、サンタクロースが開け放しの窓へ向かっている状況を把握した。慌てて窓へ追いすがるソニアだが、部屋中に仕掛けた罠に引っ掛かった!
「痛い痛い! 何か足の裏がねばねばします‥‥っ!!」
 捕鼠器を踏んづけた挙句トリモチの虜になったソニアを他所に、サンタクロースは老人とは思えない脚力で窓へと到達した。素早く桟へ足を掛けると、そのまま外へ――
「待って! サンタさん!」
「‥‥ん。予想以上に。速い。本気で。追う」
 捕鼠器を外してやりクリスマスソックスをソニアの足に被せた憐は、ソニアへ小銃を投げて寄越すと後を追った。

「‥‥くそっ、超機械はないだろう! サンタだぞ!?」
 サンタクロースにあるまじき剣幕で男は逃走中に吐き捨てた。能力者と互角のスピードで駆けている彼は本当に老人なのだろうか。
 すぐ後ろに迫った憐と、少し離れた場所まで追いすがっているソニアを横目で確認し、男は舌打ちする。
 作戦は失敗だ。しかも――

「え、そんな! サンタさんを銃撃するなんて!」
「‥‥ん。ソニア。撃って。寮に。不法侵入したのは。間違い無いから。正当防衛だよ」

 後ろの女子共、本気で殺る気じゃないか!
 男は戦慄した。そして――抵抗を、止めた。

●依頼完了!
 憐は無事『サンタクロース』を捕獲し、カンパネラ学園未確認生物捜索隊へ引き渡した。
 衣装を引き剥がしてみると、外見はただの若い男だったのだが、カンパネラ学園未確認生物捜索隊の部員達がUMAと認めたのだからサンタクロースには違いないのだろう。
 かくして憐は食券1年分を手に入れる事ができたのだった。

 以下、余談。
「部長が女子寮へ侵入したいとか言い出すからですよっ!」
「‥‥‥‥」
 部費を根こそぎ食券に換えられてしまったカンパネラ学園未確認生物捜索隊は、内輪揉めをした挙句廃部になったとか。
 まあ、それは憐とソニアには無関係の出来事であろう――多分。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gb0002 / 最上 憐 / 女 / 10 / サンタ捕獲者 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもソニアがお世話になっておりますv 周利でございます。
 丸投げなんてとんでもない! 楽しいお題をありがとうございました♪

 こともあろうにサンタさんを捕獲!
 ‥‥という事で、サンタさんには割とオーソドックスなタイプでご登場いただく予定だったのですが、途中で脱線しましてこんな形に収まりました。
 カンパネラ学園未確認生物捜索隊‥‥何とも胡散臭い連中ですが実在のモデルはありませんのでご安心を(?)
 かなり好き勝手させていただいてしまったかも‥‥すみません! 楽しかったですv
N.Y.E煌きのドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2013年01月17日

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