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『●貴方に贈るおめでとう/百々 清世 』
百々 清世ja3082

 マナーモードにした携帯電話が、プルプルと震えて着信を告げていた。
 不審そうに彼女Aが、此方を見てくる。
 あれ、いつの間にか独占欲……?
 そんな関係だったっけ、俺達――首を傾げながら、百々 清世(ja3082)はディスプレイに表示された名前を見る。
 覗きこんでくる彼女Aの視線から逸らすようにして、立ちあがって通話ボタンを押した。

「やっほー百々、ちょっと良いかな? 頼みがあるんだ」

 聞えて来たのは、悪友であるアラン・カートライト(ja8773)の妹、イヴ・カートライト(jb0278)の声だ。
「んー、イヴちゃん久しぶりー? えー、頼みってなになに?」
 少し沈黙が降りて、どうしたのかな、と首を傾げる。
 後ろでは、ポコポコとストローでアイスコーヒーに息を送っている彼女Aの姿。
 ごめんねー、今は構ってる場合じゃないんだ、と心の中で誠意のない謝罪をする。
「アランの誕生日だけど、サプライズを計画しようと思って。協力してくれないかな?」
 悔しいけど、何だかんだ言っても兄だからね。
「いいよいいよー。おにーさん、それノった。人を集めればいいのかなー?」
「そうだね。人を集めてくれたら、アランは引き止めておくから」

 さて、デートもたけなわですが……なんて切りだした清世を睨みつける彼女A。
 可愛いよ、ごめんね、なんて宥めて頭を撫でながら、どうしようかなぁ――なんて思考を巡らせる。
 人数を集めるのなら、アランも知っている人物でないと話にならない。
 携帯電話を弄りながら、アランの交友範囲を意識しつつメールを送る。

『アランのサプライズバースデー☆ 来る人挙手(`・ω・´)』

 女の子の誕生日パーティじゃないのなら、労力は使いたくないけれど、イヴの頼みだし。
 そんな事をぐるぐると考える。
 直ぐにメールの到着を告げる携帯電話、暇じゃないのかきみ達。
 などと携帯電話にツッコミを入れてみるけれど、どうせ楽しむのだから理屈は抜き。
 自然と笑いながら、メンバーに目を通す。
 一番に入って来たのは、七種 戒(ja1267)からのメールだ。
「シュギョー死ぬ! 誕生日パーティ、行く!」
 随分と某先生にしごかれているようだ、頑張って、と返信しながら桝本 侑吾(ja8758)のメールが入ってきた。
 アランとは同寮同室、あまり帰ってなさそうだから忘れられてないかと考えたものの、無駄な心配だったようだ。
 ポラリス(ja8467)の返信は、キラキラとしたデコメが一杯。
 用件だけの仁科 皓一郎(ja8777)のメール、紫ノ宮莉音(ja6473)のメールには何故か、猫画像。
 でも、和む。
 戒からのメールに、クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)も参加する事が書かれていた。

『ありがとー(*≧∇≦) 参加者は――』

 参加者についての質問に、返信するべく文字を打ち込む。
 そんな事をしている間に、クインからメールが入ってくる……スクロールすれば、続いて書かれた『モデル』の話。
 プレゼントについては書かれていなかったが、絵でもプレゼントするのかもしれない。

『人数確保したよー+.゚(*´∀`)b』

 集まった数は、自分やイヴ、アランを入れて9人だ。
 十分、華やかなパーティになるだろう。

『あ、クインちゃんがイヴちゃんにモデルになって欲しいって、頑張って(`・ω・´)』

 イヴへと返信、クインのメールアドレスは、教えても良いようなので添付済み。
 さて、プレゼントは何買いにいくかなーと、清世は伸びをする。
「あれ、七種ちゃんからメール来てる」
 スクロールすれば、清にぃ、デートしようぜ☆ と言う戒のお誘い。
 両者に恋愛感情が無いのは、百も承知、とは言え女の子とのデートは楽しみである。

『勿論いいよー+.゚(*´∀`)b』
『迎えに来て欲しいな』

 お願い、と言われれば断らないのが男である。
 即座に了解の返事を送れば、嫉妬に目を光らせる彼女Aが此方を睨んでいた。

(「遊びだから、お互いいいじゃんねー」)

 そろそろ、潮時かな、と考えつつ清世は彼女Aを家まで送り届けると、バイバイ、と笑って見せるのだった。



 誕生日当日。
「七種ちゃん、お待たせー」
 バイクに乗って戒の寮まで向かう……戒は既に外で待っており、何やら行き交う人々に熱い視線を注いでいた。
 美人ウォッチングだろうか。
「え、まさかのバイク! 乗りたい!」
 バイクを見て目を輝かせる戒、それに対し清世は首をかくりと傾げながら。
「ん、乗ってくん? いいけど、寒くね?」
 太陽が臍を曲げているような空――天気予報では午後から雪を告げていた。
 清世は革のグローブとジャケットで防寒装備バッチリ、だが――戒は乗る、と言うと一旦部屋に引っ込んだ。
「マフラー巻くし大丈夫!」
 戒の瞳の色とお揃いの色をした、青いマフラー。
 まあ、いいか……と清世は頷いた、万が一、寒かったり怖いようなら何処かの駐輪場に入れれば良いし。
「此れがバイクか……ツーリングデートとか、憧れだよ!」
「七種ちゃん、しっかり掴まっててねー」
 感極まっている様子の戒に、此処まで喜ばれるとくすぐったいかも、と思いつつ清世がアクセルを回す。
 加速する車体と、流れていく景色……戒が慌てて清世にしがみついた。
 何処に行こう……聞くのを忘れたな、と思いだせば、トントンと戒が清世の背を叩く。
 信号待ちで止まり、耳を寄せた。
「タイピンにしようと思うんだ、アランの誕生日プレゼント」
「いーんじゃない? お、加速するよー」
 信号が赤から青へ、戒がしがみ付くのを待って、清世が加速する。
 タイピンなら、アクセサリーショップだろうか……?
 学生でも買える、手頃なアクセサリーショップの並ぶショッピング街へとバイクを走らせた。
 メンズものとは言え、何時も女性に連れ回されているのが功をそうしたのかもしれない。
 清世のバイクは滑らかに動き、少しの迷いもなかった。

「おお、どれが良いかな?」
 メンズ用品のショーケースを見て回りながら、戒が口を開いた。
 ショーケースに息が吹きかかり、白く濁る。
「んー、何でもいいんじゃない?」
 適当に指差し見てみれば、あれは何だか似合わない……と却下の言葉が返ってきた。
 女性のショッピングに付き合うと長い……とは誰にでも当てはまるものだ、と清世は独り呟く。
「やっぱり、イギリスっぽいのがいいよな――」
 薔薇のタイピン……と考えて探してみるが、良いデザインはなさそうだ。
 ならば、何が似合う――と顔を見合せ考える。
「今人気なのは、此方のクラウンタイプのタイピンですね」
 黒のマーメイドスカートを穿いた女性が、笑顔で一つのピンを進める。
 細いチェーンで赤い色の石が繋がっていた、ルビーではなく、キュービックジルコニアらしい。
「うん、此れにする」
 プレゼント用に包んで貰い、二人は店を後にするのだった。

 ポップでビビットカラーが華やかな、輸入雑貨を取り扱う店内で。
「おー、それ、いいんじゃね?」
「仏像とか。ほら、仏像ストラップ」
 似合いそう、と顔を見合わせて笑い転げる――某ゲームのキャラの帽子。
 何だか、キノコを食べたら大きくなりそうである。
「裸エプロン!」
「何だか嫌だ、確かに裸エプロン」
 でもどこか決まらない――女体カップに手を伸ばすが、ゴミ箱行きのようなそんな気がして。
 何にするっかなー?、と呟いた清世の瞳がキラリ、と光った。
「お?」
 視線の先、ロリポップタワー、パーティグッズで大活躍のアイツである。
「これするー」
「お、じゃあソレにコレ隠しちゃえ」
 戒がガサガサとラッピングの袋を開けて、ロリポップの一つを取る。
「待って、七種ちゃん。まだ会計してない!」
「忘れてた!」
 レジを通して、改めてタイピンを隠す。
 何時気付くか……アランの家に向かうバイクの上でも、二人は小刻みに震えては笑いを堪えるのだった。



『皆、準備いいー? 今から、アランちゃんの家に乗り込みに行きます(`・ω・´)』

 清世からのメールを受信し、それを確認する。

『ちなみに、俺は七種ちゃんと一緒にバイクに乗ってるから。分からない人は――』

 まるで引率の先生のようだ、と気配りを忘れない清世に感心しつつクインは待ち合わせ場所へと向かう。
 流石に、アランの家までは知らないし、それは他の参加者も一緒だろう。
「やぁ、クインちゃんー」
「久しぶり、戒と一緒だったんだ」
 バイクの後ろに乗った戒が、青いマフラーを巻きなおしながら頷いた。
「清にぃと、バイクデートだ」
「……百々は何時も、戒が迷惑をかけていて済まないね」
「そんなこと無いよー」
 カツカツとヒールの音が響いてくる、そこに顔を覗かせたのは今日も綺麗にメークをしたポラリスだ。
「こんにちは。ポラリスよ、よろしくね」
 楽しみだな……と呟いて、ポラリスが首元のネックレスを弄る。
「はじめまして、クインV・リヒテンシュタインです」
「おー、集まってるな。仁科 皓一郎だ」
 咥え煙草で、長身なのは皓一郎だ、その隣には、莉音がこんにちはーと間延びした声で続く。
「にっしーに、りおちゃん、久しぶりー。あ、まっすん」
「俺が最後? 桝本 侑吾、よろしくな」
 ラフな格好で現れた侑吾が、ポリポリと頭を掻いた。
 その度に、シルバーアクセサリーが揺れる。
「じゃあ、カートん家行くか」
 皓一郎が口を開いた、確かにいつまでも外でいる必要はないだろう。
「おにーさんのバイクに、付いてきてねー」
 清世が先導するようにバイクを押し始める、そのやや後ろをのんびりと一同は付いていくのだった。



 太陽が沈んで、赤と紫と桃色の混じった切ない色に代わる。
 はらはらと降り始めた白い雪は、明日には積もるかもしれない。
「夜くらい、ロマンチックにするか……」
 そう言って立ちあがったアランは、チャイムが鳴って首をひねった。
 ろくにカメラも見ず、返事を返してドアを開ける――そうすれば。

「おう、カート。暫くぶりだな」
 煙草を指先で弄びながら、皓一郎がアラン、そしてイヴに視線を移した。
 その後ろから、ひょっこりと顔を出した莉音は、ふにゃり、と相好を崩して笑う。
「おめでとうございますー」
「おめでとうよ」
「僕からはグラスですよー♪」
 皓一郎と莉音が、それぞれ生まれ年のワインとグラスを差し出す。
 アランの生まれ年に作られたワインに、可愛い切子のグラスだ。
 繊細にラッピングされたプレゼントを見、アランは漸く理解した。
 ――もしかしたら、理解していたのだが認識するのが遅れただけかもしれない。
「……デートして来たのか? 素敵なセットだな。早速、今度楽しむとしよう」
「デートじゃないですよ」
 莉音がそんな目で見ないでくださいよー、とやはり、ふにゃり、と言った。
「おたおめー」
「コレ、二人からな!」
 清世と戒が差し出したのは、ロリポップタワーだ。
 ビビットカラーが、宝石のように詰め込まれている。
「パーティにはピッタリでしょ?」
 ドヤ顔の清世に、アランが苦笑する――確かに、パーティにはピッタリだ。
「お前らな……。流石だ、愛してるぜこの野郎」
 早速一つ、と手にしたアランは、イヴへ、ポラリスへ、戒へと女性に渡してから、そして皓一郎へ、莉音、クイン、侑吾へと配っていった。
「ん? ――成程、これは戒だな。愉快な事しやがって、バーカ」
 憎まれ口を叩きつつも、アランの表情は珍しく柔らかなものだった。
 気付いた者も、気付かない者も、何となく彼が浮かれている事を知って笑みを浮かべる。
「君が欲しいものを考えてみたんだ。ケースはいつか、君に合う最高の眼鏡が見つかったら使ってよ」
 クインが堂々たる仕草で、アランへと眼鏡ケースを差し出す。
 ワインレッドの眼鏡ケースを手にしたアランは、中を見、クインへと視線を送る。
「お前、天才か?」
「その通りだよ」
「流石は俺の妹だ、世界一眼鏡が似合う。素晴らしい。毎日持ち歩くわ」
 その通り、の言葉を静かに流されてクインが眼鏡を寂しげに曇らせた――イヴが苦笑して見せる。
「プレゼンとはわ・た・し……が、かけてる眼鏡でーす」
 次は私、と中々タイミングを掴めなかったポラリスが漸く口を開いた。
「お誕生日おめでと! いつも遊んでくれてありがとね……えーと、うふふ!」
「何だよ、遂に嫁に来るかと思ったのに。眼鏡も似合うイケメンだろ?」
 眼鏡をかけて、笑って見せるアラン、その笑みが何処か悪戯っぽいのは彼の持つ悪魔的な雰囲気故か。
 誤魔化した様な笑みを浮かべていたポラリスは、少し照れながら嫁にはいきませーんと微笑えむ。
 そして、ずい、とリボンを付けただけのラッピングの施されていないワイン瓶を差し出したのは侑吾だ。
「お誕生日おめでとう。こういうのでいいのかわかんないけれど、とりあえず」
「そんなに俺はワイン好きな印象か。生まれ年とか洒落てるな、意外だ」
「あぁ、勿論後で俺もそのワイン飲ませてくれ。というか、もうここで開けようぜ」
 誰か振っちゃえ振っちゃえ、と野次が飛ぶ。
「振っても溢れねーよ」
 シャンパンじゃないんだ、とアランが苦笑するが、ならば私がやる! と戒が進みでる。
「味は、変わるのか――?」
「二本あるし、飲み比べしよーぜ」
 侑吾が遠慮など無い、とばかりにアランの持つもう一つのワインへと視線を向ける。
「中に入ってからな。お前らどうせこの後予定ねえだろ? 来いよ、酒でも出してやるさ」
 少しだけ、照れて、バツが悪そうに視線を逸らす。
 勿論そのつもりだ、と言わんばかりに来訪者達はガヤガヤと中に入るのだった。



 中に入れば、イヴが作った料理を披露する。
 クリスマスの飾りなどはなかったが、それでも華やかな雰囲気が満ちていた。
「温めればいいものだけしか、作ってないけど……皆、ゆっくりしていってね」
「可愛こちゃんの、手料理、だと……? 腹がはちきれるまで食べるぞ」
 戒の言葉に照れたように笑いながら、料理を温めていくイヴ。
 アランが人数分のワイングラスを出すと、ワインを注いでいった。
 当然、アラン自身は莉音のプレゼントしたグラスを使っている――それを見た莉音が嬉しそうに笑う。
「気に入って貰ったみたいなんで、良かったです」
「おう、毎日使うわ」
「カート、忘れものだ」
 そう言って皓一郎がいきなり付きつけたぬいぐるみに、アランの手が止まった。
 もふもふとしたぬいぐるみに顔面を押し付けられている為、息が出来ない。
 眼鏡がはずみでずれて、クインが嗚呼、と嘆いた。
「眼鏡が……!」
「クイン、そこかよ」
 受け取ったアランの表情は微妙なものだったが、ぬいぐるみを受け取りありがとう、と礼を述べる。
 ぐったりとくたびれた感じのパンダは、爪が鋭くとがっている。
 それを見て、皓一郎と莉音は悪戯っぽく顔を見合わせた。
「あー、腹減った。もう食っていい?」
 侑吾の言葉に、もう食べていいよ、とイヴが頷いた。
 乾杯の音頭を取るのは清世だ、ワイングラスを掲げる――勿論、未成年にはジュースだ。
「じゃあ、めりくりー。ついでに、アランちゃんおたおめー、乾杯!」
「ついでかよ」
 思わずアランがツッコミを入れるが、そんな言葉は聞いちゃいない。

 乾杯! Cheers!

 日本語と英語の言葉が混ざり、グラスが音を立てる。
「おいしー! ねえ、今度お料理教えて!」
 ポラリスがシェパードパイを食べ、目を輝かせる。
 丁寧にすりつぶされたジャガイモと、チーズ、そして挽き肉がジューシーだ。
「うん、勿論構わないよ。口にあうかな?」
「ええ。とっても美味しい。これ、何と言う料理?」
 料理談義に華を咲かせる二人、イヴの頭をぽん、と撫でて皓一郎が口を開いた。
 鋭い抗議の視線が、アランから浴びせられる。
「イヴは久しぶりだねェ……元気、してたか? 阿呆、睨むんじゃねェよ、カート」
「それにしても、カートライトさんの料理、美味しいな」
 食ったこと無かったけど、と付け足した侑吾に、そんなに頻繁に食っていてたまるか、と返ってくる。
 本日も、シスコンは大いに発揮されているようだ。
「鬱陶しいから黙って」
 その言葉もイヴの一言で沈黙する――先程までポラリスと料理について話していたようだが、今は莉音も混ざっているようだった。
「こんなにたくさんお料理、すごいな――それに、どれも美味しい」
「まあ、兄だからね。頑張ったよ」
 苦笑染みた笑みに首を傾げながら、莉音はローストビーフを口に入れる。
「あ、あちちっ!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫やけど……」
「お水いる?」
 ポラリスの差し出す水を受け取り、莉音は一息ついた。

 アランが立ちあがった隙に、清世がイヴの頭に手を伸ばした。
「カートが五月蠅せぇんじゃないのか?」
 皓一郎の言葉に、労わりですー、と清世は軽く返す。
「引き止めおつかれー」
「清世も、協力ありがとう」
「へぇ、カートライトさんが企画したのか」
 侑吾が新しいワインを空けながら、口を開いた。
「凄いですねー。僕、こう言うパーティ好きなんです」
 莉音の言葉に、良かった、とばかりにイヴが微笑んだ。
「人が集まらなかったら、どうしようかって……」
「アランさん、愛されているのね――」
 ポラリスがくすくす、と微笑んだ……メークを気にしてか、少食である。

「このワイン、美味しいな……」
「まっすん、ザルだから飲みすぎるなよー」
 水のように飲んでいく侑吾に、清世が釘をさす。
「くぅ、酒が飲めないのが辛い……」
 悔しがる戒に、清世がグレープジュースを注いで差し出しながら。
「成人したら、おにーさんと飲もうねー」
「清にぃ、さすがだ!」
 その言葉に、静かに立ち上がる影が一つ――。
 そうだ、と彼は呟いた。
「この場にいる全員、眼鏡をかけるんだ!」

「断る」

 満場一致の拒否、ぱりん、とクインの眼鏡が砕けた。
「でも、お洒落眼鏡ってありかな」
 ぽつりと零したポラリスに、そうだよ! と再びクインが立ち上がる。
「クイン頑張れ。だが、私は助けない」
 阿呆の子を見るような視線を注ぐ戒の視線も、ものともしない。
 クリスマス・イヴでもクインの眼鏡愛は絶好調だった――やがて、飲み干されたワイン瓶が幾つも出てくる。

「カート、もうないのか?」
 皓一郎に問いかけられて、何だか一人だけアウェーを感じながらアランは首を横に振った。
「いや、まだある」
 祝われている、のは分かるのだが――何だか、何時もの飲み会になっているような、そんな気がしない事もない。
「まあ、いいか」
「ワイン持ってくる。邪魔だから座ってて」
「イヴはいい子だな――」
 直ぐ様、イヴが反応してワインセラーへと足を向けた。
 その背中を追いかけるようにして、アランは声をかける。
「ありがとな。でも、イヴもしっかり食べろよ」
「……セクハラ」
 返ってきた言葉は、やっぱり何時ものように棘のビッシリ付いたものだった。

 料理がどんどん消費されて、ワインが飲み干される。
「十分、堪能した感じだな……」
 戒が一息ついて、最後のフライドチキンに齧りついた。
「イヴちゃんの料理、美味しいよね」
「ありがとう」
「あ、そうそう、僕……カード持ってきたんだった」
 莉音が差し出したのは、白いクリスマスツリーの描かれた可愛らしいカード。
「メリークリスマス!」
 一人一人に渡していく……。
「お、ありがとう。やっぱり莉音は可愛いな!」
 戒が笑顔で其れを受け取り、清世が軽くカードを撫でる。
「めりくりー」
「可愛いカードね」
「うん、素敵」
 ポラリスとイヴが顔を見合わせ、クインが思わず呟いた。
「僕なら、此処に眼鏡を付け足すね――」
「……うん、クイン君なら言うと思ったから」
 メッセージ欄に描き込まれた眼鏡に、クインも笑みを堪え切れない。
「あ、カードか」
 皓一郎がカードを受け取り、ふぅん、と呟いた。
「洒落ているな」
 と一言だけ、返ってくる。
「ああ、大切にするぜ」
 アランも受け取る、癖のある丸文字で『Merry Christmas&Happy Birthday!』の文字が書かれていた。

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろお開きにしまーす。女の子は帰って寝ないとね!」

 お肌に悪いよ、と清世が笑いかける。
「うん、そろそろ帰るか……ああ、おめでとう」
 面と向かって言うのは恥ずかしいから、戒が去り際にアランへと声をかける。
 瞬いて、そして微笑を浮かべ、アランが言った。
「バーカ」
「この一年も色々遊ぼうな! あと妹さんください、すげえ美人だな!」
 いきなりキリッ、とした戒に『断る』とばかりにイヴの前に立ちふさがるアラン。
 いつもこんな調子だろうな――と侑吾が、静かに笑う。
 飲み干されたワイン、空っぽの皿。
 それでも心の中に、温かいものが残っているのは――人の温かさ、と言うものか。
(「戒さん、やっぱり変わらんなぁ――」)
 莉音が苦笑を浮かべる、アランがイヴの肩に手を回すが、それをイヴが弾いた。
 きっと、自分には判らない絆と言うものがあるのだろう。
「帰るか」
「はいー」
 上機嫌で鼻歌を歌う莉音を見、やっぱ面白いわ、と皓一郎が呟いた。
「七種ちゃん、行くよー」
「じゃあ、次は妹さん貰いに行くわ!」
「来るな、渡さん」
 一人二人、帰っていくパーティ客――さて、お姫様のエスコートと行きましょうか。
 とばかりに、清世はゆっくりアクセルを回すのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb0278 / イヴ・カートライト / 女性 / 19 / インフィルトレイター】
【ja8758 / 桝本 侑吾 / 男性 / 21 / ルインズブレイド】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男性 / 24 / 阿修羅】
【ja8087 / クインV・リヒテンシュタイン / 男性 / 16 / ダアト】
【ja6473 / 紫ノ宮莉音 / 男性 / 13 / アストラルヴァンガード】
【ja8467 / ポラリス / 女性 / 16 / インフィルトレイター】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
【ja1267 / 七種 戒 / 女性 / 18 / インフィルトレイター】
【ja8777 / 仁科 皓一郎 / 男性 / 26 / ディバインナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

百々 清世様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

勝手に百々様の日常風景をイメージして、描写してみたのですが如何でしたでしょうか……?
サプライズ協力者、と言う事で百々様には、随所で活躍して頂きました。
皆様と異なった部分も多いので、そちらもお楽しみください。
9名様それぞれが、生き生きしているノベルになっている事を祈って――。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月17日

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