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『●貴方に贈るおめでとう/イヴ・カートライト 』
イヴ・カートライトjb0278

 一年に一度の誕生日を、幸せに過ごして欲しい……そう思うのは、らしくないだろうか?
 イヴ・カートライト(jb0278)が見つめるカレンダーの日付。
 それは、母違いの兄である、アラン・カートライト(ja8773)の誕生日。

 ――12月24日。
 その日を語るには、少しだけ時を遡る。

「やっほー百々、ちょっと良いかな? 頼みがあるんだ」

 呼びだしたのは、アランと仲の良い友人である百々 清世(ja3082)だ。
「んー、イヴちゃん久しぶりー? えー、頼みってなになに?」
 何時もの通り、明るくてやわらかな声が電話越しに返ってくる。
「アランの誕生日だけど、サプライズを計画しようと思って。協力してくれないかな?」
 悔しいけど、何だかんだ言っても兄だからね。
 そう言って笑いながら、清世の返事を待つ。
「いいよいいよー。おにーさん、それノった。人を集めればいいのかなー?」
「そうだね。人を集めてくれたら、アランは引き止めておくから」

 そんな電話をしたのが、少し前。

『人数確保したよー+.゚(*´∀`)b』

 清世の人脈が凄いのか、アランの人脈が凄いのか――七種 戒(ja1267)と仁科 皓一郎(ja8777)とはイヴも顔見知り。
 だが、クインV・リヒテンシュタイン(ja8087)と紫ノ宮莉音(ja6473)に、ポラリス(ja8467)や桝本 侑吾(ja8758)の名前は初耳だった。
(「アラン、愛されてるんだ……」)

『あ、クインちゃんがイヴちゃんにモデルになって欲しいって、頑張って(`・ω・´)』

 参加者の名前を復唱し、スクロールしてみればそんな追伸。
 メールアドレスを選択し、恐る恐る返信を返す。
 何しろ、モデル? そんな事は初めてだ。
 クインからの返事は直ぐに返ってきた……丁寧な文面に、そっと息を吐く。
 午後からでよければ、と言う言葉を快諾する。
(「でも、ちょっと恥ずかしいかな――」)
 何故? それはきっと、似顔絵なんて初めてだから――。
 イヴは軽く首を振って、思考を振り払うと髪の毛を整え、レシピ本を開き料理のメニューを考え始めるのだった。



「やあ、君がイヴさんだね。あぁ、眼鏡を掛けてるともっと……」
 眼鏡、と瞬いたイヴに、眼鏡は奥深いよ――そう言って眼鏡の歴史は13世紀、などなど。
 語りはじめようとしたクインは、違う違う、と一人呟いた。
 面白い人だ、なんて小さく笑ったイヴに、クインは不思議そうに眼鏡の奥の瞳を瞬かせる。
「君のお兄さんの誕生日祝いに、ジッポを贈ろうと思ってね。君をデッサンをさせて欲しいんだけどいいかな?」
「勿論。態々馬鹿の為に有難うね、わたしに出来る事なら何でもするよ」
 ありがとう、と礼を述べたイヴに、クインはふふふ、と妖しく笑う。
 眼鏡がキラリン、と光った――良く光る眼鏡だ。
「僕は天才だから、デッサンも素晴らしい腕前なのさ」
 自信満々なその言葉に、イヴも少しだけ笑みを零した……言われるがまま、椅子に腰かけてクインの方を向く。
 スケッチブックと、鉛筆を取り出したクインは立ったり座ったり、イヴの顔を確認しながら白い紙に鉛筆を滑らせた。
 あやふやな線が、次第にハッキリとした実線へと変わっていく。
 勿論、イヴの場所からは想像するしかないが、クインの表情を見る限り一生懸命に書いてくれているのだろう。

 顔を上げて、と言われて顔を上げ、少しだけ胸を張る。
 描いて貰うのなら、最高に素敵でいたい――そう思うのは、滑稽だろうか?
「固くならなくていいよ。自然なままでさ」
「うん、わかったよ」
 小さく深呼吸すれば、新鮮な空気が胸を満たしてじんわりと広がっていく。

「ふふふ……出来た!」
 どうだい? そう言ってクインの差し出すスケッチブックを受け取り、そこに描かれた『自分』を見る。
 少しだけ強張った表情は、優しく笑みの形に結ばれた口元が和らげていた。

「眼鏡? 君の眼鏡を貸してくれたら掛けたのに……素敵な眼鏡だ。今度、わたしにも何か選んでくれる?」
 柔らかなオーバルの眼鏡を掛けたイヴ、思わず呟いたイヴにクインは直ぐ様反応した。
「それはいい。眼鏡をかける人が増える――それは世界平和への一歩だ。勿論、喜んで選ぼう」
 まだ見ぬ眼鏡が、きみを待っているさ、とクインが自慢げに笑う。
 その瞳、否、眼鏡にはイヴに最適な眼鏡が見えているかのようだった――実際に、見えているのかもしれない。
「さあ、僕はこのデッサンを元に、眼鏡を作って貰いに行って来るよ……眼鏡を選ぶ時は、いつでも言って欲しい」
 携帯電話を振りながら、クインがお邪魔しました――とイヴの部屋を後にする。
 ストラップには、黒ぶちの眼鏡のストラップが光っていた。
 賑やかな人だったな――そう思いつつ、買い出しに向かおうと広げたままのレシピ本を手に取った。
(「アランは、何が好きだったかな? ワインなら、肉料理?」)
 好みが変わっているかもしれない、と脳裏を掠める不安。
 それは、手に力を入れる事でやり過ごし、シェパードパイのページに折り目をつける。

(「まあ、あの馬鹿なら、食べてくれるだろうけど」)

 ローストビーフも付け足そう、イヴはそう考えながら鞄を片手に、部屋を後にするのだった。



 一軒家のチャイムを鳴らせば、穏やかな声が返ってきた。
 モニターに自分の姿が映っている事を知って、イヴは舌打ちをしたくなる。
 ――苛立ち紛れに、カメラを睨みつけてみるがそれは、直ぐに開いたドアと、現れたアランによって阻まれた。
 いきなり来たにもかかわらず、髪の毛に寝癖一つ付いていない。
 ……悔しいし、不本意だが、格好良かった。
「イヴ、よく来たな!」
 イギリス式の抱擁を交わすようにして、身体を滑らせる。
 面食らったアランは、決まり悪そうに、それでも何事もなかったかのように髪を整えるとイヴを振り返った。
「やっぱりいると思った」
「ああ、でも丁度、出かけようと思ったんだ。なあ、イヴ、デートしないか?」
 今日はクリスマス・イヴだな、と肩を抱いてくるアランの手を振り払う。
 最早、恒例のやり取りとも言えるスキンシップと、その拒否にアランがめげる事はない。
「面倒臭いなあ、そんなに出掛けたいなら一人で行ったら?」
「おいおい。今日はクリスマス・イヴだぜ?」
「だからどうしたの。……鬱陶しい、ちょっと離れてくれ。それより、来客をもてなさないって紳士としてどうなの」
 あたしは客だけど、と冷たい声で告げれば、アランは納得したようでティーセットを持ってくる。
 部屋の中は温かい癖に、生活感が稀薄だった……だが、此れがアランの部屋だと言われれば納得してしまう。
「今日は、ずっと二人で過ごせるよな……?」
 深みのある赤は、ワインではなくアールグレイだ、シトラスの香りが鼻孔をくすぐる。
 それを一口飲みながら、イヴは革張りのソファに腰かけて首肯した、面倒くさそうに見えるように。
「そうだね。あたし、寒いの嫌だし」
「ああ、こう言う日は家の中が一番だ……冬の乾燥は肌に悪い」
 そう言いながらも、アランの視線は携帯電話に時折、注がれている。
「さっき、外に行きたいって言った馬鹿、誰だった?」
「はは! イヴの傍にいられるなら、家の中でもいいさ。まあ、寒くても手をつなげば温かいんだけどな」
 そっとアランがイヴの手を握る。

「くたばれば良いのに……」
「イヴがいるのに、死ぬかよ」

 嘘つき、と口にしそうになって、唇を強く結ぶ。
 振り払った手が寒くて、凍え死ぬような気がした――手から侵食されて。
「エアコン、効いてないんじゃないのかい?」
「じゃあ、もう少し温度を上げよう」
「きみはもう少し、脳内の温度を下げた方がいいと思うよ」
 手厳しい、とアランは苦笑したようだった。

(「……可哀相な人」)

「なあ、イヴ。膝枕してくれ」
「嫌だ、断る。クッションでも抱いて寝てろ」
 早く時間が過ぎてくれ、と心の中で懇願する……誰にかも分からない願い。
 優しい笑顔を浮かべていても、きっと自分は傷つけてしまうから、と。

 メーク直しと嘯いて、席を立ったイヴは用意してきた料理達を並べていく。
 メークの下が見たい、などと無粋な事はしないとわかっていたから、この嘘はとても有効的だった。
 ローストビーフにシェパードパイ、ハギスとポテト、フライドチキンも忘れずに。
 サラダは魚介を使ったものと、フルーツを入れたもの。
 ヨークシャー・プディングとスコーンの二種類のパン。
 ポタージュスープ。
 どれもこれも、オーブンで温めれば美味しく食べられるだろう。

(「クリスマス・プディングは冷蔵庫にいれておくか……」)

 冷蔵庫は物足りない程に空いていた。
 栄養状態を心配したくなるが、黙ってクリスマス・プディングを冷蔵庫に入れる。
 戻ってみれば、遅かったな、とアランは携帯電話をテーブルの上に置いた。



 太陽が沈んで、赤と紫と桃色の混じった切ない色に代わる。
 はらはらと降り始めた白い雪は、明日には積もるかもしれない。
「夜くらい、ロマンチックにするか……」
 そう言って立ちあがったアランは、チャイムが鳴って首をひねった。
 ろくにカメラも見ず、返事を返してドアを開ける――そうすれば。

「おう、カート。暫くぶりだな」
 煙草を指先で弄びながら、皓一郎がアラン、そしてイヴに視線を移した。
 その後ろから、ひょっこりと顔を出した莉音は、ふにゃり、と相好を崩して笑う。
「おめでとうございますー」
「おめでとうよ」
「僕からはグラスですよー♪」
 皓一郎と莉音が、それぞれ生まれ年のワインとグラスを差し出す。
 アランの生まれ年に作られたワインに、可愛い切子のグラスだ。
 繊細にラッピングされたプレゼントを見、アランは漸く理解した。
 ――もしかしたら、理解していたのだが認識するのが遅れただけかもしれない。
「……デートして来たのか? 素敵なセットだな。早速、今度楽しむとしよう」
「デートじゃないですよ」
 莉音がそんな目で見ないでくださいよー、とやはり、ふにゃり、と言った。
「おたおめー」
「コレ、二人からな!」
 清世と戒が差し出したのは、ロリポップタワーだ。
 ビビットカラーが、宝石のように詰め込まれている。
「パーティにはピッタリでしょ?」
 ドヤ顔の清世に、アランが苦笑する――確かに、パーティにはピッタリだ。
「お前らな……。流石だ、愛してるぜこの野郎」
 早速一つ、と手にしたアランは、イヴへ、ポラリスへ、戒へと女性に渡してから、そして皓一郎へ、莉音、クイン、侑吾へと配っていった。
「ん? ――成程、これは戒だな。愉快な事しやがって、バーカ」
 憎まれ口を叩きつつも、アランの表情は珍しく柔らかなものだった。
 気付いた者も、気付かない者も、何となく彼が浮かれている事を知って笑みを浮かべる。
「君が欲しいものを考えてみたんだ。ケースはいつか、君に合う最高の眼鏡が見つかったら使ってよ」
 クインが堂々たる仕草で、アランへと眼鏡ケースを差し出す。
 ワインレッドの眼鏡ケースを手にしたアランは、中を見、クインへと視線を送る。
「お前、天才か?」
「その通りだよ」
「流石は俺の妹だ、世界一眼鏡が似合う。素晴らしい。毎日持ち歩くわ」
 その通り、の言葉を静かに流されてクインが眼鏡を寂しげに曇らせた――イヴが苦笑して見せる。
「プレゼンとはわ・た・し……が、かけてる眼鏡でーす」
 次は私、と中々タイミングを掴めなかったポラリスが漸く口を開いた。
「お誕生日おめでと! いつも遊んでくれてありがとね……えーと、うふふ!」
「何だよ、遂に嫁に来るかと思ったのに。眼鏡も似合うイケメンだろ?」
 眼鏡をかけて、笑って見せるアラン、その笑みが何処か悪戯っぽいのは彼の持つ悪魔的な雰囲気故か。
 誤魔化した様な笑みを浮かべていたポラリスは、少し照れながら嫁にはいきませーんと微笑えむ。
 そして、ずい、とリボンを付けただけのラッピングの施されていないワイン瓶を差し出したのは侑吾だ。
「お誕生日おめでとう。こういうのでいいのかわかんないけれど、とりあえず」
「そんなに俺はワイン好きな印象か。生まれ年とか洒落てるな、意外だ」
「あぁ、勿論後で俺もそのワイン飲ませてくれ。というか、もうここで開けようぜ」
 誰か振っちゃえ振っちゃえ、と野次が飛ぶ。
「振っても溢れねーよ」
 シャンパンじゃないんだ、とアランが苦笑するが、ならば私がやる! と戒が進みでる。
「味は、変わるのか――?」
「二本あるし、飲み比べしよーぜ」
 侑吾が遠慮など無い、とばかりにアランの持つもう一つのワインへと視線を向ける。
「中に入ってからな。お前らどうせこの後予定ねえだろ? 来いよ、酒でも出してやるさ」
 少しだけ、照れて、バツが悪そうに視線を逸らす。
 勿論そのつもりだ、と言わんばかりに来訪者達はガヤガヤと中に入るのだった。



 中に入れば、イヴが作った料理を披露する。
 クリスマスの飾りなどはなかったが、それでも華やかな雰囲気が満ちていた。
「温めればいいものだけしか、作ってないけど……皆、ゆっくりしていってね」
「可愛こちゃんの、手料理、だと……? 腹がはちきれるまで食べるぞ」
 戒の言葉に照れたように笑いながら、料理を温めていくイヴ。
 アランが人数分のワイングラスを出すと、ワインを注いでいった。
 当然、アラン自身は莉音のプレゼントしたグラスを使っている――それを見た莉音が嬉しそうに笑う。
「気に入って貰ったみたいなんで、良かったです」
「おう、毎日使うわ」
「カート、忘れものだ」
 そう言って皓一郎がいきなり付きつけたぬいぐるみに、アランの手が止まった。
 もふもふとしたぬいぐるみに顔面を押し付けられている為、息が出来ない。
 眼鏡がはずみでずれて、クインが嗚呼、と嘆いた。
「眼鏡が……!」
「クイン、そこかよ」
 受け取ったアランの表情は微妙なものだったが、ぬいぐるみを受け取りありがとう、と礼を述べる。
 ぐったりとくたびれた感じのパンダは、爪が鋭くとがっている。
 それを見て、皓一郎と莉音は悪戯っぽく顔を見合わせた。
「あー、腹減った。もう食っていい?」
 侑吾の言葉に、もう食べていいよ、とイヴが頷いた。
 乾杯の音頭を取るのは清世だ、ワイングラスを掲げる――勿論、未成年にはジュースだ。
「じゃあ、めりくりー。ついでに、アランちゃんおたおめー、乾杯!」
「ついでかよ」
 思わずアランがツッコミを入れるが、そんな言葉は聞いちゃいない。

 乾杯! Cheers!

 日本語と英語の言葉が混ざり、グラスが音を立てる。
「おいしー! ねえ、今度お料理教えて!」
 ポラリスがシェパードパイを食べ、目を輝かせる。
 丁寧にすりつぶされたジャガイモと、チーズ、そして挽き肉がジューシーだ。
「うん、勿論構わないよ。口にあうかな?」
「ええ。とっても美味しい。これ、何と言う料理?」
 料理談義に華を咲かせる二人、イヴの頭をぽん、と撫でて皓一郎が口を開いた。
 鋭い抗議の視線が、アランから浴びせられる。
「イヴは久しぶりだねェ……元気、してたか? 阿呆、睨むんじゃねェよ、カート」
「それにしても、カートライトさんの料理、美味しいな」
 食ったこと無かったけど、と付け足した侑吾に、そんなに頻繁に食っていてたまるか、と返ってくる。
 本日も、シスコンは大いに発揮されているようだ。
「鬱陶しいから黙って」
 その言葉もイヴの一言で沈黙する――先程までポラリスと料理について話していたようだが、今は莉音も混ざっているようだった。
「こんなにたくさんお料理、すごいな――それに、どれも美味しい」
「まあ、兄だからね。頑張ったよ」
 苦笑染みた笑みに首を傾げながら、莉音はローストビーフを口に入れる。
「あ、あちちっ!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫やけど……」
「お水いる?」
 ポラリスの差し出す水を受け取り、莉音は一息ついた。

 アランが立ちあがった隙に、清世がイヴの頭に手を伸ばした。
「カートが五月蠅せぇんじゃないのか?」
 皓一郎の言葉に、労わりですー、と清世は軽く返す。
「引き止めおつかれー」
「清世も、協力ありがとう」
「へぇ、カートライトさんが企画したのか」
 侑吾が新しいワインを空けながら、口を開いた。
「凄いですねー。僕、こう言うパーティ好きなんです」
 莉音の言葉に、良かった、とばかりにイヴが微笑んだ。
「人が集まらなかったら、どうしようかって……」
「アランさん、愛されているのね――」
 ポラリスがくすくす、と微笑んだ……メークを気にしてか、少食である。

「このワイン、美味しいな……」
「まっすん、ザルだから飲みすぎるなよー」
 水のように飲んでいく侑吾に、清世が釘をさす。
「くぅ、酒が飲めないのが辛い……」
 悔しがる戒に、清世がグレープジュースを注いで差し出しながら。
「成人したら、おにーさんと飲もうねー」
「清にぃ、さすがだ!」
 その言葉に、静かに立ち上がる影が一つ――。
 そうだ、と彼は呟いた。
「この場にいる全員、眼鏡をかけるんだ!」

「断る」

 満場一致の拒否、ぱりん、とクインの眼鏡が砕けた。
「でも、お洒落眼鏡ってありかな」
 ぽつりと零したポラリスに、そうだよ! と再びクインが立ち上がる。
「クイン頑張れ。だが、私は助けない」
 阿呆の子を見るような視線を注ぐ戒の視線も、ものともしない。
 クリスマス・イヴでもクインの眼鏡愛は絶好調だった――やがて、飲み干されたワイン瓶が幾つも出てくる。

「カート、もうないのか?」
 皓一郎に問いかけられて、何だか一人だけアウェーを感じながらアランは首を横に振った。
「いや、まだある」
 祝われている、のは分かるのだが――何だか、何時もの飲み会になっているような、そんな気がしない事もない。
「まあ、いいか」
「ワイン持ってくる。邪魔だから座ってて」
「イヴはいい子だな――」
 直ぐ様、イヴが反応してワインセラーへと足を向けた。
 その背中を追いかけるようにして、アランは声をかける。
「ありがとな。でも、イヴもしっかり食べろよ」
「……セクハラ」
 返ってきた言葉は、やっぱり何時ものように棘のビッシリ付いたものだった。

 料理がどんどん消費されて、ワインが飲み干される。
「十分、堪能した感じだな……」
 戒が一息ついて、最後のフライドチキンに齧りついた。
「イヴちゃんの料理、美味しいよね」
「ありがとう」
「あ、そうそう、僕……カード持ってきたんだった」
 莉音が差し出したのは、白いクリスマスツリーの描かれた可愛らしいカード。
「メリークリスマス!」
 一人一人に渡していく……。
「お、ありがとう。やっぱり莉音は可愛いな!」
 戒が笑顔で其れを受け取り、清世が軽くカードを撫でる。
「めりくりー」
「可愛いカードね」
「うん、素敵」
 ポラリスとイヴが顔を見合わせ、クインが思わず呟いた。
「僕なら、此処に眼鏡を付け足すね――」
「……うん、クイン君なら言うと思ったから」
 メッセージ欄に描き込まれた眼鏡に、クインも笑みを堪え切れない。
「あ、カードか」
 皓一郎がカードを受け取り、ふぅん、と呟いた。
「洒落ているな」
 と一言だけ、返ってくる。
「ああ、大切にするぜ」
 アランも受け取る、癖のある丸文字で『Merry Christmas&Happy Birthday!』の文字が書かれていた。

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろお開きにしまーす。女の子は帰って寝ないとね!」

 お肌に悪いよ、と清世が笑いかける。
「うん、そろそろ帰るか……ああ、おめでとう」
 面と向かって言うのは恥ずかしいから、戒が去り際にアランへと声をかける。
 瞬いて、そして微笑を浮かべ、アランが言った。
「バーカ」
「この一年も色々遊ぼうな! あと妹さんください、すげえ美人だな!」
 いきなりキリッ、とした戒に『断る』とばかりにイヴの前に立ちふさがるアラン。
 いつもこんな調子だろうな――と侑吾が、静かに笑う。
 飲み干されたワイン、空っぽの皿。
 それでも心の中に、温かいものが残っているのは――人の温かさ、と言うものか。
(「戒さん、やっぱり変わらんなぁ――」)
 莉音が苦笑を浮かべる、アランがイヴの肩に手を回すが、それをイヴが弾いた。
 きっと、自分には判らない絆と言うものがあるのだろう。
「帰るか」
「はいー」
 上機嫌で鼻歌を歌う莉音を見、やっぱ面白いわ、と皓一郎が呟いた。
「七種ちゃん、行くよー」
「じゃあ、次は妹さん貰いに行くわ!」
「来るな、渡さん」
 一人二人、帰っていくパーティ客――少しだけ、寂しくなったような気がして。

 ふぅ、と息を付いて座り込んだアランへ、イヴは微笑むと小さくつぶやいた。

「誕生日おめでとう、アラン」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb0278 / イヴ・カートライト / 女性 / 19 / インフィルトレイター】
【ja8758 / 桝本 侑吾 / 男性 / 21 / ルインズブレイド】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男性 / 24 / 阿修羅】
【ja8087 / クインV・リヒテンシュタイン / 男性 / 16 / ダアト】
【ja6473 / 紫ノ宮莉音 / 男性 / 13 / アストラルヴァンガード】
【ja8467 / ポラリス / 女性 / 16 / インフィルトレイター】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
【ja1267 / 七種 戒 / 女性 / 18 / インフィルトレイター】
【ja8777 / 仁科 皓一郎 / 男性 / 26 / ディバインナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

イヴ・カートライト様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

イヴと言う女性のもつ、繊細なイメージを表現したつもりです。
心情や細かな動きから伝わる感情を、捉えて頂ければと思います。
皆様と異なった部分も多いので、そちらもお楽しみください。
9名様それぞれが、生き生きしているノベルになっている事を祈って――。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月17日

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