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『願いの弾丸、誓いの矢、あるいは腐れ縁 つくもん編 』
九十九ja1149


 新春。
 楽しい誘いを受け、心を躍らせる。

 紅が基調中華の中華服は正月用のそれだ。袖を通し、九十九は鏡の前で最終チェック。
「なんだか、不思議な気分さねぇ」
 トレードマークの三つ編みに、赤い髪留め。
 日常の延長線上のはずが、『正月』という単語一つで特別になる。
「にゃー!」
「ん、頼みにしてるさね、ライム」
 三毛猫・ライムを先導に、待ち合わせ時間に十分余裕を持って、九十九は家を出ることとした。
 どれだけ迷子になっても大丈夫であるように。




「よ、今日もまた随分と寒いやなー」
「何故貴様ばかりキャーキャー言われるんだチクショウ!?」
「今日もまた随分と荒々しいのぜ!?」
 顔を合わせるなり、戒に掴みかかられ、遊夜は咽こむ。
「よし、俺もまぜろ!!」
「久遠さーん!?」
 戒に加勢するは栄。何故だ、幾度も戦場を共にし、初日の出を見た間柄ではないか!
「ん…… 明けましておめっとさんさねぇ」
 そこへ気だるげに、眠そうな目をこすりながら九十九が姿を見せた。
 じゃれあいをキパッと止め、いっせいに振り返る友人一同。

「「おー! 明けましておめでとう、ライム!!」」
「にゃー!!」
「……お…… ぉぃ? 新年早々に嫌がらせか? いじめかっ!?」

 九十九は新年一発目のツッコミを切り込んだ。




 気を取り直して。
「あけおめ! 今年もよろしゅーな!」
 深みのある青を基調とした振り袖姿で、黙っていれば大和撫子の七種 戒。
「今年もよろしくなー」
 久遠 栄の紋付袴はレンタル。汚したら買い取り、というフラグもしっかり立ててある。
「改めて、明けましておめでとうだ。来年もよろしゅうに」
 同じくレンタルの黒紋付である麻生 遊夜だが、そんな危険は冒していない。この段階で、既に明暗が分かれている気がしなくもない。
「にゃっにゃー♪」
「ん」
 ごきげんなライムに挨拶を任せ、九十九は手をぱたぱた。
「それじゃ、いざ詣でん、魔王の住みし暗黒の城へ!」
「近所の寂れた神社さね…… なんで正月早々、そんな冒険するのさ」
「つくもん、ここは気分が大事だろー!!」
 この面子では確実にツッコミ役は己ひとり。
 肘で小突く戒を適当に往なしながら、九十九は一年の幕開けもまた日常の一つであると感じた。


 それぞれ学年は違うけれど、入学時期が同じだった四人は同職のインフィルトレイターということも手伝っての腐れ縁。
 恋人が出来たりできなかったり本体が猫になっていたり残念に磨きがかかったり、色んな事を乗り越えて、縁は続く。
 坂道を上り、鳥居をくぐり、すこし傾いだ石段を踏んで。
「久遠ヶ原に、こんな神社があるなんて知らなかったなぁ。初めて来るよ。戒は来たことあるの?」
「ふっ、私の情報網を甘く見てもらっては困るね、さかえん。話に聞いただけで、本当にあるとは驚いた」
「……なんで正月早々、そんな冒険するかね」
 九十九の言葉を借り、遊夜が肩をすくめてみせる。
「にゃにおう!? モテと引き換えに冒険をしなくなるなら私はモテなくてかまわん!」
「はい、言質とったさねー 新年の宣言がそれでいいんか、戒さん」
「ちょ、ちょい待ち、つくもん! 今のは言葉のアヤというモノだ!!」
「俺がモテるのは恋人たった一人で良い…… つまり冒険もやめることはせん!」
「ぐぬぬ…… 遊夜、ちょっとツラ貸せ! あっ、さりげなく輪の外に居るフリをしているが、つくもんもだ!!」
 堂々と男前発言をしてのける遊夜の肩を栄が掴み、そういえば九十九も彼女持ちじゃねーかと振り返る。
「どうでもいいけど…… あれが社殿、かい?」
 石段途中での掴みあいは危険フラグだ。適当に制止の声を挟み、九十九が道の先を指す。
「あっ、ほんとだ! お参り、お参り!!」
「ふむ。その前に手水で清めてからであるな」
「誰がきよずみかぁああ!」
「誰もそうとは言ってない!!」
 歩を早めた戒へ遊夜が呼びかければ、予定調和のやり取りが再開する。
 さて、いつになったら参拝できるのだろう。




 ――ガランガラン
 古びた姿の割に、なかなか良い音で鈴が鳴る。

(美味しいおせちを食べられますように)
 目先の幸せを祈る栄。

(大切な人が幸せでありますように)
 聞かれたら、戒に掴みかかられそうな願いを捧げる遊夜。

(また1年を良かったと思えるように……)
 真っ当な九十九。

「モテたい…… モテたいんや……!」
 声に出てしまっている戒を、男子三人は気の毒そうな眼差しで温かく見守った。


 おみくじ引こうぜー!!
 ひらり、着物の袖を翻し、戒が身を返す―― その、瞬間だった。
「危なっ……!」
 最初に察知したのは、九十九。ライムを庇い、手を伸ばす。
 続いて遊夜が反射的に体を捌き、栄はバックステップ一つで間をとる。

 カンッ

 着物用にと気合を入れてセットした戒の頭にソレは落ち、跳ね、そうして彼女の手に収まった。
「羽子板???」
 見渡せば、四人それぞれの手に、羽子板が収まっていた。
「……ぇ? ……な、何さね? は、離れない!?」
「うぉ!? ンだこれ、取れねぇぞ!?」
 九十九と遊夜が、羽子板を握る手を振り回すが、いい素振りをしているようにしか見えない不具合。


『明けましておめでとう、人の子よ。よくぞ我が城へ訪れた。
その羽子板には我輩の魔力が流れている。仲間内で顔を墨まみれにするまで離れることは無いッ!
さぁ、さぁ、一発勝負で楽しませるが良い!! KO負けをした者には、ホレ、そこの墨と筆で存分にイタズラするが良かろう!!!』

「「魔王の住みし暗黒の城か―――!!!」」

 仕掛けかマジか、社殿より流れる謎の声に、四人は叫んだ。




 しかし、我々の順応力を甘く見てもらっては困る。
「うわぁ…… なんでもありなんだな……」
 栄は苦く笑いながらも、対戦組み合わせを持ちかけた。

 話し合いの結果、2対2のダブルスで対戦することになった。
 戒・栄チームVS遊夜・九十九チーム。
 すでに勝敗が見えているとか言ってはいけない。
 弓系・銃火器系とバランス良く分けたらこうなっただけである。
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
 すうっ、羽子板を遊夜につきつけるのは、戒。
「インフィルの正確さ…… ここで見せてやろう!」
 キリリ、遊夜が構えを返す。
「へぇ、君等とはいつか勝負してみたいと思ってたんだ…… ふふ、勝たせてもらうぜ」
※君等:彼女持ち男子の意
 栄は九十九へ羽子板を向ける。
「くどーさん…… せっかく弓仲間なんだから、破魔矢で勝負してみたかったねぇ」
「あっ、それいいね! これ終わったら出来るかどうか聞いてみようか!」
「終わったら、ねぇ……」
 ふふ。九十九は細い目を糸のようにし、こちらも負けるつもりは毛頭ない。




 カンッ、
  ――カンッ
 正月の晴れた空の下、小気味良い羽根付きの音が響く。
 カメラアングルを少し、下げてみましょうか。音声も、もう少し詳細に――

「貴様ばっかモテおってェエエエ……!」
 回転を加え、唸る羽子板。敵(遊夜)の顔面を狙い、飛んでゆく羽根。
※顔だけがモテの原因であるわけがない
「甘い! 狙いがバレバレぜよ!!」
 見越した遊夜が【時限式の英雄】を発動させ、カウンターで痛烈な一打!
「戒、お前の痛みは俺の痛みだ! ここは任せろ!」
「さかえん……!」
 栄が間合いを詰め、羽根の勢いを受け止め、そのまま押し返す。
 栄の背に、戒は思い出す。嗚呼、学園に来た初期に使われていない宿直室で夜通し語りあったあの頃を。
 気付いたらネタ的な意味で強敵(ライバル)になっていた。
 『いいから増えてろよ』などと、その癖っ毛をワカメ扱いするようになったのはいつ頃か。
 嗚呼、さかえん。好敵手と書いて友と呼ぼう。
 ――戒の胸が熱くなったのは一瞬だけであった。
 栄の片手から、いつの間に握りこまれていたやら小石が――放った羽根に向けて―― あれはまさかの回避射撃。

「おや、風かな? ふふ、そこで落としたらそっちの負けだね」

 そこは精密さに関して秀でるインフィルトレイター、狙い確かに羽根に当たり、急に失速。
「おのれ、さかえん!!」
 そんな手口、思いつかなかった! 悔しい!!
 戒が悔しがる理由に気づかない九十九は、墜落する羽根を拾い上げるのに手いっぱいだ。
「秘技! 三毛猫アタック!」
 九十九の声に合わせ、ライムが軽い身のこなしで落下途中の羽根をトス、程よい高さで九十九が全力で叩き――込もうとする絶妙なタイミングで。

「さあ攻撃するがイイよ!」

 どこぞの野良猫を抱きあげたのは戒だ!!
 猫を愛する九十九に対し、それは禁じ手であった。
 逆鱗に触れた九十九の能力が瞬間的爆発上昇を見せる。
「あ、あんな所にカワイ子ちゃんが?」
「なっ、なんだって!?」

 ――カンッ

 猫を降ろした戒の額に、羽根hit。




「『きよずみw』っと」
「ああ、じゃあ俺は頬に、だな。『乙女(笑』うむ、達筆である」
「ぐぬぬ…… 三本勝負だよな?」

『うらみっこなしの、一本勝負だ』
 社殿の主は容赦なかった。

「これで2対1か……。戒、俺にも書かせてよ」
「裏切るのか、さかえん!!?」
「目、閉じてなよ」
 栄は柔らかな笑みで、否定はせず、戒のまぶたに柔らかな毛筆を走らせる。いわゆる『授業中に居眠りしても大丈夫』なアレである。
「さぁ…… 最後まで立ってられるかな?」
 涙をこらえる戒を横目に、遊夜がパシンと羽子板を手のひらで鳴らし、栄を挑発した。




 2対1、となってからは決着まで、そう時間はかからなかった。
「くぁっ、負けたか。でも良い勝負だt ……ぐあぁっ! やめろー!」
 勝負の余韻に浸る間もなく、襲ってくる二本の毛筆。


「それじゃ今日一日の飯代奢りってことで。ゴチになります……!」
「今日一日語尾に『〜にゃぁ』で話す事ー」

 額に『\キャー!/』、両頬には『ぐるぐる渦巻』なぜか便乗で顔の隙間に『わかめ』と書かれた栄が、戒と並んで正座している。
「納得いかにゃいにゃ! 君たちにも書かせるにゃ!!」
「友というのは苦楽を共にしてこそにゃ!」
「いやいやいや!?」
 敗者の反乱に遭う、遊夜と九十九。
 本気で抵抗するでなく、どことなくこうなる予感はしていた。

「戒っ、こら、どういう意味だっ」
 器用に毛先を使い、細かな字でビッシリと『非モテ』三文字で顔面を彩られた遊夜が吠える。
「安心してにゃ、遊夜。俺からは新しい眼鏡のプレゼントだにゃー。寝たままつけても割れないにゃ☆」
「さかえんせんぱーい!?」
 お約束お約束、と栄は遊夜の顔に眼鏡を描く。
「つくもんは、額になるとで許してやるにゃ
「許す以前に、勝者はこっちさね……?」
「死なばもろともだにゃ、つくもん」
「!? くどーさん、その筆跡は」
 額に『犬』と書かれ、九十九は目を見開く。
「こればかりは、こればかりは……!!」
「ぷくく、良い顔だにゃ?」


 全員の顔と衣装が墨だらけになった頃―― ようやく魔王の羽子板が手から離れた。



「げぇ、着物がどろどろだ…… お、お年玉をくれぇ!」
 買い取り確定に、栄はガクリと膝を落した。
「お年玉はやれんが……今年も喫茶店、がんばろうであるな」
 遊夜がしゃがみこみ、栄の背を叩く。
「しかし……この呪いアイテム、ここで破壊したほうが世の為じゃねぇ?」
 そのままの姿勢で、社殿を見上げる遊夜。
「アイテムが呪いというより、戒さんが台風の目、ってだけな気もするさね……」
「「あーーー」」
 九十九の言葉に、遊夜と栄が納得と諦めの声を返す。
「どっ、どういう意味だね!!?」

 羽子板はそのまま賽銭箱の上に置き、四人は手を合わせると、神社を後にした。
 なんだかんだで、楽しかったことは本当なのだ。


「よっし、遊んで帰ろうぜー!」
「「まだ足りないのかよ!!?」」
 友人たちの声を背に、戒が楽しげに石段を一気に駆け下りる。
「一番最後の奴、本日パシリな!」
 そう叫べば、皆が気色ばんで追って来る。
 笑いに包まれ、腐れ縁たちの初詣は終わろうと――

「戒ー! まえ、まえーー!!」

 気色ばんだ友人たちが声を揃える。

「ふははは! こぞって男たちが追って来るとは…… コレで私が乙女であると証明されたわけだな!」

 踏み出す新たな一歩。その下に、あるべき石段はなかった。
 転び、そのまま一直線に落ちてゆく乙女を目に、友人たちはため息をつく。
「とりあえず……応急手当だね」
 回復量は少なくても、三人いればなんとかなるだろう。
 ゆっくりとした足取りで、三人は石段を降りていった。


 願うまでも無い。
 祈るまでも無い。
 きっと、この腐れ縁は今年も一年、こんな感じだ。
 そんな予感を、それぞれの胸に。




【願いの弾丸、誓いの矢、あるいは腐れ縁 つくもん編 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2400 / 久遠 栄  / 男 / 20歳 / インフィルトレイター】
【ja1838 / 麻生 遊夜 / 男 / 20歳 / インフィルトレイター】
【ja1267 / 七種 戒  / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】
【ja1149 / 九十九   / 男 / 17歳 / インフィルトレイター】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
4名様による、熱き羽根付きバトル&初詣、お送りいたします。
インフィル揃うと、圧巻ですね!!
とても楽しく書かせていただきました。
雰囲気が伝わりますように。

N.Y.E新春のドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月22日

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