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『【月霊祭】月精霊のさきわう日。 』
カメリア・リード(ec2307)

 アトランティスの12月は月霊祭。月精霊と月道の恵みに感謝を捧げる、過ぎ越しの祭である。
 と、言われても実のところ、カメリア・リード(ec2307)にはまったく想像もつかない、と言うのが実際のところだった。というのも、カメリアがアトランティスにやって来たのは今年、ジ・アースで言えば神聖歴1005年、アトランティスでは精霊歴1043年の2月の事なのだから。
 カメリアが生まれた地を離れて、放浪を始めたのは今から3年ほど前のことだった。冒険者として色々な人々と関わりながら、あちらこちらを放浪して――ようやく、故郷であるイギリスで『帰る場所』を見つけて。
 だから、カメリアは旅立った。以前から興味を惹かれていた、ジ・アースとは月道のみで繋がっている不思議な国、竜と精霊のさきわうアトランティスへと――初めて『放浪』ではなく、明確に帰る場所を意識して、そこから『旅立つ』と――『また帰って来る』と決めて。
 そうして迎えた12月は、カメリアにとっては2度目の冬であり、初めて迎える季節でもある。こちらに来てからと言うもの、毎月何か祭が行われるアトランティスの風習に目を丸くしたり、楽しんできた彼女には、そう言った意味でも興味深かった。
 それに何と言っても、12月はジ・アースでもまた、特別な季節であったから。

「ジ・アースでは、12月っていうと聖夜祭で賑やかでしたけれども。アトランティスの月霊祭では、皆さん、どんな12月を過ごすのでしょうねぇ‥‥♪」

 アトランティスの街、ウィルにも聖なる母の教会はあるし、天界からの――そう、アトランティスではカメリアのようにジ・アースからやってきたり、さらには『地球』という場所から落来してきた人の事をそう呼ぶのだ――冒険者が少しずつ聖夜祭の存在を広めている。だがそれでも、ウィルの街はカメリアの知る『聖夜祭』とはやっぱり違う、何とも言えない賑わいに空気が満ちているようだ。
 竜と精霊に感謝を捧げ、畏れ、敬って暮らす人々。毎月行われる祭は、竜や精霊に捧げるものが多く、先月も火霊祭という火の精霊に感謝する祭が各地で行われ、カメリアも旅行者として、また冒険者として参加したりした。
 月霊祭は、ならば、どうやって過ごすのだろう。何が行われるのだろう。考えるだけでカメリアの興味は尽きず、すっかりギルドまでの道も、近くの市場までの道も覚えたウィルの街を歩く足取りは、自然と軽やかになった。
 そうしてカメリアが向かったのは、ウィルの街にある、大きな聖なる母の教会である。と言っても、祈りに行った訳ではなくて。

「こんにちわー」
「ぁ、こんにちわ、カメリアさん!」

 祈る人の居ないがらんとした聖堂の隅、いかにも『後から付け足しました』とばかりに違和感を主張する、木の板を打ち付けただけの物置のような小屋に向かって声をかけると、中から顔を出した女性がカメリアを見てそう笑った。シスター・ヴィア。カメリアと同じくジ・アースの出身で、布教の為に3年ほど前にアトランティスにやって来たという女性である。
 彼女はいそいそと小屋から――ちなみにこれはヴィアお手製の『懺悔室』なのだと、カメリアが初めてこの教会を訪れた時、誇らしげに教えてくれたのだが――出てくると、ぱたぱた彼女の元へ駆け寄ってきた。そうして「今日もカメリアさんに聖なる母の守りがありますように」と十字を切る。
 そんなヴィアに「ありがとうございます」と頭を下げてから、それで、とカメリアは問いかけた。

「今日は何か、ご用事ですか?」

 カメリアが今日ここへ足を運んだのは、ヴィアにシフール便で呼び出されたからだ。『ちょっとお話したいことがあるので、お暇な時に教会に来て貰えますか?』という、極めて簡素な手紙である。
 お騒がせシスターとしてギルドの一部で着実に有名になりつつある彼女は、依頼人としてギルドに『良い思いつき』を手伝ってくれる人を募集しに、やって来ることも珍しくない。けれども個人的にカメリアを呼び出したからには、今回の『お話』はそういうものではないのだろう。
 そう思っていたら、ちょうど入ってきた男がカメリアを見て、ぺこり、と無愛想に頭を下げた。時々この教会にやって来ては、庭の手入れなどをしていくシーズという男だ。
 生真面目で面倒見の良いシーズは、ヴィアがカメリアを呼び出した理由を承知して居るらしい。無愛想な顔の中には、どことなく申し訳なさそうな雰囲気が漂っている。

(ということは、また、何か始まるんでしょうか?)

 カメリアはそう考え、一体何が始まるんだろうとちょっと楽しみに思いを馳せた。ヴィアが起こしてくれる騒ぎは、確かに時々は洒落にならないものもあるのだけれども――数ヶ月前など、何がどうなってそう思い込んだのかは不明だが、修業のためだとたった1人でカオスの魔物も居る洞窟に突撃して、救出依頼が出されたくらいだ――基本的には、周りにいる誰かを楽しませるための、優しい気持ちから起こるものだからだ。
 けれども生真面目なシーズはそれを、どこか自分の責任のように考えているようだった。その幾らかには、アトランティス人の彼には理解出来ない発想が、根底にあることもあるからなのかもしれない。
 とまれ尋ねたカメリアの言葉に、そうなんです、とヴィアは満面の笑顔で大きく頷いた。のみならずぐっと拳を握り締め、実は、と楽しげに語り始める。

「去年も教会で月霊祭を行ったんですけど、今年もやろうと思うんです。ご近所の方や、冒険者の方もお招きして。それで、カメリアさんもご一緒にどうかな、って思ったんです」
「アトランティスでは、教会でも月霊祭をやるんですか?」

 ヴィアの言葉に、カメリアは素直に首を傾げてそう尋ねた。やっぱり彼女のイメージでは、教会で行われるのは聖夜祭じゃないんでしょうか、と思うのだ。
 素直にそんな疑問を口にすると、そうなんです、とヴィアはあっさりそれを肯定した。

「本当ならクリスマス・ミサをしたいんですけど、私はシスターを名乗る事を許された身とはいえ、まだまだ修行中ですから。でも師は今年もお忙しいみたいで、クリスマス・ミサも行えそうにないですし――これもアトランティスに教会の存在を広める為、きっと聖なる母もお許し下さいます」
「はぁ‥‥でも、ヴィアさんは十分、ご近所の方に受け入れられてるですよ?」
「いいえ! まだまだ私など、師に比べれば!」

 力説するヴィアに、彼女の師たる教会の主の顔を思い出しながら、そうなんですね、とカメリアは素直に頷いた。ヴィアがこれほど言う位だから、あの主はもっともっと有名人なのだろう。有名人になることが、布教の助けになるのかはともかくとして。
 とまれ、一体どんな感じなのだろう、と考えていたカメリアだったから、ヴィアの申し出を断る理由はなかった。だから彼女は笑顔になって、もちろん、と頷く。

「とっても楽しみです〜。何か、お手伝いする事はありますか?」
「あ、じゃあ市場まで買い出しに行って貰っても良いですか? 当日のお料理の食材とか、何か祭に良さそうな飾りがあれば――カメリアさんにお任せしちゃいますんで」
「でも、出来るだけお安く‥‥ですよね?」

 笑いながら付け加えると、もちろんです! とヴィアはまた拳をぎゅっと握る。天界好みの王宮始め、上流の方々からの寄付も幾許かはあるが、基本的にアトランティスにある教会はどこも信者からの寄付が少ないため、資金繰りは厳しい。
 わかりました、と笑って頷いて、カメリアは大体の予算を聞いてから、教会の出口へと向かう。そんなカメリアの背に、ヴィアが声をかけた。

「行ってらっしゃい。カメリアさんに竜と精霊の祝福がありますように」
「行ってきます。ヴィアさんに竜と精霊の祝福がありますように」

 アトランティスではこうやって挨拶をするらしい。だから正確な使い方も解らないまま、折に触れてこう言葉を掛け合うのが、最近のカメリアとヴィアのひそやかな楽しみだった。
 シーズがそんな2人を見て、何かを言いたそうな顔になって、そうして何も言わない。ちなみに、そんなシーズがいつヴィアに結婚を申し込むのか、密かにご近所の奥様がたの楽しみになっていることも、カメリアは知っている。
 基本的にシスターは結婚出来ないけれども、もし本当に申し込んだとしたら、あとはヴィアの意志次第なのだろう。とはいえ、あのヴィアがシスターを辞める所など想像もつかず、どちらかと言えばシーズが深いため息を吐きながらしぶしぶ付き従う様子の方が、容易に想像出来てしまう。
 くすくす笑いながらカメリアは、今度こそ教会を出て市場へと歩き出した。見上げた空は、ジ・アースとは似ても似つかない虹色で、そうして雲一つない良いお天気だ。
 太陽はどこにあるのかと尋ねたら、陽精霊が地上を照らして下さっているのだと教えられ、驚愕したのも良い思い出だった。今でも、空を見上げて太陽の場所を確かめながら旅をする、という暮らしが身に染みついているカメリアは、無意識に虹色の空の中に太陽を探してしまう事がある。
 アトランティスは、カメリアがやってくる前に抱いていたどんな想像とも違っていて、そうして面白い国だった。アトランティスの東方ではメイディアという街がやはり冒険者ギルドを持っていて、ウィルとはまた違う文化を持った人々が暮らしているらしい。
 月道のある王宮の方をちらりと見て、いつか行ってみたいですね、と考えながらカメリアは、市場までの道程を歩いていったのだった。





 顔見知りの冒険者に会ったのは、カメリアがちょうど、小麦粉をどのくらい買おうか店先に並ぶ袋を前に、考え込んでいた時の事だった。

「‥‥れ、カメリア姐さん。買い物ッすか?」
「シルレインさん」

 その声に、振り返ったカメリアの前にいたのは、この秋にギルド登録をしたばかりの新米冒険者、シルレイン・タクハである。昔は『ちょっとしたヤンチャ』をしていたというシルレインは、自分よりも先に冒険者であった人間には全員、敬意を払って『兄さん』『姐さん』と呼ぶ、礼儀正しい(?)青年だ。
 カメリアはそんなシルレインに、こんにちわ、と頭を下げた。

「シルレインさんもお買い物ですか?」
「うす。ニナの手伝いで」
「ニナさんの?」

 シルレインの言葉に、ひょいと辺りを見回してみると確かに、少し離れたお店で主と玉ねぎの値段について激しく口論している――ようは値切っている女性が居る。シルレインの恋人――であれば良いなと多分シルレインだけが考えている、ニナと言う娘だ。
 ニナは過去に負った怪我が原因で、左足の自由があまり利かないらしく、何かとシルレインが気にかけて世話を焼いているらしい、と言う話はカメリアも聞いていたし、こうして何度か目にする機会もあった。シルレイン本人はそんなニナと、冒険者にもなった事だしそろそろ結婚したいなー、とか考えているようなのだが、そもそもニナがちゃんとシルレインを『男性』として認識しているのかも怪しいと、一部の冒険者の間では賭けの対象になっている。
 どうやら交渉は成立したらしく、ニナは満足そうな顔で戻ってくると、そこに居たカメリアに気付いて「あ」と声を上げた。

「こんにちわ、カメリアさん。玉ねぎ買うなら、今がチャンスですよ。一緒に交渉しましょうか?」
「本当ですか? じゃあお願いします。教会の頼まれものなんですよ〜」
「あははー。わかりました、じゃあ良い玉ねぎを出してもらえるように頑張りますね!」

 ぐっ、と拳を握り締めたニナは、再び戦場(?)へと戻って行こうとする。そこに、通りがかった少年が「あれ」と面白そうに声をかけてきた。

「あれ、ニナ。今日はニナがお使い当番だって厨房で聞いたけど、ついでにデートしてるの?」

 そうしてそんな、子供らしい好奇心の眼差しで問いかけたのはアルス・ジュレップという、ウィルの下級貴族ジュレップ家に縁の少年である。とはいえ本人はほんの1〜2年前まではただの村の子供として育てられたものだから、今でもこうしてしょっちゅうお屋敷を抜け出して、街中を走り回っては近所の子供と遊んだり、子供らしい冒険に精を出しているのだった。
 そんなアルスの言葉に、ジュレップ家のメイドであるニナは朗らかに「あははー。ただ単にお買い物を手伝ってもらってるんですよー」と笑って、玉ねぎ屋へと向かっていく。いっそ、清々しいまでに脈のない反応だ。
 シルレインが、ぐっさり何かが刺さった胸を押さえて、どーんと落ち込んだ。そんなシルレインを見て、カメリアとアルスは目と目を合わせ、頷き合って同情する。
 どうやらこの調子だと、結婚どころか、『恋人』として認識してもらえるまでも、相当時間はかかりそうだ。とはいえこんなやり取りもまた、一度や二度の事ではなかったりするので、やっぱり賭けの行方は不明である。
 とまれそこからは何となく、皆で一緒に市場をうろうろして、あちらこちらの店先を冷やかしたり、お互いの必要なものを一緒に探して歩いたり、賑やかに買い物を楽しんだ。もうこちらに来てから随分経つけれど、いまだに市場をただ歩くだけでも見慣れないものに出会うカメリアが、何かを見て驚くたびに周りのみんなが「これはね」と教えてくれる。
 そうしてそれぞれの買い物を終え、まずはジュレップ家に荷物を運んだあと、ついでだからと教会まで荷物を運ぶのを手伝ってくれたシルレインと、何か面白そうな事をやっているらしい、とついてきたアルスと一緒に教会に帰ると、ちょうど、ヴィアが庭の飾り付けに夢中になっているところだった。シーズが毎週丹精をしている庭は、今は冬の花を咲かせている。
 一緒になって庭の飾り付けを手伝わされながら、枯れた花を取ったしているシーズの姿に、アルスがぱっと顔を輝かせて「シルレイン兄ちゃん、カメリア姉ちゃん、後でね!」と手を振ると、ぱたぱた走っていった。きっと、シーズの庭仕事を見に行くのだろう。
 そう思いながらカメリアが、シルレインに手伝ってもらいながら教会の中の食料庫に買って来たものを運んでいると、気付いたヴィアが飾り付けを中断して追いかけてきた。

「ありがとうございました、カメリアさん。シルレインさんも。全部揃いました?」
「はい♪ お値段も、シルレインさんとニナさんのお陰で随分お安くなったのですよ〜」
「本当ですか!? それは助かります!」

 カメリアがそう報告すると、ヴィアがぱっと満面の笑みを浮かべて「ありがとうございます!」とシルレインに頭を下げる。そうして、ふんふんと頷きながら買ってきた品をぐるっと見て、間違いなく揃っている事を確かめてにっこりした。
 庭からは、アルスの無邪気な質問に答えるシーズの、むっつりとした声が聞こえてくる。ヴィアはもはや庭の飾りつけなど忘れたようで、材料と真剣に睨めっこをし始めた。

「他に何か、お手伝いをしていきましょうか?」
「あ、じゃあ下ごしらえのお手伝いをしてもらっても良いですか? そっちの肉は漬け込んで、あとシチューも今日のうちに作っておいて味を馴染ませようかな、って」
「ふふ、じゃあ野菜を切っていきますね〜」
「んじゃ、オレは肉を捌くッす」
「お願いします!」

 食料庫から必要な分だけ材料を厨房へ移しながら、そうして賑やかに役割分担をして、カメリア達も月霊祭のお料理の準備を始める。それはとても賑やかで、和やかなひと時だった。





 月霊祭の当日、一番に教会を訪れたのはローゼリット・ジュレップと言う、下級貴族ジュレップ家のお嬢様だった。アルスの従姉であり、その縁あって冒険者に非常にお世話になった事を今も深く恩義に感じている、生真面目で礼儀正しいお嬢様である。
 どのぐらい生真面目かと言えば、常にピンと背筋を伸ばして誇り高く頭を上げ、殆ど面識のないカメリアに対してさえ、しっかりと顔を覚えていて「ご機嫌よう」と淑女の礼を取るくらいだ。冒険者として、王族の方々にさえ見えて親しくしているカメリアではあるが、ただ冒険者であると言うだけでこれほど礼を尽くされることは、あまりない、と思う。
 とまれ、そんな生真面目なお嬢様であるローゼリットが、なぜ教会にやって来たのかといえば従弟であり、一時は義弟とも思っていた――というのは彼の母親が長らく行方不明だった事があり、その間ジュレップ家で預かっていたからなのだが――アルスに誘われての事で。

「冒険者の方々が、今年も素晴らしい催しをなさるとアルスが申しましたので、伺ったのです」
「そうなんですね。楽しんで言ってくださいですぅ。キャシー号もご一緒なんですね」
「はい。キャシー号もそろそろ、淑女として社交界にデビューさせる時期と考えたものですから、先ずはその練習に、と」
「はぁ‥‥」

 そう、あくまで生真面目に頷くローゼリットの傍らに立つのは、キャシー号と呼ばれる白羊である。どこからどう見てもまごうかたなき、実にふさふさとした毛並み豊かな、たいへんご立派な牝羊だった。
 正面から見れば面構えはーー失礼、面立ちは実に凶悪で、1人や2人や3人は確実に殺ってそうな鋭い眼差しをしているキャシー号だが、こう見えても彼女(?)はいつか白羊の王子様と結ばれることを夢見る、恋する乙女。心に定めたお方のために、ローゼリットの元で日々淑女としての特訓に励む、健気な羊なのだ(とローゼリットお嬢様は主張している)。
 そんなキャシー号を見下ろして、そうですかぁ、とカメリアはほんわり頷いた。頷き、でも、とこっくり首を傾げた。

「ローゼリットさんは確か、来年の6月にはご結婚なさるんですよね? そうしたらキャシー号は、どうなさるんです?」
「だからなかなか、ローゼリット様の結婚相手が決まらなかったんだよ、カメリア姉ちゃん」

 カメリアの素朴な疑問に、したり顔で答えたのはアルスだった。下級貴族とはいえ貴族なのだから、別にお嬢様が馬をお好みだろうと羊をご所有だろうと、ゴーレムを眺めるのがご趣味だろうとまぁ、構わない。だがお嬢様自ら鞭をふるい、キャシー号を立派な淑女に教育する、と言って憚らないのは、やっぱり珍しいことで。
 ゆえに、ちょっとばかり変わり者、と言うレッテルを貼られたローゼリットの縁談は、当然ながらと言うべきか、紆余曲折の一途を辿った。最初は羊を愛でる趣味のお嬢様と思っていた縁談相手も、ローゼリットが本気でキャシー号を淑女に仕立て上げるだと解ると、揃って匙を投げたのだ。
 そんなローゼリットにも先日、そんな彼女の情熱(?)を受け止められる貴族の若君が奇跡的に現れた。というか、偶然にも領地の名産が羊毛で、羊の飼育に並ならぬ情熱を示すローゼリットに好意を示し、無事に婚約までこぎつけたのである。
 という苦労話を、面白そうに話すアルスに苦笑して、カメリアは当たり障りのない感想を述べた。

「それは良かったですね〜」
「うん。奥様も旦那様も大喜びだったよ。だってローゼリット様、キャシー号さえ居なかったらとっくに結婚してたはずだし」
「あら、そうなのです?」
「うん」
「何を申すのです、アルス。キャシー号はこのローゼリットが責任を持ってお預かりしている、大切な羊なのです。ならば、いつかキャシー号があの方の元へ嫁ぐ時までに立派な淑女として教育するのが、このローゼリットの役目でありましょう」

 アルスとカメリアの会話を聞いていたローゼリットは、生真面目にそう反論する。アトランティスでも異種結婚は良い顔をされないが、ローゼリットお嬢様の中で、キャシー号とお相手のシフールの殿方(らしい)に関してだけは、色んな意味でぶっ飛んだ感覚をお持ちなのだった。
 そうこうしている間にも、ご近所の皆さんや聞き付けた冒険者仲間などが、お料理や飲み物、飾りなどを持ち寄って集まって来る。冒険者達の連れている精霊を始めとするペット達も、賑やかな気配に浮かれて居るのだろう、いつもよりもずいぶん楽しげだ。
 そんな中、珍しいといえば珍しい、どこにでも居るといえばどこにでも居る女性の姿を見かけ、あ、とカメリアは声をかけた。

「こんばんわ。今日はウィルにいらしたのです?」
「いえ。お友達のエクリプスドラゴンさんとお茶を飲んでたら、楽しそうな気配がしたから遊びに来たんです♪」

 帰ったらお土産話を聞かせてあげる約束なんです、とにこにこ笑うのは、旅の魔法使いを名乗るマリン・マリンだ。こう見えてもその正体は、一体いつから生きて居るのかも不明な月精霊アルテイラなのだが、大変前向きな性格と、やはり精霊というべきか人間にはよく解らない思考で、どこかでカオスの魔物の噂を聞き付ける度に「ちょっと一緒にお仕置きに行きませんか?」と冒険者ギルドで怪しい勧誘人と化しているので、カメリアとも顔見知りである。ちなみに勧誘するくらいなら依頼出して欲しい、とはとあるギルド職員の言葉だが、何しろ相手が敬うべき精霊なので何も言えないとか何とか。
 とまれ次々と人が集まってきて、すっかり日も暮れた頃、教会の小さな庭のあちこちに置かれたキャンドルに、月精霊の光を遮らない程度に明かりが点された。月霊祭も各地で様々な祝い方をするらしいのだけれども、シーズの故郷辺りでは月精霊が地上を照らす時刻になったら、みんなで外に出て月精霊の光を浴びながら、感謝を捧げたり、月精霊へと捧げる音楽や歌、踊りを披露したりするので、それに習った形式にしたらしい。
 マリンや他の精霊達も、賑やかな気配に庭へと出て行って、一緒になって踊っている。どうやら他の精霊達も、賑やかな気配に惹かれて様子を覗きに来た模様。
 そんな見えない『誰か』に向かって、マリンが手を差し伸べて笑いかけた。

「ふふ♪ 皆さんもご一緒にどうですか?」
「精霊さんがいらしてるのです?」
「はい、とっても♪ ぁ、でもちゃんと、人間に酷い悪戯はしないように言っておきますから、安心してくださいね」
「それは大丈夫ですけど‥‥精霊さんが見えないのは残念です〜」
「大丈夫です♪ カメリアさんの髪を今揺らしてるのも、精霊の悪戯なんですよ?」

 そう言われて、あら、とカメリアは揺れている髪の辺りをじっと見た。てっきり夜風の仕業だと思っていたけれども、ここにも精霊が居るらしい。
 楽しげなマリンがくすくすと笑いながらカメリアの手を引いて、あそこには風の精霊が、あっちには水の精霊がこっそり隠れていて、と教えてくれる。中には人間のふりをして楽しんでいる精霊までいて、「ごきげんよう、お嬢さん」と声をかけられた。
 教会の中では、今年はクリスマス・ミサを取り仕切ってみますか、と師に許しを得たシスター・ヴィアがアトランティスにも僅かに居る、聖なる母の教えを信じている人々を相手に厳かなミサを――と言ってもヴィアの事なので、どこかで抜けてしまって微笑ましく見守られて居たのだが――行っている。教会の教えなどよく解らない近所の人も、ヴィアちゃんが何かやるらしいよ、と見学(?)しているようだ。
 そんな賑やかな人々の中、ふと立ち止まって見上げれば夜空に輝く、月精霊と星精霊の光。アトランティスに来てからすっかり見慣れた光景だけれども、やっぱりどこか不思議な心地のする夜空。

(来月の新年祭は、一体、どんな事をやるんでしょうね‥‥♪)

 カメリアがアトランティスで初めて迎える新年を、終えればちょうどこの国の季節を一巡した事になる。けれどもどうやら一巡程度では、この国のすべてを見て回るのは難しそうだ。
 そうしたら1度、お土産話を聞かせに帰ろうか。それとも、まだまだ知らないこの国のことを、もっと知ってからにしようか。
 そう、考えているだけでもうきうきと楽しくなって来る、カメリアの興味はどうやら、まだまだ尽きそうになかった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名   / 性別 / 年齢 /  職業  】
 ec2307  / カメリア・リード / 女  / 28  / ウィザード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月と申します。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そして、大変お届けが遅くなり、申し訳ございませんでした‥‥(全力土下座

お嬢様の、アトランティスで過ごす始めての過ぎ越しの日の物語、如何でしたでしょうか。
久々のアトランティス、楽しんで書かせて頂きました‥‥が、お言葉に甘えすぎて、うちの子(NPC)自慢になってないかが、心から心配です‥‥;
というか、すでに聖夜祭も、月霊祭もとっくに通り過ぎた後でのお届けで非常に申し訳なく‥‥ッ(滝汗
発注文丸投げなんてそんな事はないのです、全然お気になさらずで大丈夫なのですよ〜(ぐっ

お嬢様のイメージ通りの、賑やかで和やかなノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2013年01月23日

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