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『いつもと同じ、一年の始まり 』
犬乃 さんぽja1272


 久遠ヶ原学園には、「高等部教室の片隅」という部活がある。
 そこにいつもワイワイと集まっているのは、気のおけない仲間たち。
 とは言え一年のはじめは身も心も引き締まる……はずなのだが。

「うにん! あけましておっめでとなんだよー!」
 緊張感なんてこれっぽっちも感じられない声で言いながら、真野縁はおしるこ缶を飲んでいる。腹ペコ娘は今日もマイペースだ。みんなのぶんもあるからと、ホカホカの熱い缶を手渡していく。
「おしるこ缶あたっく、くらえー! そして飲むといいんだよ!」
 なんておちゃめなことを言いながら。
「今年もよろしゅうな―! おー、おしるこやないか、気が利くなぁ」
 すでにもう今年二度目の初詣な小野友真はそれを受け取りながら、プルタブを開ける。と、プシュッ、と音を立てて勢い良く吹き出す甘ったるくて熱いしるこ。友真の顔に直撃。どうやら「ハズレ」を引いたらしい。べたついてはかなわない、と慌ててウェットティシュで顔を拭っている、が。
「「……」」
 それを一部始終眺めていた一同は一瞬固まったのち、思わずぷっと吹き出した。これで一気に緊張がほぐれたらしい。友真も、本気で怒るつもりはないので、苦笑まじりだ。
「でも初詣かあ、すっごく楽しみ」
 日本の恒例儀式である初詣、来日してまだ一年半ほどであるアメリカ人ハーフの犬乃さんぽにとってはまだ目新しいことも何かと多い。いかにも楽しみであるというふうに頬を赤らめて、にっこりと笑う。
 そんな仕草の一つ一つが普通の女子よりも愛らしいものだから、困ってしまうところである。……「彼」は一応、れっきとした男の子だ。
 が、大狗のとうはそんなさんぽにぎゅっぎゅとハグを仕掛ける。いや、さんぽにだけではない。集まった仲間たちみんなへの、愛情を込めたハグ。
「こうすれば寒いのなんて気にならねぇぜ!」
 抱きしめれば伝わってくる、仲間のぬくもり。それはいつだって大切なもので。
「うん、今年もよろしくねー!!」
 藤咲千尋はやはり同じように抱き返し、そして、
「今日は初詣行く前にちょっと寄りたいところがあるんだ! みんなで行こう!!」
 そう言って楽しそうにハミングしながら歩き出した。
「せっちゃんの行きたいところってどこかな?」
 縁が首を傾げる。それでも友人の目に狂いなどないだろう、みんなもぞろぞろとそれについていくことにした。


「うわぁ……これ、振袖だよね!」
 目をキラキラさせながら嬉しそうに言うのはさんぽ。
 五人が訪れたのは、着付けまできちんとしてくれるレンタル振袖・レンタル和装の店だった。
「ご予約の藤咲様ですね、いらっしゃいませ」
 店員と思われる綺麗な和装の女性が微笑みながら五人を迎える。
「千尋、これはすごいなー! 美人になれるかにゃ?」
 のとうはそんなことを言いながら、色とりどりの振袖に目移りしている状態。みんなよりも一足先に成人式を迎える予定の彼女は、ちょっぴり、いやかなり真剣に、振袖を見つめている。
「せっちゃん準備万端なんだね!」
 縁も楽しそうに、手をぱちぱちと。
「女の子の服ってどれもきれいやけど、振袖はまた別格やもんなー」
 友真がそう言って見つめていると、
「でしょう? では皆様、着替えなさいますか?」
 聞いてみると、和服についてよくわからないものは店員が見立ててくれるらしい。着付けまでしっかりやってくれるとのことだし、全員乗り気で頷く。
「それでは着付けなどにもお時間いただきますので、その点はご了承くださいね」
 店員はそう言って、それぞれを案内した。

 ――それから、全員が集まったのは、およそ一時間半後。
 着付けに時間がかかるのもそうだが、和装に合う髪型に整えてもらうのにも時間がかかるものなのだ。
 そして、出てきた姿を見て一同、ほうっとため息を付いたりなどする。
「に、似合うかなぁ?」
 そう言いながら姿見で何度も確認しているのはさんぽ。どうやら中性的な容姿のためか、今回も女性と勘違いされたらしい。本人も日本の風俗についての知識が薄いので、これはやむをえないのかもしれないが。
 金髪碧眼の少女めいた風貌に用意されたのは、濃紺のグラデーションの地に花を散りばめたもの。全体的に色素の薄いさんぽには、ぐっと大人らしく見えるくらいだが、それがまた愛らしい。髪はいつものポニーテイルだが、小さなかんざしがさしてあった。さすが、片隅いちの女子力(男子だけど)。
「かわいいー! よく似合ってるよっ、うん!!」
 そうにこにこ笑っている千尋は、紅と橙を基調にした華やかな振袖姿。髪を結わえる紅い結い紐には、クリスマスに貰った大切な、葉っぱを模した常磐色の髪飾りが――
「その髪飾り最近良くつけてるよなー、千尋。お気に入りかにゃ?」
 のとうにそう問われると、思わず千尋は顔を真っ赤にしてしまう。たしかにそうなのだけれど、言葉にするのはやはり照れくさい。何しろそれは大切な人から貰った宝物だから。
 そう問いかけたのとうの姿はといえば、こちらも赤い布地に松竹梅の古典的ながらおめでたい柄。アップにした髪には、ひまわりのような大輪の花飾りをつけている。くるりと一回転して、周囲に「似合ってるかにゃ?」と視線で尋ねるその顔は、ほんのり照れ笑いを浮かべていた。
「のとの振袖もよく似合ってるんだよー! そしてせっちゃんは……ふふーん、そういうことかぁ。これは後でお祝いだね!」
 のとうの発言にぷしゅうと頭から湯気を出している千尋を見ながら、縁もニコニコと笑顔。彼女は白と緑の地に菊の柄。派手でないものの、やはり縁らしさがよく出ていた。白金に近い色の長い髪は綺麗に結い纏められ、白菊の髪飾りが添えられている。最初はその体格から、探すのも一苦労かと思われたものだが、案外見つかるものだ。
「……ところで、小野くんは?」
 さんぽがふと首を傾げると、部屋の隅っこで縮こまっている振袖姿の人物を見つけた。両手で顔を覆っているその姿は、紛れもなく絶望している。
「……適当に選んでって言ったら、これがな……」
 桜色に手鞠の柄、愛らしい振袖姿は紛れもなく友真で――
(店員さんグッジョブ!)
「ゆーママらぶりー!」
「ゆーまもよく似合ってるにゃー」
「うんうん、ゆま子ちゃんもよくお似合いで」
「ゆま子はナンパされないように、な……?」
 本人の絶望をよそに女子三人はによによと笑い、「可愛い」を連呼しながらそれぞれスマートフォンやデジタルカメラを取り出し、写真に収めようとする。
「……ナンパなんぞされてたまるかい……」
 恋人もちゃんといる身の上、こめかみをわずかに引きつらせながら仲間たちのの写真撮影も阻止しようとする友真だったが、
「小野くんもよく似合ってるねっ」
 邪気のないさんぽの一言がトドメになったらしい。もはや学園の伝説にもなっている土下座に近い体勢になって、情けない声を上げる。
「お願いもうやめて……とりあえず男もん、適当に着替えてくる……」
 昏い目のままそう言葉にすると、ふらふらとまた店の奥へと入っていった。この店は女性向けの着物しか置いていないらしいので、まずはもとの服装に戻してからすぐそばにある男物の着物もレンタルしている店に飛び込むつもりらしい。縁などは
「ゆーママの振袖もっと見たかったのにー」
 と、ほんのりふくれっ面。でも本人が嫌がるのは仕方がないし、実際あのままで移動するわけにも行かないだろう。一方のさんぽはといえば、
「なるほど、男の人はキモノも二段構えなんだねー! 僕も着替えてこようかなぁ?」
 と無邪気に言って、やはり同じように紋付に着替えに行こうとした。……が、それを黙って見ている仲間たちではない。
「さんぽ、わざわざ着替えに行くことないのにゃ。せっかく着た振袖がもったいない!」
 のとうがまずそう言って引き止め、
「うに、さんぽちゃんよく似合ってるんだよー!」
 そう縁が微笑み、
「そうだよ、こんなに綺麗なんだから、ねっ」
 千尋にだめおしされ、そしてさんぽ本人もそこまで言われて拒む理由も見つからなく、その結果そのままの姿で初詣に行くことを了解したのである。
「よし、着替え終わっt……ん、さんぽちゃんはそのままかー。でもよお似合っとるし、それはそれでええんちゃう?」
 大急ぎで紋付に着替え終え、皆のもとに戻ってきた友真も思わず笑顔。
「そう思うならゆーまも振袖のままでよかったのに」
 千尋がくすりと笑うと、友真はたちまち肩を落とす。
「いや、今日くらいはイケメン担当でいさせてほしいな、って……」
 その笑顔がとても切ないものだったのは、言うまでもない。


 そんなこんなで、集合してから早くも二時間以上経過している。
 着物の着付けに時間がかかるのは仕方がないし、そのために少し早めの待ち合わせ時間だったのだけれども、そろそろお天道さまも頂点にたどり着きそうだ。
「わ、やっぱり和服って歩きにくいのにゃ……」
 のとうがおっかなびっくりな声を上げる。普段着慣れない振袖姿、たしかに嬉しくて楽しいのだけれども、いつもより歩みがどうしても遅くなってしまう。着崩れないように気をつけながら、そろりそろりと歩く足もつい内股だ。それでもいつもの五人で歩いていれば楽しくて、目的地である神社まではもうまもなくだった。
 けれど、それは同時に参拝客が増えてきたことにもつながっていて。
 初詣のために訪れた神社は地元でも有名な、延喜式にも名前を連ねる歴史ある古社。歩いている参道も、人で溢れかえっている。左右を見れば、様々な屋台が並んでいたり、ちょっとした大道芸を披露している人もいたりして、いかにも平和な光景が広がっている。
「お正月は撃退士だってちょっと一休みだね」
 千尋が笑えば、皆も頷く。もちろん、天魔の攻撃なんてものはそんな人間の事情お構いなしなのだろうけれど、それでも今日くらいは羽を休めておきたいという気持ちは誰もが持っている。
「そうやな。まあ、今日はゆっくり休憩や」
 友真もにまっと笑う。こういう表情を見るとたしかに人のいい少年ではあるのに、何かと友人にいじられるのは……一種の人徳なのだろう。本人の名誉のためにもそう思いたい。
「それにしてもほんとうにすごい人だね。初詣ってすごいなあ……」
 さんぽは目を丸くしている。
「でも、テレビでよく放送されてるところはもっとすごいよ? 多分まだマシな方なんだよー?」
 縁に説明を受けて、更に驚きの表情を浮かべるさんぽ。海外には初詣という習慣がないから、いっそう驚くのも無理は無い。
「みんな、はぐれんように手ぇつなごか」
 友真がそう提案する。
「だな、手をつないだほうが安全にゃ」
 のとうもその提案に頷いた。
 確かに人も多く、あちらこちらに魅力的なものがあるのでは、はぐれてしまうかもしれない。それぞれ身近にいる仲間の手を繋ごうとしたのだが――
「おい、のと、どこいったー?」
 さっきまでつい近くにいたはずののとうがいない。
「大狗先輩、どこいっちゃったの……?」
 さんぽがきょろきょろと周囲を見回していると、千尋が「あっ」と声を上げて見覚えのある振袖を指差す。
「えっと……あれ、どちらさま、でしょう、か……」
 どうやらのとうが手をつないだ相手は――見ず知らずの若い男性だったのだ。
 華やかな晴れ着姿の女性(もちろんのとうのことである)に何気なく手を掴まれ、その男性は驚きつつもまんざらでない様子。とは言えどう見てもこちらのミスであるので、
「わわ、すみませんにゃー!」
 あたふたしながら慌てて手を離した。その脇から友真がそっとフォローに入り、のとうの手を改めてつかむ。
「はい捕まえた。 ほらこっちや」
 ヒーロー志願の友真はそう微笑む――と、次の瞬間のとうの額をペチッと軽く叩いてやる。その顔には「心配したんやで?」というさまがありありと見て取れた。
 仲間たちはその様子を微笑ましく見つめており、
「のと、しっかり間違えてたんだよー!」
 しっかりスマホを持った縁が言いながらなんとも言えない笑顔をこぼす。これは恐らく写メられているだろうな、とのとうもなんとなくわかってドジッたなぁ、といった感じの表情。でもその顔は暗いものでなく、苦笑交じりのいかにも彼女らしい表情で、怒るという気もなくなってしまう。
「でも、無事でよかったよね、大狗先輩」
 さんぽがうんうんと頷いた。仲良しがモットーの片隅メンバー、既に今年も仲良しムードたっぷりである。
「本当に、気をつけなきゃだねー! はぐれないようにしなきゃ」
 千尋がこくこくと、何度も首を縦に振った。


 参道の出店はさまざまあるが、そこかしこからいい匂いが流れてきたり、テキ屋の兄ちゃんの威勢良い呼び声が聞こえてきたり、いかにもなお祭り騒ぎになっている。
 正月はハレの日、みんなで賑々しく祝うのは当然のこと。
「あー……いーにおいなんだよー……」
 集合が早かった上に着付けやら何やらでまだ昼食をとっていなかった仲間たちには、その香りがなんとも甘美なものに感じられる。特に、小さな身体の大食漢である縁はその匂いに釣られてふらふらと動きかねなかった。
 着慣れない和装で胴回りを締め付けられているはずだが、そのあたりも彼女にはほとんど関係ないらしい。
「あれと、あれと……ぜーんぶ食べるんだよー!」
 すでに手にはたこ焼きの舟を持ち、串に刺さったイカ焼きももう片方の手に握り締めている。それでも足りないというのは、いかにも縁らしい。
 一方、千尋は楽しそうな出店を見つけていた。
「わあー! ほら、あれ射的だよ! ねえねえやろうよー!!」
 射撃武器の扱いを得意とするインフィルトレイターの彼女としては、見逃せなかったらしい。普段千尋が得意とする武器は主に弓だが、授業では銃器の扱いも当然学んでいるわけで、そうなれば実際に試してみたくもなるというもの。
 もちろん、学校で扱う銃とこんなテキ屋の射的に使うおもちゃでは全く違うのだけれども、それでも心浮き立つのはどうしようもない。
「勝負するか?」
 おなじく銃を得意武器とする友真が笑う。
「えっ、なになに。ボクも負けないよ?」
 さんぽいわく「銃はニンジャ最後の武器」なのだそうで。もちろん乗り気だからこその発言だ。ここにくるまで何度も男性に声をかけられていた――もちろん相手はナンパ目的であるが、当のさんぽ本人はそれに全く気づいていないので、おっとりと「あけましておめでとうございます」と返事をしていたみたいだけれど。でもこういうところを見ると、やっぱり男の子だなと思ってしまう。
(まあ、この格好で実は男の子です、っていうのも無理あるけどなー)
 振袖姿の友人を横目で見ながら、友真はぼんやりそんなことを考える。いやさっきまで友真自身もそうなりかねなかったことはスコーンと頭から抜けているようだ。
「……ま、とりあえずは射的をやろか?」
「ん、俺と縁は応援してるな―」
「三人ともがんばれなんだよ―! あ、今のうちにまた何か食べとこっと」
 のとうと縁は抱えきれないほどの食べ物をどうにか抱えてもぐもぐ消化しながら(ただし食べているのはほとんど縁である)、射的合戦を横から応援する構えらしい。
「よーし! 負けないんだよ―!!」
 千尋が言うと、友真も
「先輩インフィルとして負けられへんな、こっちも」
 そうにやっと笑い、さんぽはさんぽで
「二人がそうやっているうちに高得点するのがニンジャだよね!」
 そう言いながら射的用のおもちゃの銃をあれこれ確認している。
 テキ屋の店番もまさか目の前の少年少女たちが撃退士とは思っていないのだろう、
「お城ちゃんたち、こいつに当たったらおまけしようか?」
 などと笑いかけてくる。
「えっ、いいんですか?」
 店番が提示したのは小さめの、お菓子の空き箱の的。それに当てることができたら、本来もらえるであろうお菓子に、更に手のひらサイズのぬいぐるみをつけるというのだった。
「もちろん、このサイズの的全部に当てたら全員にあげるよ、応援団のぶんもね」
 見た目だけなら本当にただの高校生。当たるわけもないと思っての提案なのだろうが――

 ……数分後、五人の手の中にはそれぞれ色違いの、可愛らしいひよこのぬいぐるみがあった。
 縁は黄色、のとうは赤、友真が青でさんぽがピンク。千尋はちょっと迷った挙句、緑色を選んでいた。
「うに、かわいいねー! せっちゃんも友真くんもも、さんぽちゃんもすごいんだよー!」
 縁が口元に焼きそばのソースをつけたまま、笑顔を振りまく。そのままたい焼きももきゅもきゅと平らげていくさまは、むしろ見ていて気持ちがいいくらいだ。
 テキ屋の店番も苦笑い。
「兄ちゃんたちも意地が悪いなあ、撃退士ならそう言ってくれればいいのに」
「はは、それでも約束は約束やしなー」
 友真もそれに対して笑顔で返す。
「初詣の記念になるね、これ!!」
 千尋はひどく嬉しそうだ。何気ない日常の中で増えていく大切な仲間との思い出が、彼女にとって、いやみんなにとって、何よりも愛おしいものであるからだ。
「そうだな、今年もいっぱい思いで作れるのにゃ!」
 のとうがにまりと笑う。
「さて、そろそろ初詣もちゃんとしないとね。だよね、真野ちゃん」
「だね」
 さんぽが言うと、縁は食べかけのわたあめをくわえたまま首を縦に振った。


 本殿の前も、やっぱりひと、ひと、ひと。
 手水舎で身を清めてから十五分ほどだろうか、五人はようやく賽銭箱の前にたどり着く。
 代表で縁がガラガラと鈴を鳴らし、示し合わせて小銭を投げ入れて二礼二拍。
 それぞれが目を閉じ、静かに願いを胸の中で唱える。
(今年も楽しい一年になりますように! それから、その……ごにょごにょ)
(ここにいるみんなも含めた俺の大事な人達が、幸せでいられますように!)
(去年は素敵な出会いをたくさんありがとうございました!! 今年もみんなと元気に楽しく、怪我なく過ごせますように!!)
(去年はたくさんの幸せをありがとうございました。今年も大好きなみんなと一緒に、笑顔いっぱいの楽しくて素敵なことがたっくさんやってきますように!)
(今年も良いことと美味しいものが、縁にも友達にもいっぱいきますようにー、なんだよー!)
 それぞれ、願いはすこしずつ違うけれど。
 それでも、五人に共通する思いは「みんなで楽しく幸せでありたい」。
 ――神様、そんなささやかで欲張りな願いを、叶えてくれますか?
 もう一度深く一礼をして、五人は本殿の前から離れた。


「とりあえず、俺からのみんなへのお年玉な」
 お参りも終わって、友真が全員にリンゴ飴を買ってきた。みんな喜んでそれを受け取り、口に含む。
「甘くて美味しいなー」
「口の中真っ赤になっちゃうかもだけどねー」
 そんな何気ないやり取りをしながら、お互いクスクスと笑いあう。
「そう言えば、みんなはどんなお願いしたの?」
 ワクワクした顔で尋ねるのはさんぽ。だが、縁がそれに対して、
「お願いごとは口にだすと叶わなくなっちゃうかもなんだよー?」
 かつて育ての親である老夫婦から教わったしきたりを、じいっとさんぽの顔を見て言う。
「えっ、そうなの? じゃあ、ボクも内緒っ」
 さんぽがぽっと顔を赤く染める。みんなもそれにまたちょっとだけ笑った。
「……あ、おみくじ! 折角だから引いていこうよ!」
 千尋が指差す先にあるのはお守りや御札の授与所。
 その脇におみくじが置かれている。
「おみくじ、どんな結果になるかなー?」
 日本の経験の浅いさんぽには、何もかもが目新しくて。
「いい運勢だったら持ち帰ったり、悪かったら木に結んだりするんだにゃ。一種の縁起担ぎなのかな……」
 のとうがそう言いながら、すでに引く気まんまんだ。
「そんで、願いごとを思いながらひくんがええんよな。その願いに対しての、答えが出たりするから」
 友真も補足する。
「とりあえずひこうよー!」
 縁は言うと、早速引いた。
「そういえば末吉と小吉ってどっちが上なんだっけ?」
 千尋がぼんやりと考える。
 そしておみくじの結果は――

  <吉>
   楽しいことは多いが、足元すくわれぬよう。
   待ち人 良きも悪きも訪れる
   願い  いずれ叶う
   学業  問題なし


 参拝も無事終えて、服ももとの洋装に。
「でも今日は楽しかったにゃ! 今年も力いっぱい遊ぼうぜー!」
 のとうが笑えば、他のみんなも笑顔を浮かべる。
「うん、今年もよろしくね!!」
 みんなを代表するかのように千尋がそれに応じる。
「楽しいといいな、今年も」
 さんぽがふわりと微笑めば、縁も
「うに、みんな仲良しが一番なんだよー」
 そう言いながら何度も頷く。
「じゃあ、今年も、ホンマによろしゅう!」
 友真がすっと手を前に出す。しぜん、その手に全員の手が重ねられた。
 こういうのも、きっと仲良しの証拠。

 そして、またいつもと同じ、でも少し新しい一年が始まる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3294 / 真野 縁 / 女 / 高等部二年 / アストラルヴァンガード】
【ja3056 / 大狗 のとう / 女 / 大学部一年 / ルインズブレイド】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 高等部二年 / インフィルトレイター】
【ja8564 / 藤咲千尋 / 女 / 高等部二年 / インフィルトレイター】
【ja1272 / 犬乃 さんぽ / 男 / 高等部二年 / 鬼道忍軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注ありがとうございます。
仲良し五人組のノベル、こちらも楽しませてもらいました。
おみくじだけ、個別でございます。もし良かったら、確認を。
それでは、これからも皆様に幸がありますよう。
N.Y.E新春のドリームノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年01月29日

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