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『突撃ストレート! 』
紫ノ宮莉音ja6473


「お年玉!! 貰いに行こうよ☆」
「いーねーー」
「……いいの、かな?」
 名案! と手を叩いたのはチェリー。
 ゆるーっと話に乗るのは百々 清世。
 二人の勢いに押されながら、かくりと首を傾げたのは、紫ノ宮 莉音だった。

 実家へ戻ったり久遠ヶ原で過ごしたり、それぞれの年末年始も終わって学園。
 お土産を大量に持ち帰ったのだという莉音の話を聞いて、どこをどう捻ればその発想に至ったのか、チェリーが提案した。


『学園卒業生・筧 鷹政くんの家へ遊びに行って、お年玉を貰おう☆』
 



 事務所の場所を調べ上げ、休日に3人で最寄駅にて待ち合わせ。
「遅れてゴメーンッ」
 桜色の可憐な振袖姿で、チェリーが登場。
 着付けに時間がかかり、慌てたせいで頬も桜色に上気している。
 お正月、と言いきるには……ちょっと遅いような、でもなんとか間に合うような。
 そんな季節。
 お年玉を貰いに行くのだもの、こちらからのセッティングは完璧にしないと!
「チェリーさん、振袖とっても素敵♪」
「おー 華やかー かわいいかわいい」
 先ほどまで、寒い寒いと文句ばかりだった清世も機嫌が上向く。
「えへへ、ありがと! 莉音君は……すっごい荷物だね?」
「うん。お土産に……炭酸せんべいと、冷凍の明石焼と、豚まんー♪ あとチーズフォンデュ用の、チーズ♪」
「「  」」
「実家からの帰りにお母さんが持たせてくれたんだけど、一人じゃ淋しいなって思ってたから……今回は誘って貰えて嬉しいな」
 一人で淋しいというレベルの量じゃなかった。
 思わず、清世とチェリーは絶句する。
「お土産…… そっか。お土産。鷹政くんに、何が良いかな。お酒とか?」
「チーズフォンデュやるなら具材もいるよねー」
 手ぶら二人で相談を。
「闇鍋じゃなければ、チェリー何かつくるよ☆」
「……闇鍋? そゆのは、得意な子にやらせるべきだと思うの……」
 その辺りは、ネタに走らず済みそう。
 微笑む清世の横で、莉音が買い出しに立ち寄れそうな店の検索を始めた。




 とあるマンションの一室、『筧 撃退士事務所』のプレート。

「かーけーいーちゃーん あーそーぼー!」

 清世、言葉に合わせてチャイム連打。
「モモちゃん、ピンポンは一回ですよー!」
 アグレッシブな行動に、莉音が慌てふためく。
 ――がたっ、
 扉の向こうで何かが落ちた音、それから小さな叫びと呻きと、近づく足音。ややあってチェーンロックが外された。
「え、あれ、なんで??」
 完全に予想の範疇を越えた組み合わせの三人に、モニターで確認したはずだが信じられないという表情の鷹政。
「あけおめー☆ お年玉頂戴!」
「あけおめー、っと。寒い寒い寒い、靴、ここでいーい?」
「あっ鷹政さん、これ、お年賀です。実家のお土産だけど…… 今年も、よろしくお願いしまーす♪」
「わ、丁寧にありがとう。こちらこそよろしく ねーって、百々君! ちょ、なんっ!? チェリーちゃん、部屋の奥にお年玉なんてないよ!?」
「僕もおじゃましまーす♪」
「何が起きてるのか、誰かとりあえず140文字で解説たのむ!!」
 挨拶もそこそこに我が物顔で上がり込んでゆく清世たちへ、鷹政が叫んだ。


(ああ、ここから落ちたんだ……)
 昼寝か何かでもしていたのだろう、部屋の奥のソファベッド、フローリングの板目と鷹政の額についている痕の一致から莉音は推測する。
「筧ちゃーん 寒いんだけど! 暖房、暖房!!」
「電気ストーブ発見!!」
「やったねチェリーちゃん!」
 決して広くないワンルームでフリーダム大冒険を繰り広げる清世とチェリーを、止めることのできない鷹政。
 同情するように、莉音が背を叩いた。
「えーと…… あったまりましょっか?」
 とりあえず、美味しいものでも食べよう。
「そうそう! あったまるには、これがイチバンだと思って☆」
 チェリーが取り出した土産に、鷹政は絶句した。

 純米吟醸、『美青年』と『腐女子』。

「お酒は未成年には買わせらんないから、おにーさんが責任持って買いました」
「名前で決めた訳じゃないよっ。鷹政くんに、ぴったりでしょ? 好きそうだなって」
 息の合った悪意なきキリリに、やはり鷹政は返す言葉が見つからない。
「あと、これ……チェリーから!」
 差し出された封筒の中を取りだすと、

 領収書:筧 鷹政 様 品代として――

「……莉音君、ちょっと俺の頬、ばしーってしてくれる?」
「ごめんなさい、夢じゃないです、鷹政さん……」
 圧倒的ツッコミ要員不足である。




 入り口すぐの応接セットを室内へ引っ張り込み、4人でチーズフォンデュ。
 その他にも、簡単な料理をチェリーが用意してくれた。
「たっくさん食べてね☆ こう見えて料理は得意なんだから!」
「すげー…… ここに来て、こんなまともな食べ物はじめて……」
「鷹政さん? ここで暮らしてはるんですよね??」
 住人の発言とは思えぬセリフに、思わず莉音が顔を覗きこむ。
「いやいや、男所帯なもんで…… 近くにコンビニあるし」
「まじでー? 女の子に作ってもらえばいいじゃん、そんなの」
 清世の一言に、鷹政が両手で顔を覆った。
 心に受けた傷は、ヒールで癒すことはできない。
 見なかったことにして、莉音はチーズフォンデュの具材を選ぶことにした。
 下手な情けは、傷に塩をすりこむだけだ。


 大人二人は酒が入り、なんだかんだで腹が膨れれば話も弾む。
「筧ちゃんさー どーして痛そうな依頼ばっかりもってくるのよ、俺、遊べないじゃん」
「えー 痛いくらいが気持ちよくない? 生きてる実感するだろー。慣れてくればハマるよ?」
「わぁ☆ 卑猥な会話ーー」
「チェリーちゃん、楽しそうだね……」
 炭酸せんべいを齧るチェリーは二人のやり取りに目を輝かせているが、莉音にはその理由がわからない。
 しかし。空いたグラスに手酌していたところで、清世がチェリーの視線に気づく。
(あれ、おにーさんなんか期待されて、る……?)
 彼女の眼差しが言外に告げていた。

『GO!』
 ……どこへ。

 それでも察してしまうのが、おにーさんなんです。
(女の子のためなら、一肌脱ぐ……系…… あ、ちょっと、お酒の力借りさせて頂きますね……?)
 注いだばかりのアルコールを一気に喉へ流し込み、いざ!
「けどさーー さびしくないの? 筧ちゃん」
「寂しいって?」

「夜」

「ストレートだな!!?」
「そだよ。おにーさん、ストレート」
「……意味が違うし、なんか違うよな?」
「違わないって。痛いの嫌いだけど、痛くしないのは上手いよ?」
 こてん。テーブルに頭を乗せ、上目遣いで。
 そっと、鷹政の武骨な手に、己の白いそれを重ねる。ほとんど戦闘をしない清世の手は、綺麗なものだ。
「……なんのはなしデスカ」
「なんだと思うー?」
 ふふふ。
 酔いの勢いに任せてしまえ。
 清世は、いろんな感情を乗っけて笑う。
 明石焼を飲み込み、鷹政の体がこわばる。
「おにーさんね、欲しいものがあるの。筧ちゃんから」
「なんの――……」
(モモちゃん……なんだか、鷹政さんに甘えてる??)
 状況を一向に把握できない莉音が、チェリーの用意したパスタを頬張りながら、二人の様子を見守る。
 隣のチェリーは幸せそうな顔で無言で居るので、莉音も倣うように。
(酔ってるのかなぁ。お正月のお酒って、親戚の人たち酔っ払って怖かったけど、こういうのは楽しいなーー)
 手を握ったり、そのまま甲へキスしたり、腰へ腕を回したり、スキンシップ楽しそう。
 莉音にとって、清世は『遊んでくれる優しいおにーさん』という位置付け、ベタベタふれあうのもコミュニケーションの一つ。
 眼前の光景に違和感は働かなかった。

「わーい、僕も混ざりたーい♪」
 突撃あるのみー!

 どかん、清世と逆方向から、莉音は鷹政へ飛びついてみる。
「紫ノ宮ちゃん、だいたん!」
「鷹政さん、あったかーい」
「え!? なにが起きてるの!!?」
「140文字じゃ解説できなーい☆ チェリー、うすい本、作っていーい?」
「なんのはなし!!!」 
 チェリーの乙女美ジョンは、ブレることを知らない。




 酔いつぶれ、ソファベッドに転がされた清世を莉音が介抱する。
 そういえば昨年の夏は、男子会で山荘に行った朝……清世はやはり、こんな感じだった。
 当時の莉音は、早々に就寝していたのだけど。
「おにーさん、だいじょうぶー?」
 友達と、こんな時間に。こうやって。
 ワイワイするのも、何かの変化だろうか。
「チェリーちゃんが喜んでくれたら、おにーさんはそれで良いかな、って……」
「よく、わかんないけど…… すごく喜んでるよ?」
 酷く消耗しきった清世、励ますように莉音がその手を握る。
「紫ノ宮ちゃんは…… かわいいなぁ」
 かくり。
 それが、清世・本日最後の発言であった。
 なんとかストレートを貫きました(主観)。

(ごちそうさま。おにいさん、ごちそうさま。イケメン眼福だったよ……!!)
 心の中で全力で感謝の念を飛ばしつつ、未だ肝心のお年玉を引き出せていないことにチェリーは対策を練る。
 程よくアルコールが回ればチョロイと思っていたが、このフリーランス、意外と固い。財布のひもが。あるいは軽いだけかもしれないが――
(後は、チェリーが引き継ぐよ!)
 さぁ、開放せよ乙女パワー!! この時のための、振り袖姿!
「ふぅ…… 暑いね、鷹政くん……」
「暑いのか寒いのか、わからなくなってます」
 肘を突き、鷹政は額を抱えている。
 その間に、チェリーは帯を軽く緩め、和服ならではの色気攻勢。
(わぁ!!? どうしよう!? 見ない方がいい!? 作戦だから連携しなきゃいけない!?)
 振り向いた莉音が異変に動揺し、そしてようやく清世の行動も『お年玉貰うぞ作戦』の一環だった事に気づく。遅かった。いや、アレは想像の外だった。
「ね、今日、チェリー達いっぱい頑張ったんだよ。今だって……ほんとはちょっと、恥ずかしいけど……鷹政くんが、元気になればって……」
 そっと銀糸の髪をかきあげ、白い項をやんわりと――
「――……」
「…………」
「…………」
「……莉音くん、今だよ!!」
「ええっ!?」
 そのまま寝落ちた鷹政が、頬杖を外しテーブルに額を打ちつけても目覚めないことを確認してから、チェリーがGOサイン。

「ひん剥いてお年玉確保!」

 容赦ない。チェリー、容赦ないGOサイン。
「い…… いいのかなあ……?」
 圧倒的、ツッコミ要員不足であった。




 朝陽がキラキラと、窓から差し込む。
 淹れたてのコーヒーの香り、ベーコンエッグの焼ける音。電子レンジがご機嫌なベルを鳴らす。
「トーストの代わりに、莉音くんからの豚まんあっためたよー☆ ほら、起きて起きて!」
 残ったパスタをサラダにして、立派な朝食がテーブルに並べられていた。
「頭いてぇ……二日酔いなんて久しぶり…… うわ、すごい、豪華 チェリーちゃんが作ってくれたの?」
 雑魚寝から起き上がり、痛む頭を押さえながらも鷹政は目を見開いた。
「うんっ 今日は皆で新春セールにいくんだからね!」
「セール?」
「お年玉、貰っちゃったから☆」
「お年玉……そっかぁ いいねぇ」
 ひん剥かれたことに気づいていない鷹政は、寝ぐせの髪もそのままに、熱いコーヒーを頂く。
「おにーさん、酔い的にきついから筧ちゃんとお留守番してますね……。紫ノ宮ちゃん、後は頼んだ」
 ソファベッドから手だけを振り、そして清世は二度寝の世界へ。
「……百々君、ホント朝よわいよなぁ」
「えっ 鷹政くんたら、おにいさんと朝を迎えた事あるの……!!」
「夏に一晩ね」
「初めてじゃ……なかったの?」
「うん? そうだね。あの時は下敷きにされて驚いた」
「あはは、そんなこともありましたねー。鷹政さん、無理ばっかり」
「莉音くん、知ってたの!?? 莉音くんは変なのに染まっちゃ駄目だと思うの!」
「変、って何のこと!?」
※実に健全な男子会でした

 誤解と内緒を抱えたまま、和やかに見える朝食を終え。
「じゃあ、昼ごろに百々君と駅に行くから。そこでお昼食べてー、でオッケ?」
「おっけー! ありがとね、鷹政くん。楽しかったよー」
「いっぱい、ありがとうございましたー」
「なんの、いっぱい御馳走になったのはこっちの方だ」
 びっくりしたけど。
 そういって、笑顔で鷹政は二人を新春セールへと送り出した。
「百々君はー? 水くらいは飲む?」
「……ちょーだーい」
「はは。禁煙、ご苦労様。もう吸って大丈夫だよ」
 テーブルを寄せ、水の入ったグラスと一緒に、灰皿を。
「意外。筧ちゃんも吸うの?」
「お客様向け」
「なる……」
 むくりと起き上がり、清世は水を一口、それから煙草をくわえた。
「昨日は楽しかったねぇ」
「震えてたろ、百々君」
「おにーさん、ストレートですしおすし」
「うん、知ってる」
 だから、何事かと思ったのだ。
「ふぅ…… ちょっと生き返った。昼までに起きればいんだよね? 筧ちゃんも、いっしょに寝るー?」
「……ストレートなんだよな??」
 三度寝へ突入する清世へ、鷹政は疑惑の眼差しを向けた。




 チェリーと莉音が、両手に持ちきれないほどのショッピングをして。
 清世と鷹政が、下らない話で盛り上がって。
 4人が駅で合流し、近くのカフェでランチを頼む頃――

 3人の突撃の真相が、明かされることとなる。




【突撃ストレート! 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549 / 御手洗 紘人 / 男 / 15歳 / ダアト】
【ja3082 / 百々 清世  / 男 / 21歳 / インフィルトレイター】
【ja6473 / 紫ノ宮莉音  / 男 / 13歳 / アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
筧 撃退士事務所へようこそ……(震え声)
見事な突撃でした……。
なんだか色々と申し訳ない気分で御座いますが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

N.Y.E新春のドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年02月06日

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