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『Happy Cristmas〜彼の願い 』
村沢 昴ja5311

 知らず、ウキウキと足取りが弾むのを感じながら、村沢 昴(ja5311)は駅までの道を急ぎ、歩いていた。ほとんど駆け足寸前だったけれども、走ってしまうと今日のために整えた髪型だとか、洋服だとかが台なしになってしまうからぐっと堪える。
 それでも気付けば走り出しそうになってしまうのは、今日が昴にとって特別な日だからで。特別で、取っておきの1日。
 今日がクリスマスだから、特別なわけではない。確かにそれはそれで心踊る響きだけれども、ただそれだけでうきうきしてしまうほど、昴はクリスマスという日に特別な感慨は持っていない――と思う。
 ならばなぜ特別なのかといえば、今日は恋人とのデートの約束があるからだ。それもただのデートじゃない。いつもは何かと邪魔をして来る友人達が居て、なかなか2人きりでというわけには行かないのだけれども、今日はその友人達が居ないのだ。
 だから特別な、本当に特別な2人だけでのデートの日。珍しく彼女と心行くまで一緒に、ゆっくりと過ごせる特別なクリスマス。
 そう思ったら昴は楽しみで、嬉しくて仕方がなくて、今日のデートプランだって全部自分が考えた。サプライズをあげたいから、そうして喜んで欲しいから、当の恋人である月岡 瑠依(ja5308)にだってデートプランは教えていない。
 自分が考えたデートプランを、瑠依は喜んでくれるだろうか? 楽しんでくれるだろうか? どんな顔になるだろう? そう、想像するだけでも嬉しくて、楽しみで、昨日の夜は遠足の前の子供のようになかなか眠れなかったくらいで。
 待ち合わせの駅にようやく辿り着くと、すでに瑠依はそこにいて、何やら本を読みながら昴の事を待っていた。そうしてついに駆け出してしまった昴に気付き、ぱたん、と本を閉じてバッグにしまう。
 そんな彼女の前で足を止め、昴は満面の笑みで問い掛けた。

「おはよう! 待った?」
「別に」

 昴の言葉に、瑠依はそっけなくそう返す。それはまったくいつもの事で、言わば彼らの恒例行事のようなものだった。
 だから昴はまったく気にし……なかったわけではないが、努めて気にしないようにして、瑠依へと張り切って手を差し出す。精一杯に恰好をつけて、眼差しはまっすぐ瑠依を見て。

「はい、ど〜ぞ」
「………はぁ」

 そうしてまずは手を繋ごうと、彼女の手が差し出されるのを待っていた昴に与えられたのは、大好きな瑠依の手ではなく小さな、だが明らかに呆れた溜息だった。
 あれ? と瑠依の様子を伺うと、溜息以上に呆れた眼差しが昴に向けられていて。

「何で!?」

 あまりといえばあまりの反応に、昴は大いにショックを受けて、その場でよろりとよろめいた。けれども瑠依の眼差しは、和らぐどころかますます呆れているように見える。
 なぜだろう、と昴は必死に考えた。瑠依と手を繋ぎたくて、どうやって手を出したら瑠依が喜んでくれるか考えて、これだ! って決めたポーズだったのに、何がいけなかったのだろう。
 ぐるぐる考える昴を呆れたように見て、瑠依はまた小さな、小さなため息を吐いた。

「たまにはさり気なく繋げば良いのに……」

 そうしてそんな文句を言いながら、ようやく昴の手を優しく、ぎゅっと握ってくれる。そこでほっとしてしまったものだから、昴の中には瑠依の『さり気なく』という言葉はまったく残らなかったのだが、それも珍しい事ではない。
 とまれやっと手を繋げて、昴はあっという間にご機嫌を直し、瑠依と手を繋いだまま並んで歩き出した。本日取って置きのデートプランの、最初の場所へ。





 まず昴達がやって来たのは、駅から少し歩いた所にあるショッピングセンターだった。ここには実に呆れるばかりに色んなお店が入っていて、1日どころか数日歩き回っていても飽きないくらいの、大きな大きなショッピングセンターである。
 ここで楽しくクリスマスショッピングをしよう! というのが、昴が最初に立てたデートプランだった。もちろんクリスマスプレゼントとして、瑠依に何か買ってあげたいと思っての事だ。
 だから賑やかな人ごみの中、クリスマスカラーに彩られたショッピングセンターの中を歩きながら、昴は張り切って傍らの瑠依に尋ねてみる。

「何か欲しいもの、ある〜?」
「特に」

 見事な即答だった。即答選手権が存在するなら、優勝出来そうな位の即答だった。
 まさかそこまできっぱりと言われるとはさすがに思っていなかった昴は、え、と冷や汗を垂らす。そうして半ば縋るような気持ちで、瑠依にもう一度尋ねてみた。

「………え、と、何もないの? ホントに?」
「この前買ったから。昴はないの?」

 当たり前のようにそう返され、むしろ逆に聞き返されて、昴はすっかり困ってしまった。聞けば瑠依は先日、兄弟で同じくこのショッピングセンターにやって来て、買い物を済ませてしまったのだという。
 タイミングが悪かったといえば、それまでだ。だが幾らなんでも、どんなデートなら瑠依が喜んでくれるかな、とうきうきあれこれ考えて、これならカンペキ! と思っていたプランの最初の一歩から、躓かなくても良いんじゃないかな、と思うのだ。
 故に、さすがにちょっとしょんぼりする昴である。しょんぼり、というかむしろ、ぐっさり胸に突き刺さった、と言うか。なかなかこのダメージは大きい。
 だがいつまでも落ち込んではいられない。せっかくの2人きりでのデートなのだから、何とか代案を思いつかなければならない。それも今すぐに、だ。
 必死で思考を巡らせて、昴はようやく思いついた言葉を必死で搾り出した。

「じゃあ、本屋でも……行く?」
「――そうね」

 それに少し考えた後、こくり、と頷いてくれた瑠依にやっとほっとして、昴はショッピングセンターの一角にある本屋へと向かった。何しろ巨大なショッピングセンターだから、入っている本屋もそこそこの敷地を持っていて、様々なジャンルの書籍が揃っている。
 ここもまたクリスマスコーナーが作られており、店内のあちこちがクリスマスカラーやクリスマスアイテムで装飾されていた。とはいえ流石に、というと失礼かもしれないが、店内には他の店ほどの人影は見られない。
 それでもそこそこの人で混み合っている、店内で瑠依がまず向かったのは雑誌コーナーだった。といっても同年代の女性が好むようなファッション雑誌などではなくて、科学雑誌が取り揃えてある棚の方だ。
 一口に科学雑誌と言っても、様々な種類がある。瑠依は平積みされた表紙をさっと眺めると、どうやら欲しかったらしい新刊を見つけ、伸ばそうとした手をふと、止めた。
 あ、手を放されるかな、と思う。瑠依の左手は未だにしっかり昴と繋いだままだし、右手にはバッグを持っているから、雑誌を取ろうと思ったらどちらかの手を空けなければならない。
 もっと繋いでたかったのにな、と思いながら覚悟を決めた昴を、瑠依が呼んだ。

「ねぇ。その雑誌、取ってくれない?」
「……ッ! うん、この雑誌?」

 その言葉に、昴は文字通り飛び上がらんばかりに喜んで、瑠依に指差された雑誌を恭しく取り上げた。そうして瑠依に手を引かれるままに、次は小説コーナーに足を向けて、同じく指示された新刊の小説を先の雑誌と一緒に左手に持つ。
 そうして、他に入用の本がない事を確認してから張り切ってレジへと向かった昴に、瑠依は黙ってついて来た。これはどうやら、この本をクリスマスプレゼントにしても良い、というお許しが出たらしい。
 せっかくのクリスマスプレゼントが科学雑誌や小説というのも何だか味気ない気がするが、瑠依が欲しいというならもちろん昴に否やはない。むしろ喜々としてレジに持って行き、気合いを入れてレジのお姉さんに「ラッピングを!」とお願いして、瑠依に止められる始末である。
 こうして何とか『ショッピングデート』という最初のハードルをクリアした昴は、次のプランに移るべく、瑠依と手を繋いで本屋を出、ショッピングセンターの中を歩き出した。目指すは、レストランやカフェが多く集まっている一角だ。
 ここにはランチが有名なカフェが入っていて、いつでもランチの時間には待っている人で一杯である。せっかくの特別なデートなのだから、そのカフェで一緒にランチを楽しもうと、昴はかなり前から予約を入れていたのだ。
 目的のカフェは、人だかりを辿っていけばすぐに見つかった。1時間待ちと言う、どこのアトラクションかと目を疑うような表示をすり抜け予約の名前を告げると、笑顔で頷いたお姉さんがすぐに席に案内してくれる。
 ――所までは、良かったのだ。

「……昴。携帯、鳴ってるんじゃないの?」
「え……ッ!?」

 向かい合って席に座り、ランチメニューを一緒に見ようとした所で、瑠依にそう指摘されて昴は慌てて上着の内ポケットを探った。その途端、どこか遠くから聞こえてくるようだった着信メロディーが、確かな存在感で昴に訴えかけてくる。
 うわぁ、と顔をしかめた。ディスプレイに表示された相手は、昴に嫌な予感しかもたらさない。
 と言ってこのまま無視し続けているわけにも行かず、昴はしぶしぶ、どうか予感が外れてくれますように、と祈りを込めて電話に出た。いや、いっそ電源を切ってしまおうかとも考えたのだが、それは事態の悪化を招くだけだし。
 そうして電話の相手が告げた言葉に、昴は最大級に嫌な顔に、なる。

「え!? お仕事? え、や、マジで?」

 案の定、それは休日にも関わらず緊急呼び出しがかかった事を告げる、昴にとっては死刑宣告にも等しい内容だった。もちろん断れるはずもなく、本当に嫌々了承して電話を切ると、昴はがっくりテーブルに倒れ伏す。
 どうして。何でよりによって。せっかくの、瑠依と2人きりのデートを楽しめるというだけでも十分に貴重な、クリスマスの日だというのに――仕事で呼び出し、だなんて。
 何かもう、立ち直れないんじゃないかと言うくらいのダメージを受けてしまって、いっそ泣きたくなる昴である。泣いて良いかな。泣いても許されるよね、さすがに。
 だがそんな昴とは対照的に、またか、と言った様子で瑠依はぱたんとランチメニューを閉じてしまった。そうしてひょい、と小首を傾げて、テーブルに突っ伏したままの昴を見下ろしている。
 その眼差しに、しぶしぶ昴は起き上がり、その勢いでテーブルから立ち上がった。行きたくないけれども、本当に行きたくないけれども、仕事である以上は行かねばならないのはちゃんと、昴にだって解っている。

「早く、帰ってくるから……! 夜は空けといて……! 空けといてね!」
「はいはい、分かってるから。行ってらっしゃい」

 とはいえ、うっかりすると本気で泣きそうな顔で必死に訴えた昴の頬を、瑠依が優しく撫でてくれた。そうして、やれやれといった風に肩を竦める彼女に、もう一度「絶対だよ!」と念押しする。
 そうして瑠依に見送られ、絶対にさっさと仕事を片付けてやる、と決意を込めて、昴は全力で駆け出したのだった。





 いつもの数十倍のやる気を見せて、全力で取り組んだ仕事が終わったのは、けれども真夜中になってからだった。そりゃぁもう見事に、文句の付けようもないほどとっぷり日も暮れて、もう数十分もすれば日付が変わる、といった頃合いである。
 それでもまだ早く終わった方だ。ともすれば挫けそうな自分をそう慰めながら、昴は急いで携帯を取り出すと、瑠依へとメールを送る。
 まだ、起きていてくれるだろうか。待っていると言ってくれたけれども、ならば瑠依は絶対に待っててくれると思うけれども、待ち疲れて眠ってしまってはいないだろうか。
 はらはらしながら送ったメールは、すぐに返事がやって来た。それにほっとして、良かった、と嬉しくなる。
 とはいえ『目的』までにはもう、それほど時間はない。そのまま瑠依とメールで連絡を取って、再び待ち合わせ場所を決めて、全速力で走り出す。
 そうして辿り着いた待ち合わせ場所に、すでに瑠依は待っていた。寒そうな白い息を吐いて、昴の姿を見て軽く手を挙げる。
 すでに、時間は25日が終わる数分前になっていた。だから昴はやっと会えた彼女の手を引いて、ろくに説明もしないまま、さらに目的の場所に向かって走り出す。

「ちょっと、昴……!?」
「後でね!」

 戸惑う彼女にそう叫び、もちろん瑠依がちゃんとついて来れるように配慮しながらも、昴はひたすら走り続けた。ここからはそう遠い場所じゃないけれども、その僅かな距離すら惜しくて、もどかしい。
 瑠依はそんな昴に手を引かれるがまま、黙って後をついてきてくれる。何か言いたそうな気配は感じたけれども、それは一先ず後回しにしてくれたようだ。
 だから2人で夜の街を駆けて、駆け続けて。ふいに瑠依が大きく息を飲んだのが、昴にも聞こえた。

「……ッ! ――大きなクリスマスツリー……」

 そうして瑠依が呟いたのを、聞いて昴は嬉しくなる。今日のデートプランの、取って置きの最後の締め括り。これから向かうその場所にある、巨大なクリスマスツリーを彼女に見せたかったから。
 足取りは緩めずそのまま走り続けて、ツリーの下に辿り着いてから2人、大きく肩で息をして息を整えた。ツリーの下にはこの時間になっても、ちらほらと人影が見えている。

「25日終ったかな……」
「終わっちゃったなー……」

 そうして、見上げるのにも一苦労の巨大なクリスマスツリーを、見上げながらぽつりと呟いた瑠依に、昴は時計を確認してがっくり肩を落とした。ちょうど、24時を数分過ぎた頃だ。
 クリスマスが終わるまでには間に合わなかったと、しょんぼりする。取って置きのクリスマスデートの、取って置きの締め括りだったのだけれども、結局また最後までどたばたで終わってしまった。
 はぁ、とその場にへたりこむ。だがすぐに気持ちを切り替えて、よッ、と勢いをつけて立ち上がって。
 そうして瑠依へと向き直ると、ふいに真面目な表情になって顔を寄せ、触れ合うだけの口付けを、した。

「メリークリスマス。……今年も、一緒にいてくれて、有難う」
「――今更でしょう? メリークリスマス、昴。これからも一緒に居るから」

 そんな昴に微笑して、同じく触れ合うだけの軽いキスを返してくれる瑠依が、吐息の交じり合う距離で微笑む。うん、と幸せに頷いて、もう一度キスをした。
 誰よりも、何よりも大切に想っている昴の恋人。昴の暗い過去もすべて知っていて、それでもなお側に居てくれて、受け入れてくれて、愛してくれる瑠依。
 そんな彼女だからこそ、他の女の子とは違って、昴は安心して甘えられるのだ。この世界で唯1人、瑠依だけに。
 だからどうか来年も。再来年も。さらにそのずっと先まで。
 一緒に居られますようにと、ツリーのてっぺんに輝く星に願いをかけて、彼らはまた、煌くクリスマスツリーの下で口付けを交わした。そんな恋人たちをただ、静かに星は見下ろしていたのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /    職業   】
 ja5308  / 月岡 瑠依 / 女  / 20  /   阿修羅
 ja5311  / 村沢 昴  / 男  / 20  / ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちわ、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そしてお届けがこの上なく遅くなってしまいまして、本当に申し訳ございませんでした……(土下座

恋人同士の素敵なクリスマスのひと時の物語、如何でしたでしょうか。
いえ、クリスマスどころか新年も過ぎ去り、もはやバレンタインも目前で本当に申し訳ございません……;
でも、こんな演出のクリスマスも、息子さんの必死で、恋人さんを大切になさっている思いが伝わってきて、何だか素敵だなぁ、と思います(笑
うん、でも、甘くはないですね……(ぁぁ

ちなみに、どなた様の背後様だろう、とかなりどきどきした後で、お相手様の設定を拝見して腑に落ちました(
ぇっと、ぇっと、立て続けにお待たせして申し訳ございません……ッ(あせあせ

息子さんのイメージ通りの、甘くて素敵なクリスマスのノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年02月12日

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