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『Happy Cristmas〜彼女の願い 』
月岡 瑠依ja5308

 待ち合わせの駅に辿り着いて、月岡 瑠依(ja5308)はぐるりと辺りを見回した。そうして待ち合わせ相手がまだどこにも居ないのを確認すると、ふぅ、と小さな、ささやかなため息を吐く。
 といって別に、瑠依は気落ちしたという訳ではない。どちらかと言えば、やっぱりな、という気持ちを込めて吐いた息は、あっという間に駅の雑踏の中に溶けて、消える。
 その行方を捜すでもなく、瑠依は人待ちをするのに良さそうな、ほどほどに相手から見つけやすくて寒くない場所を探して、駅の中を少し歩いた。そうして良さそうな柱の影を見つけると、その前に立ってバッグの中から読みかけの小説を取り出す。
 今日は、恋人の村沢 昴(ja5311)とデートの約束をしていた。それも珍しく、誰の邪魔も入らずゆっくりと2人きりで過ごす、という事になっている、らしい。
 らしい、というのはそのデートプランを、当の瑠依はまったく知らないからだ。何やら妙に張り切った昴が『取って置きのプランを考えるからね! 楽しみにしててね!』と瑠依に念押しして、何一つ彼女には教えようとしなかったので。

(さて、どんなプランを考えて来たのかしらね)

 小説の続きを読み進めながら、瑠依はのんびりそう考える。まぁ昴の事なので、そこまで自分の趣味だけに突っ走ることはないだろうし、どんなプランにだって一応付き合うつもりではいるけれども。
 小説をしばらく読み進めたところで、ふと何かを感じて眼差しを上げると、こちらに向かって走って来る昴の姿が見えた。ぱたん、と本を閉じてバッグにしまい、彼が辿り着くのを待って。
 そんな彼女の前で足を止め、昴が満面の笑みで尋ねてきた。

「おはよう! 待った?」
「別に」

 その言葉に、瑠依はそっけなくそう返す。それはまったくいつもの事で、言わば彼女達の恒例行事のようなものだった。
 だから昴もまったく気にし……てない風を装って、笑顔のままで瑠依へと手を差し出してくる。そりゃもういつも通りに恰好をつけて、眼差しをまっすぐ瑠依へと向けて。

「はい、ど〜ぞ」
「………はぁ」

 そうして案の定、手を繋ごうとジェスチャーしながらそのままのポーズで待っている昴に、瑠依は小さな、小さな溜息を吐いた。先のそれとは違う、はっきりと呆れた溜息だ。
 あれ? と瑠依の様子を伺ってきた昴に、隠しもしない呆れた眼差しを向けると彼は、『がーん!』と大きく書いてあるような顔になった。人間、本当にこういう顔が出来るんだな、と妙な所に関心する。
 瑠依がそんな考察をしていると知ってか知らずか、昴は「何で!?」と叫ぶと大きくよろりとよろめいた。そんな仕種も芝居がかった調子で、何だかますます呆れてしまう。
 だが昴はといえば、どうやら自分の何がいけなかったのか、ぐるぐる必死に考えているようだ。そんな彼にまた小さな、小さなため息。

「たまにはさり気なく繋げば良いのに……」

 そうしてそんな文句を言いながら、ようやく瑠依は昴の手取り、握り締めた。その途端、ぱぁぁぁぁッ、と昴の顔が嬉しそうに輝いて、たちまちご機嫌さんになる。
 これはきっと、今の言葉は次の時には覚えてないな。そう思いはしたものの、瑠依はそれ以上は何も言わず、昴と手を繋いだまま並んで歩き出した。昴の考えてきた本日のデートプランの、最初の場所へ。





 まず昴達がやって来たのは、駅から少し歩いた所にあるショッピングセンターだった。ここには実に呆れるばかりに色んなお店が入っていて、1日どころか数日歩き回っていても飽きないくらいの、大きな大きなショッピングセンターである。
 あぁ、と瑠依はそのショッピングセンターの入口で、早くも少し遠い眼差しになった。

(ここ……この前、兄弟で買い物に来たのよね……)

 まさについこの前、何を買ったのかも、その時どんな会話を交わしたのかだって詳細に思い出せるくらい、ごくごく最近の話である。ちら、と傍らの昴を見てみれば、目をキラキラと輝かせていて、何かの気合いを高めているようで。
 賑やかな人ごみの中、クリスマスカラーに彩られたショッピングセンターの中を歩きながら、昴が張り切った様子で瑠依に尋ねてきた。

「何か欲しいもの、ある〜?」
「特に」

 ないものを捻り出すわけにも行かず、瑠依は素直に、きっぱりとそう答えた。即答選手権が存在するなら、優勝出来そうな位に即答だった自信がある。
 瑠依の言葉に、え、昴が冷や汗を垂らした。そうしてなんだか縋るような口調で、もう一度尋ねてくる。

「………え、と、何もないの? ホントに?」
「この前買ったから。昴はないの?」

 先日、兄弟でこのショッピングセンターに来て買い物を済ませてしまったから、と説明し、逆に尋ねてみたものの、昴は見事にしゅん、と落ち込んでしまった。タイミングが悪かったといえばそれまでだが、一言でも相談してくれてたら別のショッピングセンターに行くなり、何か買いたい物を残しておくなり出来たのにな、とも思う。
 とはいえすでに後の祭りだ。さて昴はどうするかな、と見ていると、うんうんと一生懸命に考えてから、ようやく代案を口にした。

「じゃあ、本屋でも……行く?」
「――そうね」

 それに少し考えた後、こくり、瑠依は頷いた。前回は本屋には寄らなかったし、新しい雑誌でも出ているかもしれない。そういえば読みかけの小説も、そろそろ終わりそうだったし。
 そう考えた瑠依に、ほっとした様子で昴は、ショッピングセンターの一角にある本屋へと向かった。何しろ巨大なショッピングセンターだから、入っている本屋もそこそこの敷地を持っていて、様々なジャンルの書籍が揃っている。
 ここもまたクリスマスコーナーが作られており、店内のあちこちがクリスマスカラーやクリスマスアイテムで装飾されていた。とはいえ流石に、というと失礼かもしれないが、店内には他の店ほどの人影は見られない。
 それでもそこそこの人で混み合っている、店内で瑠依がまず向かったのは雑誌コーナーだった。といっても同年代の女性が好むようなファッション雑誌などではなくて、科学雑誌が取り揃えてある棚の方だ。
 一口に科学雑誌と言っても、様々な種類がある。瑠依は平積みされた表紙をさっと眺めると、興味を引かれる論文が掲載されている雑誌を見つけ、伸ばそうとした手をふと、止めた。
 瑠依の左手は未だにしっかり昴と繋いだままだし、右手にはバッグを持っている。この状態で雑誌を取れるはずもないから、どちらかの手を空けなければならない。
 少し考えて、昴、と瑠依は呼びかけた。

「ねぇ。その雑誌、取ってくれない?」
「……ッ! うん、この雑誌?」

 その言葉に、ちょっと暗い顔になっていた昴は嬉しそうに、瑠依の指差した雑誌を恭しく取り上げた。そんな昴に苦笑してから、今度は小説コーナーに足を向けて、同じく面白そうな新刊の小説を取ってもらう。
 他には? と尋ねられて首を振ると、昴は張り切ってレジへと向かった。それを止めようとしてから、考え直して瑠依は黙って後に続く。
 別に高いものでもないし、わざわざ買って貰うほどのものでもないのだけれども、ここで自分で買うとか言い出したら昴が拗ねそうだ。ならばここは大人しく、昴に買って貰うのが良いだろう。
 瑠依はそう考えて、黙って一緒にレジに行き、昴のしたいようにさせた。とはいえさすがに、気合いを入れてレジのお姉さんに「ラッピングを!」とお願いしたのは、そこまでしなくて良いと止めたのだが。
 こうして本屋を出た瑠依は、昴と手を繋いで再びショッピングセンターの中を歩き出した。レストランやカフェが多く集まっている一角へ向かっている所を見ると、ランチでも取るのだろう。
 昴が向かったのは、たくさんある飲食店の中でもランチが有名なカフェだった。いつでもランチの時間には待っている人で一杯で、今も1時間待ちと言う、どこのアトラクションかと目を疑うような表示が出ている。
 昴はその横をすり抜けると、店員に自分の名前を告げた。どうやら予約して居たらしく、それに笑顔で頷いたお姉さんが、すぐに席に案内してくれる。
 ――が、向かい合って席に座り、ランチメニューを一緒に見ようとした所で、瑠依は昴の携帯が着信音を響かせているのに気がついた。どうやら当の本人は、メニューを選ぶのに夢中なようだ。

「……昴。携帯、鳴ってるんじゃないの?」
「え……ッ!?」

 指摘すると、昴が慌てて上着の内ポケットを探った。そうしてディスプレイを見て、うわぁ、と顔をしかめる。
 その顔だけで大体相手の予想はついたが、素知らぬふりで瑠依は運ばれてきた水を一口飲んだ。わずかなレモンの香りが、心地好く鼻に抜ける。
 そんな瑠依の前でしばらく悶々と悩んでから、ようやく電話に出た昴は途端、最大級に嫌な顔になった。

「え!? お仕事? え、や、マジで?」

 どうやら案の定、緊急呼び出しの電話だったようだ。電話を切った後、がっくりテーブルに倒れ伏す昴を見ながら、またか、と瑠依はランチメニューを閉じる。
 こういう事態も、決して珍しい事ではなかった。だからひょい、と小首を傾げて、テーブルに突っ伏したままの昴を見下ろす瑠依に、しぶしぶ起き上がった昴はその勢いでテーブルから立ち上がる。

「早く、帰ってくるから……! 夜は空けといて……! 空けといてね!」
「はいはい、分かってるから。行ってらっしゃい」

 そうして、うっかりすると本気で泣きそうな顔で必死に訴えてくる昴の頬を、瑠依は優しく撫でた。そうしてひょいと肩を竦めると、もう一度「絶対だよ!」と念押しして昴はカフェから駆け出していく。
 その背中を見送ってから、改めて瑠依はランチメニューを開いた。そうして適当なメニューをチョイスして、瑠依達の様子をちょっと困った様子で見ていた店員を呼び、オーダーを告げる。

(どうせ夜まではヒマだろうし、ね)

 せっかく予約をしてくれたんだし、どうせだからとりあえずここで時間を潰してから、家に帰ろう。そうして昴に買ってもらった雑誌や小説を読んでいれば、時間も過ぎるに違いない。
 そう考えて、瑠依は遠慮なく人気カフェの人気ランチを堪能し、のんびりと寛いだのだった。





 昴からのメールが来たのは、真夜中になってからだった。そりゃぁもう見事に、文句の付けようもないほどとっぷり日も暮れて、もう数十分もすれば日付が変わる、といった頃合いである。
 ほっ、と息を吐いて瑠依は手早くメールを返信した。いつでも出られるように準備だけはしていたものの、買ってもらった雑誌も小説も読み終えてしまって、これはどうかすれば明日の朝までかかるんじゃないか、と思い始めた頃だったのだ。
 焦っているのだろう、昴からの返事は早く、そして簡潔だった。そのままメールで連絡を取って、再び待ち合わせ場所を決めて、家を出る。
 そうして辿り着いた待ち合わせ場所で、少し待つと昴はすぐにやって来た。ちょうど、あと数分で25日が終わる、という頃合いだ。
 一応『今日』の間に会えたわね、と思いながら軽く手を挙げて合図すると、走ってきた昴はそのまま、いつもの様な恰好を付けた仕草もなく彼女の手を引くと、ろくに説明もしないままさらに走り出す。

「ちょっと、昴……!?」
「後でね!」

 戸惑う瑠依にそう叫ぶと、昴はそれきりまた無言になって、ひたすら走り続ける。そんな彼にもう一度尋ねたい衝動に駆られたけれども、一先ずは後回しにしよう、と決めて瑠依はただ、昴に手を引かれるがまま一緒に走り続けた。
 2人で夜の街を駆けて、駆け続けて。ふいに行く手に聳える物が見えて、瑠依は大きく息を飲んだ。

「……ッ! ――大きなクリスマスツリー……」

 荒い息の下、思わず呟いた瑠依の言葉に、昴の足取りが軽くなる。瑠依が驚いたのに、喜んだのだろう。
 けれども足取りは緩めずそのまま走り続けて、ツリーの下に辿り着いてから2人、大きく肩で息をして息を整えた。ツリーの下にはこの時間になっても、ちらほらと人影が見えている。
 まだほんの少し荒い息を吐き出しながら、瑠依は見上げるのにも一苦労の巨大なクリスマスツリーを、てっぺんまで見上げた。

「25日終ったかな……」
「終わっちゃったなー……」

 そうしてぽつりと呟いた瑠依に、昴が時計を確認してがっくり肩を落とす。横から覗き込むとちょうど、24時を数分過ぎていた。
 はぁ、とその場にへたりこんだ昴に、苦笑する。きっと彼のデートプランの中では、クリスマスデートの締めくくりをこのツリーの下でロマンチックに、とかなっていたのだろう。
 それはまったく、昴らしいプランだった。だから微笑ましく笑った瑠依の前で、昴がよッ、と勢いをつけて立ち上がって。
 瑠依へと向き直ると、ふいに真面目な表情になって顔を寄せ、触れ合うだけの口付けを、した。

「メリークリスマス。……今年も、一緒にいてくれて、有難う」
「――今更でしょう? メリークリスマス、昴。これからも一緒に居るから」

 そんな昴に微笑して、同じく触れ合うだけの軽いキスを返す。そうして吐息の交じり合う距離で微笑むと、うん、と幸せそうに頷いた昴がもう一度、キスをした。
 誰よりも、何よりも大切に想っている瑠依の恋人。軽い調子や、瑠依という恋人が居ながらすぐに女の子を口説くのは如何な物かとも思うが、それを差し引いても大事で、心愛しい存在。
 昴の暗い過去もすべて知っていて、瑠依自身の過去もすべて話して、それでも態度の変わらない彼の傍らが、家族以外では一番心地好い。きっと彼に甘えられることで、甘やかす事で、瑠依も彼に甘えて、いる。
 だからどうか来年も。再来年も。さらにそのずっと先まで。
 一緒に居られますようにと、ツリーのてっぺんに輝く星に願いをかけて、彼女達はまた、煌くクリスマスツリーの下で口付けを交わした。そんな恋人たちをただ、静かに星は見下ろしていたのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /    職業   】
 ja5308  / 月岡 瑠依 / 女  / 20  /   阿修羅
 ja5311  / 村沢 昴  / 男  / 20  / ルインズブレイド

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちわ、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そしてお届けがこの上なく遅くなってしまいまして、本当に申し訳ございませんでした……(土下座

恋人同士の素敵なクリスマスのひと時の物語、如何でしたでしょうか。
いえ、クリスマスどころか新年も過ぎ去り、もはやバレンタインも目前で本当に申し訳ございません……;
お相手様があんなイメージになってしまい、反動のようにお嬢様がこんなイメージになってしまいました(
科学雑誌……興味のある事だと読むのは楽しいですね……それ以外は読まないので、図書館とかで借りてしまうのですが(ぉ

ちなみに、体調もお気遣い頂きまして、本当にありがとうございます。
とりあえず生きてますが、そろそろ冬眠できるように進化したいですね……(ぇ

お嬢様のイメージ通りの、大事な恋人様との素敵なクリスマスのノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年02月12日

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