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『友達と一緒に温泉に行こう! 』
リリィ・セレガーラ(mr0266)

 年末、街に買い物に出掛けたエミリー・ライラックは、知り合いから温泉宿の無料宿泊券を貰った。
 何でもそこの温泉宿は巨人でも泊まれるようになっていると言う。同じサイズの仲間と泊まりに行くと良いと言われ、エミリーの頭の中に浮かんだのはリリィ・セレガーラだった。
 エミリーは券を持ちながら、早速リリィを誘いに向かう。


●風変わりな旅館?
「わぁ…! 和風の旅館ですねぇ」
「はい。とても素敵です」
 エミリーとリリィは巨大な和風の旅館の前で、ポカーンとしていた。洋風ならば大きな建築物があるが、木を使った和風の建物でここまで大きいのを見るのは二人ともはじめてだったのだ。
「とっとりあえず玄関前にいつまでもいるとお邪魔になりますし、受付を済ませましょうか」
「ですね」
 宿泊券を手に持ったエミリーは先に入ると、旅館の中の広さに再び目を丸くする。そして受付では、自分達と同じ巨人の仲居がいることにもビックリした。普通の人間サイズの人達とは別の通り道を歩いて、二人は客室に案内される。
 二人っきりになった途端、同時に深いため息を吐いた。
「知人から話を聞いた時には少し疑っていましたが、本当に大きくて広い旅館です。今の私達の身長は三十六メートルもあるのに、楽々入れたんですから」
「そうですね。それに同じ巨人の人がいて良かったです。普通の人のサイズでは、見えにくい時がありますから…」
 リリィは過去に困ったことがあったのを思い出したのか、苦笑しながら部屋に備え付けられているお茶のセットを使う。
「はい、エミリーさん。温かい緑茶です」
「あっ、ありがとうございます。いくら巨人でも、冬の寒さは身にしみますよね〜」
 エミリーは弱々しく微笑みながら、お茶を一口飲む。
 大きなガラス窓越しに、真っ白な景色が見える。巨人の二人はここまで来るのに然程苦労はしなかったものの、寒さには身を小さくして耐えて来たのだ。
「エミリーさん、お茶の他にもお饅頭がありますよ!」
 箱に入った温泉饅頭を見つけたリリィは喜んで箱を開けようとしてつい手がすべり、饅頭を座卓の上にバラバラっと落としてしまう。
「あわわっ! すっすみません!」
「大丈夫ですよ。多少、形が崩れても味は変わらないですから」
 饅頭も巨大サイズだった為に、少しばかり形が変わったぐらいで済んだ。
 リリィを慰めつつも食べてみると、優しいアンコの甘さが舌に広がる。出来立てらしく、ほんのり温かい。
「この温泉饅頭、とっても美味しいです!」
「お土産に、買って帰りましょうね!」
 饅頭のおかげですっかり気分を良くしたエミリーとリリィは、まったりと話をして過ごす。
 そして夕方近くになり、夕食が運ばれてきた。海の幸・山の幸を使った創作料理が巨大な座卓に次々と並べられ、二人は眼を輝かせながら食べていく。
「んんっ〜! このお刺身、新鮮で美味しいですぅ!」
「山菜の天ぷらも最高ですよ。和食って素材のお味が良いですし、ヘルシーでもうたまりません!」
 二人は可愛らしい見た目と反して、おかわりまでして夕食を食べ終える。
 おしゃべりに花を咲かせていると、仲居が声をかけてきた。露天風呂の掃除が終わり、今入れば外の美しい景色が見られると言う。
「それじゃあ、リリィさん。あんまり冷え込まないうちに、入っちゃいましょうか」
「そうですね。まだ陽があるうちならば、雪景色も綺麗に見られるでしょう」
 エミリーとリリィは部屋に置かれてある浴衣と綿入れ半纏を持って、女湯の露天風呂へと向かうことにした。


●風変わりな露天風呂?
 露天風呂ということもあり、入る時には念の為に体にタオルをまくことになっている。二人は脱衣所で服を脱ぎ、巨人用のタオルを体にまいて、露天風呂へと続く引き戸を開けた。
「こっこれはっ…!」
「露天風呂、なんでしょうか?」
 二人は露天風呂を見て、唖然とする。確かに外にある温泉なのだが、広さが湖ほどあるのだ。しかし温泉である証拠に白い湯気が立ち、入浴している女性達も心地よさそうにしている。
 周囲の景色を見て、エミリーとリリィは少し眼を細めた。
「でも言われた通り、素晴らしい景色ですね」
「ええ。メガネをかけていなくても、よく見えます」
 山の中にある温泉なだけに、見渡す限り雪景色が広がっている。連なる山々には真っ白な雪が厚く積もっており、夕日の橙色に照らされて光を反射していた。幻想的な光景に眼を奪われていた二人だがクシャミをして裸同然でいることを思い出し、桶でお湯をすくって体にかけ、温泉の中にゆっくり入る。
「あら? でも深さはあまりないですね」
 二人の踝ぐらいまでしか入らないことに、エミリーは首を傾げた。
 不思議に思って周囲を見回したリリィは、大きな立て看板を見つける。
「あっ、エミリーさん。あちらに説明看板がありますよ」
 大きな看板には、温泉は奥に行くたびに深くなっていくと絵を使って説明されていた。
 露天風呂には他にも入っている人がいるので、二人は静かに奥へと移動する。そして最奥の方では、座ると肩まで湯につかれるぐらいの深さになっていた。
「ふい〜。気持ち良いですねぇ」
「ええ、本当に。露天風呂がこういう造りになっていれば、普通の人から私達のような巨人まで一緒に入れますね」
 区別されることなく一緒に露天風呂を楽しめることが嬉しくて、二人は互いの顔を見ると微笑み合う。
「でもリリィさん、メガネなくても大丈夫ですか? 足元や景色、見えます?」
 ふとエミリーは心配そうに声をかける。
 リリィはいつもメガネをかけているが、流石に風呂に入る前に外してきたのだ。
「まだ外が明るいので大丈夫ですよ。露天風呂に入っている人達の姿も、僅かですけど見えますし」
 露天風呂が広い為に、手漕ぎボートがあったり、泳いでいる女性達もいる。だが泳ぎ疲れた人を見つけて、慌ててエミリーは手ですくって助け出した。
「大丈夫ですか?」
 十五歳ぐらいの少女は、苦笑しながらエミリーにお礼を言う。リリィは腕を伸ばして木に積もっていた雪を指で取り、少女に差し出す。
「顔が赤いですから、この雪で少し頭を冷やした方が良いですよ」
 少女は嬉しそうに、雪を両手で掴んで額に当てる。
 するとボートに乗っている女性達が、心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫そうですよ。少し湯あたりしただけなようですし」
「ダメそうなら、私達が運びますから」
 エミリーとリリィの言葉を聞いてほっとした女性達は、今度は二人と少し話がしてみたいと言い出す。普通の人間サイズの彼女達は、巨人である二人に興味を持ったようだ。
 少女も少し回復したらしく話がしたいと言ってきたので、二人は顔を見合わせるとクスッと笑い、同意するように頷いた。
 少女はエミリーの手に乗ったまま、ボートに乗っていた女性達はリリィが少し足を上げて膝の上に乗せる。会話は盛り上がるも、二人を巨人の女性として見ている女性達の興味津々な質問に、思わずタジタジになってしまうのであった。


●そして就寝
 露天風呂でたっぷり湯につかった二人は真っ赤な顔で、脱衣所から出て来た。売店で巨大サイズの瓶入り牛乳を購入し、休憩所のソファーに座って一息つく。
「冷たい牛乳が美味しいですね…」
「はい…。半纏、いらなかったかもしれません…」
 エミリーとリリィはぐったりしながら牛乳を飲んで、渇いた喉を潤す。
 巨人が珍しいのか矢継ぎ早に質問され続け、太陽が沈むまで質問攻めにあってしまったのだ。そのせいで体はふやけ、白い湯気が出ている。完全にのぼせてしまった。
「巨人である私達が倒れたら宿の人達に大迷惑をかけてしまいますし、もう部屋に戻って寝ましょうか」
「そうですね」
 二人は半纏を両手に抱え、部屋に戻る。二組の敷布団がすでに敷かれてあったので、そのまま布団の中に入った。
「ん〜っ。お風呂に入った後、すぐに眠れるのって良いですね…ふわぁ」
 エミリーは布団の中で背伸びをして、次に大きなアクビをする。
「今日はいっぱいはしゃぎましたからね。それじゃあエミリーさん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。リリィさん」
 二人は笑い合い、眠りに入った。


●翌日
 翌朝、朝食を食べた後、二人は宿の人が勧めてくれた巨人用の散歩コースを歩くことにする。うっかり普通の人を踏んでしまわないように、巨人用に整備された道を歩き、景色を見て回った。
「昨日見た時は白一色かと思っていたんですけど、緑も結構ありますね」
「ええ。植物の赤い色も時々見かけます」
 冬の寒い中でも植物の力強い色を見て、エミリーとリリィは白い息を吐きながら感動する。昨日に引き続き、今日も晴れているおかげで遠くまで景色が見えた。しかし晴れてても雪はほとんど溶けていないので、二人は冷たい風を受けて軽く震えている。
「もうそろそろ例の場所じゃないですかね?」
「そうですね。楽しみです」
 二人は巨人の仲居から、眺めの良い場所を教えられていた。そこは旅館から距離があるものの、絶景が見られると言う。
 いくつかの山を越えて、二人は平原まで来た。そこで更に体を大きくしてみると、どんどん見える景色が広がっていく。
「コレは美しいですね…!」
「ええ。自然の力強さが伝わってくるようです」
 エミリーとリリィは新たに視界に映る光景に、眩しそうに眼を細くした。
 真っ白な光を放つ太陽が、青空の中で輝いている。太陽の光を受けて、連なる雪山も眩しいほどに輝いていた。冷たい空気も澄んでおり、吸い込むと体の中が浄化されるような気がしてくる。
 普通の人間サイズであれば見られない光景を見て、二人の眼にうっすら涙が浮かぶ。
「街中にいたら、絶対に見られない素晴らしい光景ですね」
「はい。…私、この光景をエミリーさんと一緒に見られて良かったと思います」
「リリィさん…」
 寒さで顔を赤くしながらも、リリィはエミリーに微笑みかける。
 エミリーはリリィの真っ直ぐな言葉に照れるも、柔らかな笑みを浮かべた。
「ふふっ、実は私もリリィさんと同じことを思いました。たまにはこうやって、仲の良い友達と旅行に行くのも良いものです」
「ええ。でも普通はこういう所で遊ぶものですが、エミリーさんと私が雪遊びをしたら雪崩を起こしそうですしね。とりあえずもう少しだけ、ここで景色を見ていましょうか」
「そうですね。賛成です」
 二人は視線を景色に向けながらも、どちらかともなく手を繋いだ。


<終わり>



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【mr0250/エミリー・ライラック/両性/17/超機械科学(超機学)】
【mr0266/リリィ・セレガーラ/女/17/禁書実践学(禁書学)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして。ご指名していただき、ありがとうございました。
 お友達同士でのほほん温泉旅行…とは巨人サイズではなかなかいかず、途中でいろんなことが起こりましたが、それもあわせて楽しんでいただければと思います。
 今年も仲の良いお二人であられますよう、願っております。
N.Y.E新春のドリームノベル -
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学園創世記マギラギ
2013年02月12日

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