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『バレンタイン シンデレラ 』
黒・冥月2778

1.
「やっと2人の時間だ」
 冷たい夜の風の中で街路樹には赤いリボンの花が咲き乱れる。
 浮かれたように匂う甘いチョコレートの香り。
 街はバレンタイン一色だ。
 …そう、今日はバレンタインデー。
 草間興信所もようやく昼間の顔から夜の顔へと大きく様変わりする。
 草間の娘・月紅(仮名)も草間零(くさま・れい)も寝静まり、やっと恋人同士の時間が訪れたのだ。
 草間武彦は、どれほど…どれほどこの時間を待ち望んでいたか知れなかった。
 そんな草間の恋人・黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は浮かれた恋人の姿を見て苦笑した。
 さりとて、冥月としても草間と2人きりになれることが嬉しくないわけではないし…むしろ草間と同じくらいこの時を待っていたのである。
「コーヒーでも入れる? それともお酒にする?」
 冥月は心落ち着けようと、飲み物の提案をする。
 恋人たちのバレンタイン。折角の素敵な日。
 夜のこの時間、2人きりのこの時間だけは武彦の望みに応えたい…も、もちろんエッチな意味じゃなくて!
 思わず頬を染めた冥月を、草間は後ろから抱きしめた。
「行くな」
 耳元でそう囁かれて、冥月は小さく頷いた。
 武彦がそう言うのなら…私はどこにも行かない。
「実はな…いいもの頼んだんだ」
「え? いいもの??」
 そう問い返した冥月の耳に、どこからともなく馬の嘶く声が聞こえた。
「…来たか」
 草間は窓を開ける。冷たい風が興信所の中に入ってきて…次の瞬間、冥月は目を疑った。

 空から天馬の引く大きな白い馬車が現れたのだ。

「お迎えに上がりました」
 御者が馬車の扉を開けて、待機している。
「さぁ、行こう。バレンタインデートだ」
 草間に手を引かれ、冥月は馬車に乗り込む。
 2人が乗り込むと、白い馬車は走り出す。
 満天の星空の下、白い馬車が天馬に牽かれて駆けていく。
「一晩、夜空のデートと洒落込もう」
 ふかふかのシートに2人並んで座って、草間は冥月を抱き寄せた。


2.
「時々貴方の怪奇関係の伝には驚くわ」
 興信所には怪奇の類厳禁の張り紙がしてあるにもかかわらず、草間は時々怪奇としか表現できないことを平気でやってのける。
 それが草間の特異なる才能ということなのだろう。
「…でも、ありがとう」
 冥月は草間の首に手を回すと思い切り抱きついた。
 耳元で、さっきのお返しとばかりに冥月は囁く。
「…大好き…」
 不意打ちを食らった草間の耳が、みるみる赤くなる。
 それを見て冥月はふふっと少し意地悪な微笑みをこぼした。
「武彦…照れてる? 耳が赤いわ」
「ばっ…お、おまえ、俺をからかってるだろ!?」
 照れて焦ったのか、冥月の腕を振りほどいて草間は冥月の顎をくいっと持ち上げるとそのままキスを…しようとして耳元で囁いた。
「…悪い子にキスはお預けだ」
「っ!?」
 思いっきりやり返された。
 キスを一瞬でも期待した冥月は、赤くなる。耳まで。
「ん? 照れてるのか? 耳が赤いぞ?」
「た、武彦のいじわる!」
 ぐいっと草間の体を押しのけると、冥月はぷいっとそっぽを向いた。
 そんな冥月に、草間は「これでおあいこだ」と冥月の唇に軽くキスをした。
「怒るなよ。まぁ、怒ってる冥月も可愛いけどな」
「…ばか…」
 機嫌を直して、2人で肩を寄せて夜空を見渡す。
 冬の空は空気が澄んでいて、どこまでも綺麗に星が見えた。
「綺麗ね」
「あぁ」
 言葉少なに夜景の美しさに見とれる。
 こんな美しい景色を2人っきりで見られるなんて…夢にも思わなかった。
 きっと今この夜空にいるのは私たち2人だけ。
 武彦と私。2人だけがこの場所にいて、誰も私たちがここにいることを知らない。
 私たちがここで何をしても、誰にも気づかれない。
 そう思うと、なんだか急にドキドキしてきた。
「何か恥しいけど…凄くドキドキする」
 そう呟いた冥月に、草間はただ黙って優しく冥月の頭を撫でた。
 それはとても気持ち良くて、草間の優しさが、温かさが冥月の心に安心を与えてくれた。
 今、ここにこれてよかった。
 武彦と、ここにいられてよかった。
 草間の肩にもたれながら、冥月はただ、今の幸せがずっと続くことを祈った。
 この気持ちが…この愛が本物だという確信を持ちながら…。


3.
「そうだ、武彦。チョコ…受け取ってくれる?」
「? 昼間にも貰ったが?」
「あれは、月紅と作った家族用。こっちは…恋人用」
 冥月はそう言うと、赤と黒の包み紙にくるまれた手作りのチョコレートを差し出した。
「恋人用…か。わかった。喜んで受け取る」
 草間はそう言うと、冥月から包みを受け取ってその場で開封した。
 でてきたのは可愛いハート形のチョコだった。
「今年はね、美味しいワインが手に入ったからワインボンボンにしてみたの」
 微笑む冥月に、草間はにやりと笑う。
「それは是非、冥月の手で食べさせてほしいなぁ」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった冥月だが、草間が口を開けて「あーん」としている。
「ふふっ…もう」
 苦笑しながら、冥月はチョコレートをひとつとると草間の口にひとつ入れる。
 っと…
「ひゃっ!?」
 冥月が指を引く前に、草間はチョコレートごと冥月の指を口に含んだ。
「た、武彦…」
 赤くなってワタワタする冥月の指を、チョコレートと一緒に舐める草間。
「っ…!」
 くすぐったいような、恥ずかしいような…そして気持ちいいような入り混じった気持ちがこみ上げる。
 草間がようやく口を離してくれた。
 いたずらっぽい笑顔で「美味いな」と言った。
「…も、もう1個…食べる?」
 恥ずかしさで赤くなりながら、冥月はそう言った。
 草間の口が離れた瞬間、なんだか…とっても…寂しくて…。
 気が付いたら、その言葉が口をついて出ていた。
「じゃあ、もらおうか」
 またひとつ、冥月がチョコレートをつまんで草間の口元へと運ぶ。
 しかし、今度は草間がその冥月の手を持って押し倒した。
「ひゃん!?」
 押し倒された冥月の手からチョコレートを口に含み、そのまま冥月にキスをする。
 2人の口の中でチョコレートが溶けて、ワインが口いっぱいに広がった。


4.
 ふぅっと口から吐息が漏れて、少しだけアルコールの匂いがする。
 強引…なんだから…。
 ふと見ると冥月の知らぬ間に、椅子だった場所がベッドに様変わりしている。
「こ、これ…どうやって…!? え? な、なんで…」
 慌てる冥月に、草間は優しく訊く。
「嫌か?」
 そう訊かれたら、嫌じゃない。
 嫌じゃないけど…
「嫌じゃないけど、御者が…見てるから!」
 草間は振り向いて御者を数秒見つめて、真剣な瞳で冥月を見つめる。
「気にするな、あれは只の機械だ」
「き、機械っていったって…!」
 それが本当かどうかは冥月にはわからなかったが、人型をしていれば気になるものは気になるのだ。
「…しょうがねぇなぁ。おい、御者。ここの覗き窓閉めとけ。あと、音声は遮断しろ」
「了解しました、マスター」
 御者は振り返りもせずそう返事をすると、馬車と御者席の間にある窓を閉めた。
「…な? これでオッケーだろ?」
「………」
 強引。強引。強引。
 でも…武彦のそういうとこ、嫌いじゃない。
「もう…仕方ない人」
 草間の顔を引き寄せて、冥月からキスをする。
 甘いチョコレートの香りがした。
「…あ、言い忘れてたわ」
「ん? 何を?」
 草間が冥月のボタンを外すのを中断して、冥月の目を見つめる。

「ハッピーバレンタイン。好きよ、武彦。ずっと愛してる」

「…知ってる。俺も、だ」
 草間がそう言うと、冥月は草間を抱きしめて目を瞑った…。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はラブリー&スィートノベルにご依頼いただきましてありがとうございました!
 チョコより甘い…か? 糖度は高めで仕上げさせていただきました。
 バレンタイン過ぎてますけど…少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ラブリー&スイートノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年02月18日

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