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『スイート・スウィート・ルーム 』
御手洗 紘人ja2549


●スイートホテル

 バレンタイン。
 恋人たちの、この祝日の為に、一つのホテルがその扉を開けました。

 スイートホテル。
 年二日。バレンタイン、そしてホワイトデーにのみ開放されるこのホテルは、全ての恋人たちに無料で開放されます。
 豪華なホテルの一室。多彩なルームサービスは、全ての要求を満足させてくれるでしょう。
 個室に貸切の大温泉。そして望めば、バイキングだって厨房は作ってくれます。

 但し、如何にここが理想的なホテルと言えど、法律は守らなければなりません。
 えっちな事や、犯罪になるような事を考えてる人は‥‥追い出されますよ?
 もちろん、未成年の飲酒やタバコも‥‥

 1年に1日だけの、愛の日。朝から夜まで、恋人と共に過ごして見ませんか?
 無論、脳内恋愛の方も、歓迎しますよ。


●スウィート・エントランス

「わぁ‥‥」
 ホテルのエントランスホールに踏み入れた瞬間。チェリーは感嘆の声をあげる。
 煌びやかな装飾。天井に高く、見上げなければいけないほど高く吊り上げられたシャンデリアの、柔らかな光に照らされた場所。恋人たちに開放されたこの楽園(パラダイス)を演出するための数々の飾り付けに、、チェリーの目には、完全に奪われていた。

「おう、そんじゃ、チェックイン済ませてくるぜ」
 ガタイのいい男が、カウンターの方へ向かう。だが、チェリーは彼を呼び止める。
「ねぇ‥‥アリスちゃん。こんな‥‥こんな高そうな所に泊まって、その‥‥大丈夫?」
「大丈夫だ。任せておきな!」
 自信ありげにサムズアップ。『アリスちゃん』こと‥‥有田 アリストテレスは、カウンターへ向かう。
(「ま、ここは無料開放とされてるんだが‥‥それを言っちゃいけねぇな」)
 男には、かっこつけたい時もあるのだ。

「事前に予約しておいたんだが‥‥」
「有田様ですね。少々お待ちください」
 カタカタっとキーボードを叩いた受付の女性。しばしして、鍵が差し出される。
「20階、2000号室で御座います。エレベーターは右側のをお使いください」
「ありがとうな」
 パシっと鍵を上に投げ、空中で横に腕を振りキャッチ。
 振り向き、チェリーの方へと向かう‥‥と思ったら、その場で再度カウンターの方へと振り返る。
「今のうちにルームサービスの予約って、できるか?‥‥ちょっと届け方にも注文があるんだが‥‥」
「ご安心を。法にさえ触れなければ、どのようなご要望にもお答えできるのが、このスウィート・ホテルでございます」

(「これって外泊ってやつかな‥‥アリスちゃんの部屋では2人でいることはあるけど‥‥これはもしかして‥‥もしかしちゃう!?」)
「ルームは2000号室だってさ。行こうぜ」
「ひゃいっ!?」
 そんな事を脳裏に巡らせ。妄想を膨らませていたチェリーは、突如呼びかけられびくっと跳ね上がる。
「うー。突然びっくりさせないでよぉ‥‥」
 涙目で、有田を見上げるチェリー。

 ドクン。

 可愛いのは知っていた。大切な人なのだから。
 だが、この表情を見せられた有田は、それでも、胸の鼓動がどんどん早くなるのを感じていた。
 朱が差した唇。少しだけ涙を浮かべた大きな目。薄いながらも、化粧をしてきたのだろうか。いや、彼女は化粧無しでも、十分魅力的だ。
 そして‥‥その身に纏う、何時もは着ないような外行き用のワンピースが、彼女もこの一泊を楽しみにしていた事を表している。
(「そうか‥‥」)
 何も言わず、愛らしい恋人をぎゅっと抱きしめ、そのぬくもりを感じる。
「ん‥‥突然、どうしたの?」
「なんでもねぇ。さあ、行こうぜ」
 恋人たちの一夜のため。お互い、顔を赤らめながら、二人は用意されていた一室に向かう。


●ドキドキ☆ルームイン

「ふう‥‥」
 軽く、腕で汗を拭う。
 撃退士の体力ならば、並みの荷物はどうともないはずだが‥‥それが常人には運べない程の大荷物なら別である。
「おつかれー。大丈夫?」
 ハンカチを取り出し、軽く有田の頬に当て、汗を拭う。
 汗のにおいが鼻を衝く。だが、それは不快ではなく、寧ろ、拭った後の肌は、口付けたくなるような衝動が――
(「やだ、何考えてるのよチェリー!」)
 素早く身を引き戻し、振り向いたその顔は真っ赤。

 だが‥‥それは有田の方も、また同じ事。
(「我慢しろよ、俺‥‥いいか俺、押し倒すなよ!」)
 ドクン。
 先ほどのチェリーの動き。彼女は見られていないと思ったのだろうが、有田の目にはばっちり映っていたのである。最も、それを言うほど、野暮ではないが。
(「いくらそういう感じだったとは言え‥‥ここで襲おうものならあいつは泣き出すに違いない。‥‥いや、その前に、男失格だ‥‥」)
 うぉぉと唸りながら、何とか気合で、胸の鼓動を落ち着かせる。
「どうしたの、アリスちゃん?」
「い、いや!? なんでもないぜ!! ――そ、そういや、温泉があるらしいぜ。早速入ろうじゃないの! ‥‥俺が先で良いか?」
「う、うん‥‥」
 風呂場へと移動する有田の顔を見て、チェリーは、決心する。
(「受身だけじゃダメ‥‥もうちょっと、もう少し‥‥大胆に行ってもいいよ‥‥ね?」)


●スウィート・ウォーター

「あー‥‥緊張したぜ」
 ちゃぷんと湯に漬かりながら、有田はタオルを額に掛け、恋人の姿を思い出す。
(「‥‥ったく、可愛すぎて自制が効かなくなりそうだぜ」)
 その瞬間である。がらりと、風呂場の入り口が開かれたのは。

「アリスちゃん、背中流してあげるー!」
「のわっ!!」
 びくりと跳ね上がり、そのまま素早くタオルを腰に巻きつけ急所をガード。
「どど、どうして入ってきた!?」
 そちらの様子を見ようとするが、直視できず直ぐに目をそらす。
 ――最も、チェリーは水着の上から更にタオルを巻きつけていた完全装備だったために、見ても問題はなかったはずなのだが‥‥そこは、男の性と言う物だろう。
「‥‥だから、背中を流すって‥‥だめ?」
 もじもじして体を揺らし、声が段々小さくなるチェリー。
(「‥‥そんな言い方されたら、断れねぇじゃねぇか‥‥」)
 元々、完全に断るつもりもなかったのだが。有田は後ろを向いたまま、手招きし。OKのポーズをする。
 それを見たチェリーは、ぱーっと表情を明るくし、走りよる。
「って、ちょい待て!走ったら滑るぞ!」
「うわわっ!?」
 有田の制止空しく、滑りやすい床に足を取られたチェリーは、思いっきりバランスを崩す。
「っち‥‥」
 できるだけそちらを見ないようにしながら、有田はチェリーを受け止めるが‥‥体勢的に、チェリーが有田の腹部辺りに抱きつくような形になってしまう。
「気をつけてな?頭をぶつけたら大変だから」
「う、うん‥‥」
 赤い顔のまま、チェリーは有田の背中の方へと回りこみ。そのまま背中を擦り、洗う。
「アリスちゃんの背中‥‥大きいね‥‥」
「‥‥こういうのは初めてだぜ。照れるじゃないの‥‥っておい、何してるんだ?」
 恥ずかしがるようにして、頬を搔く有田。だが、背中に感じる感触が変わった事に気づく。そう、それは、まるで体全体で抱きつかれているような――
「いつもは余り一緒にいられないから‥‥こういう時くらいはうんと甘えてもいいよね‥‥」
 ぎゅっと抱きついたチェリーの頭に、後ろ手でぽんっと、手を置き。
「‥‥ああ、湯冷めしないていどにな?」


●スウィート・ディナー

「お、似合ってるじゃねぇか」
 湯上りに、チェリーが着替えたのは黒のミニドレス。可愛い中にも、大人の色気が含まれた一品。
(「こう言う場合なんだから、少しはおしゃれしないとね」)
 だが、顔を上げたチェリーは、目の前の光景にもっと驚く事になる。
 ――豪華なコースディナーが、そこには並んでいたのだ。

「‥‥こんなに一杯‥‥どうしたの?」
「俺からのプレゼントだ、滅多に食べられる代物じゃないぜ」
「って事は‥‥アリスちゃんが頼んでくれたの?」
 そう。有田が、カウンターでお願いした事とは、温泉風呂に入っている間に。このコースディナーを設置して欲しい、と言う事だったのだ。
「ありがとー!」
「っとと、さっき抱きついたばかりだろうが」
 再度飛び込んでくるチェリーを、受け止める。
「なら、チェリーが食べさせてあげる」
「へっ!?」
 有田が反応するよりも先に。チェリーは、端で、魚を一切れ取る。
「はい、あーん」
「‥‥っ、あ、あーん」
 顔を茹でたこのように真っ赤にしながらも、ぱくりと、有田はその魚を口に入れた。
「美味しい?」
「う、うむ」

 何処か落ち着かない食事の後。
 チェリーは、有田の膝上に座っていた。
(「やっぱり‥‥何時もとは違う。なんだかドキドキする‥‥」)
 下を向いたチェリーは、しかし、意を決したかのように顔を上げ。小さな包みを取り出し、差し出す。
「はい、これ‥‥」
「ん?」
「バレンタインの‥‥もちろん、本命だよ」
「あ、ああ。ありがとう、チェリー」
 受け取る有田。その手に持ったまま‥‥
「開けても、いいか?」
「うん」

 友達と一緒に選んだ、チョコレート。パッケージが開けられたのを見て、チェリーはそれを一かけら取り。
「今日はありがとう‥‥これからも宜しくね」
 口に銜えたまま、顔を有田の方へと近づける。
「‥‥気にしなくて良いさ。たまには‥‥こういうのもやりたかったんだ」
 有田もまた、顔を近づけ――

 ――ここはスイート・ホテル。愛の名の下に、全ての奇跡が起こる場所なのである。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
ja2549/御手洗 紘人/男/15/ダァト
ja0647/有田 アリストテレス/男/22/インフィルトレイター

ラ ┃イ┃タ ┃ー┃通┃信┃
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※本件はパラレルワールドです。実際に近い事が発生したかもしれないし、発生していないかもしれません。

ご注文通り、限界まで砂糖を投じさせて頂きました。
あまりの濃度に剣崎が1日では執筆できず、三日に分解して執筆する羽目になっておりました。
コメディ要素を可能な限り排し、凝縮した結果がこのノベル。ご満足いただけたのなら幸いで御座います。
ラブリー&スイートノベル -
剣崎宗二 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年03月04日

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