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『夢の国から2022 〜秘密〜 』
星杜 焔ja5378)&君田 夢野ja0561)&ラグナ・グラウシードja3538)&若杉 英斗ja4230
●るーるーるるるるるー

 同窓会――それは非リアにとって、無縁の代物かもしれない。
 しかし彼ら、元☆非モテ系ディバインナイト友の会(と愉快な仲間達)にその手の心配は無用であった。
 非モテであって非リアでなし。
 そう、10年前のあの日々……彼らは正しく青春を謳歌していたのだ。
 あんまりモテなかったけど。

 いや、いい。モテなかろうが構わない。
 大勢の女性に好かれようとも、運命の伴侶を得られなければ意味はないのである。
 裏を返せば、たったひとりの大切な人さえ見つけられれば……或いは大勢の歓声を浴びずとも、幸福な人生と呼べるはず。

 そういう意味で、彼らは勝ち組だった。
 少なくとも当事者である桐江 零(jz0045)は、そう感じていた……。


●それぞれの巣立ち

「やぁ、ひさしぶり」
 ダークグレーのスーツに身を包んだ眼鏡の青年が、軽く手をあげる。
 それが若杉 英斗(ja4230)の現在の姿であることは、この場に集まった面々には容易に知れた。

 今は別の道を歩む、懐かしい面々――。
 久方ぶりの再会となった今日、彼らは総じて晴れやかな笑顔で挨拶を交わした。
 各々の個性を滲ませるスーツ姿。
 着られていたのは過去のことで、今や、道行く女性が振り返るくらい華麗に着こなしている。
 それぞれに大人の男らしい落ち着きが出てきたようだが、驚く程の変化を遂げた者はいない。
 まるであの頃に戻ったようだと、微笑ましい気持ちでラグナ・グラウシード(ja3538)は笑う。

 未成年だからと、カラオケのジュースで乾杯したのも、遠い昔の話。
 今日集まったこの場所は、星杜 焔(ja5378)の知人が経営しているという隠れ家的ダーツバー。
 大人の社交場といった趣の店内には、彼ら五人と店主以外の人影はなく。
「ごめんね〜、無理言って貸切にしてもらっちゃって……」
「いえ……いつもお世話になっているのはウチの方ですから。星杜さんの為ならこのぐらい」
 話を聞くに、この店で出している品のいい小料理のほとんどが、焔のアドバイスを取り入れたものだとか。
 理由を聞けば納得だと、酒を一層引き立てる気の利いたアテに舌鼓を打つ。
 焔が夫婦で経営する小料理屋は、今やタウン誌の巻頭に特集が組まれるほどの盛況ぶりなのだ。
「星杜さんが味見てくれてから、女性のお客様がすごく増えたんですよ」
「うんまあ……大したことはしてないけど、ね」
 謙遜する焔だったが、店主の言葉がお世辞でないことは明らかである。
 そもそも、昔から彼の料理には定評があった。一部の人間をして台所の魔術師と呼ばせる程度には。

 君田 夢野(ja0561)は、店内に流れるオールド・ジャズのレコード音源に耳を傾けて。
 今や存在自体が貴重な品となったアナログプレーヤーの前に立ち、針の進む様をじっと見つめながら呟いた。
「文句のつけようがない名盤だ。マスターの趣味? マニアックだけど、いいセンスしてる」
「ありがとうございます。お客様、よくご存知ですね」
「まぁ……一応、音楽やってるんでね」
 ジャズが専門というわけではないけれど、と一言添え。背伸びをしてからカウンター席へと歩み寄る。
「今度来日するときは”彼女”も連れて来ようかな」
「気に入ってくれたのなら紹介した甲斐があったというものだ……」
「俺も、今度関東に来たときはお邪魔しようかな……あ、マティーニもう一杯ください」
 いい感じに酔いが回ってきたらしく、へらへらと気の抜けた笑顔を浮かべながら桐江が言う。
 店主は笑顔で頷くと、カウンターに背を向けて瓶を取り、ミキシンググラスへジンを注ぎ始めた。
「それにしても、本当に皆変わらないな〜」
 そう呟いた焔の外見にしても、学生時代とほとんど変化がない。
 しいて言えば、着るもののセンスが少し大人っぽくなっただとか、以前より表情が豊かになったとか、そういう部分での変化はあるけれど。
「あ、でもラグナさんは少し雰囲気が変わりましたよね」
 英斗の言葉に、当のラグナは首を傾げる。
「そうだろうか? 自分ではなんとも言えないが」
 けれど周囲の意見はしっかり一致していた。
「あ〜たしかに……。丸くなったよねぇ」
「うん……知り合った頃のラグナ君は過激だった……」
 皆に言われれば、そうなのだろうか、と渋々納得。左手でぽりぽりと頬を掻く。
 ほの暗い店にわずかに灯る間接照明の下、ラグナの薬指が微かに燦めいた。


●非モテって何かね?

「それにしても……みんなもうすっかりリア充か。非モテとか言っていた学生時代が懐かしいな」
「三十路になったら皆でダアトにジョブチェンジ、とか言ってたっけ」

 全国のダアトに謝れ。と何度ツッコミを入れたかも今となっては曖昧だ。
 それほどまでに使い回された彼らの合言葉。けれどその望まれない約束が果たされることはなかった。
 あれから十年、目まぐるしく過ぎていく日々の中で、彼らも一歩ずつ成長を続けている。

 非モテだなんだと、日がなバカ騒ぎをしていた学生時代。
 確かにそれは、悲哀に満ちた青春だったかもしれない。
 けれど共に過ごした仲間との絆は、あの哀と青春の日々を共に噛み締めたからこそ、今も尚ここに存在している。
 好き放題に遊んでいたようなチャラチャラした輩には(多分)得られなかったはずのもの。
 そう思えば、過ぎ去ったあの日々も無駄ではないと思える。っつーか精神衛生上そう思うしかないんだよ。察しろ。

「でも何だかんだ、君田くんちは十年前もう付き合ってたらしいしね……」
 生ぬるい目をして恨めしげにぼやく桐江に、
「そ、それを言うなら星杜家もだろう!?」
 矛先を逸らそうと話題を振る夢野。
「……若杉さんは、今の彼女とは大学部の頃に知り合ったって言ってたよね〜」
 焔は素知らぬ顔でとなりの男に受け流し、
「俺はそんなことより、ラグナさん達の話が聞きたい! 結局、卒業してから何があったんですか!?」
 ――矛先は結局、完全に油断していた男の方へと向けられる。
「……わ、私が何だって? そんなつまらない話よりも、桐江殿の恋人の話の方が面白いはz」
「俺の話とか大体想像つくでしょ、皆」
 満面の笑みで何故か堂々と宣言するヘタレ。
 焔はいつもの笑顔のまま、英斗と夢野は若干ひきつった笑みを浮かべて、頷く。
 そらそうよ、出逢った時点で更生の余地なんて無さそうだった【検閲】が【検閲】と【検閲】な生活を送っていない訳が無いし。
 そんな今更すぎることよりも、今まで何度訊ねようが強引にスルーされてきたその話題に、興味がある。
「じゃあ、洗いざらい喋ってもらおうか」
「卒業して〜、それからまず〜?」
 ああ。まごう事なき、四面楚歌である。


●俺がまだ喋ってる途中でしょうが!

 泣いている。アラサー男が泣いている。
「あの……あのナイフみたいに尖ってたラグナくんがまさかそんな事に……っ」
 正直気持ち悪い勢いで滂沱の涙を振りまく桐江。悪酔いと泣き上戸は治らないのか。
「う、うう……今こそこの言葉を君に贈ろう……りゃ……リア充末永く爆発しろ!」
 さすが当時を共に過ごした仲。周囲も慣れたもので、鼻をすする男を黙殺して話――というかノロケ――を続けていた。
「……まぁ、なんだ。そんな訳で、今はそれなりに上手くやっていると思う」
「十年前のラグナさんにも、今のラグナさんを見せてやりたいな」
「そうだね〜」
 一つの事象に囚われて、周りにある大切なものが何も見えなくなっていたあの頃。
 劣等感、そして怒り。堰を切って溢れ出す感情の奔流に、ただ振り回されているだけだった弱い自分。
 それでも仲間達は自分を支えてくれた。彼らと共に過ごした日々こそが、自分を変えてくれたのだとラグナは思う。
 友情、そして信頼。
 それらを預けた仲間の助けがあったからこそ、『彼女』の声に、耳を傾けてみようと思ったのだから。
「確かに、あの頃の自分が嘘のようではある。幸せ、……そうだな、幸せなのだな、私は」
 呟き、はにかみながらも、ラグナは噛み締める。
 幸せ。――そう、これが幸せということなのだろう、と。

「俺もいろいろあったけど、今は家族たくさんできて……幸せと言っていいのかもしれないなぁ」
 学生時代にした願掛けを思い出す。
 結局は本当に大願成就したのだから、神頼みも捨てたものじゃない。
 恥を忍んでエクストリームな告白をした甲斐もあった、などと。思い出話ひとつ。
「一時はどうなるかと思ったけど、なんだかんだで丸くおさまったしな」
 当時を思い返しつつ優雅にブランデーグラスを傾ける英斗。
 必死に頷く桐江は、もはや何杯目かさえ分からないショートカクテルを一気に飲み干して。

「……しかし羨ましいな。皆、一緒に住んでるんだろ?」
 突然そんなふうに呟いた夢野に、周囲が首を傾げる。
 すると彼は苦笑いを浮かべ、ロンググラスをぎゅっと握った。
「俺も彼女とノーフォークに行って、最初のうちは良かったんだ。絵に描いたような幸せな日々を過ごしていたよ」
 聞きの態勢に入った皆に、切々と語る夢野。奇しくも店内のBGMは、しっとりとした大人のバラード調に変化している。
「ここのところ、俺もコンサートツアーで海外遠征が増えて……仕事が順調なのは有難いんだが、その」
「彼女もいろいろと忙しそうだからねぇ……」
「すれ違いの日々……ってやつですか」
「そう、そうなんだよ! だけど今更、下手に周りに愚痴なんか吐けなくてさ」
 じわり、と。夢野の目尻に浮かぶ涙。
「もう1ヶ月は会ってないんだよな。頑張って帰っても向こうが家にいないしさ……ああ、会いたい、な……会いたい……」
「君田殿……ッ!」
「想像しただけで泣けてくるねぇ」
 釣られて涙目になる男達であった。いかんな、年をとると涙もろくなる。(※まだアラサーです)


●父さん……、僕は会話に入っていけませんでした。

「だけど、世界は平和だねぇ……」
「ああ、平和だ」
「……平和、だな」
「ふぇいわぁぁ」
「もう、リア充を爆破する必要も、爆破される心配もないんだ……」
 そうだ。違いない。
 今、彼らの世界はバラ色に輝いているのだから――!

 涙目になりつつも未だ呑み続ける4人の男。
 しかしお気づきだろうか?
 そんな彼らを尻目に、たったひとり、静かに蚊帳の外状態の男がいた。

(……言えない、いまだに、未だにエア彼女と付き合ってるなんて!)

 節子それ彼女やない妄想おっとだれかきたようだ。
 とにかく、それは若杉英斗にとって、国家機密レベルの最重要機密にも等しいトップシークレットなのである。
 かつて共に非モテを嘆いた友人達は揃いも揃ってリア充にクラスチェンジしているというのに。
 自分は……自分だけ……。どうしてこうなったんだ……。
 内心の葛藤、苦悩、困惑、絶望。
 それらを全て噛み殺し、内心で冷や汗を流しながら、必死に作り笑いで話を合わせる英斗。
 相槌。相槌。うんうんわかるー。って、女子か。俺は女子か!
 だがセルフツッコミが冴え渡ろうとも、聞いて笑ってくれるのは件のエア彼女ただひとりなのである。
『ねぇ英斗、私のこと皆に紹介してくれるんじゃなかったの?』
(……うるさい)
『2人のときはあんなに優しいのに、ひどいわ』
(頼むから、少し静かにしてくれ……!)
 まずい。非常にまずい。
 普段は可愛い彼女なのに――ってその時点で何かおかしい気もするけれど――今だけはその存在が恐ろしいのだ。
 このままではうっかり、声を荒らげてしまいかねない。
 落ち着け、クールになるんだ。
 気づかれてはいけないぞ若杉……絶対に、気づかれてはいけない!
『ねぇってば――』
「――黙っててくれって言ってるじゃないか!」

 あ。

 やべっ、……終わったなこれ。


●醒めない夢を、胸に

 英斗の目覚めは、己の叫びとともに訪れた。
「……ゆ、夢か」
 荒い息を整え、胸を撫で下ろしながら、眼鏡をかける。
『おはよう、いい天気ね』
 今日も隣にエア彼女!
 だけどごめん……、今日は、今日だけは、君と話をする気分じゃないんだ……!
 泣いていない。泣いてなどいない。これは心の汗なのだ。
 己に必死に言い聞かせる――英斗十八歳の冬であった。
 大丈夫だブラザー、彼女ぐらいすぐに見つかるぜ……!

 同刻、起き抜けのぼんやりした頭で、ラグナは己の左手を見つめていた。
 とても幸せな夢を見ていたきがするのだが、なぜか今ひとつはっきり覚えていない。
 ただ。
 薬指が、ほんのすこし軽い気がして。
「将来の夢でも、見ていたのだろうか」
 美しくて包容力があって、胸の大きなグラマラス美女との――ああ、きっと、そうに違いない。
 それでなければ、こんなに満たされた気持ちで目覚めることなど、無いはずだから。

 夢野はベッドから体を起こすより早く、携帯電話を手に取っていた。
 通話の相手は決まっている。彼女以外の誰がいる。
 目を覚ましたとき、なぜか頬が涙に濡れていた。
 なんだか悲しい夢を見た気がして、無性に彼女の声が聴きたくなったのだ。
「……もしもし、おはよう。今、話しても大丈夫かい?」
 その問いかけは、歌うように優しく、そして軽やかに。
 たとえ離れていようとも、音はきっと、心を繋いでくれる。

 そして――
 朝食の支度をしながら、焔は今朝の夢を思い返そうとしていた。
 ぼんやりとした記憶ではあるけれど、夢の中の自分は、確かに笑っていたと思う。本当の、笑顔で。
(……もっと、ちゃんと笑えるようになっても)
 菜箸を、握る。
(みんなと一緒に、なかよく、遊べていたらいいなぁと思うよ……)
 それは朝に見る夢。
 決して想像の世界ではなく――現実に起こりうる、かもしれない、ひとつの希望のカケラ。
「おや……桐江さんからメールが……」
 それはまた下らない理由での、下らない誘いに違いないけれど。
 学園を離れてからも、ずっと友達でいられるように――少しでも多くの時間を、今、共有できたらいいと思うから。

 今日は付き合ってあげよう。
 そう決めて、メールを開く。

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エリュシオン
2013年03月05日

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