▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【A Brand−New Year/invited side】 』
キア・ブロッサム(gb1240)

●Scenery of the new year
 新しい年は、これまでよりのんびりとやってきた。
 長く人々を脅かし続けてきた『赤い月』、バグア本星が空から消えて早数ヶ月。
 かしくて地上から争いは消え去り、地球は平和を取り戻し――という大団円には未だ遠いものの、誰の上にも「終戦」という一つの区切りが訪れている。
 人類最後の希望たる人工島『ラスト・ホープ』も、例外ではなく。
 フロリダから遥か東の大西洋上で、能力者たちは穏やかな年越しを迎えた。

「今頃は……のんびり過ごしている、かな」
 壁の一面に大きく取られた窓へ目をやり、キア・ブロッサムはぽつと呟きを落とした。
 彼女が寛いでいるのは、自室代わりにしているホテルの一室。それなりに広さと設備が整った部屋にはキッチンも備え付けられているが、整った調度にはどこかのモデルルームのようで、生活感が一切ない。
 ここは彼女にとって、身体が必要とする休息を取ることが目的の場所だ。特別な来客がある訳でもなく、誰かを招待する訳でもなく、そもそも『帰る』ことすら滅多にない。
 しかしバグア本星を機に戦場は縮小し、彼女の『仕事』も減った。
 代わりに、友人たちは何をしているだろう……と、以前は考えもしなかったことに思いをめぐらせてみる機会が増えた。
 それも悪くないと思える自分に苦笑をし、等間隔で機械的に鳴る電子音が静寂を破る。
 番号を確かめたキアは、すぐに回線を繋ぎ。
「藤堂さん?」
『あ、キアちゃん。あけまして、おめでとうございます〜』
 常に笑顔を絶やさず、どこかのんびりでマイペースな友人の声が、いつもの調子で新年の挨拶を告げた。
 言葉の後半、少し距離が遠くなった感じから察するに、向こう側ではお辞儀か何かしているのだろう……こちらからは、全く見えもしないのに。
「新年、おめでとう……こちらこそよろしく、ね」
 変わらない調子に呆れながらも、ひとまず挨拶を返し。
「それで、何?」
 先んじて、電話をしてきた用件へと水を向ける。
『うん。キアちゃん、今日は暇かなってー』
「そうね……予定はない、けど……」
『じゃあ……』
 お雑煮食べにこんねーと、無邪気に藤堂 媛は彼女を食事に誘った。
「……藤堂さんからの、折角の誘いですし……相伴に、預かりましょうか」
 特に予定もないのは本当で、ふと思いついたこともあってキアは承諾する。
「ただ……こちらも用意が、ありますので……」
 準備をする時間を計算しつつ、訪問の時間を二人で決めてから、キアは通話を切った。
 自分とはまるで性格が真逆かつ明朗な媛は、最近なにやら日本文化の先生化している関係だ。
(最初は合わないと思っていた、かな……ただ悪意の無い笑顔は、つい気を許してしまうもの、ね)
 そんなことを考えながらキアは大き目の鞄をベッドの上に広げ、クローゼットから畳紙(たとうがみ)と呼ばれる特別な紙に包んだ服を取り出す。
 ……マイペースな「先生」を、驚かせる為に。


   ○


「招待、ありがとう……でしょうか。一応」
 約束した時間の少し前に着いたキアを迎えたのは、屈託のない満面の笑顔だった。
「そんな大そうなんと違うから、ええよー。うちが呼びたかっただけやー」
 嬉しそうな媛が手招きをされたキアは和室に通され、提げてきた大きな鞄を隅に置く。
「キアちゃんはお客さんやし、こたつで温まっててよー」
 指差す先にキアは腰を下ろし、堀りごたつに足を忍ばた。
 じんわりと冷えた足が温まる感覚に、ほぅと彼女は小さく息を吐き。その間に招待主は皿や鍋敷き、薬味などを次々と並べていく。
「はい、お待ちどうさま〜♪」
 そして最後に、そろりそろりと土鍋を運んできた。
「大丈夫、です?」
「平気平気〜」
 転んだりしないかと足元を気にしながらキアが注意を促せば、えへりと笑い。
 テーブルの真ん中に鍋を置くと、おもむろに蓋を取る。
 途端にふわりと白い湯気が一気に立ち上り、出汁の香りが広がった。
「いい香り……」
「張り切って、お節も作ってみたんよー。どれからでも食べてみてぇねー」
 膝立ちでお玉片手にお椀を取った媛の言葉に、何気なくテーブルを眺めていたキアは思わず彼女を凝視した。
「取り寄せではなく……藤堂さんが、作ったのです?」
「キアちゃんの口に合うたら、えぇなって……」
 黒い瞳の浮かんだ驚きの色に気付かぬまま、笑顔で媛は雑煮を友達の前に置いた。
 紅や白と色とりどりだったり、簡単ながらも細工切りが施された日本の伝統的な正月料理『お節』を、改めてキアは観察する。
 ホーム・パーテイみたいなもので、珍しくないのかもしれないが……それでも、ぽやぁっとした見た目に反する器用さに、僅かながら吃驚していた。
「あ、そうそう、ちょっとえぇお酒も買うたんよー」
 驚いているうち、お盆に載せた二つの小さなグラス、お猪口の一つを媛が差し出す。
「日本酒なんやけど、キアちゃんも飲んでみるー?」
「ええ……勿論、頂きます」
 食の友と言えば……やはり、だろう。日本酒は普段呑まないが、キアはお猪口を受け取った。
「折角、和に浸っているのですし、ね」
「そしたら、お酌〜」
 いそいそと媛は両手でとっくりを持ち、お猪口へ冷酒を注ぐ。
 続いて自分のお猪口を取る媛に、見ていたキアは酒器をテーブルへ置いた。
「お酌、しますよ」
「うちに? してくれるん?」
 これも機会と申し出れば、予想外だったのか媛がきょとんとして聞き返す。
「この程度の、習慣なら……知っています」
 先程の媛の仕草を思い出しながらとっくりに手を添え、こぼさぬよう冷酒を注げば、見る間に媛の表情が緩んだ。
「……何か、変でした?」
「ううん。さすがキアちゃんや〜って、感心してたんよ〜」
 ストレートに褒められ、気恥ずかしさを覚えたキアは軽く咳払いをして誤魔化す。
「鍋、冷めないうち……戴きます」
「あっ、そうやねー。そしたらキアちゃん、乾杯ー」
 少し頭を下げながら、媛がお猪口を掲げ。
 キアも軽く、自分のお猪口をそれと合わせる。
「乾杯……新しい年に……」
 そして、優しい友達に――。
 身体を内側から温める酒精に、ほぅと息を吐き。
 なんとなく笑みを交わしてから、二人は箸を取った。


   ○


「鍋もお節も、お酒も美味しかったです……意外と、器用なのですね。藤堂さん」
「キアちゃんの口に合って、よかったんよー」
 ほのかな桜色に頬を染めたキアに、ほっこりしながら媛も笑う。
「思えば、普段着も無いですし……隣の部屋を借りても、いいです?」
「うん。使うて、かまんよ〜」
「では、遠慮なく」
 笑顔の許可を得たキアは大きな鞄を手に部屋を移り、手早く着替えにかかった。
 乱れがないかと、ひと通りを確認し。
「……待たせました」
 颯爽とキアが戸を開ければ、「わぁ……」と媛は目を丸くする。
「キアちゃん、着物持ってきとったんやー?」
「如何です……見事な物でしょう?」
 藤模様の紺色の着物に身を包んだキアは、くるりとその場で回ってみせた。
「キアちゃんって美人さんやし、なんでも出来て凄いなー」
「一応、ね……昨年に教えて頂いた着付け、練習しては居たのですよ?」
「努力家さんやし、やっぱりよう似合うねぇー」
 素直に感嘆されて、誇らしさと嬉しさを覚えたキアだったが。
「あ、でも此処の辺はー?」
「え、お かしい所あります?」
 完璧と思っていただけに、思わずうろたえる。
「ちょっとだけやよー」
 軽く着物を引っ張り、帯を調整しと、崩れた部分を整える媛の手つきは慣れたものだ。
(さすがは先生、ね)
 悔しくも感心するキアの胸中を知らず、ぽんと媛は手を打つ。
「あ、キアちゃんが着物やったら、うちも着替えんとー」
「藤堂さん、見ていても……いいです?」
「構んよ〜」
 他ならぬ機会に問えば、ほにゃりと笑って「先生」が頷いた。
 取り出した着物は、淡い黄色に紅白の梅や牡丹等の柄。慣れた手つきで着付け、白地に桐の花の意匠の帯を締める。
「はい、出来たよ〜」
「さすがの手並み、ですか……」
 感心しながら見つめるキアは、ふと部屋の一角に飾られた羽子板に目をとめた。
「ところで……食後の運動は」
「え、キアちゃん羽根突きやるー?」
 当然といった顔で、キアは羽子板を手に取る。
「今日は容赦無く、ね」
「うんうん、構んよ〜。うちも負けんけんね!」
 キアの挑戦を受けて立つように、ぐぐっと媛は拳を握った。


   ○


 カツン、コツンと、晴れやかな空に心地よい音が響く。
 振袖を押さえながら媛が羽根を打ち上げれば、流れるような銀髪を揺らしてキアも相手に打ち返す。
 色鮮やかな羽を飾った羽根は、音がするたび右へ左へと青空を舞い。覚醒などもしないまま、二人は純粋な羽根突きに興じていた。
「あっ……」
 小さな声があがり、打ち損ねた羽根はキアの足元へ落ちる。
(やはり)
 着物を崩さぬようキアは注意深く羽根を拾い、にっこりと笑んだ。
「決着はまた……つかず、かな」
「おあいこやねー。でもキアちゃん、上達早いよー?」
「そう、でしょうか」
 褒め言葉に照れたキアだが、そんな自分に気付くと隠すように表情を引き締め。何故か嬉しそうな笑顔な媛の視線に悟られたか気にしながら、小首を傾げる。
「……墨は、塗らない……ルールでしたよ、ね?」
「その代わり、ちょっとお参りいかんー?」
 話題をそらしながら羽根を差し出せば、急に媛が手を掴んだ。
「は、はい……?」
「初詣行こやー、初詣! 折角、着物も着たんやし! 近所に神社があるんよー!」
 思わぬ行動にうろたえていると、そのまま媛はキアを引っ張る。
 呆気に取られていたキアはすぐに媛の隣へ並び、歩調を合わせた。
「これも日本文化、ですか……」
「そうそう。お参りの仕方やったら、うちが教えるけん!」
「それなら……」
 これも折角の誘いだとキアは手を振り解かず、媛の案内に任せる。
 元旦を過ぎても神社は参拝客でそれなりに混雑しており、媛とはぐれぬようキアが注意しながら、二人は本殿の前に並んだ。
「賽銭箱は、投げへんようにねぇ」
 財布から取り出した硬貨を媛は賽銭箱へ入れ、鈴をがらがらと鳴らす。
(けれど楽しい物、ね。彼女や友人に会うまで知らなかった、当たり前の余暇……)
 誘ってくれた友人と機会の巡り合わせに感謝をし、キアも硬貨を取り出した。
「……賽銭は奮発してもよいです、ね……」
 次の機会は、皆で――そんな願いを胸に、複数枚の硬貨を賽銭箱に滑り込ませる。
「次は、皆で来れたらえぇねぇ」
 手を合わせた媛からほんわりと笑みをむけられ、天然であるが故の鋭さというか、同じような願いを考えていたことに、思わず彼女はドキリとしたが。
「ええ。また皆で、ね……」
 同じ思いで願う友人に自然と表情は綻び、鈴緒を揺らしたキアは媛を手本に両手を合わせた。

 ひとしきり願い事を終え、二人で本堂を離れる途中。
「キアちゃん、おみくじ引くよー」
 マイペースな媛は何を思いついたのか、またしてもぐいぐいとキアの手を引く。
「……仕方ありません、ね」
 どこへ連れて行かれるのかキアには全く分からないが、呆れた顔をしながらも、無邪気な笑顔の友人に行く先を任せて。

 夕暮れの空では一つだけの白っぽい月が、新しい年の風景を見下ろしていた――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【gb1240/キア・ブロッサム/女性/外見年齢20歳/ペネトレーター】
【gc7261/藤堂 媛/女性/外見年齢20歳/サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お待たせしました。「N.Y.E新春のドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 まずは大変長らくお待たせしてしまったお詫びと、それでも書く機会とお時間をいただけた事に深く感謝致します。
 初めまして。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 クール系のキアさんと天然系の媛さんという、別のベクトルで互いにマイペースっぽいお二人。別方向であるが故に遠ざかったり、ニアミスしてみたりと、不思議な距離感を楽しませていただきました。
 一方的ではありますが、過去の大規模作戦やOMCなどで幾度も目にしたPCさん……とはいえ、しっかりと描かせていただくのは初めての事。イメージと合っていれば、いいのですが。
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
 重ねてになりますが、お届けが大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
N.Y.E新春のドリームノベル -
風華弓弦 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2013年03月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.