▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【A Brand−New Year/side to invite】 』
藤堂 媛(gc7261)

●Scenery of the new year
 新しい年は、これまでよりのんびりとやってきた。
 長く人々を脅かし続けてきた『赤い月』、バグア本星が空から消えて早数ヶ月。
 かしくて地上から争いは消え去り、地球は平和を取り戻し――という大団円には未だ遠いものの、誰の上にも「終戦」という一つの区切りが訪れている。
 人類最後の希望たる人工島『ラスト・ホープ』も、例外ではなく。
 フロリダから遥か東の大西洋上で、能力者たちは穏やかな年越しを迎えた。

「でも一人やと、つまらんもんよー」
 堀りごたつの天板に頭をのっけた藤堂 媛は、お盆に盛ったミカンをつついてみる。
 時計を見れば、示す針は昼の少し手前。
 そろそろ何か作る頃だけど、一人で食べるんもつまらんし……とか、そんな考えがぼんやりと頭を過ぎり。
「そうや、お雑煮でも作って誰か呼んでみよかー」
 はたと思いついて、顔を上げる。
「お友達呼んでー、後で初詣とかも誘ってみるんもえぇねぇ」
 思いついたら善は急げと格言を適当にくっつけながら、媛は電話に手を伸ばした。
 番号を思い出しながらダイヤルして待てば、短い呼び出し音の後、耳慣れた声が応じた。
『藤堂さん?』
「あ、キアちゃん。あけまして、おめでとうございます〜」
 頭を下げて新年の挨拶を述べれば、電話の向こう側で少し戸惑う気配の後。
『新年、おめでとう……こちらこそよろしく、ね』
 律儀に返礼してから、電話の相手――キア・ブロッサムが『それで、何?』と先を促す。
「うん。キアちゃん、今日は暇かなってー」
『そうね……予定はない、けど……』
 それならと、媛は用件を切り出した。
 急な誘いだったがキアは快諾し、こちらも用意があるからと訪問する時間を二人で決める。
「いつもは三人で居る事が多いけん、今日はキアちゃんとのんびり色んなお喋りとか出来るんやろかー」
 せっかくのお正月、この機会に日本のことをもっと沢山教えてあげられるかなぁ……と。
 友達の来訪を心踊らせて待ちながら、媛はキッチンへ向かった。


   ○


 約束した時間の少し前に、呼び鈴が来客を知らせる。
「招待、ありがとう……でしょうか。一応」
「そんな大そうなんと違うから、ええよー。うちが呼びたかっただけやー」
 何やら大きな鞄を提げたキアに、遠慮なくと媛が手招きをした。
「キアちゃんはお客さんやし、こたつで温まっててよー」
 荷物を置いたキアは言われるままに腰を下ろし、堀りごたつに足を入れる。
 じんわりと冷えた足が温まる感覚に、ほぅと彼女は小さく息を吐き。その間に媛は皿や鍋敷き、薬味などを次々と並べた。
「はい、お待ちどうさま〜♪」
 そして最後に、そろりそろりと土鍋を運んできた。
「大丈夫、です?」
「平気平気〜」
 えへりと笑いながら真ん中に鍋を置き、おもむろに蓋を取る。
 途端にふわりと白い湯気が一気に立ち上り、出汁の香りが広がった。
「いい香り……」
「張り切って、お節も作ってみたんよー。どれからでも食べてみてぇねー」
 膝立ちでお玉片手にお椀を取る媛を、じっとキアが見つめる。
「取り寄せではなく……藤堂さんが、作ったのです?」
「キアちゃんの口に合うたら、えぇなって……」
 黒い瞳の浮かんだ驚きの色に気付かぬまま、笑顔で媛は雑煮を友達の前に置いた。
 紅や白と色とりどりで、簡単な細工切りなんかも頑張ってみたお節を、しげしげとキアが眺め。
「あ、そうそう、ちょっとえぇお酒も買うたんよー」
 正月料理が珍しいのかなぁとか思いながら、お猪口を二つ用意する。
「日本酒なんやけど、キアちゃんも飲んでみるー?」
「ええ……勿論、頂きます」
 媛の誘いに、彼女はお猪口を受け取った。
「折角、和に浸っているのですし、ね」
「そしたら、お酌〜」
 いそいそと媛は両手でとっくりを持ち、差し出すお猪口へ冷酒を注ぐ。
 続いて自分のお猪口を取る媛に、見ていたキアは酒器を卓へ置いた。
「お酌、しますよ」
「うちに? してくれるん?」
 思わぬ申し出に、思わずきょとりと媛が聞き返す。
「この程度の、習慣なら……知っています」
 さっきの仕草をじっと見ていたのか、戸惑う様子もなくキアはとっくりに手を添えた。
 それでも用心深く冷酒を注ぐ友達の様子に、見ている媛の表情も自然と綻ぶ。
「……何か、変でした?」
「ううん。さすがキアちゃんや〜って、感心してたんよ〜」
 思った通りに隠さず明かせば、こほんと軽くキアが咳払いをした。
「鍋、冷めないうち……戴きます」
「あっ、そうやねー。そしたらキアちゃん、乾杯ー」
 会釈と共に掲げた媛のお猪口へ、軽くキアが自分のお猪口を合わせる。
「乾杯……新しい年に……」
 そして、優しい友達に――。
 身体を内側から温める酒精に、ほぅと息を吐き。
 なんとなく笑みを交わしてから、二人は箸を取った。


   ○


「鍋もお節も、お酒も美味しかったです……意外と、器用なのですね。藤堂さん」
「キアちゃんの口に合って、よかったんよー」
 ほのかな桜色に頬を染めたキアに、ほっこりしながら媛も笑う。
 自分が生まれ育った日本の料理やお酒に異国の友達が満足してくれて、それが何よりも嬉しくて。
「思えば、普段着も無いですし……隣の部屋を借りても、いいです?」
「うん。使うて、かまんよ〜」
 えへりと笑って答えれば、「では、遠慮なく」とキアは持参した大きな鞄を引き寄せた。
 同性から見ても『クールで美人さん』な後姿を見送ってから、その間に媛は掘りごたつの食器を片付ける。
「そやけどキアちゃん、なにしてるんかな〜?」
 楽しみに首を傾げながら、待つことしばし。
「……待たせました」
 告げて颯爽と現れた友達の姿に、「わぁ……」と媛は目を丸くする。
「キアちゃん、着物持ってきとったんやー?」
「如何です……見事な物でしょう?」
 藤模様の紺色の着物に身を包んだキアは、くるりとその場で回ってみせた。
「キアちゃんって美人さんやし、なんでも出来て凄いなー」
「一応、ね……昨年に教えて頂いた着付け、練習しては居たのですよ?」
「努力家さんやし、やっぱりよう似合うねぇー」
 いつも(難しい依頼もこなしよったり、活躍しよって、凄いなー)とか感心していた媛だが、改めて「凄い」と認識を新たにし。
「あ、でも此処の辺はー?」
「え、お かしい所あります?」
 ふと気付いた着付けの乱れに手を伸ばせば、不意を突かれたようにキアがうろたえる。
「ちょっとだけやよー」
 軽く着物を引っ張ったり帯を調整して、慣れた手つきで媛は崩れた部分を整えた。
 それから嬉しげに、友人の振袖姿を堪能した後。
「あ、キアちゃんが着物やったら、うちも着替えんとー」
「藤堂さん、見ていても……いいです?」
 思い出したように和箪笥へ向かった媛は、勉強熱心な友達に首を傾げ。
「構んよ〜」
 なんとなく嬉しくなって、ほにゃりと笑って頷いた。
 取り出した着物は、淡い黄色に紅白の梅や牡丹等の柄。
 ちょうど去年の正月、キアとは別の友達と初詣に行った時、この着物に袖を通した記憶を懐かしく思い起こしながら、慣れた風にトントンと軽く生地を引いて整え。白地に桐の花の意匠の帯を締めれば、全体的に華やかな風合いとなる。
「はい、出来たよ〜」
「さすがの手並み、ですか……」
 着付けの一部始終を「復習」したキアが、部屋の一角に飾られた羽子板に目をとめる。
「ところで……食後の運動は」
「え、キアちゃん羽根突きやるー?」
 そういえば、前にもやったっけと思い出しながら、当然といった顔で手に取るキアに聞けば。
「今日は容赦無く、ね」
「うんうん、構んよ〜。うちも負けんけんね!」
 どこか挑むような笑顔を返す友達に、ぐぐっと媛も拳を握ってみせた。


   ○


 カツン、コツンと、晴れやかな空に心地よい音が響く。
 振袖を押さえながら媛が羽根を打ち上げれば、流れるような銀髪を揺らしてキアも相手に打ち返す。
 色鮮やかな羽を飾った羽根は、音がするたび右へ左へと青空を舞い。覚醒などもしないまま、二人は純粋な羽根突きに興じていた。
「あっ……」
 小さな声があがり、打ち損ねた羽根はキアの足元へ落ちる。
 神速を誇るペネトレーターとはいえ覚醒もせず、また慣れぬ着物を着崩さず……というのは、彼女にとっては少々ハンデなのか。
 それでも悔しがる様子は見せず、注意深く羽根を拾ったキアはにっこりと笑んだ。
「決着はまた……つかず、かな」
「おあいこやねー。でもキアちゃん、上達早いよー?」
「そう、でしょうか」
 褒められたキアが少しはにかんだように思えて、それはそれで媛は嬉しくなって。一方のキアは媛がご機嫌な理由が分からないのか、不思議そうに小首を傾げる。
「……墨は、塗らない……ルールでしたよ、ね?」
「その代わり、ちょっとお参りいかんー?」
 羽根を差し出す白い手を、思わず媛は掴んだ。
「は、はい……?」
「初詣行こやー、初詣! 折角、着物も着たんやし! 近所に神社があるんよー!」
 返事を待ちきらず、そのまま媛はキアを引っ張る。
 戸惑いからか最初は数歩遅れていたキアだが、すぐに彼女の隣へ並ぶと歩調を合わせた。
「これも日本文化、ですか……」
「そうそう。お参りの仕方やったら、うちが教えるけん!」
「それなら……」
 致し方ないといった風なキアと手を繋いだまま、媛は近くの神社へ友達を案内する。
 元旦を過ぎても神社は参拝客でそれなりに混雑しており、媛とはぐれぬようキアが注意しながら、二人は本殿の前に並んだ。
「賽銭箱は、投げへんようにねぇ」
 先に媛が財布から取り出した硬貨を賽銭箱へ入れると、鈴をがらがらと鳴らす。
「……賽銭は奮発してもよいです、ね……」
 続いてなにやら思案をしていたキアも、投げないよう注意しながら複数枚の硬貨を賽銭箱に滑り込ませた。
「次は、皆で来れたらえぇねぇ」
 手を合わせながら媛がほんわりと笑いかければ、何故かキアは驚いた顔をし。
「ええ。また皆で、ね……」
 にっこりと笑顔を返してから鈴緒を揺らし、媛を手本に両手を合わせる。
 今日はキアと一緒にのんびり過ごせて、楽しかった――という、感謝と。
 いつか友達みんなで、お参りに来れますように――という、願掛けと。

 ひとしきり願い事を終え、二人で本堂を離れる途中。
 また一つ、新しく教えてあげられる日本の風習を彼女は思い出す。
「キアちゃん、おみくじ引くよー」
「……仕方ありません、ね」
 楽しげに媛が手を引けば、呆れた顔をしながらもキアは後に続き。

 夕暮れの空では一つきりの白っぽい月が、新しい年の風景を見下ろしていた――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【gb1240/キア・ブロッサム/女性/外見年齢20歳/ペネトレーター】
【gc7261/藤堂 媛/女性/外見年齢20歳/サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お待たせしました。「N.Y.E新春のドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 まずは大変長らくお待たせしてしまったお詫びと、それでも書く機会とお時間をいただけた事に深く感謝致します。
 そして去年に続き、今年も楽しいご縁をありがとうございました。
 マイペースな媛さんの言動に心の内を隠して通すキアさんと、それに気付いてるようで気付いてないようで、やっぱり気付いていない媛さん、というほんわかな情景となりました。
 去年のお正月を踏まえつつ、その辺りの雰囲気が上手く出ているといいのですが……。
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
 重ねてになりますが、お届けが大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
N.Y.E新春のドリームノベル -
風華弓弦 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2013年03月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.