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『Colorful Day【千尋・のとう・縁】 』
櫟 千尋ja8564


時折、雪のちらつくまだ息の白い季節。
けれど、春の香りもちらほらり。

街はほろ苦く甘いカカオの香りに包まれる。
通りを歩くカップルはもちろん、連れだった女の子同士。男の子同士もどこか浮き足立っている。

そんな中で、あなたも一人? 二人?――
あなたは、今年のバレンタインを何色に変え
ホワイトデーは何色に染まるでしょう。


 クリスマスなら、赤と白、そして緑色あたりで街は染まるだろうか?
 バレンタインのこの時期は、赤と桃色可愛くて甘いものであふれている。
 ショーウィンドウのディスプレイもハートをイメージしたものが多く、それを横目に通り過ぎていく人たちもそれぞれだ。
 その一角でこの日も三人は待ち合わせをしていた。

 前日の放課後、いつもと同じように三人揃った帰り道
「もうすぐバレンタインなんだよ!!」
「おー、もうすぐバレンタインか!」
 切り出した藤咲千尋の言葉に、思い出したとばかりに重ねたのは大狗 のとう。
「バレンタイン?」
 そう可愛いらしく首を傾げたのは真野 縁。
「縁ちゃん、バレンタインは初めて?」
「うに!」
「バレンタインはチョコを沢山あげたりもらったりチョコのお祭りなのだ!」
 のとうの言葉に縁の瞳はきらきらと輝き喜々として声を上げる。
「チョコ! チョコ食べる行事なんだね!」
 プレゼントする部分は、あっさりはしょられた。
「チョコ交換したりもするんだよー!! 色んなチョコがあってね……」
「そうなのだ! だからチョコを準備しないとな」
 その一言で明日の予定は即決定♪
「いつもの場所で」
「いつもの時間に」
「うに!集合なんだよ!」


 鼻歌でも出てきそうな浮かれた空気。
 待ち合わせ場所までの道のり、千尋の赤いコートは裾をふんわりと翻し、ブーツのヒールは路面を弾く足音も軽い。
「ちーひろー!」
 どんっ☆
 駆け寄ってきたそのままの勢いで抱きつかれ、千尋のポシェットにぶら下がっていたマスコットがぴょこりと跳ねた。
「わわ! のと姉!! 吃驚だよー!!」
 回ってきたのとうの腕を支えて、頭だけで振り返りにこり。
「いっしし、千尋を見つけたと思ったら抱きついてたのだ!」
 快活良くのとうが笑うとほぼ同時に聞き慣れた声が耳に届いた。
「うに?」
「あ! 縁ちゃん、こっちこっち」
 スクランブル交差点を渡ってきた縁は、二人を見つけてほわりとした笑みを浮かべ、止まってしまった一歩を踏み出す。その動きにあわせて羽織ったふんわりもこもこなぽんちょが靡く。
 千尋はぶんぶんーっと元気に手を振り手招き。
 のとうは……千尋が隣を見たときには視界の隅でのとうの巻いていたお日様色のマフラーが横切った――
「縁、発見なのだ!」
 がばり☆
 抱きついていて二人のバッグについていたマスコットが、こつりとぶつかり合う。
 夏のあの日、その日も三人で縁日を堪能した。
 マスコットは三人お揃い。射的での千尋の戦利品だ。
 ベニヤ板で作られた棚に鎮座していたその三匹(?)、今は三人と並んで揺れている。
「あはは、早く早くっ!! 行こうよー二人ともー!」
 待ち合わせ場所まで、あと数メートル。その手前で三人集合完了。

***

 百貨店のバレンタイン特設コーナー。
 地下一階の殆どのフロアを占領したその区画は、沢山の女の子たちで溢れていた。
「凄い人なんだね」
「おおー! 盛り上がってるのにゃーっ!」
「うん! 頑張って可愛くて美味しいの沢山買おうねー!」
 繋いだ手にそれぞれ力を込めてぶんぶん☆揺らして、にこり。

「人が多いんだよー。うにん……二人にどんなチョコあげようか迷うんだね……!」
 儀礼的な受け渡しは減ってきて、義理チョコも友チョコへとあらかた形を変えて広まった為、チョコの種類はかなり幅広い。
 形の奇抜なものから、味の奇抜なもの。
 その種類は星の数ほどある。
「んむー、今年は遊び心のあるものをあげたいな」
 のとうは人混みにはぐれないように二人の手を取り、色とりどりのポップで彩られた棚の上を物色♪
「んー、あ!! これ可愛いかも」
 千尋は目に留まったレトロなロボットの形をしたチョコを手にし、うんうん、と笑顔で頷く。
 頭に浮かんだのは仲の良い男友達の顔。
「こっちは、先輩達に……」
 銃の形をしたチョコも、チョイス。
 続けて選び取った、洋酒入りのちょっぴり高級仕様なチョコは、離れて暮らす父と兄に……あとで当日届くように手配して♪
 次々とかごの中はいっぱいになっていく。
「のと姉のそれはー?」
 のとうのかごに入っていくチョコを眺めて千尋が声をかけると、のとうはにししと笑って
「勿論、友チョコだ。愛チョコでもいいのだ」
「うにっ! 愛チョコなんだね」
 反対隣りに居た縁も覗き込む。ネタになりそうな面白いものも散見される。
「俺ってば、友達愛してっからな!」
 それがとても彼女らしい。

 縁のかごにもぽこぽこ変てこなチョコが放り込まれ
「ぷふっ」
 高野豆腐にチョコをつけたお菓子まで発見。
 脳裏にはすぐにあの友人が思い浮かび、ご購入決定♪
「おやー」
 そんな中で、再び縁の目に止まったものは――
 くんくんっと側で同じくチョコを物色していた、千尋とのとうの袖を引く。
「なぁに?」
「どうしたのだ?」
 二人振り返る丁度その目の前に!
「ぎゃああっ!!」
「をあぁぁっ!!」
 うにょんっと長い身体を折り、微妙な動きを見せる百足(チョコ)
 サンプルとして出されていたそれを二人の顔の前でうりうり、によによ。
「こんなのもあるのだよー」
 おそらく好きな人などいないのではないかと思われるGなもの☆照り艶感の再現など必要ないと思うのだが、お菓子と侮れないほど精巧にできていた。
「ぎゃあ! なんで縁ちゃんは怖いのばっかり選ぶのー!?」
 うにんうにんっ揺らしつつ。
 だんだんその動きが……酔っぱらいみたいでユーモラスな雰囲気に……。
「ぷっ☆」
 三人揃って噴き出して
「可愛いとは思わないよー、思わないけど、あ、ははっ、おかしいよね」
「面白いのだー!」
「そうなんだよー」
 うにんうにん☆とそんな三人に見せつけるように、百足は踊った。


 腕にかけた紙袋には、可愛いらしくラッピングされたチョコが沢山。
 可愛いものはそれだけで心を弾ませてくれる。
「うーんと、ちゃんと数足りてるかな?」
「俺は大丈夫なのだ!」
「うに! 縁も大丈夫なんだよ!」
 一つ二つと数えていた千尋にのとうと縁が返事をする。
「じゃあ、私も大丈夫かな!」
 うん! と頷いて
「チョコを見て堪能したあとはー」
「食べるのだ!」
 即答した縁の手を両サイドから二人は笑顔で取り上げて、おー♪と突き上げる。

 ***

 オープンカフェの窓にも”St.Valentine's day”の文字が描かれ、店内の小物に至るまでハートをモチーフにした多く目を引いいた。
「こちらがバレンタイン限定メニューになります」
 堅い表紙のメニューの間に挟まれた、ラミネート加工された一枚のメニュー表を指して腰を折った店員に、にこやかに返事をして、それぞれの注文をお願いする。
「お客様、こちらのガトーショコラ……ワンホール……でございますか?」
「うに! ホールなんだよ! まるまる一個なんだね!」
 思わず注文確認した店員に、迷うこともなくにこやかに縁は答える。
 その様子に、千尋とのとうは顔を見合わせていつもの様子に笑いをこぼした。

 ***

 北欧風の童話にでもでてきそうな可愛いらしいカフェ。
 濃い茶の木製テーブルの脇にそれぞれの荷物をおいて一息つくと、自分達もそのカフェを演出する一部になったようで居心地が良い。

 それぞれの前に、音もなく丁寧に置かれた暖かくて甘いスイーツ。
「可愛い!!」
 千尋が覗き込んだカプチーノには、ハートが重なった目にも楽しいラテアートが描かれている。
 一緒に頼んだフォンダンショコラにスプーンを差し込むと、とろりと暖かいチョコソースが流れ出て甘い香りを強くした。
 のとうのホットチョコのソーサーにはハートの砂糖がちょこんと並んでいた。
 カカオのほろ苦い香りが、ふうわり昇って全身をやんわりと解していってくれる。自然と頬が綻んだ。
 まあ、何より卓上で一番の存在感をアピールするのは、まんまるそのままのガトーショコラ。
 粉糖で綺麗にお化粧されたそれに、縁は迷い無くフォークを突き刺す。
 しっとりと重圧感のある生地に、断面は濃密。
「うに〜〜♪」
 味も良いらしい。
 ほわわーんっと幸せ顔になった縁に、釣られて二人も改めて「いただきまーす♪」と声を揃えた。
 甘いお菓子と恋バナは女子会には必需品。
 それさえあれば何時間だって、話は弾む。
 恋人のいる千尋が格好のネタにされ、冬の寒い中汗をかくようなことになるのは当然で――

「この後、どうするのだ?」
 ちょっとの休憩で入ったカフェだ。それでおしまいにするには少し惜しい。
 からんっと空になったグラスの中で氷が音を立てる。水を打った状態の中で、もじもじと千尋がちっちゃく挙手した。
「……あ、あのー、最後にもう一軒いい??」


 ちっちゃな店舗は、手作り専用の品を多く取り扱う専門店。
 特設されたバレンタインコーナーでは、手に入れることの出来ないような材料まで並んでいて、ここを訪れればまず全てが揃う。
「で? 当日は当然デートするんだろう?」
 今日の中で一番真剣な顔をして選んでいる千尋の隣りで、のとうがぽつり。
「な!! のと姉?!」
 ぼふっ☆
 真っ赤になった千尋が振り返れば、のとうと縁はによによと千尋を見つめている。
 追い打ちをかけるように、のとうが手のひらに『それが恋』と書いてみせると
「も、もうっ!!」
 可愛らしく、ぱちりと弾く。
 確実にからかわれたと察した千尋は赤い顔のままもだもだ。
「せっちゃん本当に可愛いんだね!」
「いつもの元気な千尋も可愛いが、女の子してる千尋も可愛いらしいのなぁ」
「だ、だからっ!!」
「恋してるなぁ。羨ましいのにゃ!」
「だ、だからねっ!」
 わたわたとする千尋の頭をのとうは、にししっと笑みを浮かべて「よしよし、いいこいいこ」と撫でる。
 そんな二人の様子を見ながら、縁の視界がとらえた手作り用品。
 ふと縁の心の片隅で、苦甘い想いがくすぶる。沢山泣いた……でもきっとそれだけじゃなかった。だからほんの少しだけまだ痛い。
「縁ちゃん?」
「縁?」
 顔を上げればいつの間にか会計も済ませた二人が顔を覗き込んでいる。
 縁はその表情を、ぱっと笑顔に変えると
「せっちゃん、買い過ぎなんだよ!」
「し、失敗したら大変だから多めに買うの!」
 いつだって一緒で、あのときだって二人は受け止めてくれた。
 だから過去は置いて、全力で今を楽しむと踏み出せた。
「せっちゃんの荷物持ちのお手伝いするんだね!」
 空元気ではない。
 大丈夫、二人が一緒に笑ってくれればいつだって笑顔は本物になる――
「え、ええっ! のと姉も持ってくれたのに、私が持つものなくなっちゃうよー!!」
「千尋こっちなのだ!」
「せっちゃん早くくるんだよー!」
「のと姉! 縁ちゃんっ! ちょっと待ってよー!!」
 千尋の腕の中から買い物袋を奪って、笑い声と共に先に出てしまった二人を慌てて追いかけた。


 帰りに寄った公園で、それぞれに買った友チョコ披露♪
 丸太造りの机の上に
「のとはわんこ! いつもいつでもわんこなんだね! せっちゃんは、にゃんこ! どっちもとっても可愛いんだよ!」
「俺からは、チョコ入りの可愛い動物マシュマロと抹茶生チョコ!」
「私は、二人に苺入りのピンクのハートチョコ!!」
 あっと言う間に、卓上は再びお菓子パーティーでも始まりそうになった。

「味見なんだね!」
 縁の一言であっさり女子会再会♪
 せっかくこんなに種類があるんだから、三人で一緒に食べなきゃ意味がない。
「ちゃんと分けたんだから、俺のに手を出したら駄目よー?」
「うに?」
「ああっ!!」
 のとうがそう注意しながら、一つぱくん☆する間に、縁の手は伸びていた。
 ぱくりと頬張ったまま「何か?」とでも言うように可愛らしく小首を傾げる。
「駄目駄目、これ以上駄目なのだーっ!!」
 もう一度延びる魔の手から、チョコを取り上げたのとうは、そのまま逃げる。
 逃げたら追うのが人の常。
「あはは、のと姉頑張れー!! 縁ちゃん私のならもう少しあげるよー!!」
 追いかけっこする二人に、笑いを堪えることができず、千尋はおなかを抱えて声をかけた。
「のとの食べたら貰うんだよー!」
「もう駄目なのだー!」
「あはは、早くしないと食べちゃうよー!!」

 頬を撫でる風はまだ冷たい吐く息だって白く上がる、でも嘘みたいに三人一緒だと暖かい。
 ベンチの上に並べられたバッグ。
 同じ顔を並べたマスコットがそんな三人をつぶらな瞳で見つめていた。

 ハッピーバレンタイン♪ 三人揃えば毎日がカラフルになる――



【Colorful Day:終】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3056 / 大狗 のとう / 女 / 18 / ルインズブレイド】
【ja3294 / 真野 縁 / 女 / 12 / アストラルヴァンガード】
【ja8564 / 藤咲 千尋 / 女 / 16 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 夏に引き続きありがとうございます。ライターの汐井です。
 再びとっても女の子らしく可愛らしい千尋さんの姿を描くことが出来嬉しく思います。チョコの手作りは上手くいったでしょうか? きっと沢山の大好きが詰まった千尋さんらしいものが出来上がったのではないかなと思います。
 三人の仲が良いからこそ出来る掛け合い。三人らしさに少しでも近づけていると嬉しいなと思います。友チョコ万歳♪思い出の一ページに加えていただければ幸いです。
ラブリー&スイートノベル -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年03月13日

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