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『バレンタイン シンデレラ 』
フィオナ・アルマイヤーja9370

1.
 冷たい風の中で街路樹には赤いリボンの花が咲き乱れる。
 浮かれたように匂う甘いチョコレートの香り。
 街はバレンタイン一色だ。
 …そう、今日はバレンタインデー。
 甘い日と感じる者もいれば、これほどに辛い日はないと感じる者もいる。

 フィオナ・アルマイヤーはそのどちらでもなかった。
 日本国外で生まれ育った彼女にとってバレンタインは確かに恋人たちの日ではあったが、チョコレートを贈る日ではない。
 …まぁ、郷に入っては郷に従えという日本の諺があるから否定はしないが、肯定もしない。
 どちらにしろ独り身の自分には関係ない。…関係ないったら!
 キャーキャーと騒ぐ女の子たち。見れば可愛いラッピングのチョコレートが売られている。
 …日本文化の研究の為に、ひとつ購入することにした。

 自室に戻るとすっかり夜の帳が落ちていた。机に先ほど買ったチョコレートを置く。
 開けてみようか? そう思って包装紙に手をかけた時、コンコンっとガラスが鳴った。
 不審に思って窓を開けるとそこには、空から天馬の引く大きな白い馬車があった。
「お迎えに上がりました、フィオナ様」
 優しそうな目をした男の御者が、フィオナに手を差し伸べる。
 …天馬? え? 天魔?? えぇっ??
「わ、私…ですか?」
 思わずそう訊くと、御者はにっこりと微笑み頷いた。
「はい、フィオナ様。間違いなく」
 ハッと我に返る。普段着だ。化粧もすっぴんに近い。
 それに引き替え、御者はシルクの燕尾服に身を包んで気品溢れる物腰でフィオナを誘う。
「待ってください。着替えてきます…!」
「それには及びません」
 御者が優しい声でフィオナを止めるとパチンと小さく指を鳴らした。
 瞬間、ふんわりとフィオナの体が何かに包まれたような気がした。
 そして次の瞬間には中世ヨーロッパの貴族のような赤いドレスと白いハイヒールがフィオナの身を包んでいた。
 その場にあった姿見を思わずまじまじと見つめる。淡いながらも透明感のあるメイクはいつものフィオナを何倍にも素敵にし、それに赤いドレスが華やかさを添える。
 無意識に右に、左に体を揺らして鏡の中に映るその姿が自分であることをフィオナは認めた。
 私…お姫様になってしまった…!
「さぁ、参りましょう。フィオナ様」
 フィオナは長い髪とリボンを揺らして、御者の手を取り馬車へと乗り込んだ。


2.
 天馬がいななき空へと駆けだした。
 カブリオレタイプのその馬車で、御者の隣に座ったフィオナは少し緊張気味に訊いた。
「どこに、行くんですか?」
「花畑などはいかがでしょう? 咲き誇る花々に囲まれてのティータイムはリラックスの効果もございます」
 緊張しているのを見抜かれた…フィオナは大きく深呼吸して、自らを落ち着かせた。
「あなたは…誰? なぜ私を迎えに来たんですか?」
 冷静に言葉を選びつつ、フィオナは御者に訊いてみた。
 御者は手綱を引きながら、にこやかに答えた。
「フィオナ様をずっとお慕いしておりました」
「え!?」
 会ったことがあるのだろうか? いつ? どこで?
 思い出せない、わからない。
 混乱を極めるその発言に、フィオナは思わず訊いてしまった。
「私、あなたと会ったことあるんですか!?」
「…それは…」
「それは?」
 ふふっと御者は笑った。
「内緒でございます」
 やっぱりこれは夢なのだろうか?
 大体、天馬の馬車でデートに誘われ、指を鳴らしたら魔法みたいにドレスになって、理由が『お慕いしていた』って…。
 そうだ。これはきっと私が見ている夢なのだ。なら…楽しまなくては損というものじゃない?
「さぁ、ティータイムのお時間です。フィオナ様」
 花畑がいつの間にか間近に迫っていた。天馬はそのスピードを徐々に下げていく。
 やがて、テーブルセットが置かれた花畑の真ん中へと御者に手を引かれてフィオナは降り立った。
「本日はバレンタインですので、チョコレートケーキをメインに各種チョコレートと温かな紅茶をご用意いたしました」
 テーブルセットには既に美味しそうなチョコレートケーキとチョコが並べられ、ティーカップが伏せられていた。
「さぁ、フィオナ様。お座りください」
 御者は椅子を引いて、フィオナを促す。
 フィオナは「ありがとうございます」と微笑むと椅子に腰かけた。
「すぐに紅茶をご用意いたします」
 てきぱきと動く御者を見ながら、フィオナは辺りの景色を見渡した。
 夜だったはずの空は青く澄み渡り、明るく暖かな日差しの下で色とりどりの花がどこまでも咲き乱れている。
 …やっぱり夢に違いない。だって、こんな場所は見たことがない。
 でも、花の香りまでするなんて…なんてリアルな夢だろう。
「どうぞ、フィオナ様」
 紅茶を目の前に置かれて、フィオナは「ありがとう」とお礼を言った。
「…あなたは、飲まないんですか?」
「…フィオナ様のお許しがあれば、ご一緒させていただきます」
「じゃあ、一緒に飲んでください」
 フィオナがそう言うと、御者はニコリと笑ってフィオナの前にどこから持ってきたのか椅子を置いた。
 名前や出会った場所を訊くと、御者はうまくはぐらかした。
 ただそれ以外の話はとても面白く、フィオナは素直に会話を楽しむことができた。
 クラシックの話をしても、オールドコンピューターの話をしても御者は応えてくれた。
 ケーキを堪能し、紅茶もすっかり飲み終えた頃、御者は立ち上がった。
「フィオナ様、そろそろお時間でございます」
 何の…? と思ったが、差し出された御者の手にフィオナは少しためらいながらも手を重ねた。
「夜空の星たちがそろそろ見頃でございます」
 御者の導きで花畑を後にして、馬車は空へと舞いあがる。
 先ほどまでの青空は深く暗い青色に染まり、きらりと光る星たちが瞬きを始める。
「あちらに見えますのは『オリオン座』でございます」
 御者が手を差し向ける方向を見ると、確かに特徴的な三ツ星を中心に砂時計のような形の星座が見てとれた。
「そして、あちらは『おおいぬ座』。オリオンに付き従うように追いかけております」
 不思議なことに、御者の言葉の通りに『おおいぬ』は大きな犬になって人になったオリオンの後を追いかける。
 星座が動き出すなんて…そんなこと…!?
「おや…? 『こいぬ』が遊びに来ましたね」
 微笑む御者の視線はフィオナを通り越し、ドレスの裾へと…そこにはドレスの裾にじゃれつく『こいぬ座』。
「きゃっ!」
 思わずフィオナは立ち上がり、バランスを崩してしまった。
 足元から覗き見える夜空は底のない暗闇で、フィオナは眩暈がした。
「…お怪我はありませんか? フィオナ様」
「は…はい…」
 御者に抱きとめられて、フィオナは危機を脱した。と、同時に顔を赤らめた。
 温かい腕…温かい胸…。これも…夢?
 御者の腕の中から、夜空に光る小さな星を見つける。
「あれは…なんという星ですか?」
 フィオナの言葉に、御者は答える。
 その声は優しく、心地よくフィオナを包みこみ、フィオナは静かに目を瞑った。
「はい、あれは『カペラ』。そして、それを結んでできる星座の名は…」


3.
 気が付くと、そこは見慣れた風景だった。
 私の…部屋。やっぱり夢だったのだ。その証拠に私の服はドレスになんかなっていない。
 立ち上がって、本棚から1冊の本を取り出した。
 星座の本。夢の中の御者は最後にいったい何を言おうとしようとしたのか?
 手がかりは『カペラ』という星の名。それはすぐに見つけられた。
『ぎょしゃ座』
 あの夢はこの星座が見せたものだったのだろうか?
 冬の星座。窓を開け、南の空を見上げる。
 確かにそれはそこにあった。本と同じ5角形の形に光る星。
「…素敵な夢をありがとう」
 夜空を見上げながら、フィオナは呟く。まだ寒い2月の風がフィオナの金色の髪とリボンを揺らす。

 机の上には1枚の紙が躍る。
 そこには、こう書かれていた。

『フィオナ様
 僭越ながら本日の褒美としてチョコレートを頂きます
 いつか、またお会いできる日を楽しみにしております…』


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女性 / 21歳 / 阿修羅


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 フィオナ・アルマイヤー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼いただきましてありがとうございます!
 バレンタインデーデート…それは果たして夢か幻か…。
 ツン要素が少々足りない気がしますが、乙女チックさが出ていればよいなと思います。
 それでは少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ラブリー&スイートノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年03月18日

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