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『Dear White Day 』
黒・冥月2778

1.
 まだ寒いけれど、春を感じる。
 梅の花のつぼみが大きくなって、コートが少し重くなった気がする。
 けれど、心は軽い。

 今日はホワイトデー。

 心からの贈り物に、心で答える日。
「ママ、お帰り!」
「ただいま。どうしたの? 2人揃ってお出迎えしてくれるなんて…」
 興信所にやってきた黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は、コートを脱いでコートハンガーにかけた。
「まぁ、いいから座れよ」
「そそ! 座って座って!」
 興信所の所長・草間武彦(くさま・たけひこ)とその草間の娘・月紅(仮名)が冥月の背中を押して、ソファへと強引に座らせた。
「な、なんなの?」
 今日の日付を考えれば既に答えは出ていたが、それでもそう訊くのはお約束である。
「えへへ〜! ママ、ちょっと目を瞑って?」
「これでいい?」
 両手で顔を覆って目を瞑る。すると、なにやら髪に触れる手の感覚。
「まだだぞ?」
 草間の声が笑っている。いったい何をされているのか?
「もーいいよっ♪」
 明るい月紅の声に、冥月は目を開けた。髪に手をやると、なぜか右サイドにゆるい三つ編みが編まれている。
 そしてその髪を止めているのは…
「うん! やっぱりママにすっごく似合うよ!」
 さっと月紅が大きめの手鏡を冥月に渡してくれた。

 ゆるい三つ編みを止めていたのは、黒いビーズが光る髪飾りだった。

「あのね、パパが見つけたんだよ! でね、私が選んだの! それからね…」
 月紅はにこにことポケットからもう2つ、髪飾りを取り出した。
「零ママと私の分! 色違いのお揃いだよ♪」
 月紅の手には冥月の髪飾りと同じ形の、白い髪飾りと赤い髪飾りがあった。
「零ママにも渡してくるね!」
 そう言うと月紅は草間零(くさま・れい)に髪飾りを渡すべく、興信所の奥へと走って行った。
「…武彦が選んでくれたの?」
「俺と月紅でな。髪飾りは俺の提案。月紅は冥月に似合うのを選んだ」
 そう言うと草間は冥月の髪に触れた。
「髪を結ってあるのも新鮮でいいな。よく似合ってる」
「ふふっ…ありがとう」
 なんだかくすぐったい気持ちで、冥月は少し頬が熱くなった。
 

2.
 零を連れて戻ってきた月紅を座らせて、冥月は月紅の髪をちょこんと縛って髪飾りを付けた。
 そして、零の髪にも髪飾りを付ける。
「3人でお揃いね」
「似合いますか?」
 自分では見えない位置についた髪飾りに、零は戸惑い気味に訊いた。
「うん! 零ママもママもとっても似合ってる!」
「零も似合ってる。月紅も似合ってる。ありがとう、武彦」
 そっと髪飾りを優しく撫でる。なんだかお揃いなんて…年甲斐もなく照れる。
「そうだ。お返しに美味しい料理を振舞うわ。皆でいただきましょう」
 冥月は零と共に朝早くから作っておいた中華料理を影の中から取り出すとずらっと並べた。
「うっわーーーー!! 美味しそう!!」
「冥月の料理ならなんでも美味いに決まってるだろ」
 そう言いながら草間と月紅が席に着く。零と冥月は箸を取り出し、取り皿を並べ席に着いた。
「いただきまーす!」
 月紅の大きな声で、皆箸が伸びる。冥月の作った中華料理はどれもとても美味しかった。
「あのね、ママ! これ買いに行ったところ、すっごい変な人がいたんだよ! あー、写メとって来ればよかった!」
 悔しそうにそう言った月紅に、冥月は苦笑いする。
 零がちらりと冥月を見たが、冥月は微笑んで目くばせした。
 ホントは見てたよ? …なんて、言えない。
「変なもんも色々売っててなぁ…。大体、月紅が『すっごく変わったの』なんて言うから…」
「だ、だってママを喜ばせたかったんだもん! ていうか、バラすのとかナシだよ!」
 楽しそうに喧嘩する2人に冥月はにこにこと聞く。すごく幸せな気分だ。
「他にどんなのがあったの?」
「あのね、全身白タイツとかあったよ! あとはねぇ…そうそう、フィギア制作とか」
「フィギア?」
「うん。写真からその人のフィギアを作ってくれるんだって!」
 そんなものもあったのか…冥月は興味深く月紅の話を聞いた。
「フィギアより本物がいるんだから、本物でいいじゃないか」
 草間がしれっと口をはさむ。草間はじーっと冥月を見つめる。
「な、何? どうかした?」
 冥月が訊くと、草間は視線を逸らした。
「やっぱり本物が1人いれば十分だ」
「わっ、パパってば子供の前でママを口説いて…!?」
 赤くなった冥月と草間に月紅がぶーっと頬を膨らませた。
「月紅さん。はい、おかわりです」
 零が月紅の皿におかわりをよそって渡す。
 月紅はぶーたれながらも、それをしっかり受け取った。

 そんなことがあった昼下がり。
 はしゃぎまわる月紅と、それをフォローしまくった零は日が落ちる頃には既にウトウトとしていた。
「う〜……」
「無理はダメですよ。さ、お布団行きましょう」
 零が月紅を寝室へと案内していった。
 …しかし、いつまでたっても零は戻ってこなかった。
 そこでこっそりと月紅の寝室へと冥月と草間が見に行くと…月紅と寄り添うように2人仲良く寝息を立てていた。
「ご苦労様」
 零も月紅も朝から動き回ったからきっと疲れたのだろう。
 冥月と草間はそっと扉を閉じると、草間はそっと冥月の肩を抱き寄せた。

 大人の時間の始まりだ。


3.
「いいワインを見つけたんだ」
 そう言って草間は、2つのワイングラスに赤い液体を流し込む。
「…ちょっと奮発しすぎじゃない?」
「今日はそういう日だ」
 2人はまず乾杯した。澄んだ音が静かな室内に響く。
「それから…」
 草間は少し言い淀むと、下に隠すように置かれていた紙袋を取り出した。
「開けてもいい?」
「あ、あぁ」
 少し気まずそうに草間は横を向く。なんだろう?
 冥月がその箱を開けると…
「マシュマロ…と、クッキー…とキャンディーの詰め合わせ?」
「やっぱ定番だし…その、どれがいいかわからなくて…」
 ふと、デパートでの光景が脳裏に浮かんだ。ふふっと思わず笑みがこぼれた。
「なんだよ? もう少しいいもんがいいかと思ったんだが…好きとか嫌いとかがどうのって店員に言われてな」
 本当は娘と一緒に選んだものだけじゃ立つ瀬がない、男として情けないじゃないか! と…思ったわけだが、結局何を贈っていいのかわからなかったので定番に行きついてしまったのである。
 そんな、しどろもどろに説明する草間が可愛い。
「ありがとう…嬉しい」
 微笑みながら冥月はマシュマロを1つかじった。柔らかい優しい味がした。
 それを軽く噛んだまま、冥月は草間にキスをする。
「…お礼…」
 マシュマロを2人で食べる。口いっぱいに甘さが広がる。
 そのまま押し倒そうとした草間に、冥月は「ダメよ」と軽く押し返した。
「まだ早いわよ」
「なんだよ、誘ったのそっちじゃないか」
「…最近、2人っきりになること少ないし、デートもしてないし…もう少しこの時間を味わいたいの」
 少し不満そうに、けれど、冥月は草間に寄り添った。
「そうだね。月紅が来てから俺たちの時間が少なくなってるな。…じゃあ、デートしよう。どんなデートがしたい?」
 草間がそう訊くと、冥月は「そうね」と目を瞑った。

「私、こうして2人っきりで朝から晩まで引っ付いていたい。どこかに行くんじゃなくて、2人っきりで一緒にいたい」

 ささやかな願い。幸せな時間に満たされたい。武彦とだけ一緒にいる時間が欲しい。 
「…そうだな。俺もおまえと一緒にいられる時間が欲しいな」
 こつんと草間の頭と冥月の頭をくっつけた。
「だけどな、これからの季節ならもっと外に出てオシャレした冥月を見たいな」
「おしゃ…れ?」
「そうそう。たまには白いスーツとかさ、今の季節なら桜色なんかも似合うだろうな。そういう綺麗な冥月を連れまわして見せびらかしたい」
 草間がにやりと笑う。冥月もつられて笑った。
「もうっ…」
 そうね、折角髪飾りをプレゼントしてもらったんだから、これに似合う服で出かけるのもいいかもしれない。


4.
「武彦はどこに行きたいの?」
「そりゃ、街中がいいな。見せびらかすのは人が多いところがいい」
「もうっ! …そんなに見せびらかしたいの?」
「もちろん。それから、オープンカフェなんかで2人でお茶したいね。男どもの羨望のまなざしを感じて優越感に浸ったティータイムはそりゃあ有意義になるだろうな」
 草間はとにかく冥月を見せびらかしたくて仕方ないらしい。
 そんなことで優越感に浸ってどうしようというのか?
 冥月にはさっぱり理解できない。けど、それが草間の望みなら…。
「そうだ。私ひとつ行きたいところがあったわ」
「? どこだ?」
「武彦の洋服を買うの。一緒に春物の服を着て歩きたいわ」
 草間の服はいつも少し地味な色だから…。
 年だってそんなにまだ老けてるわけじゃないんだから、明るい色の服だってきっと似合うと思う。
「俺の服を…ねぇ?」
「そ。一緒に選んであげるから」
 ふふっと笑う冥月に、草間は微笑む。
「なら、2人揃って今度服買いに行くか」
「えぇ」
 ワインを一口飲む。草間が選んできただけあって、美味しい代物だ。
「2人で新しい服に着替えて…」
「うん」
「男どもの羨望の眼差しを集めて…」
「それは…どうでもいいわ、私は」
「カフェで優越感に浸って…」
「……」
「で、最後は夜景の綺麗なホテルだな」
 ………草間はさらりと言ってのけた。
「…ば、ばか…」
 赤くなって冥月は草間の胸に顔をうずめた。でも、悪い気分ではなかった。
「じゃあ、今度…ね?」
 そう言うと草間は冥月の顔を上に向かせた。
「今からは…?」
「月紅と零が起きちゃうわ」
「声が聞こえなきゃ、起きてこないさ」

 そういうと、草間はゆっくりと冥月の唇をふさいで、その体に優しく触れた…。
 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ホワイトデー! ようやくお届けできました。
 かなり無難な物を選ばせていただきましたが、三つ編みとかちょっと新鮮な感じを狙ってみました。
 デート計画は…草間が暴走しましたw
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ラブリー&スイートノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年03月21日

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