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『特製★魔法のひとくちチョコレート 』
清水・コータ4778

■opening

 多分その日は二月十四日。
 いわゆる、バレンタインデー。
 の、筈だったのだが。

 一瞬、クリスマスかと疑った。

 何故なら――その日目覚めた貴方の枕元。どういう訳か――プレゼント仕様なギフトラッピングをされた小箱が、折り畳まれたメモ書きのような手紙と共に置かれていた訳で。

 置かれていたその手紙、曰く。

『初めまして♪ おはようございます★
 あたしは…えっと、何て紹介したら良いのかな。あたしの名前は******って言うんだけど…多分上手く表記出来てないよね? みんなの住んでるこの世界の事はあんまり知らないんだけど、取り敢えず便宜上、バレンタインの魔女って名乗っておくね。一応、「魔女」なのは間違いないから。だから、このチョコレート…ってものを作ってみたんだけど★
 そう。バレンタイン。この世界に来て初めて知ったイベントなんだけど、二月十四日、バレンタインには大切な人にプレゼントをするって素敵な習慣があるみたいだよね? それも――特に女の子が男の子にチョコレートをあげて告白するんだって聞いたんだけどさ。
 でね、折角だから、あたしも恋する乙女の素敵な想いを伝えるお手伝いをしたいなって考えたの。
 だから、このお手紙と小箱――あたしの特製★魔法のひとくちチョコレートをあなたにこっそりおすそわけ♪

 このチョコレートはね、食べた後、初めて見た相手の虜になっちゃうの★
 そう。このチョコレートを手渡して、目の前で食べて貰ったら、もうそのひとはあなたのことしか考えられなくなっちゃうんだよっ(はぁと)
 えっと、効果時間は…うん。まぁ細かい事は気にしないっ★ きっと真心があれば効果が切れたって何とかなるなる♪ 大丈夫っ♪

 きっと役に立つと思うから、色々活用して貰えると嬉しいな♪
 じゃ、またね★ バレンタインの魔女はあなたの味方だよ(はぁと)

 ――――――クラウドの狭間より現れ出でしバレンタインの魔女より』

「…」

 その手紙の文面を一通り見てから、貴方は小箱を改めて見遣る。
 ………………いや、これ、どうしろと?



■いや、だからホントにコレどうするの。

 思わずジト目で小箱を凝視。そのままたっぷり何分か何時間か。とにかく、かーなーり時間が経っていた気がしてならない。そのくらい固まっていた気がする自分がそこに居る。

 清水コータ、当年とって二十歳…って事になってる便利屋にして、性別は紛う事無き男子である。

 …と言う訳で、少なくとも自分は「恋する乙女」…ではない。怪しすぎるからこの手紙もチョコも。…まぁ、小箱の方だけがここにあったなら「サンタさんのプレゼント的な発想のバレンタインプレゼント?」と無理矢理自分を納得させる事が出来ないでも無い気はするが、こんな手紙が添えてある時点でそうも行かない。
 むしろ、プレゼントを貰う側ではなく用意する側に対して、使ってくれと言わんばかりの手紙の内容。いや、でもこれ使えったって怪しすぎるって…つうかそもそもなんで俺に…俺乙女じゃないし…バレンタインなんつったらあげるんじゃなくて貰う方だし。…つってもホワイトデーのお返しにがっつりたかる為にこそ雀の涙程のバレンタインチョコを方々から渡されるっぽいのがいつもの成り行きと言うか。
 …じゃなく。
 そんな色々を考えるより、今、問題なのは目の前にあるこの小箱の方。
 どうしたらいいのか物凄く困る。

 折角だから食っちまうとか?
 …いや、この手紙だとそもそもどんな効果になんのかよくわかんねーし。怖いし。それは誰かに渡すにしたって同じだし。自分は言うに及ばず、渡す相手によっては更に本気で物凄く後が怖いとも言う。…大して害が無いなら傍若無人な知人に食べさせるとか売るとか実はこっそり居たりする彼女――とっても凶暴なんだが――に食べさせるとかそれなりの選択肢はあるんだが…どうもそうするにも二の足を踏んでしまう。

 怪しいし、捨てちまおうか?
 …いや、それもそれで…なんか怖い。いやそもそも寝てた枕元にあったって事はまずココまで入って来れる何者かが置いたって事だし? 手紙にはバレンタインの魔女とか何とか書いてあるし――なんか名前が若干中二病臭いし。って言うか分類「魔女」だし? なんかその時点で御厚意を無碍にしたら逆恨みとか何か呪われちゃったりとか…要するに捨てちまうにもこれまた後が怖い気がして仕方が無くなってくる訳で。

 つーか。
 ひとまず、この送付元と思しき「バレンタインの魔女」とやらが何者なのかを探した方が無難か? とも思えてくる。
 …つっても、怪しい上に何やらまともに話が通じなさそうな気がしてならない手紙の文面の書きっぷり、枕元にこっそりチョコの小箱が置かれていたと言う非常識な事実。その辺諸々からして…まずこの魔女を探せるかどうか、と言う事自体も物凄く怪しい気もしてならない。

 …と、なると。
 取り敢えず。
 こういう事に詳しそうな人に訊いてみる、って手が無くもない。
 が。
 これまで遭遇したその手の方々を色々頭に思い浮かべてみるが…何だか、コレ、と思い付く人が居ない。例えば民族系ショップの商品調達に行った先で見掛けた怪しげーな呪術ショップの店員なおっさんとか、やっぱり同じよーなもの売ってる自称魔女なばーちゃんとか。…いやいや、その手のわかりやすくいかがわしい方々じゃなく…いっそ草間さんとかアトラスとかに相談した方がイイ方面の話なのかこれ?

 うーん。
 …ま、その辺の心当たりから適当に当たってみっか。



■そしてアンティークショップ・レンにて始まるアレコレ。

 家を出た清水コータは流れ流れてアンティークショップ・レンの前に居た。バレンタインの魔女からだと言う手紙付きな謎小箱の件を当たる為に草間興信所やらアトラスに出向き、その手の謎な「モノ」に関する情報ならそこじゃね? とばかりに紹介されたのが結局このアンティークショップ。…まぁ、各所に厄介払いされた結果こうなったと言う気がしないでも無い成り行きだったのだが。
 何にしろ、ひとまず心を決めて、すんませーん、と店の扉を開け中に入ってみる。

 と。

 カウンターの前、豊かな黒髪を姫カットにした、神聖都学園の制服を着ている女の子が――ほう、とアンニュイな溜息を吐いているのがコータの視界に入ってきた。綺麗と言うより可愛いと言う方が似合う、幼い感じが何処かに残るタイプの十五歳程度の女の子。なのに――さりげないその所作や、金色の瞳に宿る眼の光を見るに、どうにも妖艶と言う形容が似合う気がしてならないのは何故だろう。

 そしてそんな曰く言い難い眼の光が――すんませーん、と店の扉を開けたコータにばっちりぶつかった。

「…あれ?」
「…あら。お客様ですか。…素敵な方」
 にっこり微笑み、その女の子は悠然とコータに近付いてくる。
「わたくしは石神アリス。あなたのお名前を伺ってもよろしくて?」
「って…へ? いや俺は清水コータってモンだけど…?」
「コータさん。お名前も素敵」
「…いやいやいやちょっと待ってそりゃお年頃な女の子に言い寄られるのは悪い気がしないでもないけど!」
 なんかちょっと不自然な感じじゃねえ?
 思い、コータは慌てる――と、コータに近付いてきたアリスが離れた元、店のカウンターの天板上――マグカップと何やら見覚えのある気がする小箱が置かれているのが見えた。それも開封済み。…それはこれだけ離れていれば肝心の箱の中までは見えないが。ただ、ラッピングとかその辺に凄ーく不吉な予感が。

 …ひょっとして。
 このコ、この中身、食った?
 んで、更にひょっとして…「食ってから初めて見た相手」が、今店に入って来たこの俺とか?

 思いながらコータは――改めてすぐ側にまで来たアリスを見る。
 見たところで――コータの後ろ。また、新たに店の扉が開く音がした。コータが中に入った時点で、勝手に閉まっていたその扉が――再び外から開かれている。
 勿論、後から扉を開けた当の者もそこに居て。
 コータとアリスを見るなり、わ、とばかりに軽く驚いている。
「…珍しいねここにお客さんが多いのって」
「ってあれ、確か…神聖都の先生でしたっけ?」
 水原とか何とかって。
「ん? ああ、そういえば君たち前に学校とかで見かけた事あったよね?」

 と。
 反射的に新たな来客こと神聖都の先生――水原新一をコータは振り返り、人物確認。水原の方も水原の方で、コータのみならずアリスの方まで見て、軽く声を掛けてもいる。
 が。
 表情が見えない程度に軽く俯いたアリスからの反応が、無い。
 おや? とばかりにコータはアリスを見る。
 と――俯き加減だったアリスの顔が、ふ、と上げられた。そして、その瞳――魔眼で凝視された先は、コータではなく水原。
 続けて、ぽつり、とアリスの声がする。

「…折角のコータさんとの時間の邪魔をしないで下さる?」

 言い切った、直後。
 コータは妙な違和感を感じた。何が起きたのか瞬間的にわからない。ただ――いきなり、居た筈の人間の気配が唐突に消えたような。改めて振り返る。すぐ側に居た筈のもう一人。水原が立っていた筈の位置。タイミング的にまだ何処へも移動はしていない筈で、影も落ちている――が。
 改めて確かめて見れば、その水原が微動だにしていない。生きている感じすらしない。…まるっきり、石化。その辺の置物と変わらない感じになっている。

 コータ、それを見て反射的に石化。…いや、こちらは水原のように本当に物理的に石化してしまったと言う訳ではなく、そのくらいのショックを受けた、と言う意味で。
 そんな思わず凍り付いてしまっている間にも、アリスの口から流れてくるのは――コータの耳に容赦無く流し込まれているのは、それまで通りの甘い声。

「あなたはわたくしのものよ? 他の誰も見ちゃいけないのよ?」
「…」

 自分をじっと見つめてのアリスの科白に、コータは思わずごくりと生唾を飲み込む。
 ただでさえこのアリス、謎チョコ効果でヤバい感じっぽいのに加え――ナニコレ。よくわからない内に人間一人石化してるんですけど? 何だか怪しげーな空気漂ってるこの店の効果? それともこの謎チョコ効果? もしくはこのお嬢さんの元々の能力って事かもしんねーけどひょっとしてその辺諸々合わせて相乗効果起きてたりする!? いや、俺にゃ何だかわかんねー事なんだけどッ! でもどれにしても怖過ぎるんだけど…ッ!?



 …えーと、アリスっつったよね。
 ええ。わたくしは石神アリス。あなたに名前を呼んで頂けて光栄ですわ、コータさん。

 と、ほんのちょっとした行動を向けるたびに、フフ、と嬉しそうに含み笑い自分を見つめてくるアリス。コータは正直どうしたらいいかわからない――このアリスを見ているのも怖いが同時にこのアリス以外に意識を向けるのも怖い。
 取り敢えずアンティークショップ店内で座って落ち着いてはいない――のがコータ唯一の矜持と言うか何と言うか。…もしこれ以上何かが起きたら速攻で逃げる腹積もりではある――但し確実に逃げられると確信出来る状況でじゃないとむしろ身の危険を感じもする訳で下手に動けない。…実際に、今現在ばっちり石になってる水原を見るたびしみじみとそう思う。…明日は我が身と言うか何と言うか。怖えーよ。口が裂けてもアリス本人になんか言えないけど。
 ひとまず、チョコの効果――多分――は嫌と言う程思い知らされた。…自分で使ってないのにまさか自分が対象になるってどうよと内心嘆きつつも、強かな事に折角だからと色々アリスに何があったのか事情を訊いても見ている。と、なかなか要領を得ないながらもある程度の情報は得られた――どうやら店主の碧摩蓮から掘り出し物があると呼び出され、それを出して来る間のお茶受けにとアリスに出されたのがこのチョコだった風。となると…話を訊くべき相手はどうやらこのアリスよりその店主の方か。
 コータとしてはそんな気がしているのだが、ちょっと席を外しただけと言う話らしいその店主が戻ってくる気配は――何故か全く無い。

 なんでだよ! と思わず突っ込みたくなるが――これはつまり、その店主が何処ぞで入手したこの謎チョコをわざわざアリスに食べさせてみた、と言う事になるんじゃなかろうか。
 …となると――ココの店主に話を訊ける可能性は、無いかも。

「コータさん?」
 何を考えてらっしゃるの? わたくし以外の事を考えているのもダメよ?
「やー…そういうんじゃなくってえっと…そうだ。ただココに居るだけじゃなくてさ、折角だからどっかデートにでも行かない?」
 …ほら、ココに居るよりその方が逃げ出す機会も見付け易そうだから――とまでは勿論口には出さないが、コータとしてはこっそりそんな事を考えて提案してはみる。
 それに気付いているのか居ないのか――気付いていたら恐ろしい事この上無いのだが――、アリスはゆぅらりと小首を傾げて、コータの顔を、下から、じー。
「デート、ですか?」
「そうそう、折角だからアリスちゃんと一緒に色んなところに行ってみたいなー、とか…」
 ダメ?
「…」



■ヤンデレ注意報。

 それは偶然だったのか必然だったのか、ごくごく普通の人出な街中で起きた事。アンティークショップ・レンを出て、民族系の服を纏った青年――コータと、神聖都学園の制服を着た少女――アリスは二人並んで連れ立って歩いていた。
 アリスの希望で二人は手を繋いでもいる――いや、結局アリスの望みを蔑ろにするのがコータとしては凄く怖いので。…可愛いけど怖い。さてどうやってこのコから逃れよう。…もしくは早くチョコの効果が消えないか。あの手紙を見る限り最低ライン永続的にこのままって事だけは無さそうだから――効果が消えるまで耐えて待つと言う手もある。あるが――効果が消えるまでの時間の見当もこれまた付かない辺り心が折れそうにもなる。
 二人で散歩すんのも悪くないでしょ? とかコータは歩きながらもアリスにこまめに話を振る。…色々話し掛けてないと別のところに意識が行ってるんじゃないかとアリスに思われそうで怖いと言う頭もあるので。
 と、そんな中、コータの視界に少々不思議な組み合わせ――に見えるカップルが入って来た。カップルと言うか、カップルだったら年齢差的に犯罪者な気がする組み合わせ。が、親子ともどうも思えない。けれど、よれよれの茶のコートを着込んだ神経質そうな四十絡みのおっさんと、ステッキみたいに傘を携えたツインテールのゴスロリ少女――こちらの年の頃はちょうどアリスと同じくらい――が親密そうに腕を組んで歩いているのは確か。これは、考えてはいけない方向の関係と言う可能性もあるだろうか――…

 ――…とか何とか視界に入れた時点でそこまで思わず考えてしまっていて――コータは、はっ、とする。俄かに焦り、弾けるようにアリスの顔を見た。
 と。
 案の定と言うか不幸にもと言うか、アリスはその間ずっとコータを見ていたようで――即ち、明らかにおっさんと少女の組み合わせにコータが気が取られていただろう事にも、気付いている様子で――…。
 アリスはコータが自分を見たと思った途端、にっこりと満面の笑みを向け。
 それから。

 ――石化の魔眼を、当然のようにおっさんと少女の二人に向けた。

 止める間も無い…と言うかコータにしてみればアリスのこれは止めようが無いのでどうしようもない。
 ヤバ、と思うが取り返しが付かない。

 …そして、その直後。

 おっさんの――常盤の方だけが石化した。少女――スザクもまた唐突な異変に軽く目を見開き、え? と腕を絡めていた相手を見上げる。が、その相手は微動だにしない。それどころか感触が固い――まるで石。思った時点でスザクは何が起きたのか原因を探ろうと試みる――石化した常盤の様子を見、周辺の様子も確かめる。
 と、挙動不審な二人がスザクの視界に入って来た。酷く焦った様子のコータと、そこにべったりくっついている様子のアリス。どうしてその二人が気になったかと言えば――うろたえているコータの方、その意識が――どうやら自分たちに向いているのに気が付いたから。
 スザクは軽く思案すると、常盤から離れ、その二人に近付いて行く。

「…もし。御二人に伺いたい事があります。常盤さんに何かをしましたか?」
「! …や、俺は何も、っつか離れて、来ないで、話しかけないで、見ないで、危ないから!!」
 話し掛けてみた後、返って来たのは殆ど悲鳴。そんなコータの声にスザクは何事かと眉を顰める――そんなスザクに、アリスの方はただ黙って視線を返すのみ。だが、その視線は――何やら尋常ならざるものが込められているようで。意味として殆ど睨んでいるようだ、と言うだけではなくて、もっと直接的に強力な魔力とでも言うべきものが込められているような――。
「何をしているんですか。あなたの視線が常盤さんをああしてしまったと言う事ですか?」
 折角のデートだったのに。
 あなたはあたしの邪魔をした。
 そういう事、と取らせて頂いて構いませんね?
 スザクは首を傾げ、アリスを見る。
 アリスの方もアリスの方で、スザクを見る目に険が増した。
「…あなたこそわたくしの邪魔をしないで。わたくしのコータさんの視線を奪うなんて許せない」
「何を言っているのかしら? あたしたちの邪魔をしたのがあなたなんでしょう?」
 言うなり、スザクは傘の先端をアリスに突き付ける。
「常盤さんを元に戻しなさい。そうすれば許してあげる」
 それとも、お返しにこっちのお兄さんをどうにかしちゃった方がいいのかしら?
 アリスに傘を突き付けたまま、スザクはコータを不穏な眼差しでちらり。
「ちょ、ちょっとタンマ! 俺関係無いし!?」
「そうなんですか?」
「コータさん? 今何と仰って?」
「や、えっと…だから…アリスちゃんもそっちの子も取り敢えずプリンでも食べて落ち着こう!」
「何でプリンなんですか」
「いやそれは俺が好きだから」
「わたくし以外を好きなんて駄目です。コータさんはわたくしだけ見ていればいいの」
「ってプリンにまで嫉妬ってアリなのそれ!?」
「…よくわかりませんが。常盤さんを早く元に戻して下さい。時間は無限にある訳じゃないんです」
「…ってあちッ! なんかいきなりプリンが燃えた!?」
「…あら、あたしったらはしたない真似を。ごめんなさい。あんまり待たされるとスザクの黒い炎がもっと色々燃やしちゃうかもしれません」
「…」
 なんか、こっちの子――スザク――もまたなんか怖い。
 思っている側から、アリスがまたコータの顔を覗き込んでくる。
「…手、大丈夫ですか、コータさん」
「ん、ああ…うん、大丈夫…だけど」
 と。
 それまでのように卒無く返した筈の――その途端。

 何故か、瞬間的に目の前のアリスの顔が紅潮する。その唐突な変わりように、へ? と間抜けな声を上げるコータ。今度は何事かとばかりに再び思わず身構える――が。コータの前で頬どころか耳に首筋まで真っ赤に染めたアリスは、すぐに勢いよくコータから顔を逸らし俯いたかと思うと、何も言わないまま――その場から逃げるようにして走り去ってしまった。

「…」
「…」

 スザクとコータ、そんなアリスを黙って見送ってしまい――思わず顔を見合わせる。
 見合わせるなり、スザクは、はっ、とする。こんなところで呆けている場合では無い――そう判断し、常盤さんの事を頼みますと目の前のコータに託し、すぐさまアリスを追って駆け出した。
 後に残されたコータは――さてこれからどうするかとばかりに、石化させられてしまった常盤と思わず顔を見合わせる――取り敢えずコータ的にはそんなつもりで常盤を見た。
 まぁ、何にしても。
 取り敢えずこの状況は――無駄に人目に付き過ぎる。



■それから〜スザクとコータの場合。

 すぐ追い掛けはしたけれど、スザクは結局アリスの姿を見失う。街中で雑踏に紛れてしまえばそれはある意味仕方が無い。が――そうなると、常盤の事が改めて心配になって来てしまう。ひとまず居合わせたあのコータと言う青年に頼みはしたが、そもそも彼はアリスと一緒に居た訳でもある。信用出来る相手かどうかとなると、不明としか言いようが無い。

 そんな訳で、スザクは結局元居た場所に急いで戻っている。と、コータがひとまず道の端に石化した常盤を寄せてぐったり座り込んでいた。…石化状態の常盤が重かったらしい。
「ここまで運んでくれたんですね」
「うん。でも俺もーこれが限界。このおっさん連れてこれ以上動けない」
 ってな訳でこれ以上はどうしよう。
「あたしも常盤さんのコレを――石化したのをどうにか解いて貰うつもりであの子を追い掛けたんですが…」
 見失ってしまいました。
「…そうなの? あの子なら多分アンティークショップ・レンに行ったんじゃないかなーって気がしないでもないんだけど」
 アリス。
「え、碧摩さんのところにですか?」
「うん。多分あの子にチョコ食わせたのあそこの店主だし」
「じゃあ…あの時、急に彼女の態度が変わったのはチョコの効果が切れたからで、碧摩さんに仕返しに行った…と言う事になるんでしょうか」
「そうそうそんな感じ…いやわかんないけど」
 細かくは。
「取り敢えず連絡取るだけ取ってみましょうか?」
 告げるなり、スザクは携帯電話を取り出し掛けている。相手は蓮。普通に呼び出し音は鳴っているようだが――何故か通話に出る気配が無い。
 いいかげん鳴らして待ってみると、漸く相手が出る。
 が。

 受話口から聞こえて来た声は、蓮のものでは無くて。



 ぴ、とスザクは通話を切る。
 相手の電話に出たのは碧摩蓮では無くて水原新一だった。曰く、今現在碧摩蓮は石化中なのだと言う。こうなると暫く放っとくしかないから店は閉めておいてるとかあっさりそんな風にまで言って来た。
「…碧摩さんとはお話し出来なさそうですね」
「ってあっちも石になっちゃってんの? でも水原さんは石化から戻ってるんだ?」
 て事はアリスは――水原さんは元に戻してったって事?
「…だったら常盤さんの事も元に戻しに来てくれたりするでしょうか」
 出来れば、石化から戻った時にまだチョコの効果が消えていなければ…とも思っているんですけどね。
「…スザクって言ったっけ、きみ、使ったんだ…」
 件のチョコ。
「はい。常盤さん、素敵なおじさまだと思いまして。…折角良いところだったのに、清水さんたち御二人が来てしまって…」
 あの状況に。
「…あー、そりゃあ…なんか悪い事したねぇ。んじゃあ、その辺諸々解決したらこの常盤のおっさんとデートの続き出来ると良いねー?」
「ええ。本当に。清水さんも有難う御座います。頑張りますね」
 にっこり。

 と。

 笑ったところで――おいおい、何があったい? と不意に困惑したような声がすぐ側から聞こえてくる。…常盤の声。その事実に、え、と異口同音にスザクとコータは驚く。…どういう加減でかいつの間にやら常盤の石化が解けている。
「常盤さん!」
「お、嬢ちゃん。なんか良くわかんねぇが待たせちまったみてぇだな」
「いいえ。大丈夫です。常盤さんの方は身体は何ともありませんか?」
「…ああ。問題無ぇ。それより待たせちまった分、埋め合わせしなきゃあならねぇな?」
 そんな風に言いながら、常盤はスザクに微笑みかけ――優しく頭をぽむ。スザクの方でも常盤にそうされて、甘えるように微笑み返した。
 結局、程無くスザクと常盤はデートを再開する。スザクは去り際にコータに小さく手を振りつつ、当初見掛けた時のように常盤と腕を絡めたままで雑踏の中に去って行く。
 コータは手を振り返しつつ何となくそれを見送っていてしまったが――何となく、素朴な疑問が。

「…あれ、効果続いてんの、切れてんの?」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 ■出身ゲーム世界
 整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■東京怪談 Second Revolution
 7919/黒蝙蝠・スザク(くろこうもり・-)
 女/16歳/無職

 ■東京怪談 Second Revolution
 4778/清水・コータ(しみず・-)
 男/20歳/便利屋

 ■東京怪談 Second Revolution
 7348/石神・アリス(いしがみ・-)
 女/15歳/学生(裏社会の商人)

 ■聖獣界ソーン
 3428/レナ・スウォンプ
 女/20歳/術士

※記載は発注順になっております。
ラブリー&スイートノベル -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年03月22日

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