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『何を選んでいいのやら? THE・ホワイトデー! 』
相馬 カズヤjb0924

1.
 相馬カズヤはじっと見ていた。一緒にいた中島雪哉もじっと見つめていた。
 ホワイトデー間近のデパート、ホワイトデーの催事場。
 2人は学校の教材を買うついでに寄ったその場所で、奇妙な光景に出くわした。
 人だかりの真ん中にウサギの着ぐるみが大きな声で話している。
「そこの君たちはバレンタインデーにチョコを貰ったかい? …オーケー! オーケー! みなまで言うな! 言いたくないことのひとつやふたつ、誰にだってあるものさ…。わかってる、わかってるよ」
 誰も何も言ってないのに、1人で喋っている。
 怪しい人だ。怪しさ大爆発だ。
「さて、ここはホワイトデー催事場だ。なぜ君たちはここにいるのか? …理由はわかっている。となると、問題はアレだ。何を選ぶか? だ」
 カズヤは何気なく耳を傾けた。ちょっとだけ…本当にちょっとだけ気になったのだ。
「一説によると『好き:クッキー/どっちでもない:キャンディー/嫌い:マシュマロ』…なんて説もあるが…『好き:キャンディー/どっちでもない:マシュマロ/嫌い:クッキー』…そんなところもあると聞くが…『好き:マシュマロ/どっちでもない:クッキー/嫌い:キャンディー』…所詮、噂に過ぎないね。君の心のままに選ぶといいさ」
 雪哉が首を傾げている。多分、カズヤと同じことを考えているのだと思う。
「結局どれが正しいのか、わからないな」
「うん、全然わからないね…」
 雪哉は小さく頷いて考え込んだ。どうやらカズヤの予想は当たったようだ。
 カズヤたちの疑問は至極もっともであった。しかし、その疑問は解けぬまま、ウサギの着ぐるみは喋る。
「…あぁ、申し遅れたね。私の名は『THE・ホワイトデー!』だよ。君たちにアドバイスをしに来た、ただの通りすがりだ。私のことは気にせず、さぁ、選んでくれたまえ!!」
 『THE・ホワイトデー!』がすべてを言い終わると、人だかりは蜘蛛の子を散らすようにホワイトデー売場へとバラバラに去っていった。
 カズヤと雪哉は思わず顔を見合わせた。行くなら今がチャンス!
 2人は意を決して歩き出す。

 ウサギの着ぐるみ『THE・ホワイトデー!』氏の元へ。


2.
「あの、質問していいですか?」
 近くで見ても…やっぱり怪しい人だ、とカズヤは確信した。
「なんだい? お坊ちゃんにお嬢ちゃん?」
 にっこりと笑…っていると思われるウサギの着ぐるみ。くぐもってはいるが声はどう聞いても男だ。
「さっき、マシュマロとかクッキーとかキャンディーの話をしてましたけど…」
「ふむ。確かにしていたね」
 雪哉の言葉にウサギの着ぐるみは頷く。そして2人は思い切って訊いてみた。

『どれが正しいんですか?』
 
 ………沈黙。
「あの…?」
 カズヤが怪訝そうに声をかけると、わずかに先ほどより小さい声が聞こえてきた。
「ふ、ふむ。む、難しいことを聞くね。…あのだな。その…世の中には色々あってだね」
 着ぐるみのせいで表情はわからないが、どうやら大変動揺しているようだ。
「色々…?」
 中島はカズヤを見て困ったような顔をした。さっぱりわからないようだ。
 カズヤはそんな中島の代わりに質問する。
「色々ってなんですか?」
「むむっ…い、色々というのはだね…そ、それは…アレだよ、アレ」
「アレってなんですか?」
「アレというのは…いうのは…」
 着ぐるみの中の人の動揺は計り知れなかった。しかし、小学生2人の攻撃の手は決して緩まることはない。
 ここをどう潜り抜けるか!?
 それが、着ぐるみの中の人に課せられた難題であった。
「ねぇ? アレって何?」
 カズヤが少し急かすように答えを求める。
「それは…それは…」
「それは?」
 つぶらで真っ直ぐな4つの瞳に見据えられて、着ぐるみの中の人はついに答えを見出した!

「そう! それは『大人の事情』なのだよ!」

「大人の…事情…?」
「それって…大人にならないとわからないってこと?」
 顔を見合わせたカズヤと雪哉に、着ぐるみは勢いよく首を縦に振った。
「その通り! その通りだよ! はっはっは」
「それじゃ、しょうがないね。カズヤ君」
「う〜ん。気になるけどしょうがないよな」
 小学生は納得した! 素直な子供たちでよかった…と着ぐるみの中の人は思った。
 亀の甲より年の功がまさに実感できた瞬間であった。


3.
「…カズヤ君。ボク、ちょっと中を見てきていいかな?」
 雪哉がそわそわとホワイトデーの売り場を見て言った。
「なんで? だってホワイトデーって男の人が買うもんだぜ?」
 カズヤの言葉に、雪哉は俯いて照れたように笑った。
「だって、可愛くて美味しそうなお菓子がいっぱいなんだもん。ちょっとだけ…ダメ…かな?」
「…行ってくればいいだろ。ボクはここで待ってるから、好きなだけ見てこいよ」
「ありがとう! それじゃ、行ってくるね!」
 満面の笑顔で雪哉がホワイトデーコーナーの中へと紛れていく。
 その後ろ姿を横目でしっかり見送った後で、カズヤはこっそりとウサギの着ぐるみに近寄った。
「ところでさ」
「ん? ま、まだ何か質問かい?」
 ちょっと上ずった声の着ぐるみに、カズヤは小声でこう聞いた。

「ところで、女の子が喜びそうなプレゼントって何かな?」
 
 真剣な瞳のカズヤに、ウサギの着ぐるみはしばし沈黙した。
「…なぁ。アドバイスしてくれるんじゃないの?」
 その沈黙にカズヤは時々雪哉が消えて行った方向を気にして振り返る。
 いつ戻ってくるかわからないから、早く知りたいのに…!
「その女の子というのは…さっきの?」
 ウサギの着ぐるみの声がそう言うと、カズヤは反射的に「ちげーよ!」と叫んだ。
「な、なんでボクが中島にプレゼントなんてあげるんだよ! …そりゃ、中島はちょっとお人よしっぽくて、助けてやらなきゃって思うけど…それは友達だから当たり前だし!」
「お、落ち着きたまえ…おち」
 ウサギの着ぐるみの声を遮って、カズヤはさらに言葉を続ける。
「とも、友達だから今日だって一緒に買い物に来たんだし、他の女子よりも仲はいいかなとは思うけど…!」
 顔を赤くして一生懸命訴えるカズヤに、ウサギの着ぐるみはとにかく落ち着くようにと言い聞かせる。
 カズヤは言葉に詰まってしまい、大きく息を吸う。
 変なこと言うから…ウサギの着ぐるみが変なこと言うから…。
「お待たせー!」
 明るい声が後ろから聞こえた。
 カズヤはフーッと大きく息を吐くと、ようやく少し落ち着いた。


4.
「あのね、あのね…あれ? どうかしたの??」
 カズヤとウサギの着ぐるみをまっすぐな瞳で見つめて、雪哉は小首を傾げた。
「なんでもねーよ」
「うむ。ちょっと男同士の語らいをしていたのだよ」
 ウサギの着ぐるみはそう言うとポンとカズヤの肩を叩いた。
「男同士の…語らい??」
 雪哉は「??」といった顔をしていたが「あ、そうだ!」と手に持っていた紙袋から可愛くラッピングされた箱を取り出した。
「あのね、すっごく美味しそうなのがあったから買っちゃたんだ! ボクの分と…ほら! カズヤ君の分!」
 2つの箱を得意げに見せて、雪哉は嬉しそうに笑う。
「帰ったら一緒に食べようね」
 そう言われて、カズヤはぽかんとした。なんだか先手を取られた気がした。
 横からウサギの着ぐるみが小さくカズヤの肩をつつく。
 カズヤはハッとした。
「じゃ、じゃあボクもなんか買うよ。貰ってばっかじゃ悪いもんな。なんか欲しいのあったら教えてよ。そ、それにするから…」
 絶好のチャンス、タイミングもばっちりで自然にそう言えた。…ちょっと照れくさかったけど。
「ホント!? コレとどっちにしようか迷ったヤツがあるんだ。あっち! 一緒にいこ!」
 雪哉が嬉しそうに「あっちだよ」と歩き始める。
 その後ろをカズヤも歩きだし…後ろを振り向くと、ウサギの着ぐるみが右腕を突き出し握った手の親指だけを立ててこちらを見ていた。
 カズヤはそれを見て笑った。
「どうしたの?」
「なんでもない! で、どれ?」
「これこれ! ね? 美味しそうでしょ?」
「ふーん…こういうのがいいのか…」
 雪哉の指差したお菓子を2つ買って、カズヤと雪哉はお互いのお菓子を交換した。
「ありがとう! 教材買うだけだったはずなのに、無駄遣いしちゃったね」
 そう言った雪哉だったが、その顔はとても無駄遣いしたとは思ってなさそうな笑顔だった。
「…ボクは別に無駄遣いだとは思ってないけどな…」
 小さな声で呟いたカズヤに、雪哉が「ん?」と聞き返す。
「なんにも言ってない!」
 そうして、他愛もない話をしながらカズヤと雪哉は帰路についた。

 帰り道、ずっとボクは笑っていた気がするんだ…。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 jb0924 / 相馬 カズヤ / 男性 / 10歳 / バハムートテイマー

 NPC(jz0080) / 中島 雪哉 / 女性 / 9歳 / アストラルヴァンガード


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 相馬 カズヤ 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきまして、ありがとうございます。
 エリュシオンのNPCでイベントノベルを書くのは初めてです!
 少しでもお楽しみいただけたなら嬉しいです。
ラブリー&スイートノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年03月22日

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