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『こぞことし 〜親戚一同大集合〜 』
地領院 恋ja8071

●年の終わりの、なんとやら
 師走は誰しも慌しくなるものであるが、日々学業に戦いにと忙しい撃退士達もまた年越し準備に追われている。大晦日ともなれば尚更だ。
 たとえば――八神家。

「おぉ寒‥‥ただいまー‥‥」
 今ここに、住人が一人帰宅した。
 どことなく気だるげな彼の名は八神 奏(ja8099)、基本的にものぐさ気質で面倒くさがりの14歳だ。
 奏は、おもむろに家内の様子を一瞥した――親戚一同が集まりに集まって、大掃除をしている。
「‥‥行ってきます」
 ――くるり。身を翻した。
 しかし逃げる奏の存在は、しっかりと気付かれていた。
「駄目だよ奏、サボりなんて許さない」
 目敏く見つけたクインV・リヒテンシュタイン(ja8087)が、すかさず奏の上着の背を引っ掴む。口の中でもごもごと言い訳を呟いていた奏だったが、クインはそれを許さない。
「だるい‥‥やりたくない‥‥」
「やりたくないのは皆同じだよ、ほら奏も手伝って!」
 ぐい、と引っ張った拍子に首が絞まって、奏はぐぇと声を上げた。
 一見地味で非力そうに見えなくもないクインだが、その実、彼はしっかりもので責任感が強く――つまりは現在のように一度掴んだら絶対に離さない強引さを併せ持っていたりする訳で。
 逆らって逃げようものなら上着が脱げるか裂ける前に首が絞まってしまいかねない。奏は観念して無抵抗の意思を示した。
「‥‥わかった。それで俺は何処を‥‥あ、何でもない」
 クインの勢いに押されていて忘れかけていたが、ここは自分の家だった。自室を片付けてきますと上着を脱いだ奏へバケツと雑巾を押し付けたクイン、爽やかな顔で彼を見送って八神家内を見渡した。
「さて‥‥と」
 歳の近い少年少女達がせっせと掃除をしている。クインと縁が深い彼らは皆、撃退士。何の因果か揃いも揃ってアウルに目覚めてしまった者達だ。
「順調順調。ふぅ、眼鏡と同じで綺麗な家は気持ちがいいね」
 一番の懸念だった生意気少年を大掃除に誘導し終えたクインは、キッチンから漂い流れる出汁の香りに鼻をくんと動かした。

 一方、帰宅後早々大掃除に巻き込まれた奏は、家内を巡回しながら自室へと移動していた。
 特に大豪邸という訳ではないにも関わらず、随分と移動に時間が掛かっているのは、単に寄り道しながら部屋へ向かっている為だ。
 クインが来ていた。自宅を身内が大掃除しているのは知っている。ここは俺の家だ、誰と誰が来ているのか知っておくのは家人の義務である――と、そこまで奏が考えたかは定かではないが、要するに大掃除を先延ばししたいが為に、奏は自宅のあちこちを見てまわっていた。
「まさか‥‥みんな来てるのか‥‥?」
 神埼姉弟妹は勿論、兄貴分に姉貴分、妹分も来ていた。
 居間はあらかた片付いて、窓も照明もピカピカだ。さすが弟妹を持つしっかりものの姉貴分、手際よく掃除を済ませた地領院 恋(ja8071)が残しているのは壁際の箪笥だけのようだ。
 ――が、何やら不穏な空気を醸しだしていた。
 恋の眼前には黒光りするアイツが、様子を伺っていた。両者一歩も譲らず、にらみ合っている。
「‥‥宜しい。ならば完全に息の根を止めて、やらァッ!」
 恋の纏う紫が濃く光を帯びた。拙い、光纏を始めている――ちりちりと爆ぜる紫雷を、飛び出した神埼 晶(ja8085)が慌てて引き止めた。
「恋姉、掃除でそんな事したら、家が壊れちゃうよ‥‥!」
「‥‥む、しかしヤツが‥‥」
 ――あ、逃げた。
 家に巣食う黒い悪魔の存在は見なかった事にして、奏は次の部屋へ行く。
「あー、戒姉‥‥それ、親父の布団‥‥」
「なー!?」
「‥‥ちょ、戒姉!」
 布団を干すと見せかけて、そのまま昼寝を決め込もうとしていた七種 戒(ja1267)が慌てて布団から飛びのいたものだから、はずみで窓の桟に掛けようとしていた敷布団は屋根を滑って落ちてゆく。
「待て!!」
 しかし伸ばした戒の手は追いつかず、庭を整えていた兄妹の頭上に落下した模様――
「れ、煉お兄ちゃん!?」
「大丈夫です平気ですから離れなさい律‥‥」
 悲鳴の後、駆け寄る神埼 律(ja8118)の声と少しくぐもった神埼 煉(ja8082)との遣り取りが聞こえてきた。
 ――これはちょっと、後が怖いかもしれない。
「‥‥潰したのが兄で良かったと思うべきだろうか?」
「さあ‥‥俺は関係ないっ」
 戸惑う戒の視線から目を逸らして、奏は自室へ逃げ込んだ。

 一方、キッチンでは和やかな光景が展開されている。
「萌ちゃん、ちょっと味を見て貰える?」
 濃い目にならないように気をつけてはみたけれど、と神埼 累(ja8133)。小皿に移した蕎麦汁を八種 萌(ja8157)に手渡して「どお?」小首を傾げた。
「うーん‥‥お蕎麦のツユの味はこれくらいかな?」
 小皿に口を付けて暫し――萌はこくりと頷いて笑んだ。
「それじゃそろそろタネを揚げていきましょうか」
 具沢山の大皿を見遣って累が言った。
 海老に烏賊、野菜に油揚げ――様々盛り付けてあるのは全て蕎麦種の材料だ。大勢で食するのもあったが、何よりこの一同、好みがバラバラなのである。
「萌ちゃんの好きなタネはどれかしら?」
「えっと‥‥」
 取り置きを約束してにっこり笑う。そこへ布団干しを終えた戒と煉律兄妹が遣って来た。
「累姉さん、それは私がやりますよ」
「ちょうど良かったわ、煉ちゃん、じゃあこれを運んでね、有難う」
 揚げ物の途中で手が離せないからとてきぱき指示を出す累の背後で、戒が何やら不満そうに蕎麦種の大皿を見つめている。
「累姉‥‥大根は?」
「大根?」
 ざるそばの薬味に大根おろしは聞いた事があるけれど、温かい蕎麦に大根おろしは合うのだろうか――みぞれ蕎麦は朧豆腐よねと首を傾げつつも、累は同じく怪訝な顔をしている晶に声を掛けた。
「晶ちゃん、裏手に新聞紙に包んだ大根があるはずだから取ってきてくれるかしら?」
「うん‥‥戒姉、お蕎麦には大根入れないよね?」
 一仕事終えて様子を見ていた晶、一応確認した上で素直に大根を取ってくる。おろし金は何処かと聞いたのを、戒は慌てて制止した。
「いやいや晶、おろすなど邪道‥‥」
「入れるなら、大根おろそうよ」
「待て待て待て。戒、それをどうするつもりですか?」
「戒ちゃん、年越しそばに大根そのままいれちゃだめなの」
「律覚えておきな大根は生! ええい止めるでないよ煉兄!」
(本当、うちの親族は好みがバラバラなんだから‥‥)
 大根一本を巡って、ぎゃあぎゃあ賑やかに騒ぐ戒達を横目に、萌は大根おろしに合わせて盛りも用意しておいた方が良いのかどうか暫し考えた――ものの。
 気にするのは止めておくことにした。
 何せ相手は戒だ、きっと温蕎麦に輪切り生大根を添えるのが彼女流なのだろう。

 ――などと賑やかな仕度の後。

「はーい、海老天の人は?」
 戒の方は見ないようにして、海老天を給仕する萌の姿があった。
 冬も真冬、大晦日。寒い季節は温蕎麦に限る。
「蕎麦は良いね。蕎麦と出汁の香りが絶妙に入り混じり芳醇な香りを醸し出し一年の疲れを癒してくれるようだ。ほらこの麺歯ざわりなんて――」
 クインの講釈をBGMに一同は蕎麦を啜る。きっと誰も聞いちゃいない。
「海老天お代わりー」
「煉お兄ちゃんには大盛りで用意なの」
「温たまある?」
「あー それ俺も狙ってたのに!」
「まだあるから遠慮なく食べてね?」
 甲斐甲斐しく給仕する妹の愛情こもった大盛り蕎麦は勿論、食べ盛り達の食欲に累は微笑んでお代わりを勧める。
 そんな中、まだ一杯目の男が――
「え、ちょっとみんな食べるの早いなっ!」
「クイン君、ぶつぶつ言ってないで早く食べるの」
 律に突っ込まれ、漸くクインも黙々と食べ始めた。

●いくつの煩悩、消せた?
 騒がしくも和やかに食事を済ませた後、一同は外出準備を始めた。
 初詣にはまだ早い。除夜の鐘さえ鳴ってない――そう、これから八神家近くの寺へ鐘を撞きに行くのだ。

「累姉、着付けお願い」
「任せて。妹がいたら、こんな風にしたいってずっと思ってたの」
 戒の要求に微笑で応じ、累は桜色の長襦袢を広げて戒の腕を通した。隣では一人で長襦袢まで着た恋が、全て自力で着てみると青い振袖を羽織っている所だ。
「ええと襟は洋服とは逆の左前で‥‥ん? これどうするんだ累さん」
 身丈よりやや長い裾を持て余している。確か腰のあたりで調整するんだっけか――おはしょりの作り方を教わって、一人で綺麗に整えた。
「帯は頼んだ方が、しっかり結べるかな‥‥累さ‥‥」
 累を呼ぼうとした恋は口を噤んで黙り込んだ。
 気持ちは分かるとばかりに律がそっと恋の側に来て、帯に手を掛ける。
「私が手伝うの。だって、さっきから累お姉ちゃんが‥‥」
 ――暴走していた。
 戒の振袖が妙な事になっていた。丈が異様に短く裾揚げされていて、マイクロミニ丈の振袖になっている――だけと累はご満悦。
「綺麗な足ですもの、思い切って見せちゃいましょう。帯も可愛くアレンジしましょうね」
「累姉‥‥」
「お正月ですもの、華やかに縁起良く注連縄アレンジで結びましょう」
「いや、それは土佐犬みたいじゃないか‥‥な!?」
 さすがの戒もおかしいと感じ始めたようで半拒否気味なのだが、アバンギャルドに目覚めた累の暴走は止まらない。
 ぽそ、と律は呟いた。
「気持ちはわかるの。可愛いの。これが着物じゃなくてコスプレ衣装だったら‥‥だけど」
 そう――これは久遠ヶ原学園内や某会場では見慣れた格好には違いないが、所謂コアな人向けのアレンジし過ぎた着付けであって、歳神様に挨拶へ向かう初詣の格好ではない、と思う。
 しかし累は妹分を思う存分可愛く着付けられて酷くご満悦だった。
「みんな、まンずめんけし幸せ‥‥晶ちゃんもこさけ?」
 思わず御国言葉まで飛び出した累に手招きされて、晶はふるふると首を振った。
 違う、これはいつもの累姉じゃない――!
 そんな晶の危機を救ったのは、自慢げに胸を張る萌だった。
「はいはーい、一人で着物が着れない人は手伝いますよ。こうみえても一人で着れるんですから!」
「あ、ありがとう‥‥累姉、私は折角なので萌に着せて貰うよ」
 安堵に表情を緩ませて、晶は萌の手を取った。

 一方、男性陣はというと。
 着付けたのは律や累だが、こちらは大変正統派だ――約一名、妙な拘りを持っている男はいるが。
「こっちの眼鏡といつもの眼鏡どっちがいいかな?」
 ささっとそつなく自分で着付けたクインが、眼鏡を選びかねて頭を抱えていた。
 正直どっちも同じだ。奏が適当に指差してやると、やっぱり悩んでいる。
「うーん、いつもと違う方か‥‥そうだね新年だものね。けれどやっぱり掛け慣れた‥‥」
「‥‥見た目、変わらないんだけど」
「何を言う。テンプルのこの角度、この馴染み具合が微妙に違っていてね‥‥」
 またクインの講釈が始まったのを軽く聞き流して放置していると、やがてクインは自分で決めたようだった。尤も、見た目が同じなので奏にはどちらを選んだのやら全く判らなかったのだが。

 ともあれ身支度を済ませた一同は、一年最後の夜歩きを始めた。
 撃退士なれば犯罪者など恐れるに足りぬが、さすがは大晦日、暗い夜道も少なからぬ人が行き交っている。一同が到着した頃には寺は既に参拝に訪れた近隣住民でごった返していた。
 然して詳しい場所でもないから奏にとっては新鮮だ。屋台が出るほど大きな寺ではないものの、ご近所の信仰はそこそこに篤いらしい。
「‥‥へえ。案外お参りに来る人、いるんだ‥‥」
「クイン! 鐘を衝いてみようよ! 衝撃で眼鏡が割れるかもしれないけどっ!!」
「ふふふ、僕の眼鏡はそれぐらいで割れるほどやわじゃないさ。いいね、派手に鳴らそう」
 早速撞かせて貰おうと誘った晶にクインは眼鏡を光らせて応じる。おもむろに鐘楼へと近付く二人を見送りつつ、萌が除夜の鐘と煩悩の話に触れた。
「煩悩は百八つあると言いますけど‥‥戒姉さんは百八じゃ足りませんよね」
「‥‥酷いッ 折角普通に着付け直して貰ったのに!」
 ――いや、それは関係ない。
 ごく一般的な振袖姿になっている戒が吠えている間に、鐘撞きの順番は晶達にまわってきていた。
「萌ちゃんさり気なく酷い。戒ちゃんもその辺で‥‥ほら、晶ちゃん達が撞くよ」
 恋の仲裁で軽口を止めた二人、急に神妙な顔になった。場所が場所だけに厳かな気持ちになったのだろうか――萌は勿論、戒も黙っていれば最高に美形なのは今更言うまでもない。
「この家系は美人が多いなぁ‥‥一部黙ってればっていう限定がつくけど」
「うふふ、みんなおすまししちゃって‥‥」
 奏や累が見守る中、晶とクインが撞木に繋がる親綱を共に握った。きゅ、と煉の上着にしがみ付き、律が呟く。
「いよいよ、なの」

 梵鐘も、それを撞く撞木も大きい。全身全霊を込めて身体全体で撞かねば良い音は鳴らぬ。
 二人は親綱を握ったまま、呼吸を合わせて大きく仰け反った。そして――

 ――ごーん..........

 有難い音色が鳴り響いた瞬間、クインが消えた!
「え!?」
 驚いたのは側にいた晶だ。彼が小さく声を上げてよろめいたのには気付いていたが、何がどうして消えたのか。
 しかし晶や皆の狼狽は一瞬で終わった。何故なら――梵鐘が光り輝いたからだ!

「あーはっはははははは!!!!!」
 真っ先に有難い梵鐘の正体に気付いた奏が爆笑するので、皆にも段々事情が飲み込めてきた。
「これって‥‥」
「クイン、だね」
「やあ、タイミング悪く眼鏡光線が発動してしまったよ」
 困惑の面持ちで顔を見合わせる累と戒。心配そうな萌を他所に、当のクインは意気揚々と梵鐘から現れた。ふふんと自信たっぷりに言い放つが、周囲の参拝客は引き気味だ。そして関係者も。
「しかし目出度いだろう? 神々しく光る鐘というのも」
「‥‥クイン、光りすぎ」
「クイン君‥‥ちょっと今は他人のふりしたいの」
 そそくさ鐘楼から降りた晶さえ他人の振り。煉と律の言葉が皆の気持ちを如実に現しているのだった。

●願い事、願う事
 そんなこんなで年も暮れ――明けて新年。

「「「「明けましておめでとうございます」」」」
「みんな、今年もどうぞ宜しく、ね」
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「今年もよろしくおねがいします」

 羽織袴と振袖姿で、畏まってのご挨拶。
 晶も皆に倣って大人しやかに挨拶したものの――
「‥‥‥‥戒姉!今年もよろしくーっ!!」
 顔を上げた瞬間からいつも通りの元気な晶だ。
 奏は端から普段通り、寧ろここぞとばかりにちゃっかり年下アピールなんぞして。
「あけましておめでとうー。さて、お年玉は?」
「気持ちだけ、ね」
 そんな事を言いながら、年長組の累が年少者へお年玉を配ってゆく中、恋が懐に手を入れて言った。
「高校生以下にはやるよ、お年玉。ただし‥‥やるのはアタシを倒した者だけだ」
「新年早々バトルかよ!」
「晴れ着で戦うの!?」
 恋が真顔で言うものだから、対象者も非対象者も、境内で開催される力ずくの奪い合いを想像した――のだが。
「‥‥とかやった方が良かったか。皆撃退士だと」
 ――恋さん、それ冗談に聞こえないから!

 ひとしきり挨拶が済んだところで一同は本堂へ。去年今年――今度の参拝は新年それならの祈願に向かう。
 ついさっきまで梵鐘が鳴り響いていた場所も、年が代わったと思えば真新しい場所に思えてくるから不思議だ。ぴりりと頬を刺す寒風さえ清々しく感じる。
 財布から四十五円を出し、奏が言った。
「始終ご縁がありますようにって意味らしい。なんかテレビで言ってた」
 所謂語呂合わせの縁起担ぎというやつだ。知ってる知ってる、御縁に掛けているんだよねと晶が五円玉を賽銭箱へ投げて祈る。
「今年もみんなが健康でありますように」
「弟妹、親戚一同、どうか健康で‥‥」
「今年もみんなが健やかで、幸せでありますように‥‥クインちゃんの眼鏡もあまり割れませんように」
 賽銭を投げた恋が真剣に祈願し始めた。
 隣で手を合わせた累が願掛けがてらちらとクインを見遣った。当の本人は至極真面目に何やら祈っている様子だ。
「眼鏡による眼鏡のための世界平和が訪れますように」
 ――眼鏡で世界征服でもできそうな勢いだった。
 律は煉と並んで手を合わせる。
「みんな撃退士になったけど、無事で来年も楽しく過ごせますように」
「‥‥世界が平和でありますように」
 見上げた律に、煉は穏やかに笑んで言った。
「そう‥‥世界が平和なら、私たちも平和なのですから、ね」
 こくりと頷いて、律はもうひとつ願い事をする。次のイベントで新刊ゲットできますように――と。
 最年少の萌はというと、振袖姿のお姉さん達をじっと見つめていた。
(みんな胸大きかったなあ‥‥)
 着付けの際に押さえ付けたので今は目立たないけれど、全員羨ましいサイズの胸の持ち主達だ。萌は自分の胸元を見下ろした。補正の必要がない、発展途上の、胸。
 賽銭を入れて、願いを掛ける段になって萌は一瞬躊躇した――が、生真面目に祈る。
「早く天魔との戦いが終わりますように‥‥」
 そんな萌とは対照的に、奏はどこまでも自由な願い事。
「沢山の美女と出会えますように。戒姉の残念が少しでも減りますように」
「残念言うな!」
 賽銭を投げながら戒が反論する。それを見て奏は突っ込んだ。
「戒姉、それ久遠だし!」
「え、久遠じゃ駄目なのか?」
 声がしたのは別の方から。恋も久遠を投げ入れたようだ――しかも五百久遠も!
 まあいいじゃないかと戒は笑った。学園に来れば久遠だって使えるさと。
「今年もいっぱい楽しいことありますように‥‥皆でな!」
 晴れやかに願い、にこやかに笑う。

 一方、恋の祈願は未だ続いていた。
「特に弟は結構無茶をする奴なので、アタシの見てないとこで無理しそうなら意識刈り取ってでも止めてくださいお願いします。妹も最近益々可愛くなって、悪い虫が付かないか不安で‥‥」
 まるで歳神様に人生相談をしているかのようだ。
 そろそろ行きましょうと累が促すと、恋は顔を上げて片手で拝んだ。
「ごめん、もうちょっとだけ」
 先に行くよと皆が本堂を離れた後も、恋は祈願を続けていた。
 大切な人達が、誰も不幸に遭いませんように。
 神様はきっと願いを叶えてくれる事だろう。もし神様が叶えてくれなくても、恋が叶えてしまうに違いない。だって恋は――自分の事は何ひとつ願わず、弟妹達の幸せだけを想って願掛けしたのだから。
 やがて祈りを終えた恋は、大好きな皆の許へ駆けて行った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / 高等部3年 】
【 ja8071 / 地領院 恋 / 女 / 20 / 大学部2年 】
【 ja8082 / 神埼 煉 / 男 / 20 / 大学部2年 】
【 ja8085 / 神埼 晶 / 女 / 16 / 高等部1年 】
【 ja8087 / クインV・リヒテンシュタイン / 男 / 16 / 高等部2年 】
【 ja8099 / 八神 奏 / 男 / 14 / 中等部3年 】
【 ja8118 / 神埼 律 / 女 / 17 / 高等部2年 】
【 ja8133 / 神埼 累 / 女 / 25 / 大学部3年 】
【 ja8157 / 八種 萌 / 女 / 13 / 中等部2年 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 年越しから始まる新年会の思い出‥‥去年今年(こぞことし)。
 既に3月、大変お待たせしてしまい申し訳ありません。ご用命ありがとうございました。周利芽乃香でございます。
 総勢9名の大人数! お届けさせていただきます。

 キャラコミュやOMC納品等で一方的にお見かけした方もおられますが、殆ど初めましてですね。いつもでしたら職業欄を称号っぽい何か(印象とも言う?)で纏めさせていただくのですが、同年代の親戚同士との事でしたので、今回は学年にしてみました。
 どなたのおうちに集合しているのか少々迷いましたが、発注文内の台詞から八神家の自宅集合という事にさせていただきました。
 奏さんのお父様(の布団)の件や戒さんの大根蕎麦(皆様の遣り取りから生食と解釈させていただきましたが、湯通しした千切り大根をトッピングした郷土料理があるそうです)、二年詣りの形態等、こちらで解釈させていただいた部分も多くございます。もしも‥‥例えば奏パパさんの同居等、設定上の違和がございましたら遠慮なくご一報くださいませ。

 それでは、長きに渡りお待たせいたしました年末年始――これにて了、でございます。
 どなたさまもどうか良い一年でありますように。
N.Y.E新春のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年04月02日

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