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『一握の雪 side Red&Silver 』
夜来野 遥久ja6843


「それでさー、その時にさー」
 幼い頃から行動を共にすることの多かった、月居 愁也と夜来野 遥久。
 親戚で、幼馴染で、フリーダム暴れん坊とお目付け役。
 20歳を超えた今でも然して変化のない関係だが、ここ最近、愉快なことがあった。
 久遠ヶ原学園、修学旅行。
 国内はもちろん海外ありーの、太っ腹な企画で、そこで二人は別々の行き先を選んだ。
 いつまでも子供ではないし好きに選んで構わないのだから、不自然などないのだけど。
 気心の知れた友人たちと函館へ行った愁也からの思い出話はとかく尽きず、遥久の耳を楽しませる。
「で、そこでの…… あ、たぶんもうすぐかな」
 カレンダーと時計を見て、愁也が言葉を切った。
 タイミングジャスト、インターフォンが鳴る。
「おお! 蟹様の到着!!」
 函館朝市にて、今日という日に届くよう発注したタラバ蟹。
「蟹様と一緒に来たったでー」
「お邪魔します♪」
 マンションの入り口で、見慣れた二人が笑顔でモニターへ向け、手を振っていた。

 今日は、友人たちを招いてのカニ鍋パーティ&修学旅行報告会。
 バレンタインだのホワイトデーだのといった学園行事も落ち着いたところで、楽しい思い出を振り返ろうというもの。




 愁也と共に函館を満喫した石田 神楽と宇田川 千鶴が、玄関先で宅配便の蟹を受け取ってのマンション訪問。
「先生たちは、まだ来てへんのやね」
「ええ、ミスター白川はともすれば、と案じていましたが」
 招待したのは、学園教師のジュリアン・白川と、卒業生の筧 鷹政。
「たぶん、アレだと思うけど」
「早めに待ち合わせしたところで、筧さんが寝坊→叩き起こすのコンボでしょうかね」
「ああ……」
 愁也・神楽の予測に、容易にイメージが湧いて千鶴が苦笑した。
 千鶴や神楽は、ジュリアンとの面識は少ないけれど、間接的には知っている。
 鷹政と愚にもつかぬ掛け合いをしている姿は幾度か目にしている。
「ほなら、安心やね。準備にとりかかろか」
「蟹以外で必要な下準備は、家政婦が済ませていきましたので」
 野菜類が切り揃えられ、大皿に盛られたキッチンに言葉を失う千鶴へ、遥久がキラリとスマイルを返す。
「家政婦さん……。そんなんおるんか…… 凄いな」
「時間を考えれば、助かりますね。手早くいきましょうか、千鶴さん」
「ん」
 気を取り直し、手荷物から使い慣れたエプロンを取り出して、二人はキッチンへ。
「蟹、まだ動いとる!?」
「はっはっは、流石、産地直送ですね。千鶴さん、蟹を相手にバステ付与はいけません」
「いいよね、夫婦で台所」
 テーブルセッティングを始めた愁也が、しみじみと呟けば、

「せやから夫婦やないっての」
「夫婦ではありません♪」

 キッチンの二人の声が重なると同時に、蟹を捌いていた神楽が振り返ることなく蟹爪を投擲した。
 眉間に突き刺さり、愁也は絶望にくずおれる。
「命中と回避…… 実にお似合いですね」
「……はるひさ、らいとひーる」
「部位狙いは補正がかかって難しいと聞きますが、流石の腕前です、石田殿」
「はるひさ、せめて止血 タオルタオル」
「ああ、拭わないと鉄分の多い鍋になるな。動くなよ、愁也」
「(絶叫)」
「……特攻と回復、実にお似合いやと思うで?」
※衝撃映像につき、音声のみでお送りしております




 卓上コンロの上で、土鍋から良い香りの湯気が立ち上る。
 鍋以外にも、簡単な料理を用意してある。
「現地での味、再現できてるとええんやけど」
 北の大地は、素材の味で勝負するという。
 秘訣も何も、あったもんじゃなかった。
「素材を殺さない、ってことなのでしょうかね」
「深いなあ」
 調理担当の二人が仕上がりを見守る中、定刻より、少々遅れてゲスト二人が到着したようだ。
 飲み物の準備をしていた遥久が玄関へ向かった。

「ようこそ。本日はお越しいただきまして、恐悦至極」
 光り輝くオーナースマイルで出迎える。
「こちらこそ、お招きありがとう、夜来野君」
「カニ鍋が食べられると聞いてーー!」
 ネクタイは外し、ラフなジャケット姿のジュリアンと、私服と正装の区別はないんだろうなという鷹政だ。
「筧さん、寝坊したの?」
「え? してないけど、なんで?」
 ひょこ、と顔を出す愁也が、いたずらっぽく笑い掛ける。
「白川先生だけだったら、定刻より早く来るだろうなと思って!」
「……」
 ちらり。ジュリアンが鷹政へ視線を流す。
 ちらり。鷹政が、視線を横に―― 流した先には壁しかない。
「一般的なマナーとして、客は定刻より早く行かないものだよ。それより……二度目だから案内は任せろ、と張り切っていたな」
「「まさかの迷子」」
「言わないでください、恥ずかしい!」
「君を信じた自分が恥ずかしいのだ、私は」
 玄関先でのやり取りに、神楽と千鶴も顔を見合わせ、肩をすくめる。
「お鍋、できてますよ。二人とも、お腹空きましたでしょう?」
「筧さんの分も、食べてまうでー」

 上着を脱いでリビングへ、足を踏み入れたジュリアンがそのまま凍りつく。
「……。夜来野君?」
「神棚があれば隣に飾ったのですが」
 壁には文化祭で交わしたジュリアン直筆の釣書、額入り。
 同様に、ジュリアン、鷹政それぞれの『ホストクラブももばら』においての『あーん写真』、棄棄先生・ジュリアンのウインク写真も焼き増しされ、飾ってある。
「すげー、ジュリー先生パラダイス」
「忘れるな、筧君も居るぞ」
「夢に出そうだよね」
 ジュリアンが鷹政を鋭く肘で突いた。
「あー、えっと。手土産持ってきてます。ジュリー先生は香港土産だっけ」
「月並みだけどね」
 すっと取り出して見せたのは、某高級ホテルのチョコレート。
「バレンタインの後だが…… なかなか香港の土産というのも難しくてね」
「女性相手なら色々あるのにー、だそうです」
「筧君」
「留守番組だった俺からは期待するなよ。アルコール各種。近所の酒屋さんで地酒フェアやってて、修学旅行先になかった地方の銘柄を幾つか選んでみたよ」
 ジュリアンの視線を避けて、鷹政が土産をテーブルに置いた。




 雑談交じりに卓を囲み、まずは乾杯。
「そうだ、酔いの回る前に…… こちらを」
 遥久が指を鳴らし、愁也がキッチンから持ち出す―― それはホワイトデー仕様・ももばら特製ミルクプリン。
「『あーん』は御希望なら!」
「いや、しません……よ?」
 悪乗りする愁也に警戒する大人二人へ、遥久がフォロー。
「やったねジュリー!」
「何故、自分だけが蚊帳の外だと思っているのだね」
 しかし、片方の大人は悪乗り派であった。
 肩を押す鷹政へ、ジュリアンが声を震わせる。
「……ふむ」
「考え込む必要はないよ、夜来野君。気持ちだけで十分だ」
「カメラの準備はできてます」
 愁也が神妙な顔でスマホを向ける。
「沢山ありますから、どんどん食べてくださいねー♪」
 ドタバタ劇を微笑ましく見守りながら、千鶴と神楽は空いている皿へ鍋の具を取り分けていった。




「カニ鍋もホタテバターもイカ焼きも美味い!」
 冷蔵庫にストックしておいた地ビールで流し込みながら、愁也が満足に叫ぶ。
「うん、イカ焼き凄い。これ、タレは自家製なの?」
「隠し味、現地の人に聞いてん。ざっくりとした返答しかなかってんけど」
 鷹政が尋ねると、千鶴が安堵の表情を見せた。
「ざっくりしてるからな、函館の人間は」
「まるで君が函館人代表のように言うのはやめたまえ、失礼だろう」
「……。なんとなくわかる気はする」
(朝市の値切りで、どかどか削られていたな、市場の人たち)
 思い出し、愁也は微かに遠い目をした。
 朝市で御一緒したお姉様方に焼きウニたかられ、便乗した交友にも奢るはめになり、つまり今回の蟹様は愁也払いである。
 しかし、地元出身の友人による値切り交渉に助けられたのも事実。
 削られながらも、楽しそうに応対する。
 そんな街です、函館。
「楽しかったよねー、函館!」
 一気に思い出が噴き出して、愁也が二本目の缶ビールに手を伸ばす。
「朝市のうにいくらは、ほんまに美味しかった」
 得意ではなかったけれど、『北海道のうには、甘くて美味いよ』そう勧められ、海鮮丼に挑戦した千鶴。
 苦手意識の根幹だった生臭さがなく、スルリと食べることができた。
「どこも楽しかったですね。寒かったですけど」
「信楽焼が何を言うんですか……」
 寒がるものだから、千鶴によって重ね着ぐるぐるで信楽焼シルエットになっていたのは神楽だ。
 愁也が笑いながら、
「あ、石田さんたちは函館山でいちゃいちゃしてました!」
「…………」
「…………」
「…………」
 笑顔の千鶴。
 笑顔の神楽。
 笑顔を凍らせる愁也。
「えー……と。日中は、どの辺り回ってたの?」
 千鶴が苦笑いに変え、神楽が赤い光を瞳から消したのを確認し、鷹政が話題を振った。
「朝市の後に、カフェに行ったんよ」
「シックな作りでしたね。ああした場所にはまた行きたいです。暖かい時期に」
「そして牛柄タクシーはすごかった」
「牛柄?」
 愁也の言葉へ、ジュリアンが軽く眉根を寄せる。
 牛柄タクシー。函館。……繋がらない。
「観光用のタクシーなんですよ。厳選して、ピンク柄に乗りました!」
「……ピンクの、牛柄?」
「内装も外装も、インパクトありましたね……」
 観光用というだけあって、運転手の知識も相当なもので。
 神楽に千鶴が説明を重ねる程に、ジュリアンは頭痛を覚えているようだった。
「なんていうか、ごめん、ジュリー先生。そういう街なんだ、函館……」
 スタートはホルスタイン柄の白と黒。
 素っ気ないだのなんだのという声からピンクに紅白、現在では金や銀の牛柄も走っている。
 内装は至って可愛らしく女性客も楽しめるように。
 サービス満点の観光タクシー。
 どうぞ、またのお越しを。
「あ、月居さん。朝市ではどれぐらい散財しました?」
 にこにこ。神楽の一言が、良い思い出に昇華しようとしていた愁也の懐にクリティカルヒットした。




 料理といえば。
「夜来野君は、修学旅行先は英国だったかな?」
「ええ。食事は不味いと評判ですが、選べば美味い店もありましたね」
「同じ島国で共通点もありそうなものだが…… 日本人は、どこまでいっても日本人だからね」
 外国の食文化に触れる。それもまた、大きな経験となるだろう。
「……白川先生の容姿で言うと、凄く違和感が仕事しますね」
「そういう指摘が多いから、今の名で通しているのだよ」
 金の髪に白い肌、水晶のような紫の瞳をもつ白川 正義は、生徒へ一笑した。
 アウルの覚醒とは、時として罪深いものである。
「そうだ。忘れないうちに……。土産として買ってきたものがあるんです」
 後ろに置いていた紙袋を、遥久が持ち出す。
「まずは、石田殿と宇田川さんへ」
「わぁ、可愛い」
「焼き菓子と…… 紅茶ですか。素敵なセットですね」
 本場英国の紅茶と茶菓子。
 戦場では鬼神もかくやという動きを見せる二人の、その日常はとても穏やかだ。
 そんなひと時へ、もうひとつの彩りとなるように。
「おおきにね、夜来野さん。大事にさせてもらいます」
「手作りジャムを添えるのも良さそうですね」
 千鶴と神楽へ頷きを返し、遥久はジュリアンと鷹政へ向き直る。
「英国は初めてでしたが、アンティーク市で良い物を見つけましてね」
「ほう」
 遥久が認める『良い物』。興味深げにジュリアンが腕組みをした。
「これ先生のでー、こっち筧さんのだって」
 愁也が、嬉々として手渡す。

 ――ガタッ

 二人が土産の紙包みを開いた瞬間、壁の額縁が傾いた―― ような、気がした。
「……夜来野君。これは」
「幸運を呼ぶ人形、だそうですよ」
「違うものを呼び込んだよね、今、明らかに」
 鷹政の表情も引き攣る。
 とりあえず、幸運を呼ぶ人形の目は皆死んでいる。ように見える。
 手のひらより少し大きいくらいの、一目で手作りとわかる古めかしいドール。
 色々な思いが詰まっているように、思える。
「呪われてはないと思います、ちょっと顔が怖いだけで」
「……いや、うん、えぇんちゃうかな……」
(……自分への土産でなければ)
 鷹政の手元を覗きこみ、千鶴はそっと目をそらした。
「愁也へも同様のものを買いましたが……そちらは、夜中に笑ったり何か喋ったりするようですね」
「!? なんだそれ、初耳」
「お前は豪快に寝てるからな」
「まじかよ……」
 面白がっていた愁也の顔が、みるみる絶望に染まる。
「お二人には可愛い方を選んだので、障りはないかと」
「……ジュリー先生、知人に陰陽師の類、居ますか?」
「顔の広さならフリーランスの筧君だろう。伝手はないのかね」
「人形購入後、盾持ちでコケた等ありましたが、人形が厄を吸収してその程度で収まったのだと思います」
「……未来が、予測できる気がしますね」
 幸運以外の何かも呼び込む気がしてならない人形を贈られた三人が、神楽の笑顔に凍りついた。




 宴もたけなわ、思い出話は続く。
 愁也が正月に買っておいた地元の日本酒を取り出し、千鶴が鍋で雑炊を作る。
 遥久とジュリアンはワインを汲みかわしていた。
「ジュリー先生は、香港の土産話ってないの?」
 ぬる燗にしてもらい、ご機嫌の鷹政が話題を振った。
「事件が起こったりしてバタバタだったが、皆で無事に帰って来られて良かったよ」
「帰ることのできない可能性もある修学旅行ェ」
「さすが久遠ヶ原……」
「そちらも楽しそうでしたね」
「旅に事件はつきものですからね」
 簡潔な感想の中に波乱を含めるジュリアンへ、遥久が深く頷きを返した。
「また何時か、皆で行きたいねぇ」
「ええ、暖かい季節に。千鶴さんと二人でもいいですよね」
「せんせー! いちゃいちゃしようとしてる人がいまー ……すみません」
 酔いに任せて声を上げた愁也が、そのまま姿勢をただす。その隣で、遥久が鷹政に酒を注いだ。
「筧殿は、過去の旅行話などありますか? それこそ、学生時代の修学旅行とか」
「ああ、迷子ネタは省いてくれたまえ」
「ここにたどり着くまでが、筧さんにはすでに旅行やったんねぇ……」
 ジュリアンの補足に、千鶴が追い打ちを放つ。

「ここは……暖かいですね」

 ぽつり。
 何の気はなく神楽が呟く。
「寒かったもんなー、函館」
「二月でしたしね」
 遥久もまた、英国の空気を思い起こした。


 時間にして、ほんの少し前のことなのに。
 たとえば函館と久遠ヶ原であれば、同じ国内だというのに。
 雪に彩られた町並み、石畳の坂。冷たい潮風。
 そのどれもが遠く、懐かしく、愛おしく。
 雪は儚く溶け、春を告げようとも、思い出はいつまでも暖かく、記憶として残るだろう。
 そしていつかまた、皆であの街へ。




【一握の雪 side Red&Silver 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja4485/ 石田 神楽  / 男 /22歳/ インフィルトレイター】
【ja1613/ 宇田川 千鶴 / 女 /20歳/ 鬼道忍軍】
【ja6837/ 月居 愁也  / 男 /23歳/ 阿修羅】
【ja6843/ 夜来野 遥久 / 男 /27歳/ アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
旅の思い出とカニ鍋パーティー、お届けいたします。
冒頭部分、それぞれお二人ずつで分岐しています。
NPC筧、並びに白川先生のお招きありがとうございました。
白川先生は担当NPCではないのでイメージ崩していないかドキドキしつつ、筧と二人であればこういう崩れになるんじゃないかなとか。
美味しく楽しんでいただけましたら幸いです。
またどうぞ、函館へお越しくださいませー!


ラブリー&スイートノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年04月05日

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