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『やさしいおおかみ、あたたかなうさぎ 』
星杜 藤花ja0292


 春の香りが近づく季節。
 今までは、どこか寂しさを伴うものだった。

(暖かくなってきたな……)
 バイトを終えた星杜 焔は、柔らかな光の星空を見上げ、時の流れを感じる。
 ホワイトデー。
 ぼっちじゃない、ホワイトデー。
 ほこほことした思いを胸に、待つ人の居る家へ帰る幸せを抱きしめて。

「おかえりなさい、焔さん」

 今日は早かったんですね。
 あどけない笑顔で、雪成 藤花が出迎える。 
 ふわふわの髪が揺れるたび、焔はくすぐったい気持になる。
「ただいま、藤花ちゃん」
 二人で暮らし始めて、まだ三カ月。
 幸せには、まだ慣れない。大切にしたい、暖かな時間。




「すぐ、支度出来ますからね」
 お茶を淹れ、それから藤花は夕飯の準備に取り掛かる。
 自分のための料理の音。漂う香り。目を閉じて、カップのぬくもりと共に焔は味わう。
「焔さん、お疲れ気味ですか?」
「え? あ、違うんだ」
 眠いと勘違いされたらしい。
 どうやって説明しよう、言葉を探していると、藤花はくすくす笑う。
「ごはん、食べましょう」
「うん、いただきます」
 見透かされていたらしい。
 自分の方が年上なのに、相手はまだ中学生なのに。時折、彼女には包み込む懐の深さを感じることがある。
 だから、こうして一緒に居て、安心できるのだけど。
 焔の帰りに炊き上がるよう設定されたご飯に、お味噌汁と焼き魚は定番。
 サラダに、小鉢に…… 並べていくと結構な量。
「おかわり、ありますからね」
 並べ終えて、藤花も食卓に着いた。

 ――将来は、児童施設と小料理屋をふたりでやりたいね。

 そんな夢を叶える為の、ちょっとした努力を藤花は続けている。
 絵物語にしないように。
 二人に食べきれる量で、色々な料理に挑戦していて、毎日が楽しい。
 同じメニューに見えて、出汁や配合の工夫で少しずつ違いがあって。
 隠し味の当てっこも話題の一つ。
「あれ、藤花ちゃん、これって」
「わかりました? 旬の食材だって、お店で見かけたから、試してみたくて」
「美味しいね〜」

 一緒に生活を始めた頃。
 焔が張り切って料理を作っていた頃。
 藤花はどんな気持ちだったのだろう。
 さりげない表情、動きでこうしてご飯を作ってくれて、食べ終えるといつも、どこか安心しているように見える。
「美味しいよ、藤花ちゃん」
 その言葉に、嘘偽りなんてなくて。
 夢は、願いは、叶えられるのだと焔の隣で教えてくれる藤花。
 やわらかくてあまいだけの、護られるだけの存在ではなくて、二人で並んで歩いて行ける相手。だからこそ大切にしたい。そう、思う。




 食後のお茶を終えて、他愛ない雑談をして……
「あのね、藤花ちゃん」
 今さら、何をかしこまるでもなく。
 自然な流れで、焔は切り出した。
「ホワイトデーの、プレゼント。似合うといいんだけどな……」
「えっ、なんですか?」
 部屋の奥から、焔が大きなラッピングを持ち出す。藤花は目を輝かせて受け取った。
「俺もおそろいにしたかったんだけどねー」
 二つの包み、一つは焔用らしい。
(おそろい…… 着るものかな?? 焔さんなら、自分で作っちゃいそうだけど)
 ワクワクしながら、春色ピンクのリボンをしゅるりとほどく。

 藤花の髪と色合い、ロップイヤーラビット・もこもこ着ぐるみパジャマ。

「わあ、かわいい」
「俺のは、サイズがなくって狼なんだ〜」
「あは、おおかみさんも、かわいいです」
 自分用の着ぐるみパジャマを宛がう焔へ、藤花は肩を揺らした。
(焔さん、可愛いきぐるみとかが好きなのは知ってたけど……)
 ウィンドウショッピングをしていると、無意識に足を止めている様子に藤花も何度か気づている。
 けれど、まさかプレゼントで貰うなんて思ってもみなかった。
「藤花ちゃんみたいだよね。衝動買いしちゃった〜」
 たれ耳を持ちあげて、焔は目を細める。
(わあ、わあ……)
 フリース生地の柔らかさって、こんなにドキドキするものだったろうか?
 パジャマを抱きしめ、藤花の白い肌がほんのり染まる。
「せっかくだし、着てみよっか」
 藤花は焔の言葉に、こくこく頷くばかり。




 焔のベッドはキングサイズで、一人には大きいし二人でも大きい。
 うさぎとおおかみ、二匹が仲良くころころ転がる。
 童心に戻ったように、他愛ないことで笑いあう。
「焔さんのきぐるみも似あってますね」
 ころころ、転がって焔に到着する藤花。
 ぽふり、藤花はうさぎの手でおおかみの胸元を優しくノック。
 やさしいおおかみ、牙を立てないおおかみ。
 けれど、その頼もしさを、誰より藤花が知っている。ずっとずっと昔から。
 頬へ手を伸ばし、ふにっと引っ張れば、仕返しとばかりにうさ耳を引っ張られる。
「もこもこかわいいな、もふもふ〜」
「ひゃあ」
 ふたたび転がされて、藤花はベッドの端まで。
「しっぽ、好きなんですか?」
「可愛いよね」
 うさしっぽもふもふの焔に、自分が触れられているわけでもないのに藤花はくすぐったく顔を赤らめた。
「そうだ。プレゼント第二弾〜」
「えっ?」
 もふもふで忘れるところだった。
 今度はベッドの下から、焔が小さな包みを取り出す。
 いつの間に、いつから、そんな場所へ!?
 第二弾が来るとは思わなくて、藤花は思わず正座して両手を伸ばす。
「あっ、これは手作りですね?」
「藤花ちゃんの目を盗んで、この日のために、ちくちくと〜」
 小さな袋を抱いた、マルチーズのぬいぐるみ。
「マルチーズ……」
 焔にとって、ひとしおの思い入れがあることに気付き、藤花はふわりと微笑を浮かべて抱きしめた。焔の思いごと、包み込むように。
 カサリ、マルチーズの抱く袋の物音に驚き、藤花は体から離す。
「開けてごらん?」
 言葉のままに細いリボンを解けば、デフォルメされた動物顔のサブレーが潜んでいた。
「ホワイトデーのお返しと言えばクッキーだからね〜」
 犬・ネコ・うさぎ・クマー、どれもこれも愛らしい。
「焔さん。わたしからも、プレゼントがあるんですよ」
 バイトの帰りを待つ間に焼いたクッキーを、藤花も取り出す。
 犬の足型クッキー、肉球はいちごチョコレート。
「こんなに貰っちゃっていいのかなあ?」
「それは、わたしの台詞ですよ?」
 どちらからともなく、笑いがこぼれる。
 愛しい気持が募って、伝えても伝えても足りなくて。

「じゃあ、第三弾。これで今日は最後〜」
 着ぐるみのポケットから、おおかみさんはプレゼントを取り出した。

「将来を約束した後になっちゃったけど……」
 『いつもの』とは違う、はにかんだ表情で、焔は藤花へ――指輪を贈った。
「ずっと、一緒にいようね」
「……はい」

 淡い初恋。
 果たされた再会。
 もう一度、恋に落ちて、それが実るまで――お互いに多くの障害を越えてきた。
 まだまだ、その途中とも言える。
 ふたりだから、越えていけることもあるだろう。




 指輪に託された思い。
 体を包む、着ぐるみの柔らかさ。
 こちらを見上げるマルチーズの瞳。
 そのどれもが焔で、そのどれもが藤花を強く、優しい気持ちにさせる。
「大事に……したいですけど、学園につけていくの、ちょっと恥ずかしいかも……?」
 高等部と中等部で教室は違うとはいっても。だけど、離さず持っていたい。
「んー……、鎖に通して、ネックレスにしようか〜」
「それなら、依頼の時でも一緒ですね」
 よかった。
 焔の提案に、藤花は胸をなでおろす。
 今度の休日は、ふたりで指輪に似合うチェーンを選びに行こうか?


 交わされる口付け、コツンと額を合わせて。
「おやすみなさい、藤花ちゃん」
「おやすみなさい、焔さん」
 いつものように、いつもよりほんのちょっと照れ臭い、そんな夜。
 眠りに就くうさぎとおおかみを、マルチーズがそっと見守っていた。 




【やさしいおおかみ、あたたかなうさぎ 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5378 / 星杜 焔  / 男 / 17歳 / ディバインナイト】
【ja0292 / 雪成 藤花 / 女 / 15歳 / アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
ホワイトデーに着ぐるみ、ふわふわもこもこ、ほのぼのな夜を。
普段のお二人の優しさ、暖かさを表現できていたらいいなと思います。


ラブリー&スイートノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年04月09日

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