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『言葉・ことば・コトバ 〜前編〜 』
綾鷹・郁8646)&瀬名・雫(NPCA003)



「ちょっと、もー!日本語で話してってば!」
両方の手で拳を握り下へ突き出しつつ、顔は空の方を向いて叫ぶ女性。
彼女の名前は綾鷹郁。
久遠の都、政府の環境保護局員で、TCとしては一流なのだが……
「多々益々弁ず」
そう言ったのは、この場所の原住民。
ここは出桶島。
通称、海女の島と呼ばれ、独特の意思の疎通方法を持っていた。
…で、ここはその上空。
今回、郁は先方の求めにより、交易の為にこの場所へ来たが、出迎えたのは桶型の円盤。
けれど、円盤の形よりも問題は言葉だった。
敵意こそ無い様子だが、理解出来ない言葉を延々と連ねられ、郁は既に爆発寸前。
そして、その状態の郁と単独で交渉に臨む桶型円盤の女艦長。

「君子危うきに近寄らず」
円盤艦橋で言葉を交わす(全く交わせていないが)郁と艦長を見て、郁が爆発寸前状態なのを感じ取っているのか、何かが危険と判断しているのか、部下が口を挟んだ。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず!」
艦長のその言葉で、横から口出しした部下がピタリと黙る。
「え、なに?」
とりあえず、郁には言葉の意味も黙った理由も、理解出来ていないようだ。

「………」
このままでは、意思の疎通が全く出来ないと判断したのだろうか。
黙ったまま女艦長が、郁の腕を掴んで、グイと引っ張った。
「痛ッ!ちょっと、何すんのよ!」
突然腕を掴まれ引っ張られ、慌てて抵抗しようとする郁。
しかし、思ったよりも艦長の力は強く、ズルズルと引っ張られる。
「蟷螂の斧」
もはや艦長、郁の言葉を聞いていない。
まごうことなき強行拉致状態である。

艦長は郁を引っ張って島の荒野に降りた。
そして艦長以外の住民は、島を結界で封印し、円盤から高見の見物中。
郁の腕を引っ張る艦長の力が強かったということもあるが、郁の方も若干諦めモードに入っていた。
「一蓮托生」
そう言って、艦長は微笑みつつ郁の方へと剣を投げた。
「え、ちょっ…! ハァ?!」
パシッという音を立てて、郁は反射的にそれを受け取ったが、その直後に自分の手の中にあるものが剣だと認識して驚く。
「なによこれ! 決闘は嫌よ! っていうか、あたしは決闘しに来たんじゃないわよ!」
困惑の表情で、声を荒げて郁が言う。
言葉の通り、この場所へは決闘に来たわけではなく、交易に来たのだから。
「……ハァ。」
郁のその言葉を聞いて、艦長は俯き、悲しそうに溜息を零した。
艦長といい、部下達といい、この島の者達の意思の疎通方法は、あまりにも独特で……
溜息の『ハァ』という音が、久しぶりに聞こえた『知った言葉』に聞こえてしまうくらいに、郁には理解不能だったのだろう。
けれど、艦長のその溜息が郁の気持ちを落ち着けたようで、両手で剣を握ったまま、ピリピリしていた郁の緊張の糸が少しだけ緩んだ。
「同じ釜の飯」
さらに艦長が何かを投げた。
「えっ?」
先程と同じように受け取った郁だが、投げられたものを見て驚く。
郁が空腹だったのを知ってか知らずか、それは弁当だった。
パカッと蓋をあけて、弁当をジッと見たまま暫く固まる郁。
「釜飯…美味って意味?」
艦長の方へと視線を戻しながら、郁が復唱した。
すると艦長は目を細めて、どこか嬉しそうに郁の頭を撫でた。
高見の見物状態だった部下達からも、ホッとしたような表情が見えた。


***


「呉越同舟!」
いつの間に眠ってしまったのだろう。
わずかではあるが意思の疎通に成功して、安心して眠っていた郁を艦長が起こした。
「油断大敵」
「何? …キャッ!」
突然、透明な何かが郁の頬を掠った。
「夏の虫」
敵を陽動する艦長。
「千載一遇!」
「夏の虫? え、殺って?」
いまいち意味を掴めないままだが、艦長の反応で何かを感じ取った郁は、とにかく剣を揮った。
すると、敵はアッサリと逃げていったようだ。


***


事象艇内。
「出桶人は任意の名詞と概念を紐づけている様ね」
握った拳をこめかみにあてて、そう言ったのは瀬名雫。
検索の腕を買われた雫が現代から招聘された。
「関連付けの解明には出桶語の辞書が要るわ」
そう言ってフゥ、と息を吐きながら、TCのネットを駆使して出桶語を解析している。
出桶語とは、先程まで郁が苦戦していた言葉のことだった。
原住民達は慣用句の羅列で意志疎通しているが、この時、ダウナーレイスには慣用句の概念がまだ無かった。


***


事象艇のシャトルベイ。
シャトルで島へ強硬着陸すべくクルーが準備中。
万一なら交戦も辞さない状態で。
「あいつら…何の儀式か知らんが島を強襲して郁を助けよう!」
その言葉を合図に、クルーは降下を試みようと一歩を踏み出した。
…が、その直後、ドォンという爆音と共に事象艇が大きく揺れる。

桶型の円盤がシャトルの片翼を狙撃した。
「くっ……」
その衝撃に、クルー全員が目を細め、歯を食いしばった。
「片側の翼を攻撃されました!」
クルーが、現在の状況を伝える。
「首の皮一枚ってこと?」
まだ衝撃に揺れているようにクラクラする頭を片手で押さえ……
「これは警告?連中、郁に何する気?百合ごっこ?」



「──もう戦争よ!」





〜続く〜






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ご依頼ありがとうございました。
最後の部分に「誰が」という表記がありませんでしたので
雫さんかな?と思いつつも、後編へ繋ぎやすい様に、敢えて名前を出しませんでした。
前後編ということで、続きを楽しみにしています。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
三上良 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年04月17日

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