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『Cooking Rhapsody〜Strawberry Boy 』
アダムjb2614

 始まりは、台所でクリフ・ロジャーズ(jb2560)とシエロ=ヴェルガ(jb2679)が話しているのが、偶然聞こえてきた事だった。ちょうどお昼時、そろそろご飯の時間か? などとぽやぽやしながら考えていた、そんな時である。
 最初に聞こえてきたのは、シエロの呆れ果てたような声。

「私、クリフよりもこっちに来たの遅いの分かってる?」
「んー‥‥でも、しーちゃんの方が料理上手いし」

 教えてくれないかな〜、と頼む声はクリフのものだ。どうやら、今日のお昼ご飯を作るに当たって、クリフとシエロが一緒に料理をする、という相談をしているらしい。
 そこまでを何となく理解すると、アダム(jb2614)はばーんと台所に飛び込み、向かい合って話している2人の間に割って入った。

「なんだ? シエロとクリフは料理するのか?」
「アダム」
「うん。しーちゃんに教えてもらうんだ」
「ちょっと、まだ教えるとは言ってないわよ」

 クリフの言葉に、シエロが少し嫌そうな顔になって訂正を入れる。だがそんなシエロの言葉を、クリフとアダムは揃って無視した。というか、まったく聞いていなかった。
 2人で一緒に料理、という情報だけが、アダムの中にインプットされる。2人で一緒。シエロとクリフで。――あれ、アダムは?
 これはいけない、とアダムは思った。だから、傍から見ればあたかも尻尾をぶんぶん振っている子犬のような、そんな風情に見えることを本人だけは気付かぬまま、はいはい、と2人に訴える。

「お、おれもやりたいわけじゃないけどやってもいい!」
「ん? アダムも料理をしてみたいんだ。なら、一緒に教わろう」
「え……アダムも、一緒に?」

 どこからどう見ても全身で「構って構って!」と訴えている割に、口調だけは必死にそっけなさを装おうとするアダムに、クリフがにっこり頷いた。逆にシエロは、ますます面倒な事になった、とでも言わんばかりの表情になる。
 そんな2人を、一生懸命『興味なんかないんだからな!』アピールをしながら期待の眼差しで見上げたアダムに、シエロはしばらく何か考え込んでいる風情だった。ちらりとクリフを見て、またアダムを見る。
 そうして、はぁ、と大きな大きなため息を吐くと、シエロは腕を組んでアダムとクリフに言った。

「――パスタなら簡単だから……食材買い出しついでに2日分位の食糧の買い出して来てくれる? 私、まだ洗濯物、干すの残ってるから」
「うん、わかった。アダムと一緒に買い出しに行ってくればいいんだね」
「クリフと? べつに、いっしょに行ってやっても良いぞ!」
「はいはい」

 よろしくね、とよしよし頭を撫でられて、別に嬉しくないんだからな! と吼える。そりゃ、クリフが撫でたいのなら、撫でられてやっても良いけれども。そんで、ちょっと気持ち良かったりするけれども。
 シエロが食費用の財布を出してきて、2人に渡してくれた。それをクリフがポケットに捻じ込んで、一緒に並んでガレージを出る。
 そんな2人を見送った、シエロがぽつり、ため息と共に呟いた。

「何か……物凄く心配なんだけど……」

 ――だがその言葉は、幸いにして(?)2人に届く事は、ない。





 アダムとクリフが向かったのは、近くにあるショッピングマーケットだった。様々な品が山のように並んでいる通路を、ショッピングカートを押しながらぐるぐる巡って商品を放り込んでいく、かなり大きなものである。
 見上げるほどに大きな陳列棚には、ぎっしりと商品が並べられていて、見ているだけでもかなり楽しい。その上、要らないものまで欲しくなってしまうという、まさに魔の空間でもある。
 そんな中をクリフとアダムは、カートを押しながらパスタの材料を求め、うろうろと歩き回っていた。何しろまず、パスタコーナーからして様々な種類のパスタがあって、そもそも何が違うのか、一体どれを買い求めれば良いのか、迷ってしまう。
 見た目も量も名前も違う、様々なパスタを前にして、だから2人はうーん、と首を傾げた。

「よくわからないね。しーちゃんも何も言ってなかったし……アダム、どれが良いと思う?」
「ん? そうだな。べつにおれがほしいわけじゃないけど、あのいちごのかたちのやつでもいいぞ!」
「あれ? うん、そうだね。あれも買ってみようか。ああいう珍しいのも欲しいよね」

 びしぃッ、と指をさしたアダムにこっくり頷いて、クリフが苺の形をした、赤い色のパスタをひょいとカートに放り込む。それから適当にパッケージを見て、一番目に付いた派手なパスタも、ついでに一緒に放り込んだ。
 さて、これでパスタは完了だ。となると次は、パスタの具を揃えなければならない。
 ガラガラとカートを押して、2人は乾物売り場から生鮮食品コーナーへと移動した。ここもまた、日頃お馴染みの食材から、一体どこの国のものなのか、どうやって食べるのかも解らない食材まで、所狭しと並んでいる。
 そんな中、アダムは大好きな、愛して止まない食材を発見し、ぱたぱたと真っ直ぐ走り寄った。つやつやと赤い色の、宝石の様に輝き、うっとりするような甘い匂いを辺りに振りまいている――そう、大粒の真っ赤な苺。
 ふおぉぉぉッ、と一気にテンションが上がった。きらきら輝く眼差しで、一心に真っ赤な苺を見つめているアダムの横に、ガラガラとカートを押してきたクリフが並ぶ。
 ちら、とアダムはそんなクリフを見た。――そう、お財布はクリフが持っている。すなわち、この苺を買ってもらえるかは、クリフ次第。
 だから、ちらっ、ちらっ、とクリフに視線を送りながら、アダムは慎重にこう言った。

「……そういえばクリフ知ってるか? いちごっておいしいんだぞ?」
「ん、アダムはイチゴが食べたいの? じゃ、それも買っちゃおうか」
「お、おれが食べたいわけじゃないぞ! でもいちごはおいしいから、クリフが食べたいとおもっただけなんだからな! 買うならいちばんおおきなのが良いぞ!」
「はいはい、一番大きなのね。とすると、あの、ダンボールに一杯入ってる奴かなぁ」

 必死に訴えるアダムに適当に頷きながら、クリフは苺売り場をぐるりと見回すと、ダンボールに美味しそうな苺のパックが幾つも入った、一番大きな苺をひょいとカートに放り込む。よし、と胸の中でガッツポーズをしたのは秘密だ――もちろん、うっかり手なんて動いてない。
 2人はそのまま、果物売り場であれやこれやと物色し、ドリアンやパイナップル、アボカド、スターフルーツといった果物を買い漁った。名前が面白いといえばカートに放り込み、見た目が変わってるといえばカートに放り込む、と言った具合だ。
 それは鮮魚コーナーや、精肉コーナーに行っても変わらない。見た目のグロテスクなアンコウにマグロの頭、大きな貝殻が面白いタイラギに顔が凶暴なハモ、鶏や豚、牛の臓物類も一通りがカートに収まった。昨今のショッピングマーケットは、一応の旬は反映されているものの、案外季節を問わずなんでも売っていたりする。
 これだけ景気良くカートに放り込んでいくと、多くの者がそうであるのと同様に、アダムとクリフも段々楽しくなってきた。あちらこちらと、気が向くままに買い物を重ねて、気付けば期間限定物産展なんて所にまで辿り着く。
 ここでも何か、美味しそうだったり、面白そうだったりする物がないかとウロウロしていたクリフが、おー、と声を上げたのにアダムは振り返った。見れば何やら、怪しげな物ばかりが置いてあるブースだ。

「こんがり焼けてるイモリがある。買いだね買い」
「イモリ……? そ、それは……たべれるものなのか……?」
「うん、もちろん。美味しいよ、食べてみる?」

 ほら、と鼻先につき出された真っ黒焦げのイモリを、ぷるぷる首を振って遠慮する。なんだろう、物凄く嫌な予感がした――っていうか、イモリってまず何。
 このブースには他にも、コウモリの羽やらアシナガバチの蜜やら蜘蛛の足やら、果ては小動物(何の動物かは怖くて見れなかった)の骨とか言うものまで売っていた。それをいちいち品定めする、クリフの心が何だか遠いのは、アダムの気のせいだろうか?
 その頃になると、カートはすっかり一杯になっていた。さて、と2人で向かった先に、レジなる物があるのを発見し、アダムはちょっと嬉しくなる。
 あれはアダムにも判る。判るぞ。

「知ってるか、クリフ。このまーけっとというものにはれじという関門があって、そこをとおらないと何人たりともかえれないんだぞ……!」
「あーうん、そうだねー。はいはい、良く知ってるねー」

 知ってる事が嬉しくて、偉そうに自信満々で言ったアダムに、クリフはぽふぽふと頭を撫でてくれた。わふ、と顔が緩みかけたのを、慌ててアダムは建て直す。
 別に、頭を撫でられたからって嬉しくないし。撫でさせてやってるだけだし。いつも優しくして頭なでなでするからクリフに懐いてるわけじゃないし。
 だから必死に『別に何でもないんだからな!』という表情を作りながら――と思っているのは本人だけで、実の所やっぱりわふー、となって居たのだが――アダムは、クリフの後からレジへと着いて行って、無事に精算という関門をクリアした。そうしてパンパンになった買い物袋を両手に下げて、2人でショッピングマーケットを後にしたのだった。





「ちょ……ッ!? これは一体なんなのよッ!?」

 大荷物を抱えて帰宅した、アダムとクリフを待っていたのは、シエロの絶叫だった。びくーん、と肩を跳ね上げて、アダムはその場で立ち竦む。
 別に、シエロが怒った姿にビビッて居るわけではない。そう、ただ単にアダムは、いきなり大きな声を出されたから、だからちょっとビクッとしてしまっただけなのだ。
 だからささっとクリフの後ろに隠れ、あまりシエロと目を合わせないようにしながら――目を合わせるのが怖いんじゃない、それでまた大きな声を出されたらびっくりするだけで、それだってびっくりしてるだけで怖くなんかないし――おずおずと覗き込む。だが幸いにして、シエロの視線はテーブルの上にどんどんどんと置かれた、幾つもの買い物袋に注がれていた。
 はち切れそうなほど沢山の物が詰まった、ビニール袋。アダムとクリフの、ショッピングマーケットでの戦果。
 まず、シエロの怒りはその買い物量に向けられた。

「どうしてこんなに買ってくるの!」
「え? だって、ほら、しーちゃんが2日分くらい、って言ったし……」
「どう見ても多すぎるでしょッ!?」

 ぜー、はー。
 大声で叫んだシエロは、そこでいったん深呼吸をして、ビニール袋の中から覗いている食材へと眼差しを向ける。アダムとクリフがあれやこれやと買ってきた、色んな食材。
 
「しかも、何これ。普通の食材に混じって変なの入ってない!? これ……焼いてるイモリ!?」
「いや、ほら……人間界にもこういうの、売ってるんだな、って思って、ね……?」
「だからって買ってくる!? しかも、高い苺まで……!」

 びく、とまたアダムは肩を跳ね上げて、おそるおそるシエロを見た。とても、とても怒っているシエロは、とても怖くて――なんだか、このまま絞め殺されそうな気が、する。
 その、苺を買ってもらったのはアダムだ。それが解っているのだろう、シエロの怒れる眼差しもまっすぐアダムへと注がれていて、それだけで寿命が100年は縮んだんじゃないだろうかと思えるくらい、怖い。
 うるっ、と涙が滲んできて、アダムは必死で、半泣きになりながら謝った。むしろ、命乞いした。

「ででで……でも、いちごっておいしいんだ……ほんとなんだ……!」
「そーゆー問題じゃないでしょ? ったく……クリフ、ちょっと」

 アダムの必死の訴えに、シエロは大きな、大きなため息を吐く。それから打って変わって微笑を浮かべると、クリフを手招きした――が、その手に持っているのは……
 ひいぃ、と恐怖に顔を引き攣らせたアダムの前で、クリフはどこか覚悟を決めた顔で、ずるずるとガレージの隅っこに引っ張られていった。そうして、シエロが黒い微笑みで振り上げたのは、使い込まれたハリセン。
 ――スパーン! バシーン!

「く、くりふー!」

 小気味よい音を立てて殴打されるクリフと、揺るぎない黒い微笑みを浮かべたシエロを、アダムはぷるぷる震えながら見守った。――苺は美味しいのに、と思いながら。





 ようやくシエロのお料理教室(?)が始まったのは、それからしばらくしてからの事だった。というのもアダム達が買ってきた食材は、どうやらものすごくシエロの逆鱗に触れるものが多かったらしく、その度にハリセンが閃いたからだ。
 アダム達が出かけている間に用意してくれていたらしく、すでに必要な調理器具は揃っていた。後は材料が揃っているか、なのだが。

「幸いアサリがあるから、ボンゴレが作れるわね」
「ボンゴレ……? あ、ああ、あれか。あの天使的な料理だよ、な!」
「はいはい。しーちゃんに怒られないように、お料理頑張ろうね。あと、火傷したり指切ったりしないように、気をつけようね」

 シエロの口から出てきた、聞いた事のない単語を、この状況だからきっと恐らく料理の名前なのだろうと、必死に知ったかぶりで虚勢を張ったアダムの頭を、クリフがよしよし撫でてくれる。気持ちいい――じゃなくて、なんか馬鹿にされてる気がするけど、気持ちいい。
 わふー、とクリフのなでなでを堪能して、アダムは言われるままにエプロンをシエロに付けてもらい、包丁の握り方を教えてもらう。くどいようだが、別に知らなかった訳じゃなくて、シエロが怒ったらいけないから言われる通りにしただけなのだ、うん。
 そうして始まったお料理教室は、なかなかに賑やかだった。

「いい? まずはパスタを茹でるお湯を沸かして、その間にボンゴレの具材を炒めるのよ」
「ふうん。この中に入れれば良いの?」
「……って、クリフ! パスタは沸騰してから! あと、その前に塩!」
「しお? これを入れればいいのか?」
「待ってアダム! それは砂糖! 塩はこっち!」
「しーちゃん、しーちゃん。鷹の爪、こんな感じで良い?」
「刻み方は良いけど多い! どれだけ辛くするつもりなの!!」
「シエロ。さとうの方があまくておいしいんじゃないか?」
「ボンゴレは甘くしないのよ!」

 ぜー、はー。
 実際に料理をしているのはアダムとクリフなのだが、なぜかシエロが叫びっぱなしである。とはいえ、シエロが怒るのはいつもの事で、その度にアダムは「で、でも、いちごもあまいほうがおいしいんだ。ほんとうなんだ……!」と訴えていたのだが。
 それにしても、と出来上がりつつあるお昼ご飯を見て、アダムは考える。せっかく美味しい苺がたくさんあるのに、どこにも出てこないのはなんだか、寂しい。せっかく買ってもらった苺味パスタも却下されてしまったし。
 うーん? と首を捻って、ぽむ、とアダムは手を叩いた。

「よし、仕上げに苺をいれるか!」
「アダム? 苺とマシュマロは食後のデザートにね?」

 どーんッ! と山盛りの苺をフライパンに投下しようとしたアダムの手を、にっこりと優しげな、だが逆らうことを許さない笑顔でシエロが押さえる。なぜだろう、そんなに力が入って居るようには思えないのに、ぴくりとも動かせない。
 かくかくと震えながらアダムは頷き、素早く苺から手を離した。いい子ね、とにっこり笑顔が返ってきたが、やっぱり怖い。怖い。
 とはいえ目の前にマシュマロと苺が並んで出てくると、途端にそんな事もすっかり頭から抜けて、アダムは目をキラキラさせた。だが微笑ましい眼差しを感じて、すぐに顔をぎゅっと引き締めると、シエロとクリフに宣言する。

「べ、べつにえづけされてるわけじゃないんだからな!」
「はいはい、アダムは本当に苺が好きなんだね」
「アダムの分はちゃんと、私達より多くするからね」
「ちがーうッ! でもいっぱい食べてやっても良い!」

 うがーッ、と吼えたアダムに、注がれる視線はやっぱり暖かかった。だが苺とマシュマロが増えるのは嬉しい。苺とマシュマロに罪はないのだ。
 よしよしと両側から撫でられながらそんな事を考えていた、アダムは耳に入ってきた言葉にぴしり、凍りついた。

「それにしても。買い出し頼む時は、メモを渡すわ、これから。――それから2人とも。買った物は全部、料理で出すから……食べてね?」
「シ、シエロ……?」
「し、しーちゃん……ほら、アダムが怖がってるよ……?」
「問答無用!」
「「………ッ!!!!!」」

 きっぱりと下された非情な宣告に、アダムとクリフは手を取り合って固まり、蒼白になった顔を見合わせる。そんなガレージの中には、ボンゴレの良い匂いが立ち込めていた。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /   PC名    / 性別 / 年齢 /   職業   】
 jb2560  / クリフ・ロジャーズ / 男  / 24  / ナイトウォーカー
 jb2614  /    アダム    / 男  / 15  / ルインズブレイド
 jb2679  / シエロ=ヴェルガ / 女  / 20  /   陰陽師

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そしてお届けが遅くなり、真に申し訳ございません……orz

息子さんの、楽しい『ご家族』との和やかなひとときの物語、如何でしたでしょうか。
何でしょう、書いている間ずっと、脳内でわんこ化された息子さんがわふわふ仰っておられまして、結果としてこんな事になってしまい、何だか本当に申し訳ございません(土下座
前回とはまた違った方向性になりましたが、お待たせしてしまった分も、多少なりとお気に召していただければ幸いです。

息子さんのイメージ通りの、優しく楽しくツンデレな(ぇ)ノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、失礼致します(深々と
ラブリー&スイートノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年04月19日

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