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『商魂無双 』
藤田・あやこ7061)&鍵屋・智子(NPCA031)


 地球にはすでに人類がいない、はずであった。だが。
『毎度ありがとうございます。武器・兵器類のご用命は是非とも我が商会へ。火縄銃から核弾頭まで、豊富に取り揃えてございます』
「こちらは久遠の都・環境局、事象艇『山吹』である。貴殿は何者であるか、所属を明らかにされたし」
 突然、入電して来た何者かの声に、藤田あやこは誰何の言葉を返した。
 それを無視して、相手の通信者は一方的に喋り続ける。知的生命体がいないはずの地上から、宇宙航行中の事象艇『山吹』号に向かってだ。
『現在おすすめの商品といたしましては、ステルス性能抜群の忍者船、再生・進化機能を搭載いたしました狩人機械、敵を欺く高性能偽装設備一式。これら全品3割引、3割引にてご奉仕させていただいております。いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。愛する人を守るため、武器・兵器類のご用命は是非とも我が商会へ……』
「この時代の地球は……」
 大型事象艇『山吹』艦橋で、艦長・藤田あやこは首を傾げた。
「確か『椿』号が、調査に来ていたはずだな? 移民先として、ふさわしいか否か」
 時間移民。
 増え過ぎた人口を、様々な時代に配分する。久遠の都政府の、基本政策の1つである。
 人類滅亡後の地球など、入植にはうってつけと言えるのだが無論、前もっての調査は必要となる。
 武器商人たちの暗躍による、全世界規模の戦争があったらしい。凍戦。歴史上、そう呼ばれている。
 結果、その武器商人たちも含めて地球人類は滅亡した。はずなのだが。
「販促用AIが、まだ生き残っているようね。武器商人たちの、商魂の名残……とでも言うべきかしら」
 参謀の鍵屋智子が、艦長席の傍らで言った。
「もしかすると……彼らの商品も、生き残っているかも知れないわね」
「問題は、椿号が生き残っているかどうかだ」
 艦長席で、あやこは少しの間、考え込んだ。
 それほど考える事もなく、やるべき事は見えた。
「……私が、地上に下りて調べてみる。鍵屋参謀、この艦を頼む」


 事象艇・椿の艦長は、あやこと同期の軍人であった。そこそこ親しい間柄ではある。
「やあ、どうしたんだ藤田艦長。こんな所まで来て」
「どうしたんだ、はこちらの台詞だ。一体何をやっている」
 詰め寄るような口調で、あやこは言った。
 比較的、都市の原形をとどめた廃墟である。
 椿の艦長も乗員たちも、ここに艦を停泊させ、のんびりと過ごしていた。
「調査はどうした。この地球、移民は可能なのか? 武器商人たちの遺産のようなものが若干、生き残っているようだが」
「堅苦しい話はよせよ、せっかく久しぶりに会ったのに……どうだ? 最近。今は何をやっているんだ?」
「……事象艇『茜』号で、各時代の哨戒任務に当たっているところだ」
 あやこは、とっさに嘘をついた。
 椿の艦長の様子が、何かおかしい。任務の内容を、正直に話してはならない。そんな気がしたのだ。
「単なる哨戒にしては、随分と物々しい艦隊を引き連れているじゃないか」
 椿の艦長が、ちらりと空を見上げる。
 無論、肉眼で見えるはずはない。山吹を旗艦とする戦闘艦隊を、宇宙空間に待機させてあるのだ。
「同僚を相手に隠し事はないだろう……一体、何をしに来たんだ? 藤田艦長」
 あやこは答えず、己の黒髪から、そっと髪飾りを抜き取った。
 翼を広げた女神、を象った銀のティアラ。
 それを片手に、あやこは周囲を見回した。
 椿の艦長と、その配下の兵士たちが、じりじりと包囲を輪を狭めて来る。
 否、艦長でも兵士たちでもない。
 あやこの左目が、紫色に輝いた。
「……スパイのつもりか!」
 叫びに応じて、銀のティアラが光を発した。その光が細長く伸び、棒……と言うより、剣の形を成す。
 聖剣・天のイシュタル。それが、あやこの怒りの気合いを宿して一閃した。
 襲いかかって来た兵士たちが、その斬撃に薙ぎ払われ、真っ二つの残骸に変わった。
 人型の、機械の残骸だった。
 それらを蹴散らして、あやこは踏み込み、天のイシュタルを思いきり振り下ろした。
 椿の艦長が叩き斬られ、機械油や金属部品を大量にぶちまけながら吹っ飛んで行く。
 そして地面に激突し、だが即座に起き上がって来る。
 真っ二つの残骸に変わったはずの機械たちが、あやこの周囲で、よろよろと立ち上がりつつあった。叩き斬られた身体が、バチバチと溶接されてゆく。
 敵を欺く偽装設備。再生・進化機能を搭載した狩人機械。
 武器商人の販促用AIが確か先程、そんな事を言っていた。
 再生を終えた狩人機械たちが、ドリルを回転させ、カギ爪状のカッターを蠢かせ、ハンマーを振りかざし、一斉に襲いかかって来る。
「ああもう、厄介なもん遺してくれて!」
 それら攻撃を必死にかわしつつ、あやこは素の口調に戻っていた。
「滅びる前に、在庫処分くらい済ませとけってのよ!」
 すでに滅びた武器商人たちに怒声を浴びせながら、天のイシュタルを一閃させる。
 その斬撃が、弾き返された。剣が、目に見えない壁にでも激突したかのように。
 狩人機械たちの周囲に、バリアーが生じていた。
「ああそう、進化機能ってのも伊達じゃないわけね……それなら!」
 あやこは、天のイシュタルを高々と掲げた。
 黒髪の下。尖った両耳を飾る左右一対のピアスが、光に変わり、耳朶から分離した。
 そして、掲げられた剣の柄へと吸い込まれて行く。
 暁の獅子。聖剣・天のイシュタルに力を与える、補助魔法具。
 その力を吸収した刃が、輝きを増した。そして掲げられた状態から、一気に振り下ろされる。
 振り下ろされた聖剣から、光が迸る。
 その光が2頭の獅子となり、バリアーを片っ端から噛み砕いた。
 防御を失った狩人機械たちに向かって、あやこは猛然と踏み込んで行った。
 豊かな黒髪が、高速でたなびく。それと共に、天のイシュタルが激しく一閃する。
 狩人機械が4機、いや5機、真っ二つの残骸に変わりながら、あやこに蹴散らされて吹っ飛んだ。
 吹っ飛んだ残骸が、しかし自動溶接されながら、即座に起き上がって来る。
「……なるほど、ね。なかなかの品揃えなのは、認めてあげるわ」
 天のイシュタルを構え直しながら、あやこは亡き武器商人たちを少し誉めてやった。
「けどね、お客さんを滅亡させちゃってるようじゃあ本末転倒……商人失格よ!」


 山吹は、戦艦が居住区を牽引しているタイプの大型事象艇である。機動力に富んでいる、とはお世辞にも言えない。
 ステルス性能を有する高機動艦にとっては、格好の標的であった。
「第6、第11、第23番艦撃沈! こちらは敵を全く捕捉出来ておりません!」
 艦橋オペレーターが、悲鳴を上げている。
 藤田あやこから預かった艦長席に、愛らしい尻を沈めたまま、鍵屋智子は思案した。
 敵は1隻、こちらは艦隊だが、まるで1匹の鮫がイワシの大群を食い荒らすような戦いが続いている。
 販促用AIが宣伝していた、忍者船であろう。藤田艦長の不在を狙ったかの如く、襲いかかって来たのだ。
「私なら与し易い……というわけね」
 智子は不敵に微笑み、命令を下した。
「居住区を切り離した後、大気圏突入。私の計算が正しければ、あと10分で敵のとどめが来るはずよ」
 居住区は現在、無人である。椿号による調査が上手くいっていれば、移民を満載していたところだ。
 その椿号も、この忍者船によって撃沈されてしまったのだろう。
 振動が、艦橋を襲った。
 居住区を切り離した山吹が、大気圏突入を開始したのだ。
 智子の計算通り、ほぼ10分後。揺れる山吹号を狙って、忍者船が一斉射を仕掛けてきた。
 ミサイルが、レーザーが、粒子ビームが、山吹の船体をかすめた。大気圏突入時の揺れをも計算に入れた、最小限の回避である。
 その回避と同時に、山吹は一斉射撃を返していた。
 ステルスを機能させる前に、忍者船は砕け散って爆発光に変わった。


 あやこの細身が、セーラー服をはためかせ、黒髪を舞わせて躍動する。
 その舞いに合わせて、天のイシュタルが縦横無尽に閃いた。
 狩人機械の群れが、バリアーもろとも叩き斬られ、滑らかな断面を晒しながら動きを止めてゆく。
 再生進化は、どうやら3段階が限度であるようだ。
 3段階目に達した狩人機械の群れが、仲間の残骸を蹴散らし、あらゆる方向から襲いかかって来る。
「ああもう、不良在庫抱え過ぎ!」
 怒声に合わせ、あやこの全身からセーラー服がちぎれ飛んだ。
 刺激的なビキニ姿を、しかし見て喜んでくれるわけでもない機械たちに晒しながら、あやこは跳躍・飛翔していた。逃げるため、ではない。上空から戦場を見渡し、敵の中枢を見つけ出すためだ。
 すぐに、見つかった。
 巨大な機械の塊が、地響きのような足音を発し、遠くから迫って来ている。AIの音声を、垂れ流しながらだ。
『武器・兵器類のご用命は、是非とも我が商会へ……』
「やめなさい! もう売る相手なんていないのよ!?」
 あやこの叫びも、機械には届かなかった。
『火縄銃から核弾頭まで、豊富に取り揃えてございます。現在おすすめの商品といたしましては……』
「わかった、買うわ!」
 あやこは叫んだ。
 商売をしている相手を止めるには、この言葉しかない。
「全部、買ったげるわよ! だからもう大人しくなさい!」
 巨大機械も狩人機械も、一斉に動きを止めた。
 ふらふらと着地しながら、あやこは溜め息をついた。
「不毛な戦いだったわ……商売って、行き着く先は、こんなんなのよね」
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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2013年05月17日

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