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『今の私に出来ること.1 』
藤田・あやこ7061)&(登場しない)

 緊迫した雰囲気の立ち込める中立地帯。そこに一隻の貨物船があった。
 この貨物船は追手と相打ちで爆沈寸前であり、エルフの脱走者たちが強奪したものだ。
 そこら中に何人もの負傷者が倒れている。
「何故、貨物船に妖精王国の将兵が……。まさか貴様、乗員か?」
 愕然としている男性の前には、同じように驚いている藤田あやこが立っていた。
 全身血にまみれた瀕死の部下を抱きかかえた隊長の顔が苦々しいものに変わる。
「これは一体誰の所業?」
 騒然としている状況を説明せよと言うあやこの質問に、隊長はぐっと唇を噛む。
「だ、第三国の攻撃だ……。我々は奴らの攻撃を勇猛に退けた……。」
「…………」
 あやこは彼の言葉に目を細めた。
 その発言に信憑性を感じられない。現に周りを見回してみても他国の武器を使用した痕跡がまるでないからだ。
「その話、俄かには信じがたいわね」
 そう呟いたあやこに、隊長は冷や汗を流しながらもフンと鼻で笑う。
「しかし……人間の貨物船に将兵とは……。貴様、下等な人間に飼い慣らされでもしたのか?」
「何……?」
「貴様に歌姫の闘志など微塵もないのか!?」
 隊長はあやこをやけに威嚇してくる。威嚇されればされるだけ、あやこの心はますます冷めて行くのがわかった。
 彼は一体何をうろたえているのだろう。
 何かを急いているように思えてならない。
 あやこはそんな彼を威嚇の眼差しではなく、どこか寂しげに見詰めた。
「……何故私を怒らせようとするの?」
 呟くように語るその言葉に、隊長はその眼光をますます鋭く光らせる。
「人間の親切よ……。私は、誕生直後に龍族に村を焼かれて孤児になっていた。普通ならばそのまま死に絶えていてもおかしくはない私を見つけたのが、人間。そして人間が里親となって私を育ててくれたのよ」
「フン……」
 悔しげに視線を逸らした隊長に、あやこは深い溜息を零した。
「ひとまず立浪に移動しましょう。この船は時期に沈むわ」
「立浪……」
 その名前に、隊長の目が怪しげに揺れたことにあやこは気付かなかった。


                *****


 慣熟訓練中の新型戦艦・立浪。この船に士官候補のあやこと以下訓練生が乗船している。
 貨物船に乗っていた者達のほとんどは助からず、唯一隊長が抱きかかえていた部下だけを連れて移動してきた。が、処置を施す間もなく、部下は息を引き取った。
「そんな……。まさか、お前まで……!」
 息絶えて動かなくなった部下をその胸に掻き抱き、隊長は大粒の涙を流しながらむせび泣く。
「共に目指すものがあったのに……。俺だけが残ったって、どうすることもできないじゃないか!」
 壮絶に嘆く隊長の姿を、あやこは少し離れたところで見守っていた。
 目的があった。共に成し遂げる夢があった……。
 大声で嘆く隊長のその姿を見ていると、激しく胸を打つものがある。
「戦こそ、気高きエルフの誉だ!」
「……歌姫に栄光あれ」
「!」
 叫ぶ隊長に、あやこは同調した。
 驚いたようにこちらをを振り返った隊長に、あやこは歩み寄る。
「……目指すものがあったのね」
「……判ってくれるな?」
 あやこが深く頷くと、隊長はこれまでのことを暴露し始めた。
「安寧を保った妖精王国を逃れ新天地を目指すべく駆逐艦で脱走したが、駄目だった……。だから、あの貨物船を奪ったんだ」
「……」
 黙って話を聞いていたあやこに、隊長は身を乗り出す。
「この立浪を奪って新天地を捜そう」
「何ですって……?」
 あやこが驚いたように声を上げるのと同時に、呼び出しがかかった。
「藤田。妖精王国の艦長が面会を求めてきた」
「……分かったわ」
「艦橋だ」
 あやこは隊長をその場に残し、急いで艦橋に向かう。するとそこには立浪の艦長と妖精王国の艦長がすでに面会をしている姿がある。
「脱走兵を引き渡してもらいたい」
「分かりました」
 そう要請してきた妖精王国の艦長に、立浪の艦長は迷う事無く合意した。
 それに反応したのはあやこだった。
「渡せば死罪よ」
「僚艦一隻と罪無き民間船を沈めた罪は重い。処刑必須だ」
「そんな……。ならばせめて、闘技場で名誉ある死を!」
「ならん!」
 一歩も譲らない妖精王国艦長とあやこ。
 自分は一体どうするべきなのか……。どうしたら良いのか……。
 両国の狭間で、あやこの心は揺れていた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
りむそん クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年05月17日

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