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『●ビバ☆ティーバッグ 』
古河 甚五郎(ga6412)

 ダージリン鉄道に揺られる事、数時間。更にゴトゴトとお迎えのトラックに揺られて数時間──
 到着したのは、インド北部ダージリン。ダルダ財団が経営する紅茶農園である。
「長旅でしっかり尻が痛くなりました。自分、紅茶といえばティーバッグ、パンツはTバックばかりです」と言うのは、古河 甚五郎(ga6412)である。
「Tバックだと食い込んで大変そうですね」と突っ込むのは、薬を飲んだのに気持ちが悪いパナ・パストゥージャ(gz0072)。
「青い顔で無理やり突っ込みを入れてくれなくていいです。今日は世界に誇る紅茶農園完全復活! 4年に及ぶ努力と涙の復興のアニバーサリーです。グルメ番組とのコラボですから頑張ってロケハンしましょう!」
「正確に言えば、挿し木が根付いて収穫が出来るのが4年掛かるという…でも折角のセカンドラッシュ。頑張ろう…」
 気持ち悪くても「因みにラッシュ(補正無しフィルム)じゃないよ」と甚五郎に突っ込まれる前に自ら突っ込みを忘れないパナに、
「自分だってちゃんと『夏摘み』だって知っていますよ」と言う甚五郎だった。
 ──が、
「まあ…この仕事が来るまでオレンジペコが、ミカン味だって思っていましたからね。知って吃驚です」
 茶葉に等級なんて代物があるのは、紅茶好きな人でなければ知らないだろう。

「紅茶道楽の友人がいましたから、後で突っ込まれないよう紅茶の勉強しましたよ」
「紅茶道楽? 誰です?」
「古河さんもご存じのサルヴァさんとアジドさんですよ」
「元中尉さんと不良中年ですか……珈琲だけじゃなく紅茶道楽もあったんですね、あの人」
「何でも彼女に紅茶を淹れてもらうのが主義だとか言っていた覚えがありますよ」
「しかし、インド情勢もさることながら最近Maha・Kara(MK)との共同作戦もご無沙汰で」
「でしょうね。MKの内情に詳しくないですが、今残っている人達は殆ど対テロだって話ですからね」
 先日ダルダ財団主催のパーティで代ダルダの護衛をやっているのを見かけたと言うパナ。
「大ダルダはお元気ですか?」
「以前より余りメディアに出られなくなりましたが、相変わらずお元気そうでしたよ」
 甚五郎もULTの傭兵を辞めた訳ではないが、緊急招集も殆どなく芸能界の裏方業務に復帰しているのが現状だ。
「傭兵は、暇なのが一番です。出るかどうか判らないバグアの為に警備費を捻出しなくて助かります」
「はは…」
 思わず乾いた笑いが出てしまう甚五郎。
(迂闊でした! よく考えたらロケハンに必要なのは、カメラ撮影とタイムキーパー!)
 同じダルダ財団系列とは言えパナがスタッフにいる理由が判った気がした。
「自分が呼ばれたのって、そういう事ですか?」
「古河さんは、優秀な大道具さんですよ」
「…そういう事にしておきます。この後のお弁当が楽しみだなぁ〜」



「大量生産の為、茶摘み機械を導入する農園も少なくなくなりましたが、この農園は茶木を傷めないよう手摘みをしています」
 農園の技術指導者が説明し乍ら、3本の指で茶葉を摘んで見せる。
「慣れないで無理やり摘むと枝の成長点を傷めたりする事もありますし、切れた茶葉が混じると発酵ムラが出て雑味が出ます」
「見た目より難しいんですね。綺麗に摘むのは、なかなか大変ですね」
「じゃあ、とりあえず籠一杯摘んで見ましょうか」
「籠? 2、3枚じゃなく?」
「はい。2、3枚摘むのは誰でも出来ますが、オーナーからTV関係の方なので、ちゃんとした体験していただいた方がより正確な紅茶作りをお伝えしていただけるだろうと仰せつかっていますので」
 大きな籠が甚五郎とパナの手に渡される。

「一芯二葉…」と呪文のように繰り返し唱えながら茶葉を摘む甚五郎。
 簡単に見える作業だが、摘んだ茶葉は重く日に当たれば茶葉の鮮度が落ちる。スピードが必要な重労働である。
 最初のうちは順調に摘んでいたが、疲れが溜まって作業が雑になる。
『もっと早く摘まないと葉が傷みます』、『途中で茶葉は切れないように』等と後ろから声が掛かる。
「判ってます…」
 甚五郎は決して不器用な方ではないが、疲労と真後ろからのプレッシャーに簡単な作業が上手くいかない。
「判ってますが………ってパナさん、何メモしてるんですか?!」
「ここでタレントさんの『1人は上手く出来て褒められ、他は失敗する』ってやると絵面が面白いかなぁと」
「…仕事熱心ですね」
「一応、本業ですから」
 パナの言葉に嵌められた気がする甚五郎であった。



(ご飯が入らないのは、久しぶりな気がします……)
 慣れない作業でグッタリしている甚五郎の前に、農園の人から茶葉を分けて貰ったと2つのカップが置かれる。
「同じ手順で淹れました。片方は夏摘み。片方は春摘みです。飲み比べてみましょう」
「こっちは紅茶の色は薄くてちょっと緑茶を思わせますが、こっちは如何にも紅茶って色ですね。香りも色の濃い方が強いですかね?」
「色が薄い方が、春摘みですよ」
「そうするとこっちが、夏摘みですね」
「そうですね。ダージリンティーのクオリティシーズンは夏摘みと言われています」
 口に含んだ後、鼻へ抜けるマスカットに似た甘い芳醇な香りと口に残る独特の甘み。
 ダージリンが『紅茶のシャンパン』と呼ばれる由来となったマスカット(マスカテル)フレーバーである。
「噂のマスカットフレバー! さすが財団傘下、高品質ですね」
 そう言って感心する甚五郎。

「マスカットフレーバーは、夏摘み茶葉の中でもほんの一握りの茶園でしか作られない高級品なんですよ」
「そうなんですか?」
 この風味を作り出すには秘密があって、ウンカとティリップスが必要なのだ、とパナ。
「ウンカって夏になると出てくる。あの、虫のウンカですか?」
「そうですよ。ティリップスもウンカと似た緑の虫です。他の虫がつくと病気になるんですが──」
 ウンカとティリップスから攻撃を受けた茶葉が、自己治癒の為に分泌する物資が芳醇なフレーバーを生み出す。
 その為、マスカットフレーバーを提供する農園は、ウンカ飼育場を設けている所も少なくない。
「ウンカなんて勝手にそこら中に湧いて出てきそうですがねぇ」
「それにウンカも飼育場近くの木についてくれるとは限りませんし、水温とか色々な雨量とか影響を受けるらしいです」
 余り知られていないが、ダージリンティー全体の生産量も、戦争以前でも全インド産紅茶の生産量の内2%しかなく、殆どがブレンド品なのだと付け加えるパナ。
「私もダージリンのストレートティなんて特別な客が来た時しか振舞いませんよ」
 気軽にチャイで楽しめるアッサムとかが多いと言うパナ。
「確かに自分も日本茶は、玉露とかはめったに飲みませんねぇ。煎茶とか番茶とか……」
 しみじみと庶民な二人である。


「やっぱり自分には、紅茶は手軽に楽しめるティーバッグが向いています」
 ──そう結論付ける甚五郎であった。








 了



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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―― Catch the sky 〜地球SOS〜 ――

【ga6412】古河 甚五郎/男性/外見年齢27歳/ガムテマスター
【gz0072】パナ・パストゥージャ/男性/外見年齢38歳/一般人
■イベントシチュエーションノベル■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2013年05月20日

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