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『 宝珠の願い 』
綾鷹・郁8646)&鍵屋・智子(NPCA031)


「ダウナーレイス開拓団。
私たちは会計監査院より依頼を受けまして、調査礼状を持ってきました。
本日これより開拓現場の査察をさせて頂きますわ」
 調査礼状をこの現場の責任者である開拓団長の鼻先に突きつける鍵屋・智子。
 有能と噂されていた青年団長は、その礼状が会計監査院から出されたことと、
 自分よりも年下である智子の不遜な態度に一瞬怯んだ様子を見せたが、どういった意図があってそんなものを持ってきたのかと訊く。
「予定より作業状況が大幅に遅滞していますわよね。それに、頂いた調査書類……報告漏れがある気がしたのですわ」
「室内で実験に没頭している科学者さんには、汗水垂らして情報を集めた現場の報告が、信用できないってことかな?」
 刺々しく団長が智子に言い放つが、この狂科学者はそんなことでは動じなかった。
「ま、そういう事にしておこうかしらね。やっぱり自分の目で見ることも必要なのよ」
 時間が惜しいわ、行きましょう――と、智子はダウナーレイス環境局員の綾鷹・郁の腕を引いて歩きだす。
 少々遠足気分で周囲を見渡していた郁は、突然腕を取られたことに驚いていたようだが――智子が小声で『やっぱり怪しいわ』と呟いたのを聞き逃さない。
 怪訝そうに顔を智子のほうへと向け、彼女の言いたいことをくみ取ろうとする。
「ねぇ……綾鷹さん? あの団長を、どう思う?」
「ん〜? 好みとは違うけど、けっこうええ男よね〜」
 緩んだ表情の郁へ、智子は呆れたような表情を浮かべていたが、咳払いを一つした後。
「それより。奴は怯えていたわ。絶対に何かを……隠蔽していることがきっとある」
 どんな? と郁が聞き返すと、それはまだ調べてからじゃないと分からないわよと答える智子。

 だが、その時。

『助けてくれー!!』
 左前方で、大きな衝撃音と……作業員だろうか? 男性の悲鳴が聞こえた。


 郁たちがその現場に駆けつけると、作業員たちは悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすような勢いで散り散りに逃げ、その後を掘削機が追う。
 長いアームを左右に大きく振り回し、唸るようなエンジンの音を響かせている状況だった。
「また掘削機が急に制御できなくなっちまったんだよ! 怪我人も出ていて……」
 現場の男性作業員が郁たちへと駆け寄り、凶器となった掘削機を指し、止めてくれと頼みこんできた。
 すると、話を聞いていたわけではないだろうが、掘削機は方向転換して郁たちのほうへと向かってくる。
 巨大なアームを振り上げ、郁達を薙ぎ払おうとするが、とっさに砂上へとうつ伏せになって回避。郁らの頭上を突風と共にすり抜けていくアーム。
 だが、掘削機も諦めていない。方向転換して向かってくる。
「うち、争いは好かんけんね……!」
 郁は眉を吊り上げて掘削機を睨むと、息をヒュッと吸い――
「――おすわり!」
 人差し指を地面へと突きつけ、厳しい声音で言い放つ。

 するとどうだろう。機械であるはずの掘削機は、なぜかアームを地面へとくっつけ、エンジンを停止して沈黙した。

『おおーー!!』
 突如おこる拍手喝采に、少しばかり得意な気持ちになりながらも郁は周りに手を振っていたが、と苛立ち交じりの智子がいつまでやってるのよ、砂を叩きながら近づいてきた。
「……作業員の話では『こういうこと』はよく起こるのだそうよ……工事の遅れに響いているのは確かだと思うけど、こうなる原因は何かしら?」
 言いながら智子は団長を睨み、彼は気付かない素振りで視線を逸らすが、バレバレである。
 ちよっと怖かったと胸をなで下ろしながら、掘削機の様子を伺う郁。己の長い経験からして、もうこれは放置しても……大丈夫なようだ。 
「この先に掘削途中になっとる井戸があるけん。行こう?」
 智子に声をかけ、井戸へと向かって歩いている郁だが……ふと、その近くの砂場でキラリと光る何かを発見。
「あれは何かしら……?」
 智子も怪訝そうな顔で郁を盾にしながら近寄り、じっと肩越しに注視してみると……煌めく砂粒があった。
「綺麗だけど、こんなのは報告書にも土壌成分表にもないし気になるわね。事象船へ持ち帰って、調査しましょう」
 智子はガラス瓶に砂粒を入れ、コルクで蓋をすると郁と共に戻っていく。

 誰一人として気が付かなかったようだが……井戸付近は僅かに、発光していた。


■事象船内

 何かの意思表示のように、強弱をつけて明滅する砂粒。
「……結界で遮断したけど、よく調査する必要があるわね」
 自分に言い聞かせるようにした智子は、次に疑惑の眼差しを団長へと向け、さぁ、と低い声で告げた。
「知ってること、洗いざらい吐きなさい。それにもう少し調べればすぐにわかるわよ」
 何をだ、とたじろぐ団長に詰め寄る智子。
 憤りに口を開きかけたその時、郁が驚愕の声を発した。
「船の電力……低下しとるよ! この子が……食べてる!?」
 ばっと振り返ると、砂粒へと細い雷光が放たれており、智子が張った結界が無力化されている!
「この子は生命体なんよ! 何か、興奮してる……!?」
 生命体。衝撃的な言葉ではあったが、智子はやはりという顔をした。
「貴方、一体何!? さっきの……掘削機を動かしたのもそうなの!?」
 砂粒は電力を貪り、今や数センチ程度の宝珠になっていた。
『そうだ。おまえたちは我々に脅威を運ぶ。水脈は我々の住処だ。近寄るな』
 声というより、音に近い響きを持つ宝珠の言葉。
『立ち去れ。我々は警告した。忠告に従わなければ、戦うことも辞さぬ』
 彼らの点滅は、警告を与えるために行っているようだ。
 団長の舌打ちは智子の耳に届き、彼女は鬼の形相で振り返る。
「やっぱり、この宝珠の存在を黙っていたわけね。知的生命体の不在を『徹底確認後』砂漠を灌漑し耕作する……その初期段階で既に不備があるわ!」
「調査はきちんと行っていた! だが、私もこんな……生命体がいたとは知らなかった!」
 二人は口論を始め、自分の意見を無視されたと思ったのか、宝珠から電撃が迸る。
 その間も宝珠は成長していき、事象船の電力は吸われ続ける。
 電撃を食らえばただでは済まないし、この事象船の稼働すら危うい。
 すかさず照明を切った智子。フッと灯りの消えた薄暗い室内に、宝珠だけが淡く輝いていた。

――おうちにかえりたい……。
 自分たちは静かに暮らしたいだけ。

 宝珠の声はか細く、郁には彼(彼女かもしれない)が悲しみ、泣いているかのようにすら思えて心がきゅっと切なくなる。
「ごめんね。悪気はなかったんよ。あなたたちみたいな生命体がいるとは知らんかったとよ……」
 智子は宝珠を掌に乗せて微笑む郁を見つめ、冷ややかに後方の団長へと言い放つ。
「ねぇ、団長さん? 貴方の他は知らなかったとして……再調査もせず、機関にも黙っていた……これは立派な違反よ。博士号の剥奪は確実ね」
 そして、この先住民である宝珠とはもう少し対話をし、共存の道も視野に入れなければなるまい。
 さっそくいい報告書が書けそうだわと、ずれてしまった眼鏡を直しながら智子はそう呟いた。

-END-


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8646/ 綾鷹・郁 (あやたか・かおる)/ 女性 / 16 / ティークリッパー(TC・航空事象艇乗員)】

【NPCA031/ 鍵屋・智子 (かぎや・さとこ)/ 女性 / 14 / 天才狂科学者】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤城とーま クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年05月21日

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