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『戦火の夜、黎明の祈り 』
御堂・玲獅ja0388

 闇夜の中で、真紅が瞬く。
 鮮やかなにして強烈なそれは夜を焼いて色彩を塗り替える程。
 此処は戦場。これは生き乗る為の戦い。だから燃え盛る他に何もない。
 それは炎。或いは血と戦意。衝突して弾ける火花は、まるで散り往く赤花のように夜を飾る。
 慄く事も、止まる事も出来ない。ただ胸に秘めた熱を、命を、鼓動を零さない為に剣は閃いて槍は突き出される。爆炎と共に翼の如く、戦場の奥では焔が広がっていた。
 天と人との戦い。ああ、否応もない。護りたいのだ。譲れないのだ。此処で止まる訳にはいかない。
 ただ、ふと思う。疑問など持つ余裕などないと知っていても、心を揺らす感情がある。
 それを失ってはいけないと、御堂・玲獅(ja0388)は切に思う。
 僅かな逡巡が過って、瞼を伏せて視界を閉ざす。それは一瞬の隙に他ならず、白き戦装束を纏う身へと銀色の剣が繰り出された。
 狙われたのは首。貫いて抉り、一撃で殺す。冴え冴えし闇を切り裂く殺技のそれは、余りにも悲しい――。
 煌めく銀の切っ先は閃光だ。命を断つ刃。次に繋げる事も、未来を照らす事もない。
 いや、明日の意味さえ、剣を奮う存在、サーバントは知らないのだろう。

「何故と、そう思う事さえあります」

 救済を願う。何処までも真っ直ぐに明日へと進みたい。
 雄々しく、美々しく。猛る剣は確かに憧憬の的だろう。英雄とはそういうもの。
 でも、こんな闇の中、心まで戦の狂乱に落ちて、失いたくないと思うのだ。玲獅は英雄より、誰かの手を握り、導きたいと願わずにはいられない。


「だから、その剣は認めません」


 全ては一瞬。心を揺らした不安も躊躇いも振り払い、玲獅はその心を顕わにする。
 戦意を失いはしない。
 求めるものを亡くしたりはしない。
 歩むべき道は、この足が知らせてくれる。
 その剣が進むべき道を断つというのなら、砕くまで。瞼が開き、玲獅の紫の瞳が敵手を見据えた。
 そして祝福の輝きを纏う盾が、真正面から銀剣を迎え撃つ。
 神秘的な白光が強固な防壁となり、衝突した切っ先から亀裂の走る銀剣。そのままピシリと音を立て、壊れて行く。
 認めぬ剣を阻み、砕く苛烈なる護りの楯。全ては、玲獅の信じる黎明の為に。
 この戦の夜も明けない筈はない。
 朝日を浴びるべき同胞を守る為に盾を掲げ、そして剣を壊されて怯んだサーバントへと刃を抜き放つ。
 鎧を着込み、盾を持つ銀の騎士。が、その身に詰まっているのは何だろう。
 誰か、悲しい少女の復讐に突き動かされた、憐れな人形?
――ああ、私が相手すべきはアナタではないから。
「破壊しても、踏みにじっても。隣に立つ友を失うなど認めませんから」
 そして純白の装束を翻し、盾を納めて双剣を手に握る。鞘走りは、澄んだ音を立てた。
 赤と黒。復讐者の名を持つ対の刀身。踊るように踏み込み、鋭利なる剣閃が空を滑る。邪魔だ。譲れない。祈るような真摯さを込めた刃が鎧の間へと斬を送り込み、血飛沫が舞う。
「――血で汚れる事も、戦う事も、奪う事も。恐れはしません」
 そして玲獅自身が傷つく事も。それは言葉にせず、白銀の髪が動きに合わせて靡いた。
「この世界をどうして恐れる必要があるのでしょう。輝きたいと願う私を包んでくれる、その道のある世界を、どうして恐れる必要があるのですか?」
 優しいとは言わない。苛烈な世界だろう。
 だが、決して屈さない。この身に纏うアウルの光輝と等しく、光に照らされた地平を目指す。
 笑わせなんてしない。何処までも純粋に真っ直ぐに、追い求めるのだ。
 戦場は既に混乱としている。背にある人々の街への侵攻は止め、指揮を執る使徒の少女への攻撃も始まっている。が、陣形は共に乱れて混戦へと突入している。
 消耗は避けられない。天秤の如く士気は揺れる。ならばと、息を吸いこみ、その喉から声を叫ぶ。


「故郷を失う子を、親を失った幼子を作ってはなりません。笑顔の失った明日など認めない為に――私達は、幸せを求めるのだと、命の営みを守りましょう!」


 守りたい。それは皆が思う筈。
 それを揺さぶる、余りにも透明な声。胸の中、折れかけていた戦意が再び燃え上がる。
 故にそれを支えるのが玲獅の決意。その声に応じるように周囲に傷を癒す風が巻き起こり、片膝を付き掛けていた撃退士がふらつきながらも立ち上がる。
 玲獅が背に庇った撃退士も、トドメの一撃を庇ったが為に戦線へと復帰しようとする。
 誰しもが傷ついている。それでも求めて足掻き続ける。
 傷は癒え、鼓舞の声に消耗さえ忘れて剣を取る撃退士。
 奪わせたくない。その為に戦う。守る為に殺す。矛盾だと知っている。此処で手に入れた全てを以て、更に次の戦場へと進む。
 終わりは何処にと聞かれたら、きっと応えられない。
「ですが、終りなどない世界こそが……輝かしいのです」
 果てなど見えないし、聞こえない。
 可能性に終わりなど認めないと、白き娘はまるで戦乙女の如く戦場で歌うのだ。
 純白の風を旋風と巻き上げ、その燐光にて同胞を癒す。声を上げ続け、剣戟の音に負けぬ心を支える。
 戦場の中心で玲獅はその祈りと力を、武として護として振るい続ける。気づけば彼女を中心にして組まれた円陣が、徐々にサーバントの群れを倒し、突き進んでいく。
 押している。その確信がよりその闘志を燃やす。サーバントの振う爪牙や剣、弓矢を受けても癒し手であり護り手がある以上、倒れはしないと動きを止めない。
 前線で斬り込むのは、別の撃退士だ。けれど、中核を成すのは確かに玲獅。
 確かな支えのある事が、こんなにも心強い事とはと、誰かが呟いたから。
「……心の支えは、常に貴方の胸の中に。貴方のいた学園の日常は、暖かいものだったでしょう?」
 微笑んで返す。
 癒しと守護を重なる玲獅とて楽ではない。他人を励ます分、己の消耗はより一層増していく。
 自分が倒れたらどうなる。自分の力が足りなければ、誰かが死ぬかもしれない。
 そんな精神的な圧迫は、呼吸をも止めそうだった。それでも、唇を動かす。
 全ては、失わない為に。
「私の声が聞こえなくなっても,貴方の大切な人の声は心の中にある筈です」
 玲獅も瞼を閉じれば、家族となった猫の事を思い出す。命賭けの戦場で、その愛らしさに微笑むなど不謹慎かもしれない。
 けれど、こういう大切なものの為に戦うのだ。それを忘れたら、ねぇ、きっと。
「心を失わないで。思い出して。帰りたい場所を」
 戦い続けるサーバントやディアボロ、天魔と同じになってしまう。
 この夜闇の戦を潜り抜け、朝日を帯びて笑い合う為に。
「行きたい場所を、夢を!」
 知らず、玲獅の声にも熱を帯びる。
 誰かへの救済。誰かへ救いの手を。今、出来ている。そして、何度でも繰り返したい。
「笑っていて欲しい誰か、大切な人の顏を思い出して下さい。大切な隣人のいる私達は、人間は、天魔の光にも闇にも屈しません!」
 氷が爆ぜるような凛冽さ。清冽さ。清き祈りは朝焼けの如く。
 心が踊る。鼓動が爆ぜる。大切なものを思い出して、隣にいる仲間を想う。
 上限知らずに跳ね上がる士気と戦意。負けたくないという意志が、敗北などありえないという確信へと変わる。
――だって、誰にだって大切なナニカがあるから。
 夢が、愛が、友情が、絆が。
「見えない、触れない、聞こえない。だからと振り切って捨てた天魔に、私達は引いたりしません!」
 それはまるで宣言するように。此処からが本当の戦場、真実の戦い。
 

「燃やせるなら燃やしてみなさい、その焔で――貴女の捨てたものは、とても尊いのだと、その鮮烈な赤光に負けないのだと、私達が示します!」


 ついに見えた紅蓮の焔刀振う使徒の少女。
 僅かな憐みと悲しさを振り切るように、玲獅は言葉にした。
 シュトラッサーやヴァニタスは死者ではない。心を持っている。それが悲鳴を上げるように、焔を巻き上げるように見えたから、悲しくて、切なくて。でも、退けないと何度も言っている。
 復讐に生きた使徒の少女。貴女は悲しくなる位、瞳が曇っている。
 失ったものへの愛で、他の光が見えなくなる程に。


「そう……なら、全力で」


 戦いの後、既に何人もの撃退士が倒れている戦場で、使徒の少女は呟いた。
 肩は震えている。身体は赤い液体で濡れている。嗚咽を漏らすように、けれど、何処までも燃え盛る意志を乗せて、瞳を向けた。
「私とて退けない。愛していた彼の仇を取る為なら、私自身が灰燼と化しても構わない!」
 それは全てを失った少女の哀惜の絶叫。故に、今までかつてない程の焔華が花開く。
 膨大な熱量。莫大な炎波。戦場を覆い付くかのような巨大に焔の炸裂は、それこそ使徒の少女さえも焼き尽してしまいそうで。
「過去ばかりを見て、明日を見ない貴女を見て」
「失った事のない癖に」
「自分さえ、消してしまいそうな貴女は」
「私より大切なものがあったというだけ、それを貴女は―― !」
「――明日へと、繋ぐ何かを持たない貴女は、悲しすぎるから!」
 故に止める。純白の盾を持ち、躍り出る。玲獅の加護の防壁は過去最大、絞り出す力の圧力に意識が飛びそうになる。でも、悲しすぎる少女を受け止めてあげないと、いけなない気がするのだ。
 死ぬ気などない。だが、この戦場でこの広がる焔翼を止めないと、次の戦場で何を止められる。此処で逃げる事を覚えて、次の戦場で繰り返す?
 玲獅は、そんなの嫌だから。
 純白の装束は既に血で汚れきっているけれど、心の輝きは決して変わらない。変わる筈がない。
 彼女と同様、幾重にも盾が重ねられる。救うべく、一助となるべく護りのアウルを、加護を纏わせていく後衛。迎え撃つには頼りない、けれど密集し重ねられた光は、それこそ夜明けを示す光明のようだった。
 


 そして、破滅の焔翼が吹き荒れる。
 その威は天界の使徒の名に相応しい。全身全霊を尽すそれは、天災の威さえ迫る。
 爆裂は夜を赤く染め、遠くまで轟く轟音。熱量は常識を気化させている。そんなものは知らぬと、猛る赤炎の津波。

 

 大輪の華は容易く消えない。その規模に比例して燃焼し続けており、辺りは火の海だ。
 業火に蹂躙され、全てが灰となっていく。防御した。盾を重ねた。護りの力を集約した。
 だから何だ?
 人は非力と断ずる、天火の燎原。何も残す気などない。
「……終りね」
 何を言おうと、聞く耳を持たない。サーバントごと焼き尽くした以上、侵攻は不可能。それでも放った一撃。
 まるで、自分が泣き叫んでいたかのようだと、使徒の少女は自嘲した。もう戦う力が残っておらず、刀身に纏う炎もか弱く儚い。言葉の通り、全力だった。これを用いれば、悪魔とてタダでは済まないだろう。


 故に――それは予想外の出来事だった。


 全身から煙を吹き出し、火に焼かれながら業火の海を突き破る姿があった。
 纏うものに白はもうない。美しかった白銀の髪も煤で焼かれ、鎧の上に纏った装束は燃え上がるどころか炭化している。赤い色を灯すのは、燃える肌と肉そのもの。
 でも、何故か美しいのだ。
 禍々しい双剣を手にし、躍り出るその姿に目を奪われた。煌めくような、灰色。灰被りの姫君。
 そう、あのお伽噺の姫君は、どんな目に逢ってもその瞳を曇らせなかった。その心の輝きを失わせなかった。
 明日の愛おしさを、続く日常に絶望などしなかったから。


「言いました、私は。……貴女は悲しすぎると」


 玲獅の紫の瞳は何処までも澄んでいる。
 意志が心が、魂が何処までも輝いているのだ。身は限界を超えている筈なのに、それでも走る。
「明日へ進みたいと私は欲します。ええ、強欲と取られるでしょう。失った事がない癖にと哂うでしょう……」
 だが、譲れない。誇りが矜持が心情が、果てぬユメへ玲獅の身体を突き動かす。
 手にした双剣の柄の感触は、実はない。肌は火傷の痛みでひきつるばかり。でも、紫の双眸は、使徒の少女を見抜いている。
 貫かれた。貫いた。愕然とするしかない、玲獅のその姿と言葉。
 余りにも綺麗で、輝かしくて、羨ましくて。手にしている刀を持ち上げる事も、出来ない。
 足は動くだろうか。
「それでも歩きたいのです。先に、先に、明日へ。まだ見ぬ誰かの為に」
 動かない。玲獅の言葉、眼差しに射抜かれて、ぴくりとも。
――それだけの強さ、輝きがあれば――もしかしして?
 そんな後悔すら、憶えてしまったから。
「障害となるものは破壊します。貴女に挑みます。何処までも真摯に、真剣に、純粋に、真っ直ぐに」
 歩きたい。進みたい。願い、祈るから。


「悲しすぎる貴女が、人を殺める悲しさを重ねる前に、終らせます」


 見るに堪えない程の、負傷だらけの身体がどうしてそんなに輝くのか、使徒の少女には解らない。
 地平の向こうに浮かんだ黎明の一筋のせいだろうか。それを背にしているからだろうか。
 火の粉が散る。鮮血を誘うように。
 そして振るわれる烈刃。二の太刀は左から黒い残光を残して少女の腹部を、右からは胸を袈裟に切り捨てるように赤い筋を見せた。
 音はない。最早不要。ただ、堪えられた涙の如く、傷口から血飛沫が飛び散る。
 疾走の勢いも限界。いや、最早、動く事も出来ない。返り血を浴びて、玲獅は止まる。膝が震え、首さえ動かせない。
 だからこそ、ぼそりと堕ちた言葉に、背筋が震える。
「――終わらない」
 奮われたのは残り火を灯す刀。己の負傷を、この使徒の少女は意に介さず、鋭利な刃を走らせる。
 双剣を畳み、守護の防壁を重ねて受ける玲獅。だが、膝に籠る力は頼りなく、衝撃に負けてゆらりと態勢を崩す。
 そして続く刃の閃光。剣閃は朱色。袈裟に、横薙ぎに、払って突き刺す連剣。冴え冴えとした技は、火の粉を跡に残して空奔る。止まらない。一太刀ごとに加速して、より鋭く。
 そして、その速さに合わせて玲獅の刻んだ傷口から、血が溢れる。これも、止まらない。
「私が終わったら、もう彼を、誰も憶えていない。彼が消えてしまう。だから……!」
「……ああ」
 これがこの使徒の少女の信仰。血をとめどなく流しているのにも、泣いているのにも気付かず、命を擦り減らして振い続ける刀。悲しき、赤さ。
 だからこそ、双剣で捌き、受けながらも玲獅はその言葉を伸ばす。

「だったら、ですね。……貴女の、愛した人の事を教えて下さい」
 
「……っ…!?」
 救済こそが玲獅の祈り。願い。
 だったら、この悲しき少女の祈りと嘆きも、聞きたいのだ。
 敵だ。だから?
 避けて通れぬ障害物。そうでしょうね。
 壊すと終わらせると言った。二言はない。
 それとは別に、助けたいと思ったのだ。
 苛烈なる一閃に、ついに弾き飛ばされる玲獅。だが、同時に使徒の少女も膝を付いた。
 これ以上の交戦は物理的に不可能。いや、使徒が玲獅にトドメを刺すだけなら出来るだろう。ただし、その後に確実に死ぬ。だからこそ。
「その思いを、明日に続ける為に……次の戦場でお聞きましょう。その戦場は夜闇に包まれずに、そう」 
 玲獅はふわりと笑った。
「朝日の輝きの中で、心消えず、生きる為に」
 暴挙であり暴徒と言われても、救いたい気持ちに偽りなどない。
 真実、それを求めて玲獅は此処にいる。今日は剣と血を交わした相手でも、明日は分かり合えるのでは?
 故に問いたい。問うた。自分達、人類と天魔の混じったこの世界――もっとも輝く為にはどうすれば良い?
 分かり合えず、血で汚れるばかりの未来は欲しくないから。
 そして手を取り、解り合い、笑い合う中に、玲獅も居たい。優しい温もりのその中に居たい。
 故に言葉を続ける。戦いが何時か終わり、ただ、ただ、幸せな夢を求め、叶っていく世界へと繋げる為に。
「剣で斬り結んだ昨日の変わり、明日は、未来は、私達の未来は輝いて欲しい。言葉で良い。言葉が良い。……炎のような血潮のような熱より、人肌の温もりを欲したい」
 白く染まる、戦場。呻き声ばかりの悲惨さ。
 一人、使徒を殺してもこんな戦乱の世界の流れは変わらない。それよりも壊すべきものを見つけたから。
「今は共に下がり、失わないように。そして……出来れば語らいましょう。何を以て、未来は、今日は、明日は輝くのか」
 この戦場で得たのがただの『死』という終わりは嫌だと、ふと思った故に。
 そう思った為に、もう揺らがぬ信念として此処にある。
「馬鹿、な、人間……」
 涙を流す使徒の少女は立ち上がり、その場を去ろうとする。
 それは肯定の意だろう。どの道、相打つ未来しかない。ならば、そう。明日に続くのは。


「瑠璃色の空――鮮血で汚れていない、この朝焼けのような場所で、次は逢いたいですね」


 死ばかりが戦場にあるものではない。
 此処で拾った命。救った命が、明日を変えるナニカになれば良い。
 生きる為。でも、ただ生きるではなく、心を失わぬ為に。
 同じ過ちを繰り返しても、何度でも立ち上がろう。血は流れる。でも、これから生まれ来る命に、その流血を見せない為に。
 その為に戦いに嫌はなし。
 その為にこの身を投じる事を、誇りと想う。
 でも、例え戦場で対峙した天魔であっても――泣いている少女を見捨てられなかった。
 ただそれだけの話。
 それがこの世界をどう変えるかなんて、解らないけれど。
 変わる事を恐れたりはしない。何も出来ない自分を、恐れるだけだ。
 白い光が瞼に染みこむ。意識の中へと入り込み、夢へと誘うように揺れて行く。


――或いは、夢が褪めるように、視界が白く染まっていく。

 祈りだけは、その胸から消えずに。
 一筋の涙が、頬を伝った。血で汚れた頬を撫でる、見えざる何かの指先のように。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
燕乃 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年05月21日

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